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悪夢編
第十四話 召喚2
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「なんで、なんでお前達などがその方を――!」
引き攣った声がロベルの口からこぼれる。
ロベルは個体名を持つネームドの悪魔なれど、爵位を持たぬ中級悪魔だ。しかも、中級とではあるが、力の階級的には中の下。洗脳などの精神操作が得意なタイプで、相手が人間ならともかく、同族の悪魔相手なら、純粋な戦いでは不利になる。それが、相手が上級であればなおのこと……
ザクロは怯えるロベルをチラリ、と一瞥するが、それから直ぐに視線を外し、再びにっこりと微笑んでネモに――正しくは、ネモの肩に乗るあっくんに向けて告げる。
「再びご主人様にお目にかかれるとは、望外の喜び。どうぞこのまま私をお使いください。何がお望みですか? 邪魔な人間の抹殺? それとも国の支配でしょうか?」
つらつらと語るザクロに、ネモは呆れたような視線を向ける。
「アンタ、あっくんがそんなものに興味があるわけないでしょ。あっくんは欲深い人間じゃないのよ?」
「黙れ、人間。お前には聞いていない」
忌々しげに睨まれ、ネモは面倒くさそうに肩をすくめる。
「そういえば、ご主人様もこの人間と契約を結ばれておられましたね。そのような窮屈な契約、破棄してしまいませんか? そうすれば貴方様は――」
「きゅっ」
ザクロはそう言ってそそのかすが、あっくんはザクロの言葉などこれっぽっちも聞いてなかったようで、ロベルを指さして、やれ、と命じただけだった。
ザクロは微笑みのまま固まるも、往生際悪く言い募る。
「ご主人様、そのようなことおっしゃらず、まず先にその人間を――」
「きゅきゅっ」
オメーの意見なんざどうでもいいとばかりに、あっくんはただロベル指さしたまま、あれ、どうにかして、と再び鳴く。
ザクロは悔しげな顔をしながら、大仰な身振りで言う。
「ああ、なんということだ! ご主人様はその人間に毒されていらっしゃる! 強大な力を持つカーバンクルでありながら――」
「きゅっきゃ!」
――ドスッ!
「ぐべっ!?」
あっくんは、うるせえ、いいからさっさとやれ、とばかりに高く鳴いて、ネモの肩からザクロのエルフ顔に鋭い頭突きを食らわせた。
乙女座りで痛がるザクロに、なんだろう、この漫才、とネモがなんとも言えない顔をしていると、どうやらあちら側もそう思ったらしく、アンナが苛立たしげな声を上げた。
「ちょっとロベル、何をしてるの? さっさとあのふざけた連中、始末しちゃって!」
しかし、命じられたロベルは煩わしそうにアンナを見る。
「そりゃあ、無理な相談だ。俺程度の力じゃぁ、あの方には勝てねぇよ」
だから、と言ったと同時に、ロベルは前脚の一本でアンナを抱き上げた。
「とっとと逃げるぞ!」
そう宣言して、背後の扉の方へ飛びずさり、大蜘蛛の巨体で扉をその枠ごとぶち破る。
「待ちさない!」
ネモが追いかけようと足を踏み出しその時、ロベルはニヤリと嗤った。ロベルはアンナを抱える脚とは逆の脚を一本上げ、すい、と横に振る。そして――
「なっ⁉」
頭上から、ガシャン、と木と木がぶつかるような乾いた音を立てて、大きな何かが降って来た。
ネモはそれにぶつかるまいと慌てて後ろに飛んで避け、降って来たものの正体を見る。
「ベンさん⁉」
青白い肌に、隈の酷い痩せた男――執事のベンは、妙にカクカク解いた動きで、立ち上がる。茫洋とした瞳は何も映していないようで、不気味さに拍車がかかっていた。
ベンの異様さに戸惑うネモの後ろから、低い呟きが聞こえた。
「人形か……」
あっくんの頭突きを喰らった頬を撫でながら、言われれたそれに驚きつつ、ネモは改めてベンを見る。すると、人間に見えていたそれが、じわり、とまるで溶けるように木製の大きな関節球体人形へと姿を変えた。
「幻術……!」
どうやら、執事のベンは悪魔が幻術で人間に見せていた操り人形だったらしい。前にベンに感じた違和感は、ベンは操り人形だったからだろう。
「あっ、思い出した!」
ネモは、過去、悪魔が憑いた人形を見たことがあった。その人形の歩き方が、ベンのあのふわふわした違和感のある歩き方にそっくりだったのだ。
そして、そのベンだった人形に続くようにガシャン、ガシャン、と音を立てて関節球体人形が新たに二つ現れる。
「それじゃあ、あばよ。上級様に、お嬢ちゃん!」
そう言って、ロベルは身を翻し、アンナを抱えて廊下の向こうへと走り去る。
ネモがそれに苦い顔をした、その時だった。
「ふん、この程度のオモチャで私を足止めできると――?」
ザクロがそう言った瞬間、影が蠢き、生き物のように伸びる。
「捕えろ」
その号令が発せられると同時に、影は人形の元まで素早く伸びていく。そして、その足元から噴き出るように実体化し、幅の広いテープのように巻き付いて人形三体を同時に捕らえた。
「ふん、やはりこの程度――」
「よし、よくやったわ! 後は頼んだ!」
格好つけるように長い黒髪を得意げにはらったその時、ネモはザクロの言葉に被せるようにそう告げ、人形の脇を走ってすり抜ける。
「あっ! お前――!」
「あっく~ん、ケイトさんのこと、よろしく! 守ってあげてね~!」
「きゅっきゃ~い!」
文句を言おうとしたザクロをさらっと無視し、あっくんにケイトのことをお願いして、破壊された扉から廊下へ躍り出る。
いってらっしゃ~い、とばかりに手を振るあっくんに見送られ、ネモは廊下を走り出した。
引き攣った声がロベルの口からこぼれる。
ロベルは個体名を持つネームドの悪魔なれど、爵位を持たぬ中級悪魔だ。しかも、中級とではあるが、力の階級的には中の下。洗脳などの精神操作が得意なタイプで、相手が人間ならともかく、同族の悪魔相手なら、純粋な戦いでは不利になる。それが、相手が上級であればなおのこと……
ザクロは怯えるロベルをチラリ、と一瞥するが、それから直ぐに視線を外し、再びにっこりと微笑んでネモに――正しくは、ネモの肩に乗るあっくんに向けて告げる。
「再びご主人様にお目にかかれるとは、望外の喜び。どうぞこのまま私をお使いください。何がお望みですか? 邪魔な人間の抹殺? それとも国の支配でしょうか?」
つらつらと語るザクロに、ネモは呆れたような視線を向ける。
「アンタ、あっくんがそんなものに興味があるわけないでしょ。あっくんは欲深い人間じゃないのよ?」
「黙れ、人間。お前には聞いていない」
忌々しげに睨まれ、ネモは面倒くさそうに肩をすくめる。
「そういえば、ご主人様もこの人間と契約を結ばれておられましたね。そのような窮屈な契約、破棄してしまいませんか? そうすれば貴方様は――」
「きゅっ」
ザクロはそう言ってそそのかすが、あっくんはザクロの言葉などこれっぽっちも聞いてなかったようで、ロベルを指さして、やれ、と命じただけだった。
ザクロは微笑みのまま固まるも、往生際悪く言い募る。
「ご主人様、そのようなことおっしゃらず、まず先にその人間を――」
「きゅきゅっ」
オメーの意見なんざどうでもいいとばかりに、あっくんはただロベル指さしたまま、あれ、どうにかして、と再び鳴く。
ザクロは悔しげな顔をしながら、大仰な身振りで言う。
「ああ、なんということだ! ご主人様はその人間に毒されていらっしゃる! 強大な力を持つカーバンクルでありながら――」
「きゅっきゃ!」
――ドスッ!
「ぐべっ!?」
あっくんは、うるせえ、いいからさっさとやれ、とばかりに高く鳴いて、ネモの肩からザクロのエルフ顔に鋭い頭突きを食らわせた。
乙女座りで痛がるザクロに、なんだろう、この漫才、とネモがなんとも言えない顔をしていると、どうやらあちら側もそう思ったらしく、アンナが苛立たしげな声を上げた。
「ちょっとロベル、何をしてるの? さっさとあのふざけた連中、始末しちゃって!」
しかし、命じられたロベルは煩わしそうにアンナを見る。
「そりゃあ、無理な相談だ。俺程度の力じゃぁ、あの方には勝てねぇよ」
だから、と言ったと同時に、ロベルは前脚の一本でアンナを抱き上げた。
「とっとと逃げるぞ!」
そう宣言して、背後の扉の方へ飛びずさり、大蜘蛛の巨体で扉をその枠ごとぶち破る。
「待ちさない!」
ネモが追いかけようと足を踏み出しその時、ロベルはニヤリと嗤った。ロベルはアンナを抱える脚とは逆の脚を一本上げ、すい、と横に振る。そして――
「なっ⁉」
頭上から、ガシャン、と木と木がぶつかるような乾いた音を立てて、大きな何かが降って来た。
ネモはそれにぶつかるまいと慌てて後ろに飛んで避け、降って来たものの正体を見る。
「ベンさん⁉」
青白い肌に、隈の酷い痩せた男――執事のベンは、妙にカクカク解いた動きで、立ち上がる。茫洋とした瞳は何も映していないようで、不気味さに拍車がかかっていた。
ベンの異様さに戸惑うネモの後ろから、低い呟きが聞こえた。
「人形か……」
あっくんの頭突きを喰らった頬を撫でながら、言われれたそれに驚きつつ、ネモは改めてベンを見る。すると、人間に見えていたそれが、じわり、とまるで溶けるように木製の大きな関節球体人形へと姿を変えた。
「幻術……!」
どうやら、執事のベンは悪魔が幻術で人間に見せていた操り人形だったらしい。前にベンに感じた違和感は、ベンは操り人形だったからだろう。
「あっ、思い出した!」
ネモは、過去、悪魔が憑いた人形を見たことがあった。その人形の歩き方が、ベンのあのふわふわした違和感のある歩き方にそっくりだったのだ。
そして、そのベンだった人形に続くようにガシャン、ガシャン、と音を立てて関節球体人形が新たに二つ現れる。
「それじゃあ、あばよ。上級様に、お嬢ちゃん!」
そう言って、ロベルは身を翻し、アンナを抱えて廊下の向こうへと走り去る。
ネモがそれに苦い顔をした、その時だった。
「ふん、この程度のオモチャで私を足止めできると――?」
ザクロがそう言った瞬間、影が蠢き、生き物のように伸びる。
「捕えろ」
その号令が発せられると同時に、影は人形の元まで素早く伸びていく。そして、その足元から噴き出るように実体化し、幅の広いテープのように巻き付いて人形三体を同時に捕らえた。
「ふん、やはりこの程度――」
「よし、よくやったわ! 後は頼んだ!」
格好つけるように長い黒髪を得意げにはらったその時、ネモはザクロの言葉に被せるようにそう告げ、人形の脇を走ってすり抜ける。
「あっ! お前――!」
「あっく~ん、ケイトさんのこと、よろしく! 守ってあげてね~!」
「きゅっきゃ~い!」
文句を言おうとしたザクロをさらっと無視し、あっくんにケイトのことをお願いして、破壊された扉から廊下へ躍り出る。
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