※踏み台ではありません

悠十

文字の大きさ
22 / 45
辺境編

第一話 伯父

しおりを挟む
 十三歳の誕生日、その日に王城を出たセスが転移陣にて移動した先は、辺境伯領の西の端にある砦だった。
 転移陣の間から出れば、待機所には一人の案内人が待っており、迎えの人物が待っているという応接室へ通された。
 軍属の砦内に相応しく、質実剛健な石造りの廊下を通り、己の配下を従えて向かった先に居たのは、セスの麗しき美貌の伯父、ルシアン・ジンデル辺境伯であった。

「あら、ようやく来たわね」

 形の良い口から飛び出たのは、女言葉だった。
 この伯父は、その美貌から有名な御仁で、数多の美女を差し置いて、エルメジアナ国の華の一人として数えられる男である。そんな彼は、その美貌に絶対の自信と誇りを持ち、己より美しい者でなければ伴侶に迎えないと公言しており、未だに独身貴族を謳歌している家臣泣かせのオネェ辺境伯である。
 ルシアンは持っていた紅茶のカップを卓に置き、立ち上がった。
 長く艶やかな黒髪がサラリと流れ、アイスブルーの瞳がこちらを見下ろす。その身を飾るのは貴婦人が溜息を吐きそうな繊細なレースをあしらった派手なシャツと、黒のベストだ。従者が持ってきた濃紺のジャケットを着た美貌の伯父上は、セスの背後に控える配下を見て、口角を吊り上げる。

「あらまあ、セス、貴方テオドア様を連れてきちゃったの?」

 面白そうに笑うルシアンに、セスも小さく笑顔を返す。

「宝物庫より与えられる宝物から選んだ我が宝です。どうぞ、そのように扱って下さい」

 セスの返答を聞いたルシアンは、ますます面白そうに瞳を輝かせ、セスの背を一つ叩く。

「あんた、やるじゃないの。いいわぁ、それでこそ我が甥よ」
「ありがとうございます。それから、そちらの男はテオドアの従者として作りましたダリオ・リゴーニ。そして、彼女は伯父上もご存知でしょうが――」
「アビーね。ハァイ、アビー。貴女、相変わらずセスに踏まれたいの?」
「もちろんです!」

 勢い込んで肯定を返すアビーに、白けた目を向ければ、アビーが嬉しそうに身悶えた。不毛である。

「で、ダリオ・リゴーニね。……何だか、血色が悪いわね」
「ダリオはリビングデッドですから」
「……は?」

 ぱちり、と瞬いて目を丸くする伯父に、セスは説明する。

「ダリオは……まあ、いろいろやって作った従者です。死者の魂がきちんと正常に宿り、機能しているので理性もあります」
「あんた、説明するのが途中で面倒くさくなったでしょ」

 肝心な部分を省いた説明に、ルシアンが呆れたように一つ溜息を吐く。

「ま、いいわ。テオドア様はセスの宝物扱いってことなら、これからは『テオドアちゃん』って呼ぶわね。それから、リゴーニ殿はテオドアちゃんの従者ってことは、セスの配下でもあるのね?」

 テオドアは嬉しそうに笑い、そんなテオドアを見てダリオも微笑まし気に顔をほころばせる。

「初めまして、辺境伯様。俺はテオドア坊ちゃんを主人として作られ、契約しているから、テオドア坊ちゃんがセス様を主人とするなら、俺もセス様に仕えます。あと、俺には敬称は不要です。俺は使い魔みたいなもので、生前もそんな大層な人間じゃなかったので」
「そう? まあ、それならダリオって呼ばせてもらおうかしら」

 遠慮なく一歩踏み込んだルシアンに、ダリオは人好きのする笑顔を浮かべた。

「さて、それじゃあ、アタシも改めて自己紹介させてもらうわね。アタシはルシアン・ジンデル。ジンデル辺境伯領の領主で、セス・ウルフスタン・ジンデルの母親の兄。つまり、セスの伯父ね。これからはセスの保護者になるわ」

 よろしくね、と笑う伯父は、確かに彼が誇るだけあって美しい笑顔だった。



   ※ ※ ※



 ジンデル辺境伯領には、二つのダンジョンがあった。一つは初代魔王が治めていた頃からあったとされる『ゴルダインの洞窟』と呼ばれる鉱石系の魔物が蔓延るダンジョン。そして、五代前の領主の時代に出来た『マレーナの嘆き』と呼ばれる植物系の魔物が蔓延るダンジョンである。

「で、最近もう一つダンジョンが出来ちゃったのよね」

 三つ目のダンジョンの出現に、ルシアンは疲れたように一つ溜息を吐く。

「このダンジョンが森の奥にあってね、長い間その存在に気付かなかったものだから、魔物が溢れちゃって、魔物の氾濫スタンピードが起きたのよ。もう、どうしようもないから、アタシが森ごと焼き払ったわ」

 大変だったのよ、と言うわりには軽い話題のような口ぶりに、馬車に揺られながら、セスは口端が引きつるのを感じつつ相槌を打った。
 この伯父は、広域殲滅魔法が得意であり、その様子から『殲滅公』という異名を戴いている。本人はもっと華麗な異名が良いと言っているが、セスはこの伯父の本質を表しており、注意喚起の意も含めて似合いの異名だと思っている。猛獣注意の札を貼り付けておくべき御人なのだ。
 さて、このダンジョンだが、これを経営するのはとにかく大変なのである。
 まず、ダンジョンを見張る為の軍の駐留施設が必要となり、ダンジョンへ行くための道の整備をしなくてはならない。ダンジョンで利益を得るならば、ダンジョン内部もある程度調べなくてはならないし、最終的にはそれなりの距離に町が必要となってくる。
ダンジョン経営とは、それが形となるまで、とにかく、金と手間がかかるのだ。

「まあ、そういう訳だから、手伝ってもらうから覚悟しといてちょうだい」

 ギラリ、と光る伯父の目を前に、セスは素直に頷いたのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

処理中です...