8 / 45
魔王城編
第七話 テオドア
しおりを挟む
「そういえば、ダリオはアラキナに会っても魅了されなかったね」
「あ、そういえば……」
「魅了魔法というのは、大別すると子孫を残すのに優位に立てる魔法だからな。リビングデッドのダリオには効果が無いのかもしれん」
「あ、そうか。俺、一応死者だもんな」
テオドアの部屋に着いた一同は、魔法も使用しながら、雑談をしつつ掃除を始めた。使われていない部屋だったので、物も少なく、少し埃っぽいだけだったので、すぐに掃除を終えることが出来た。
綺麗になった部屋を見渡し、一息つくと、今度はダリオが暮らすにあたり、何が必要かを相談する。
「取り合えず、ベッドがありませんので持ってきましょう。後は、着替えと洗面用具、タオル類、寝具くらいでしょうか?」
「そうだな。後は追々揃えよう」
アビーがセスに確認を取り、ダリオに声をかける。
「分かりました。では、ダリオ。必要なものを取りに行くついでにこの辺りを案内しますので、付いて来なさい」
「ああ、ありがとうな。頼むよ」
「じゃあ、俺達はここで待つか」
「はい、兄上! あ、僕、お茶を淹れられるようになったんですよ! 用意しますね!」
テオドアがちょこまかと動き出し、セスはその様子をのんびりと見守る。そんな二人の様子を確認し、アビーとダリオは部屋を後にした。
※ ※ ※
暫し歩き、部屋から大分離れたところでダリオは切り出した。
「なあ、ちょっと聞いても良いか?」
「……テオドア様の事ですか?」
前を歩いていたアビーが立ち止まり、ダリオを振り返る。
「ああ、そうだ。なあ、いくら魔王の子供が人間の国の王族の子供よりも重要視されないとはいえ、側付きの一人も居ない、メイドの一人も控えていないなんて、おかしくないか?」
「そうですね。テオドア様の受けている待遇は、魔王の子供としては有り得ないものです」
アビーはダリオの言葉を肯定し、再び歩き出す。
「魔王の子供は先行投資先として有益な存在です。故に、本来ならば大事に育てられます。そして、彼等に取り入ろうと様々な者達が周囲に侍ろうとします。貴族、商人、メイド、騎士、兵士、本当に様々な者達が」
「……なら、何でテオドア坊ちゃんの周りには人が居ないんだ?」
アビーは温度を感じさせない瞳でダリオを一瞥し、再び視線を前に戻した。
「それは、貴方も察しているのでは?」
「……産まれの所為、か?」
アビーがその言葉に頷くのを見て、ダリオは眉間に皺を寄せる。
「テオドア様のお母上が、問題なのです」
「母親? 確か、魔族ではなく、人間だったんだよな?」
「ええ。テオドア様の母君は、『レムナ聖王国』という国の姫君でした」
そして、アビーは淡々と語った。
「レムナ聖王国は、魔族を忌むべきものとして嫌う、排他的な国でした。しかし、魔王が収める我が国、エルメジアナは先代魔王様の意志の元、海を挟んでいるとはいえ、隣国である彼等と良い関係を結ぼうと努力してきました。そして、その努力が実を結び、和平協定が結ばれ、祝賀会が開かれました」
しかし、和平協定は結ばれなかった。魔王が毒殺されたのだ。
「毒はよりにもよって、晩餐会のワインの中に入っていました。死んだのは、聖王国の国王、王族、貴族、高官数名と、魔王様、こちらの高官数名。下手人は、自称勇者の騎士と、その仲間、そして聖王国の姫君、つまり、テオドア様の母君です」
テオドアの母親の正体を聞き、ダリオは目を見開く。
「下手人たる彼等の言い分は、悪しき魔族と手を結ぶなど許されざる罪である、死んで償えと」
「……何だ、そりゃ」
呆然とするダリオに、アビーは尚も温度を感じさせない声色で言葉を紡ぐ。
「人間も魔族も毒により苦しみ、死んでいく様を嬉々として見ている下手人どもは、実に醜悪であったと聞いています。そして、我が国は魔王様を討たれたことにより、聖王国へ報復の為、宣戦布告し、聖王国を滅ぼしました」
有能な官吏を多く殺したイカレたお姫様になど、まともな国の統治が出来る筈もなく、ましてや戦争など以ての外で、賢い国民は早々に逃げ出し、聖王国は魔族によって蹂躙され、滅んだ。
「聖王国を滅ぼすために前線に立っていたのが、前魔王陛下の腹心であった将軍、後の魔王陛下でした。聖王国の姫君は己の首を切ろうとする将軍に命乞いをし、ならば嫌悪する魔族の妻の一人になれと将軍に召し抱えられました」
そして、後に将軍は魔王となり、聖王国の姫はただの貧弱な人間の小娘になった。そして、小娘はテオドアを生んだものの嫌悪する魔族の妻の一人になった現実を受け入れられず、衰弱し、テオドアが二歳の頃に死んでしまった。
「前魔王陛下は在位三百年以上の賢君でしたので、かの方を殺した姫や聖王国への魔族の憎悪は未だに燻ぶっています。その為、その血を引くテオドア様への扱いも良いものではありません」
「……そうか」
テオドアが只の子供であれば言っただろう言葉を飲み込み、ダリオは苦々しい顔で一言、そう言った。国家間の問題であり、己の主人が国の顔たる王族の姫と、魔王の子であるが故に、ダリオは何も言えなかった。
「あ、そういえば……」
「魅了魔法というのは、大別すると子孫を残すのに優位に立てる魔法だからな。リビングデッドのダリオには効果が無いのかもしれん」
「あ、そうか。俺、一応死者だもんな」
テオドアの部屋に着いた一同は、魔法も使用しながら、雑談をしつつ掃除を始めた。使われていない部屋だったので、物も少なく、少し埃っぽいだけだったので、すぐに掃除を終えることが出来た。
綺麗になった部屋を見渡し、一息つくと、今度はダリオが暮らすにあたり、何が必要かを相談する。
「取り合えず、ベッドがありませんので持ってきましょう。後は、着替えと洗面用具、タオル類、寝具くらいでしょうか?」
「そうだな。後は追々揃えよう」
アビーがセスに確認を取り、ダリオに声をかける。
「分かりました。では、ダリオ。必要なものを取りに行くついでにこの辺りを案内しますので、付いて来なさい」
「ああ、ありがとうな。頼むよ」
「じゃあ、俺達はここで待つか」
「はい、兄上! あ、僕、お茶を淹れられるようになったんですよ! 用意しますね!」
テオドアがちょこまかと動き出し、セスはその様子をのんびりと見守る。そんな二人の様子を確認し、アビーとダリオは部屋を後にした。
※ ※ ※
暫し歩き、部屋から大分離れたところでダリオは切り出した。
「なあ、ちょっと聞いても良いか?」
「……テオドア様の事ですか?」
前を歩いていたアビーが立ち止まり、ダリオを振り返る。
「ああ、そうだ。なあ、いくら魔王の子供が人間の国の王族の子供よりも重要視されないとはいえ、側付きの一人も居ない、メイドの一人も控えていないなんて、おかしくないか?」
「そうですね。テオドア様の受けている待遇は、魔王の子供としては有り得ないものです」
アビーはダリオの言葉を肯定し、再び歩き出す。
「魔王の子供は先行投資先として有益な存在です。故に、本来ならば大事に育てられます。そして、彼等に取り入ろうと様々な者達が周囲に侍ろうとします。貴族、商人、メイド、騎士、兵士、本当に様々な者達が」
「……なら、何でテオドア坊ちゃんの周りには人が居ないんだ?」
アビーは温度を感じさせない瞳でダリオを一瞥し、再び視線を前に戻した。
「それは、貴方も察しているのでは?」
「……産まれの所為、か?」
アビーがその言葉に頷くのを見て、ダリオは眉間に皺を寄せる。
「テオドア様のお母上が、問題なのです」
「母親? 確か、魔族ではなく、人間だったんだよな?」
「ええ。テオドア様の母君は、『レムナ聖王国』という国の姫君でした」
そして、アビーは淡々と語った。
「レムナ聖王国は、魔族を忌むべきものとして嫌う、排他的な国でした。しかし、魔王が収める我が国、エルメジアナは先代魔王様の意志の元、海を挟んでいるとはいえ、隣国である彼等と良い関係を結ぼうと努力してきました。そして、その努力が実を結び、和平協定が結ばれ、祝賀会が開かれました」
しかし、和平協定は結ばれなかった。魔王が毒殺されたのだ。
「毒はよりにもよって、晩餐会のワインの中に入っていました。死んだのは、聖王国の国王、王族、貴族、高官数名と、魔王様、こちらの高官数名。下手人は、自称勇者の騎士と、その仲間、そして聖王国の姫君、つまり、テオドア様の母君です」
テオドアの母親の正体を聞き、ダリオは目を見開く。
「下手人たる彼等の言い分は、悪しき魔族と手を結ぶなど許されざる罪である、死んで償えと」
「……何だ、そりゃ」
呆然とするダリオに、アビーは尚も温度を感じさせない声色で言葉を紡ぐ。
「人間も魔族も毒により苦しみ、死んでいく様を嬉々として見ている下手人どもは、実に醜悪であったと聞いています。そして、我が国は魔王様を討たれたことにより、聖王国へ報復の為、宣戦布告し、聖王国を滅ぼしました」
有能な官吏を多く殺したイカレたお姫様になど、まともな国の統治が出来る筈もなく、ましてや戦争など以ての外で、賢い国民は早々に逃げ出し、聖王国は魔族によって蹂躙され、滅んだ。
「聖王国を滅ぼすために前線に立っていたのが、前魔王陛下の腹心であった将軍、後の魔王陛下でした。聖王国の姫君は己の首を切ろうとする将軍に命乞いをし、ならば嫌悪する魔族の妻の一人になれと将軍に召し抱えられました」
そして、後に将軍は魔王となり、聖王国の姫はただの貧弱な人間の小娘になった。そして、小娘はテオドアを生んだものの嫌悪する魔族の妻の一人になった現実を受け入れられず、衰弱し、テオドアが二歳の頃に死んでしまった。
「前魔王陛下は在位三百年以上の賢君でしたので、かの方を殺した姫や聖王国への魔族の憎悪は未だに燻ぶっています。その為、その血を引くテオドア様への扱いも良いものではありません」
「……そうか」
テオドアが只の子供であれば言っただろう言葉を飲み込み、ダリオは苦々しい顔で一言、そう言った。国家間の問題であり、己の主人が国の顔たる王族の姫と、魔王の子であるが故に、ダリオは何も言えなかった。
13
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる