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辺境編
第一話 伯父
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十三歳の誕生日、その日に王城を出たセスが転移陣にて移動した先は、辺境伯領の西の端にある砦だった。
転移陣の間から出れば、待機所には一人の案内人が待っており、迎えの人物が待っているという応接室へ通された。
軍属の砦内に相応しく、質実剛健な石造りの廊下を通り、己の配下を従えて向かった先に居たのは、セスの麗しき美貌の伯父、ルシアン・ジンデル辺境伯であった。
「あら、ようやく来たわね」
形の良い口から飛び出たのは、女言葉だった。
この伯父は、その美貌から有名な御仁で、数多の美女を差し置いて、エルメジアナ国の華の一人として数えられる男である。そんな彼は、その美貌に絶対の自信と誇りを持ち、己より美しい者でなければ伴侶に迎えないと公言しており、未だに独身貴族を謳歌している家臣泣かせのオネェ辺境伯である。
ルシアンは持っていた紅茶のカップを卓に置き、立ち上がった。
長く艶やかな黒髪がサラリと流れ、アイスブルーの瞳がこちらを見下ろす。その身を飾るのは貴婦人が溜息を吐きそうな繊細なレースをあしらった派手なシャツと、黒のベストだ。従者が持ってきた濃紺のジャケットを着た美貌の伯父上は、セスの背後に控える配下を見て、口角を吊り上げる。
「あらまあ、セス、貴方テオドア様を連れてきちゃったの?」
面白そうに笑うルシアンに、セスも小さく笑顔を返す。
「宝物庫より与えられる宝物から選んだ我が宝です。どうぞ、そのように扱って下さい」
セスの返答を聞いたルシアンは、ますます面白そうに瞳を輝かせ、セスの背を一つ叩く。
「あんた、やるじゃないの。いいわぁ、それでこそ我が甥よ」
「ありがとうございます。それから、そちらの男はテオドアの従者として作りましたダリオ・リゴーニ。そして、彼女は伯父上もご存知でしょうが――」
「アビーね。ハァイ、アビー。貴女、相変わらずセスに踏まれたいの?」
「もちろんです!」
勢い込んで肯定を返すアビーに、白けた目を向ければ、アビーが嬉しそうに身悶えた。不毛である。
「で、ダリオ・リゴーニね。……何だか、血色が悪いわね」
「ダリオはリビングデッドですから」
「……は?」
ぱちり、と瞬いて目を丸くする伯父に、セスは説明する。
「ダリオは……まあ、いろいろやって作った従者です。死者の魂がきちんと正常に宿り、機能しているので理性もあります」
「あんた、説明するのが途中で面倒くさくなったでしょ」
肝心な部分を省いた説明に、ルシアンが呆れたように一つ溜息を吐く。
「ま、いいわ。テオドア様はセスの宝物扱いってことなら、これからは『テオドアちゃん』って呼ぶわね。それから、リゴーニ殿はテオドアちゃんの従者ってことは、セスの配下でもあるのね?」
テオドアは嬉しそうに笑い、そんなテオドアを見てダリオも微笑まし気に顔をほころばせる。
「初めまして、辺境伯様。俺はテオドア坊ちゃんを主人として作られ、契約しているから、テオドア坊ちゃんがセス様を主人とするなら、俺もセス様に仕えます。あと、俺には敬称は不要です。俺は使い魔みたいなもので、生前もそんな大層な人間じゃなかったので」
「そう? まあ、それならダリオって呼ばせてもらおうかしら」
遠慮なく一歩踏み込んだルシアンに、ダリオは人好きのする笑顔を浮かべた。
「さて、それじゃあ、アタシも改めて自己紹介させてもらうわね。アタシはルシアン・ジンデル。ジンデル辺境伯領の領主で、セス・ウルフスタン・ジンデルの母親の兄。つまり、セスの伯父ね。これからはセスの保護者になるわ」
よろしくね、と笑う伯父は、確かに彼が誇るだけあって美しい笑顔だった。
※ ※ ※
ジンデル辺境伯領には、二つのダンジョンがあった。一つは初代魔王が治めていた頃からあったとされる『ゴルダインの洞窟』と呼ばれる鉱石系の魔物が蔓延るダンジョン。そして、五代前の領主の時代に出来た『マレーナの嘆き』と呼ばれる植物系の魔物が蔓延るダンジョンである。
「で、最近もう一つダンジョンが出来ちゃったのよね」
三つ目のダンジョンの出現に、ルシアンは疲れたように一つ溜息を吐く。
「このダンジョンが森の奥にあってね、長い間その存在に気付かなかったものだから、魔物が溢れちゃって、魔物の氾濫が起きたのよ。もう、どうしようもないから、アタシが森ごと焼き払ったわ」
大変だったのよ、と言うわりには軽い話題のような口ぶりに、馬車に揺られながら、セスは口端が引きつるのを感じつつ相槌を打った。
この伯父は、広域殲滅魔法が得意であり、その様子から『殲滅公』という異名を戴いている。本人はもっと華麗な異名が良いと言っているが、セスはこの伯父の本質を表しており、注意喚起の意も含めて似合いの異名だと思っている。猛獣注意の札を貼り付けておくべき御人なのだ。
さて、このダンジョンだが、これを経営するのはとにかく大変なのである。
まず、ダンジョンを見張る為の軍の駐留施設が必要となり、ダンジョンへ行くための道の整備をしなくてはならない。ダンジョンで利益を得るならば、ダンジョン内部もある程度調べなくてはならないし、最終的にはそれなりの距離に町が必要となってくる。
ダンジョン経営とは、それが形となるまで、とにかく、金と手間がかかるのだ。
「まあ、そういう訳だから、手伝ってもらうから覚悟しといてちょうだい」
ギラリ、と光る伯父の目を前に、セスは素直に頷いたのであった。
転移陣の間から出れば、待機所には一人の案内人が待っており、迎えの人物が待っているという応接室へ通された。
軍属の砦内に相応しく、質実剛健な石造りの廊下を通り、己の配下を従えて向かった先に居たのは、セスの麗しき美貌の伯父、ルシアン・ジンデル辺境伯であった。
「あら、ようやく来たわね」
形の良い口から飛び出たのは、女言葉だった。
この伯父は、その美貌から有名な御仁で、数多の美女を差し置いて、エルメジアナ国の華の一人として数えられる男である。そんな彼は、その美貌に絶対の自信と誇りを持ち、己より美しい者でなければ伴侶に迎えないと公言しており、未だに独身貴族を謳歌している家臣泣かせのオネェ辺境伯である。
ルシアンは持っていた紅茶のカップを卓に置き、立ち上がった。
長く艶やかな黒髪がサラリと流れ、アイスブルーの瞳がこちらを見下ろす。その身を飾るのは貴婦人が溜息を吐きそうな繊細なレースをあしらった派手なシャツと、黒のベストだ。従者が持ってきた濃紺のジャケットを着た美貌の伯父上は、セスの背後に控える配下を見て、口角を吊り上げる。
「あらまあ、セス、貴方テオドア様を連れてきちゃったの?」
面白そうに笑うルシアンに、セスも小さく笑顔を返す。
「宝物庫より与えられる宝物から選んだ我が宝です。どうぞ、そのように扱って下さい」
セスの返答を聞いたルシアンは、ますます面白そうに瞳を輝かせ、セスの背を一つ叩く。
「あんた、やるじゃないの。いいわぁ、それでこそ我が甥よ」
「ありがとうございます。それから、そちらの男はテオドアの従者として作りましたダリオ・リゴーニ。そして、彼女は伯父上もご存知でしょうが――」
「アビーね。ハァイ、アビー。貴女、相変わらずセスに踏まれたいの?」
「もちろんです!」
勢い込んで肯定を返すアビーに、白けた目を向ければ、アビーが嬉しそうに身悶えた。不毛である。
「で、ダリオ・リゴーニね。……何だか、血色が悪いわね」
「ダリオはリビングデッドですから」
「……は?」
ぱちり、と瞬いて目を丸くする伯父に、セスは説明する。
「ダリオは……まあ、いろいろやって作った従者です。死者の魂がきちんと正常に宿り、機能しているので理性もあります」
「あんた、説明するのが途中で面倒くさくなったでしょ」
肝心な部分を省いた説明に、ルシアンが呆れたように一つ溜息を吐く。
「ま、いいわ。テオドア様はセスの宝物扱いってことなら、これからは『テオドアちゃん』って呼ぶわね。それから、リゴーニ殿はテオドアちゃんの従者ってことは、セスの配下でもあるのね?」
テオドアは嬉しそうに笑い、そんなテオドアを見てダリオも微笑まし気に顔をほころばせる。
「初めまして、辺境伯様。俺はテオドア坊ちゃんを主人として作られ、契約しているから、テオドア坊ちゃんがセス様を主人とするなら、俺もセス様に仕えます。あと、俺には敬称は不要です。俺は使い魔みたいなもので、生前もそんな大層な人間じゃなかったので」
「そう? まあ、それならダリオって呼ばせてもらおうかしら」
遠慮なく一歩踏み込んだルシアンに、ダリオは人好きのする笑顔を浮かべた。
「さて、それじゃあ、アタシも改めて自己紹介させてもらうわね。アタシはルシアン・ジンデル。ジンデル辺境伯領の領主で、セス・ウルフスタン・ジンデルの母親の兄。つまり、セスの伯父ね。これからはセスの保護者になるわ」
よろしくね、と笑う伯父は、確かに彼が誇るだけあって美しい笑顔だった。
※ ※ ※
ジンデル辺境伯領には、二つのダンジョンがあった。一つは初代魔王が治めていた頃からあったとされる『ゴルダインの洞窟』と呼ばれる鉱石系の魔物が蔓延るダンジョン。そして、五代前の領主の時代に出来た『マレーナの嘆き』と呼ばれる植物系の魔物が蔓延るダンジョンである。
「で、最近もう一つダンジョンが出来ちゃったのよね」
三つ目のダンジョンの出現に、ルシアンは疲れたように一つ溜息を吐く。
「このダンジョンが森の奥にあってね、長い間その存在に気付かなかったものだから、魔物が溢れちゃって、魔物の氾濫が起きたのよ。もう、どうしようもないから、アタシが森ごと焼き払ったわ」
大変だったのよ、と言うわりには軽い話題のような口ぶりに、馬車に揺られながら、セスは口端が引きつるのを感じつつ相槌を打った。
この伯父は、広域殲滅魔法が得意であり、その様子から『殲滅公』という異名を戴いている。本人はもっと華麗な異名が良いと言っているが、セスはこの伯父の本質を表しており、注意喚起の意も含めて似合いの異名だと思っている。猛獣注意の札を貼り付けておくべき御人なのだ。
さて、このダンジョンだが、これを経営するのはとにかく大変なのである。
まず、ダンジョンを見張る為の軍の駐留施設が必要となり、ダンジョンへ行くための道の整備をしなくてはならない。ダンジョンで利益を得るならば、ダンジョン内部もある程度調べなくてはならないし、最終的にはそれなりの距離に町が必要となってくる。
ダンジョン経営とは、それが形となるまで、とにかく、金と手間がかかるのだ。
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