42 / 57
悪夢編
第五話 洋館5
しおりを挟む
アンナが去った後、ネモはスープを少量味見し、菩薩のような微笑みを浮かべて先日スープを入れた鍋へとそれを流し入れた。
「文句を言われてもこのスープを出し続けるコック……。ある意味、ガッツがあるわね」
「きゅあ~」
あっくんも呆れたようにそれに頷いた。コックならもっと美味く作れと言いたいのだ。
その後、ネモはマジックバックからパンケーキを出し、蜂蜜とバター、そして桃ジャムを並べる。更に魔法瓶に入った紅茶をカップに注ぐ。
紅茶に砂糖を入れ、ティースプーンでかき混ぜて、それを飲んで一息つく。
「とりあえず、食料は何とかなっても、飲み物がねぇ……。厨房でお湯だけでも沸かせられないかしら」
わーい、と五段重ねのパンケーキに桃ジャムをつけ、モリモリ食べしたあっくんを眺めながら、ネモは算段を付ける。
「とりあえず、薪を多めに差し出して取引してみようかしら。スープを差し入れてくれるくらいだし、コックは許可してくれそうな気がするのよね」
不味くはあるが、そうやって気遣いをしてくれるのだから勝算はある。
今後の行動を決め、ネモは二段重ねのパンケーキにバターを落とし、蜂蜜をかけて食べ始めた。
***
使った皿を水で濡らした布で軽くふき、後日洗うことにしてマジックバックに仕舞う。
この洗い物も流しを借りれないかとも思ったのだが、頼み事は最低限にすべきだと思い、一先ず布で軽くふく程度で済ますことにしたのだ。
ネモは薬缶と大き目の魔法瓶、そして薪を取り出し、一見ただの布袋にしか見えないマジックバックへと仕舞う。そして、それを持って部屋の外へと出た。
「さて、厨房はどこかしらね」
これが使用人が十分足りている家ならどこかしらで使用人に出会えるのだが、どうやらこの屋敷では本当に人手が足りないらしく、さっぱり人に出会わない。
まあ、厨房の位置なんて一階の何処かだ。鼻の良いあっくんに食べ物匂いがする方を尋ねれば、案内してもらえる。
ちょろちょろと走るあっくんの後を追えば、ネモの鼻にも甘い匂いが届くようになる。そしてその匂いがしてくる部屋を覗いてみれば、そこはやはり厨房だった。
厨房では白いコック服を着たコックらしき黒髪の中年の男と、アンナが居た。
「すみませーん」
部屋の外から声を掛ければ、二人がこちらへ振り向いた。
「あら、ペンタスさん!」
何か御用ですか? とアンナが寄って来る。
「実は、ちょっとお湯が欲しくて。消費する薪は出すので、場所を貸してもらえなかな、と……。あ、それと、私のことはネモって呼んでください」
ネモのお願いに、大丈夫ですよ、とアンナが言い、コックの方を振り返る。
「ロベルさん、大丈夫ですよね?」
「ああ、大丈夫だぜ」
そう言って、ロベルと呼ばれた無精ひげを生やしたちょい悪親父風のコックは竈を指さす。
「あっちの端の方を使ってくれ」
「ありがとうございます」
礼を言うと、ロベルはニッと笑みを浮かべて手をヒラヒラと振った。
ネモが竈の前へ行き、マジックバックの袋から薬缶を取り出すと、「わっ⁉」と後ろから驚きの声が上がった。
振り返ってみれば、鍋を持ったアンナが目を丸くしていた。どうやら鍋を貸してくれようとしたらしい。
「わぁ、ネモさん。それって、マジックバックですか?」
「ええ、そうよ。ただ、布製だし、入る容量がそこまでないから、ちゃんとしたものに比べれば安物なんだけどね」
そうなんですか、とアンナが物珍しげに見るのは、マジックバックをアンナくらいの歳頃の、庶民の娘が持てるようなものではないからだ。
「マジックバックって便利だけど、高いから……」
「そうよね。冒険者でもチームを組んでる人間がちょっと頑張ってようやく手に入れられる金額だもの」
長い目で見て手に入れた方が良いという判断がおりない限り、そう簡単には手が出せない品だ。
「町に品物を卸しに来る行商人の方とかが持っているのは見たことがあるんですけど、ネモさん、凄いですね」
「まあ、運が良かったわ」
ネモはあたかも購入したように言うが、実はこれはネモが作ったものだ。自分で作りました、なんて言ったら、面倒な事になりかねないので黙っているのである。
ネモは竈に薪を入れ、薬缶を置く。そして、薬缶の蓋を開けて、唱えた。
「《造水》」
ネモの目の前に水が現れ、それが薬缶の中へと注がれる。
それは、生活魔法と呼ばれる魔法だった。使う魔力量は微量で、水を出したり、火種を出したりとなかなか便利だ。
それを見て、アンナが益々目を丸くする。
「ネ、ネモさん、生活魔法が使えるんですか⁉」
「ええ。魔力量はまあまあなんだけど、魔力操作は得意なのよ」
実は生活魔法と呼ばれる魔法は、使い手が少ない。何故なら、繊細な魔力操作が求められるからだ。少しでも使う魔力量をしくじれば、それは攻撃魔法となってしまうのだ。そのため、これを使える者は就職先によってはそれなりに優遇される。
「わぁ……、凄い。私も練習してみたんですけど、全然ダメでした。魔力量は普通なんですけど、どうにも魔力を籠めすぎちゃうみたいで……。結局、諦めちゃいました」
「まあ、魔力操作はコツがいるからね。ポーション作りで練習してみると良いわよ。ポーションに魔力を籠める方が、練習するには安全だからね」
最下級のポーションはとても簡単で、薬草も草むらを探せばどこにでも生えているので、お金がかかる心配もない。そして、ポーション作りは魔力を籠めるのを失敗すると、どろりとしたどぶ色になり、飲めば当然腹痛を起こし、塗れば肌がただれる。しかし、それは使用しなければ良いので、生活魔法を使おうと練習して、攻撃魔法になってしまうよりは余程安全だ。
なるほど、と感心したように頷くアンナを横目に、ネモは薬缶に蓋をした。
「文句を言われてもこのスープを出し続けるコック……。ある意味、ガッツがあるわね」
「きゅあ~」
あっくんも呆れたようにそれに頷いた。コックならもっと美味く作れと言いたいのだ。
その後、ネモはマジックバックからパンケーキを出し、蜂蜜とバター、そして桃ジャムを並べる。更に魔法瓶に入った紅茶をカップに注ぐ。
紅茶に砂糖を入れ、ティースプーンでかき混ぜて、それを飲んで一息つく。
「とりあえず、食料は何とかなっても、飲み物がねぇ……。厨房でお湯だけでも沸かせられないかしら」
わーい、と五段重ねのパンケーキに桃ジャムをつけ、モリモリ食べしたあっくんを眺めながら、ネモは算段を付ける。
「とりあえず、薪を多めに差し出して取引してみようかしら。スープを差し入れてくれるくらいだし、コックは許可してくれそうな気がするのよね」
不味くはあるが、そうやって気遣いをしてくれるのだから勝算はある。
今後の行動を決め、ネモは二段重ねのパンケーキにバターを落とし、蜂蜜をかけて食べ始めた。
***
使った皿を水で濡らした布で軽くふき、後日洗うことにしてマジックバックに仕舞う。
この洗い物も流しを借りれないかとも思ったのだが、頼み事は最低限にすべきだと思い、一先ず布で軽くふく程度で済ますことにしたのだ。
ネモは薬缶と大き目の魔法瓶、そして薪を取り出し、一見ただの布袋にしか見えないマジックバックへと仕舞う。そして、それを持って部屋の外へと出た。
「さて、厨房はどこかしらね」
これが使用人が十分足りている家ならどこかしらで使用人に出会えるのだが、どうやらこの屋敷では本当に人手が足りないらしく、さっぱり人に出会わない。
まあ、厨房の位置なんて一階の何処かだ。鼻の良いあっくんに食べ物匂いがする方を尋ねれば、案内してもらえる。
ちょろちょろと走るあっくんの後を追えば、ネモの鼻にも甘い匂いが届くようになる。そしてその匂いがしてくる部屋を覗いてみれば、そこはやはり厨房だった。
厨房では白いコック服を着たコックらしき黒髪の中年の男と、アンナが居た。
「すみませーん」
部屋の外から声を掛ければ、二人がこちらへ振り向いた。
「あら、ペンタスさん!」
何か御用ですか? とアンナが寄って来る。
「実は、ちょっとお湯が欲しくて。消費する薪は出すので、場所を貸してもらえなかな、と……。あ、それと、私のことはネモって呼んでください」
ネモのお願いに、大丈夫ですよ、とアンナが言い、コックの方を振り返る。
「ロベルさん、大丈夫ですよね?」
「ああ、大丈夫だぜ」
そう言って、ロベルと呼ばれた無精ひげを生やしたちょい悪親父風のコックは竈を指さす。
「あっちの端の方を使ってくれ」
「ありがとうございます」
礼を言うと、ロベルはニッと笑みを浮かべて手をヒラヒラと振った。
ネモが竈の前へ行き、マジックバックの袋から薬缶を取り出すと、「わっ⁉」と後ろから驚きの声が上がった。
振り返ってみれば、鍋を持ったアンナが目を丸くしていた。どうやら鍋を貸してくれようとしたらしい。
「わぁ、ネモさん。それって、マジックバックですか?」
「ええ、そうよ。ただ、布製だし、入る容量がそこまでないから、ちゃんとしたものに比べれば安物なんだけどね」
そうなんですか、とアンナが物珍しげに見るのは、マジックバックをアンナくらいの歳頃の、庶民の娘が持てるようなものではないからだ。
「マジックバックって便利だけど、高いから……」
「そうよね。冒険者でもチームを組んでる人間がちょっと頑張ってようやく手に入れられる金額だもの」
長い目で見て手に入れた方が良いという判断がおりない限り、そう簡単には手が出せない品だ。
「町に品物を卸しに来る行商人の方とかが持っているのは見たことがあるんですけど、ネモさん、凄いですね」
「まあ、運が良かったわ」
ネモはあたかも購入したように言うが、実はこれはネモが作ったものだ。自分で作りました、なんて言ったら、面倒な事になりかねないので黙っているのである。
ネモは竈に薪を入れ、薬缶を置く。そして、薬缶の蓋を開けて、唱えた。
「《造水》」
ネモの目の前に水が現れ、それが薬缶の中へと注がれる。
それは、生活魔法と呼ばれる魔法だった。使う魔力量は微量で、水を出したり、火種を出したりとなかなか便利だ。
それを見て、アンナが益々目を丸くする。
「ネ、ネモさん、生活魔法が使えるんですか⁉」
「ええ。魔力量はまあまあなんだけど、魔力操作は得意なのよ」
実は生活魔法と呼ばれる魔法は、使い手が少ない。何故なら、繊細な魔力操作が求められるからだ。少しでも使う魔力量をしくじれば、それは攻撃魔法となってしまうのだ。そのため、これを使える者は就職先によってはそれなりに優遇される。
「わぁ……、凄い。私も練習してみたんですけど、全然ダメでした。魔力量は普通なんですけど、どうにも魔力を籠めすぎちゃうみたいで……。結局、諦めちゃいました」
「まあ、魔力操作はコツがいるからね。ポーション作りで練習してみると良いわよ。ポーションに魔力を籠める方が、練習するには安全だからね」
最下級のポーションはとても簡単で、薬草も草むらを探せばどこにでも生えているので、お金がかかる心配もない。そして、ポーション作りは魔力を籠めるのを失敗すると、どろりとしたどぶ色になり、飲めば当然腹痛を起こし、塗れば肌がただれる。しかし、それは使用しなければ良いので、生活魔法を使おうと練習して、攻撃魔法になってしまうよりは余程安全だ。
なるほど、と感心したように頷くアンナを横目に、ネモは薬缶に蓋をした。
11
あなたにおすすめの小説
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる