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悠十

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魔王城編

第七話 テオドア

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「そういえば、ダリオはアラキナに会っても魅了されなかったね」
「あ、そういえば……」
「魅了魔法というのは、大別すると子孫を残すのに優位に立てる魔法だからな。リビングデッドのダリオには効果が無いのかもしれん」
「あ、そうか。俺、一応死者だもんな」

 テオドアの部屋に着いた一同は、魔法も使用しながら、雑談をしつつ掃除を始めた。使われていない部屋だったので、物も少なく、少し埃っぽいだけだったので、すぐに掃除を終えることが出来た。
綺麗になった部屋を見渡し、一息つくと、今度はダリオが暮らすにあたり、何が必要かを相談する。

「取り合えず、ベッドがありませんので持ってきましょう。後は、着替えと洗面用具、タオル類、寝具くらいでしょうか?」
「そうだな。後は追々揃えよう」

 アビーがセスに確認を取り、ダリオに声をかける。

「分かりました。では、ダリオ。必要なものを取りに行くついでにこの辺りを案内しますので、付いて来なさい」
「ああ、ありがとうな。頼むよ」
「じゃあ、俺達はここで待つか」
「はい、兄上! あ、僕、お茶を淹れられるようになったんですよ! 用意しますね!」

 テオドアがちょこまかと動き出し、セスはその様子をのんびりと見守る。そんな二人の様子を確認し、アビーとダリオは部屋を後にした。
 


   ※ ※ ※



 暫し歩き、部屋から大分離れたところでダリオは切り出した。

「なあ、ちょっと聞いても良いか?」
「……テオドア様の事ですか?」

 前を歩いていたアビーが立ち止まり、ダリオを振り返る。

「ああ、そうだ。なあ、いくら魔王の子供が人間の国の王族の子供よりも重要視されないとはいえ、側付きの一人も居ない、メイドの一人も控えていないなんて、おかしくないか?」
「そうですね。テオドア様の受けている待遇は、魔王の子供としては有り得ないものです」

 アビーはダリオの言葉を肯定し、再び歩き出す。

「魔王の子供は先行投資先として有益な存在です。故に、本来ならば大事に育てられます。そして、彼等に取り入ろうと様々な者達が周囲に侍ろうとします。貴族、商人、メイド、騎士、兵士、本当に様々な者達が」
「……なら、何でテオドア坊ちゃんの周りには人が居ないんだ?」

 アビーは温度を感じさせない瞳でダリオを一瞥し、再び視線を前に戻した。

「それは、貴方も察しているのでは?」
「……産まれの所為、か?」

 アビーがその言葉に頷くのを見て、ダリオは眉間に皺を寄せる。

「テオドア様のお母上が、問題なのです」
「母親? 確か、魔族ではなく、人間だったんだよな?」
「ええ。テオドア様の母君は、『レムナ聖王国』という国の姫君でした」

 そして、アビーは淡々と語った。

「レムナ聖王国は、魔族を忌むべきものとして嫌う、排他的な国でした。しかし、魔王が収める我が国、エルメジアナは先代魔王様の意志の元、海を挟んでいるとはいえ、隣国である彼等と良い関係を結ぼうと努力してきました。そして、その努力が実を結び、和平協定が結ばれ、祝賀会が開かれました」

 しかし、和平協定は結ばれなかった。魔王が毒殺されたのだ。

「毒はよりにもよって、晩餐会のワインの中に入っていました。死んだのは、聖王国の国王、王族、貴族、高官数名と、魔王様、こちらの高官数名。下手人は、自称勇者の騎士と、その仲間、そして聖王国の姫君、つまり、テオドア様の母君です」

 テオドアの母親の正体を聞き、ダリオは目を見開く。

「下手人たる彼等の言い分は、悪しき魔族と手を結ぶなど許されざる罪である、死んで償えと」
「……何だ、そりゃ」

 呆然とするダリオに、アビーは尚も温度を感じさせない声色で言葉を紡ぐ。

「人間も魔族も毒により苦しみ、死んでいく様を嬉々として見ている下手人どもは、実に醜悪であったと聞いています。そして、我が国は魔王様を討たれたことにより、聖王国へ報復の為、宣戦布告し、聖王国を滅ぼしました」

 有能な官吏を多く殺したイカレたお姫様になど、まともな国の統治が出来る筈もなく、ましてや戦争など以ての外で、賢い国民は早々に逃げ出し、聖王国は魔族によって蹂躙され、滅んだ。

「聖王国を滅ぼすために前線に立っていたのが、前魔王陛下の腹心であった将軍、後の魔王陛下でした。聖王国の姫君は己の首を切ろうとする将軍に命乞いをし、ならば嫌悪する魔族の妻の一人になれと将軍に召し抱えられました」

 そして、後に将軍は魔王となり、聖王国の姫はただの貧弱な人間の小娘になった。そして、小娘はテオドアを生んだものの嫌悪する魔族の妻の一人になった現実を受け入れられず、衰弱し、テオドアが二歳の頃に死んでしまった。

「前魔王陛下は在位三百年以上の賢君でしたので、かの方を殺した姫や聖王国への魔族の憎悪は未だに燻ぶっています。その為、その血を引くテオドア様への扱いも良いものではありません」
「……そうか」

 テオドアが只の子供であれば言っただろう言葉を飲み込み、ダリオは苦々しい顔で一言、そう言った。国家間の問題であり、己の主人が国の顔たる王族の姫と、魔王の子であるが故に、ダリオは何も言えなかった。

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