※踏み台ではありません

悠十

文字の大きさ
23 / 45
辺境編

第二話 辺境

しおりを挟む
 ジンデル辺境伯領『ジェスト』は、元からある二つのダンジョンから程よい距離にある大きな町である。
 そこには近場にダンジョンが二つもある為、規模の大きい冒険者ギルドを始め、宿屋、鍛冶屋、薬屋、雑貨店など、多くの商店が賑わう町である。そんな町に、辺境伯家は屋敷を構えている。
 セスは屋敷に着くと、用意されていた部屋に入り、荷を解く使用人を眺めながら、時折口を出す。

「その小さな壺はそちらの棚に並べてくれ。大鍋は暖炉にかけて……、ああ、その毛皮は伯父上へのお土産だから――」
「あら、ありがとう」

 音も無く部屋へ入って来たのはルシアンだ。ヒールの高い靴を履いている筈なのに、足音一つ聞こえなかった。

「伯父上……」
「貴方、ちっとも驚かないわよねぇ。つまんないわ」

 時折、こうしてセスを試すように、この伯父は気配を消して側に寄ってくるのだ。おかげで、気配を読むのが上手くなってしまった。それもこれも、幼い頃からルシアンに驚かされ、からかわれ続けた所為である。

「で、これは何の毛皮かしら? 何だか、凄く手触りが良いんだけど」

 使用人から毛皮を受け取ったルシアンは、それを撫でながら尋ねてくる。

「ホーンラビットの突然変異体です。馬鹿みたいに大きかったですよ」
「は?」

 ぱちり、と一つ瞬いて、ルシアンは毛皮を広げる。それは、熊ぐらいの大きさがあった。

「……大きすぎない?」
「大きかったです」

 ホーンラビットはよく居るポピュラーな魔物で、その毛皮もゴワゴワしていて、価値も低い。しかし、それが突然変異体となると話が違ってくる。
 
「新雪の如き白さで、艶やか。すべらかな肌触り。魔力も通すみたいだし、五つ位は付与魔法も付けられそうね……。これ、とんでもない品よ? 本当に貰っちゃっても良いの?」

 その希少性もさることながら、強さも段違いで、そうそう狩れる存在ではない。その個体から獲れる素材の品質は全て一級品であり、売りに出せば一等地にそこそこの家が買えるだろう洒落にならない品である。

「これからお世話になりますし、俺には似合わないですしね。なら、伯父上に差し上げた方が良いでしょう」

 売って金銭に変えるという発想が出ないあたりが、金に困っていないという証左である。
 いくら魔王の子であり、貴族の家に引き取られるからといって、己がその家の金を自由に出来るわけでもない。その為、大抵の魔王の子は、腕を磨くついでに自分の小遣いくらいは自分で稼ぐのだ。
 甥の色んな意味での腕前に、ルシアンは楽し気に笑う。

「それなら、有り難く貰っておくわね。」

 そう言って、その毛皮を使用人に持たせ、ルシアンは「これで何を作ろうかしらねぇ」と言いながら、部屋を出て行った。
 その後姿を見送り、セスは呟く。

「相変わらず、自由な御人だ」

 そして、それが許されるほどの御仁なのである。



   ※ ※ ※



 セス達が辺境伯領へ到着した翌日、ルシアンの宣言通りに、セスは早速手伝いに駆り出された。
 今回、セスの愉快な配下達は留守番である。立場的に使用人となる彼等は、流石にやる事も覚える事も多く、セスはそちらの仕事を優先するよう指示を出したのだ。

「ここからじゃ遠いから、ワイバーンで行くわ。貴方、ワイバーンに乗った事は?」
「一応、何度か。急ぐのなら、誰かと相乗りをお願いしたいです」

 魔王の子としての教育の一環で乗れるようにはなったのだが、ワイバーンは軍のもので、頻繁に乗れるものでは無かったのだ。その為、どうにか乗れる程度の腕前なのである。

「あら、そうなの? ま、そう急ぐわけでもないから、折角だし、練習がてら一人で乗ってごらんなさいな」
「分かりました」

 そうして、慣れないワイバーンでの移動に少しばかりもたつきながらも、どうにか辿り着いた先に在ったのは、炭化した森だったモノだった。
 眼下に広がる光景に、セスは呆気にとられながらも、伯父を敵に回してはならないと改めて思った。
 送られてきた合図を確認し、炭化した森とほど近い場所にある草原にワイバーンを降ろす。

「ダンジョンの近くにワイバーンを降ろせるほど森の片付けがまだ終わって無いのよねぇ。面倒だけど、ここからは歩きになるわ」
「……分かりました」

 物悲しいを超え、最早哀れな森の光景に遠い目をしながら、セスは大人しく頷いた。

「ほら、まだ若いんだから、しゃきっとしなさいな」

 ワイバーンでの移動で疲れたと思ったのか、ルシアンがセスの背をバシッ、と叩きながら明るく笑って歩き出す。
 そんな伯父に、セスは悟ったかのような生温い笑顔を浮かべ、それに続いたのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...