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辺境編
第十一話 冒険者ギルド・ジェスト支部
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痴女一行が去ってからも、ルシアンの機嫌は底辺を這っていた。
それは、仕方がない事なのかもしれない。自分の領地であんな格好の人物が居り、しかも甥っ子達に初めて領地を案内している最中の事なのだ。機嫌が悪くなるのも当然であった。
ルシアンは荒々しく冒険者ギルドに入り、受付に向かった。
「ちょっと、ギルマス出してちょうだい」
「えっ、あの――」
戸惑う受付嬢に、ルシアンはおどろおどろしい気配を漂わせ、見下すように睥睨し、命じる。
「ブラーム・フェーンを出せ」
「は、はいぃぃぃ‼」
恐ろしく低い声のそれに、受付嬢は半泣きになって奥にある階段へ向かい、駆けあがって行った。恐らく、ギルドマスターを呼びに行ったのだろう。
「伯父上……」
「ふ、うふふふふ……。あの痴女共、間違いなく冒険者よ。あんな格好で町中を歩かせるのを良しとしたギルドに、どういうつもりか聞かなきゃいけないでしょう?」
咎めるようにルシアンを呼ぶセスに、ルシアンは怒りを滲ませながら笑顔で言い切った。
「セス様、これは領の風紀に繋がる問題ですから、御領主たるルシアン様の判断に従った方が良いかと思います」
微妙な顔をするセスは、アビーにそう耳打ちされ、それもそうか、と思い、ギルドマスターが来るのを待った。
そして、然程時間をおかず先程の受付嬢が上階から降りてきて、その後に続いて一人の男が降りてきた。
男は、白髪交じりの黒髪に、銀縁眼鏡をした外見上三十代位に見えるが、魔族なので実年齢はもっと上だろう。
その男はルシアンを見ると驚いた様に目を見開き、慌ててこちらに近付いてきた。
「これは、領主様。どんな御用でしょうか?」
見るからに怒っている風情のルシアンに、男は少し緊張気味に尋ねる。
そんな男の言葉に反応したのは、周りの冒険者達だった。
「え、領主様?」
「殲滅公!?」
「ひえっ、本物……」
俄かに騒がしくなった周囲に、ルシアンの眉間に皺が寄る。
「申し訳ありません。こちらでは落ち着いて話が出来ないでしょうし、どうぞこちらへ……」
ルシアンの様子を見て、男はセス達を上階に在る応接室へ案内した。
応接室の対面式の椅子に、ルシアンとセスが隣合って座り、その向かいに男が座る。テオドア達三人はセス達の後ろに立ち、男と向き合った。
男が秘書と思しき女性にお茶を持って来るように指示し、改めてセス達に視線を戻す。
「慌ただしくて申し訳あません。それで、今回はどの様な御用でしょうか?」
男の言葉に、ルシアンは一つ溜息を吐き、尖っていた気配を少し軟化させた。
「そうね。その前に、ちょっと紹介しとくわ。この子はセス。私の甥っ子よ」
「初めまして。セス・ウルフスタン・ジンデルです」
そう言って軽く頭を下げて自己紹介するセスに、男は少し驚いた様に瞬き、居住まいを正した。
「これは、ご丁寧にありがとうございます。私は、この冒険者ギルド『ジェスト支部』のギルドマスター、ブラーム・フェーンと申します」
以後、お見知りおきを、と言って、ブラームは頭を下げた。
「さて。自己紹介はこの辺で良いわね。本題に入りましょう」
本来の目的はこのギルドマスターたるブラームをセスに紹介する事だったのだが、とんだ厄介事に行き会ったがために、本来の目的がついでになってしまった事にセスは遠い目をする。
「ブラーム。冒険者ギルドは、いつから卑猥な恰好を町中でするのを許すようになったの?」
「は?」
目を丸くするブラームに、ルシアンは冒険者ギルドのすぐ近くで遭遇した痴女一行の事を話した。
それに関し、どうもブラームは初耳だったらしく、丁度お茶を持って入室してきた秘書にその事を訪ねた。
「ああ、それは『光の刃』一行ですね」
僅かに苛立ちを滲ませた声音に、ブラームが目を瞬く。
「どういった奴らなんだ? 俺の耳に入っていないという事は、最近来た奴だろう?」
「ええ、つい三日ほど前にこの町に来た一行ですよ」
秘書が語るところによると、まず最初に受付嬢がビキニアーマー女――リンジー・セイラーに、この辺の土地では地肌にビキニアーマーを着てうろつくのは良くない、と親切心で注意をしたのだという。
「だけど彼女、南の方でこの格好でも大丈夫だったから、って取り合ってくれなかったんです」
「そうか……。しかし、『光の刃』一行、と言う限り、パーティーを組んでるんだろう? 他のメンバーは何か言わなかったのか?」
ブラームの言葉に、秘書が困った様な顔をして、告げる。
「それが、もう一人問題のある恰好をしている方が居て……」
「他にも居るのか!」
ぎょっとするブラームに、秘書が頷く。
「クラリッサ・マクレナンという僧侶なんですが、明らかに性的な衝動を煽るような恰好をしていて……」
「娼婦でもしない様な恰好をしていたわね」
秘書とルシアンの言葉に、ブラームは頭痛がするとでも言わんばかりに、渋い顔をした。
「それで、彼女達の恰好が原因で、酒場の方で騒ぎが起きた様です。娼婦と間違えて声をかけられ、それを素っ気無く断ると男達が逆上して、それをパーティーメンバーの男性が拳で沈めたとか」
酒場の店主としては、絡み酒は良くないが、明らかにそれっぽい格好をしている女性にも問題がある様に見えた、との事だった。
そして、どうも彼女達はパーティーメンバーの少年に好意を持っているように見え、あの恰好は色んな意味で少年の気を引くためじゃなか、とまで推測していた。
「なぁに、それ。つまり、男に絡まれて、それを助けてもらう為の格好でもある、って事?」
「まあ、あくまで推測ですが」
一同は、その茶番具合に渋い顔をした。
「ブラーム、本当に彼女達の恰好は困るのよ。風紀は乱れるし、子供の教育に悪いわ。次に見かけるときに服装が正されていない様なら、アタシが出る事を覚えておいてちょうだい」
「はい、分かりました」
領主として、保護者としての言葉に、ブラームは粛々とした態度でそれを受け取った。
「冒険者が治安を悪化させるような事があってはならない。ギルドでも指導し、もし改善されない様であれば、しかるべき措置を取る事をお約束します」
そうして話し合いが終わり、ギルドを出た時、テオドアが声を上げた。
「ダンジョンコンパス!」
「「「「あっ!」」」」
肝心のダンジョンコンパスを買い忘れていた事を思い出した一行は、そそくさとギルド内に戻って行った。
それは、仕方がない事なのかもしれない。自分の領地であんな格好の人物が居り、しかも甥っ子達に初めて領地を案内している最中の事なのだ。機嫌が悪くなるのも当然であった。
ルシアンは荒々しく冒険者ギルドに入り、受付に向かった。
「ちょっと、ギルマス出してちょうだい」
「えっ、あの――」
戸惑う受付嬢に、ルシアンはおどろおどろしい気配を漂わせ、見下すように睥睨し、命じる。
「ブラーム・フェーンを出せ」
「は、はいぃぃぃ‼」
恐ろしく低い声のそれに、受付嬢は半泣きになって奥にある階段へ向かい、駆けあがって行った。恐らく、ギルドマスターを呼びに行ったのだろう。
「伯父上……」
「ふ、うふふふふ……。あの痴女共、間違いなく冒険者よ。あんな格好で町中を歩かせるのを良しとしたギルドに、どういうつもりか聞かなきゃいけないでしょう?」
咎めるようにルシアンを呼ぶセスに、ルシアンは怒りを滲ませながら笑顔で言い切った。
「セス様、これは領の風紀に繋がる問題ですから、御領主たるルシアン様の判断に従った方が良いかと思います」
微妙な顔をするセスは、アビーにそう耳打ちされ、それもそうか、と思い、ギルドマスターが来るのを待った。
そして、然程時間をおかず先程の受付嬢が上階から降りてきて、その後に続いて一人の男が降りてきた。
男は、白髪交じりの黒髪に、銀縁眼鏡をした外見上三十代位に見えるが、魔族なので実年齢はもっと上だろう。
その男はルシアンを見ると驚いた様に目を見開き、慌ててこちらに近付いてきた。
「これは、領主様。どんな御用でしょうか?」
見るからに怒っている風情のルシアンに、男は少し緊張気味に尋ねる。
そんな男の言葉に反応したのは、周りの冒険者達だった。
「え、領主様?」
「殲滅公!?」
「ひえっ、本物……」
俄かに騒がしくなった周囲に、ルシアンの眉間に皺が寄る。
「申し訳ありません。こちらでは落ち着いて話が出来ないでしょうし、どうぞこちらへ……」
ルシアンの様子を見て、男はセス達を上階に在る応接室へ案内した。
応接室の対面式の椅子に、ルシアンとセスが隣合って座り、その向かいに男が座る。テオドア達三人はセス達の後ろに立ち、男と向き合った。
男が秘書と思しき女性にお茶を持って来るように指示し、改めてセス達に視線を戻す。
「慌ただしくて申し訳あません。それで、今回はどの様な御用でしょうか?」
男の言葉に、ルシアンは一つ溜息を吐き、尖っていた気配を少し軟化させた。
「そうね。その前に、ちょっと紹介しとくわ。この子はセス。私の甥っ子よ」
「初めまして。セス・ウルフスタン・ジンデルです」
そう言って軽く頭を下げて自己紹介するセスに、男は少し驚いた様に瞬き、居住まいを正した。
「これは、ご丁寧にありがとうございます。私は、この冒険者ギルド『ジェスト支部』のギルドマスター、ブラーム・フェーンと申します」
以後、お見知りおきを、と言って、ブラームは頭を下げた。
「さて。自己紹介はこの辺で良いわね。本題に入りましょう」
本来の目的はこのギルドマスターたるブラームをセスに紹介する事だったのだが、とんだ厄介事に行き会ったがために、本来の目的がついでになってしまった事にセスは遠い目をする。
「ブラーム。冒険者ギルドは、いつから卑猥な恰好を町中でするのを許すようになったの?」
「は?」
目を丸くするブラームに、ルシアンは冒険者ギルドのすぐ近くで遭遇した痴女一行の事を話した。
それに関し、どうもブラームは初耳だったらしく、丁度お茶を持って入室してきた秘書にその事を訪ねた。
「ああ、それは『光の刃』一行ですね」
僅かに苛立ちを滲ませた声音に、ブラームが目を瞬く。
「どういった奴らなんだ? 俺の耳に入っていないという事は、最近来た奴だろう?」
「ええ、つい三日ほど前にこの町に来た一行ですよ」
秘書が語るところによると、まず最初に受付嬢がビキニアーマー女――リンジー・セイラーに、この辺の土地では地肌にビキニアーマーを着てうろつくのは良くない、と親切心で注意をしたのだという。
「だけど彼女、南の方でこの格好でも大丈夫だったから、って取り合ってくれなかったんです」
「そうか……。しかし、『光の刃』一行、と言う限り、パーティーを組んでるんだろう? 他のメンバーは何か言わなかったのか?」
ブラームの言葉に、秘書が困った様な顔をして、告げる。
「それが、もう一人問題のある恰好をしている方が居て……」
「他にも居るのか!」
ぎょっとするブラームに、秘書が頷く。
「クラリッサ・マクレナンという僧侶なんですが、明らかに性的な衝動を煽るような恰好をしていて……」
「娼婦でもしない様な恰好をしていたわね」
秘書とルシアンの言葉に、ブラームは頭痛がするとでも言わんばかりに、渋い顔をした。
「それで、彼女達の恰好が原因で、酒場の方で騒ぎが起きた様です。娼婦と間違えて声をかけられ、それを素っ気無く断ると男達が逆上して、それをパーティーメンバーの男性が拳で沈めたとか」
酒場の店主としては、絡み酒は良くないが、明らかにそれっぽい格好をしている女性にも問題がある様に見えた、との事だった。
そして、どうも彼女達はパーティーメンバーの少年に好意を持っているように見え、あの恰好は色んな意味で少年の気を引くためじゃなか、とまで推測していた。
「なぁに、それ。つまり、男に絡まれて、それを助けてもらう為の格好でもある、って事?」
「まあ、あくまで推測ですが」
一同は、その茶番具合に渋い顔をした。
「ブラーム、本当に彼女達の恰好は困るのよ。風紀は乱れるし、子供の教育に悪いわ。次に見かけるときに服装が正されていない様なら、アタシが出る事を覚えておいてちょうだい」
「はい、分かりました」
領主として、保護者としての言葉に、ブラームは粛々とした態度でそれを受け取った。
「冒険者が治安を悪化させるような事があってはならない。ギルドでも指導し、もし改善されない様であれば、しかるべき措置を取る事をお約束します」
そうして話し合いが終わり、ギルドを出た時、テオドアが声を上げた。
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