※踏み台ではありません

悠十

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辺境編

第六話 残骸処理

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「終わった……」

 魔力ポーションで腹の中をタプタプさせて十日。
 ようやく、指定された範囲の森の残骸処理が終わった。

「お疲れ様です、セス様!」
「兄上、どうぞこちらへ!」
「セス様、すげぇ頑張ったな!」

 だだっ広い平野にポツンと置かれたテーブルと椅子には、軽食が用意されており、ぐったりとしたセスはテオドア達に促されるまま椅子に座った。

「兄上のお好きなローストビーフサンドです!」
「和風ソースなので、山葵がちょっぴり入ってますよ」

 疲れ果てて緩慢な動きでもそもそとサンドイッチを食べ始めたセスに、アビーが紅茶を淹れる。
 平野にてわざわざテーブルや椅子を用意しての奇妙なティータイムは、セスがサンドイッチを食べ終えたころにやってきた大男によって、終了した。

「おーい! セス様!」

 声を張り上げてやってきたのは、副ギルドマスターのバルトである。

「今日終わりそうだって聞いたんだが……」

 そう言ってバルトは綺麗に何もなくなった森の跡地を眺め、感心したように唸った。

「は~……。こりゃ、見事なもんだな。何にも無くなってらぁ……」

 何故バルトがここに居るかというと、セスが森の残骸処理をしていた二日目から、残骸処理が終わった部分から町を作るという計画が上がったため、様子を見に来たのだ。

「まさか、町造りの計画を立て終える前に残骸処理が終わるとは思わなかったな……」

 しかし、町造りの計画が数日で終わる訳もなく、先に残骸処理が終わる事となったのだ。
 これにはルシアンも報告を聞いて驚き、セスは感激したルシアンから背骨を軋ませるハグをくらった。

「取り合えず、町造りの計画は何処まで終わったんですか?」

 姿勢を正しながらも疲労を隠せていないセスに、バルトはヒラヒラと手を振って、自分に気遣う必要はないと告げた。
 その言葉を受けて、セスが楽な姿勢を取った事を確認し、バルトは報告を始める。

「まずは街道と区画が決まった。それで、役所とギルドの場所もほぼ本決まりだな。今は商店の誘致を行ってるが、これはすぐ決まると思う。問題は材木や石材だな。役人達が走り回ってるぜ」

 しかし、それも早期に解決されるだろう。何故なら、それを欲しているのがルシアン・ジンデル辺境伯だからだ。

「ジンデル辺境伯からの依頼なら、ここら辺の奴なら滅多な事じゃ断らないからな。辺境伯からの依頼ってだけで、横入りも吹っ掛けられもしないからな」
「伯父上は有能なうえ、怖いですからね……」

 この辺りの商家にとって、辺境伯からの依頼は安全で割の良い依頼だと認識されている。
 と、いうのも、ルシアンの依頼を邪魔するという事は、ジンデル辺境伯家に喧嘩を売っているとみなされ、場合によっては陰惨な報復が成されるのである。
 その一例が、過去、辺境伯領で流行った病の薬に必要な薬草に、法外な値段を吹っ掛けられた時の事である。
 その際、最早一刻の猶予も無く、命には代えられないと自腹を切った人が良い商家により、病は沈静化されたが、商家は大赤字で進退窮まってしまった。しかし、その赤字はルシアンによって補填され、九死に一生を得たのだった。
 さて、しかし、病の鎮静化で事が終わる筈も無かった。ともすれば、病により領地の人々が死に絶えていたかもしれない事実は、ルシアンの逆鱗に触れた。
 そんなルシアンの報復は、とても分かりやすく、けれども誰にも証明できない形で表に出た。
 件の薬草に対し、法外な値段を吹っ掛けた商人、その家族、関係者が忽然と姿を消したのだ。
 それは、一切の予兆も無く、犯人につながる痕跡も無かった。それこそ、件の商人に至っては、少し目を離した隙に消えており、執務室に残されたカップの紅茶は湯気を立てていたというホラーじみた証言すらあった。
 争った形跡も無く、金品も残されたまま、人だけが消えた事件は、きっと報復だったのだろう、という人々の予想を頭の片隅に残し、迷宮入り事件として闇に葬られた。
 この国が平和な人間社会であれば、何かしらルシアンに不利な事になったかもしれない。しかし、この国は魔族の国である。
 魔族の上位者に明らかに舐めた真似をしたのだ。報復は当たり前で、その報復を回避できない奴が悪いのである。強者に喧嘩を売った馬鹿と嘲笑されるのだ。
 何より、領主に領地に明らかに洒落にならない被害が出るような真似をして、報復されない筈が無いのだ。それは、当然の帰結と言えた。
 しかしながら、『殲滅公』の異名を持つルシアンのこうした静かな報復は効果的だったらしく、ルシアンが行った報復は片手で数えるだけだったにもかかわらず、商人達の間では怪談じみた恐怖を持って広まり、ルシアンの依頼は誠実に受け、邪魔しないという暗黙の了解が出来た。

「……セス様は、そんな辺境伯様の跡継ぎなんだな」
「まだ候補ですよ。伯父上はまだお若いし、お子が出来るかもしれませんからね」

 しかし、その伯父上には残念ながら女の影はない。
 最有力跡継ぎ候補であるが、己はいささかインパクトに欠けると自覚がある為、セスは憂鬱そうに溜息を吐いた。

「まあ、頑張りますけどね」

 先代が大きすぎると大変だ、とぼやくセスに、バルトはちらりとセスの配下に視線を遣る。
 セスの配下は三人だ。
 一人は色気のある美女ではあるが、バルトの勘があれは危険だと警鐘を鳴らしている。そして、セスの弟だと知らされた美少年は、あの年で実に魔族らしい『主』に心酔する下僕の目をしており、時折こちらに向ける視線はバルトの背筋に悪寒を走らせる。最後に従者と紹介された血色の悪い男は、唯一バルトの常識の範囲内に居てくれそうではあるが、柔軟性があり過ぎて、そのうち周りに染まりそうな性格だった。

「次代の領主様も、怖そうだな……」

 主に、周りが。
 バルトは妙に圧を感じる配下から、そっと目を逸らした。
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