野良錬金術師ネモの異世界転生放浪録(旧題:野良錬金術師は頭のネジを投げ捨てた!)

悠十

文字の大きさ
20 / 57
野良錬金術師

第十九話 アースドラゴン2

しおりを挟む
 アースドラゴンがそう言った瞬間、アルスがネモの前に飛び出した。

「ネモ! ここは俺に任せて、ここからどうにか脱出してくれ! そして、この件を国に知らせてくれ!」
「アルス様⁉」

 護衛対象の王子様に庇われ、ネモはぎょっと目を剥く。

「ちょっと、そんな――」
「俺は神の加護を受けている。少しなら時間を稼げるはずだ」

 止めようとするネモを、アルスは後ろ手に押しやる。

「すまない、頼む……!」

 悲壮な決意を前に、ネモは思わず言葉に詰まる。
 そんな、小さく貧弱な生き物たちの遣り取りをアースドラゴンは気にも留めず、大きく口を開き、そこにぞっとするほどの魔力を溜める。
 ネモがはっとしてアースドラゴンを仰ぎ見て、呟く。

「ドラゴンブレス……!」

 ドラゴンブレスは強力な魔力砲だ。大昔、それ一つで山一つが吹き飛んだ例があり、今でもその抉れた山はその恐ろしさを人々に伝えている。
 流石にこの洞窟を吹き飛ばすほどの威力は籠めないだろうが、それにしたって人間相手に過剰な攻撃だ。きっとこのアースドラゴンは千年竜となってからその力を振るったことが無いのだろう。試し打ちがしたいのだと浮かれた思考が窺い知れる。
 時間が無かった。
 アルスがネモを庇おうとした、その時だった。

「きゅっきゅーい!」

 その場に相応しからぬ、可愛らしい鳴き声がした。
 ネモ達とアースドラゴンの間に飛び出したのは、白い体毛の小動物――あっくんだった。
 あっくんは額の宝珠に魔力を籠める。
 そして、アースドラゴンのドラゴンブレスと同時にそれを解き放った。
 両者の魔力砲がぶつかった。
 目を焼く光線が轟音を立てて爆発し、ネモ達は思わず目を閉じる。
 衝撃で吹き飛ばされそうになるのを身をかがめてやり過ごし、それが収まるのを感じて目を開ける。
 そこには、白い小さな背中と、信じられないとばかりに目を見開くアースドラゴンが居た。

『な、なぜ無事なんだ⁉』

 アースドラゴンが驚き、声を上げるが、対するあっくんは「きゅっきゅ~」とご機嫌に鳴き、体をリズミカルに揺らしている。
 そして、驚いているのはアースドラゴンだけではなかった。アルスもまた驚きに目を瞠り、あっくんを凝視していた。
 そして、錆び付いたブリキのおもちゃのごときぎこちない動きでネモを見て、問う。

「ネモ……、あっくんは何者なんだ? 種族名は?」
「ん~、えっとぉ~……」

 ネモはアルスと視線を合わせまいと明後日の方向に顔を背ける。しかし、がっちり肩を摑まれ、「ネ・モ!」と念を押されてしまい、小さく唸った後、観念したように溜息をついた。

「あっくんの種族名は『カーバンクル』よ」
「そうか、カーバンクル……カーバンクル⁉」

 アルスは驚き、視線をあっくんへ戻した。

「白い体毛に額の宝珠……、確かにカーバンクルの特徴だが……。ネモ、間違いないのか?」
「ええ、間違いなくあっくんはカーバンクルよ。でなけりゃドラゴンブレスを軽々相殺させられないわよ」

 さて、カーバンクルと言えばファンタジー系の物語に出てくる定番の幻獣だが、この世界でカーバンクルと言えば幻獣のその名の通り、正に幻の獣である。それこそ、ドラゴンよりもお目にかかる機会も無ければ、情報もない。ギリギリ体毛の色と額に宝珠があるらしいとだけしか伝えられてないのだ。

「カーバンクルっていえば、アレだろ? 幻獣界の触るな危険アンタッチャブル
「……そうね」

 至極真面目な顔をしてそんなことを言うアルスに、ネモは微妙な顔をして頷いた。
 そう。カーバンクルはアルスの言う通り、『幻獣界の触るな危険アンタッチャブル』と言われているのだ。
 姿かたちは極僅かな情報しかないのに、カーバンクルにはある噂があった。それは、人と契約した幻獣からもたらされたものだった。
 曰く、それは強大な力を持っており、絶対に敵対してはならない存在である。それこそ、ドラゴンですら怯えて尻尾を撒いて逃げる程に危険な存在である――と。
 そのことから、幻獣達の間では触るな危険アンタッチャブル扱いをされているらしい。
 さて、そんな愉快な呼ばれ方をされているあっくんカーバンクルだが、現在、アースドラゴンを前に、キラキラと目を輝かせ、今にも涎をたらしそうな顔をしていた。

「わー……、あっくん嬉しそう。アレ、確実にアースドラゴンを食料として見ているわね」
「食料⁉」

 おおかた、レッサードラゴンの親玉みたいなアースドラゴンを前に、あれもきっと美味しいに違いない、と思っているのだろう。どんな時でもぶれない食いしん坊である。

「あのアースドラゴンの敗因は経験不足よね。千年竜より上の存在は居るのよ。条件さえ整えば、それこそいくらでもね。カーバンクルはその中でも数少ない条件無しでマウントを取れる存在よ。実際、あっくんはあのアースドラゴンを食料として見ているもの」

 自分の命を脅かす脅威ではなく、獲物として見ているのだ。知性はあれど野生の本能が強めなあっくんからしてみれば、あのアースドラゴンは無理なく狩れる程度の存在だということだ。

「これが経験豊富な千年竜サウザンドドラゴンだったらあっくんも警戒したんでしょうけど、こればっかりはね……。あのアースドラゴン、運が無かったわね」

 知性と理性を獲得した千年竜サウザンドドラゴンは、野生の本能が鈍っていく。けれど、その分を経験がカバーするのだ。あのアースドラゴンもずるをして千年竜サウザンドドラゴンになっていなければ、本能的にカーバンクルの恐ろしさに気付いて逃げられただろう。

「いや、本能的に気付けるものか? 俺はあっくんにその手の圧を感じたことは無かったぞ?」
「そりゃぁ、あっくんは基本的に可愛らしい小動物だもの。別にあっくんに危害を加えようとしたわけでも、あの子から獲物認定を受けたわけじゃないでしょ? カーバンクルって種族は、基本的に狩りや自己防衛以外で力を振るうことないのよ」
「へぇ……、強大な力を持つわりに、意外と温厚な種族なんだな。……ああ、いや、そんな力を持っているからこそ温厚なのか?」

 アルスが首をひねりながら考察を纏めていると、アースドラゴンが不意に動いた。

『こんな馬鹿なことがあるか! あり得ない!! 千年竜サウザンドドラゴンンこそ頂点! こんな小動物如きに――‼』

 アースドラゴンは目の前の現実を認めるものかと騒ぎ立て、その長い尻尾を乱暴に大地に叩きつけた。

「うわぁ、まるで痛い厨二病患者の癇癪じゃない……」

 ネモはその様子を見て思わず呟いた。あのアースドラゴンの有り様は、チートを手に入れて万能感に酔っていたら、実は君は特別じゃなかったんですよ、と現実を叩きつけられた痛い人間のようである。

「時々居るのよね。珍しくて凄いスキルを手に入れて、調子に乗ってたらベテランに簡単に鼻っ柱折られる子が」

 肩を竦めてやれやれと軽く溜息をつくネモに、アルスが笑顔で頷く。

「おお、流石ネモ。長く生きているだけあって含蓄のあ――」
「ふんっ!」

 言葉の途中で、ネモの肘鉄が腹に決まった。
 
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...