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第十二話
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ヤケ酒を飲み、二日酔いに苦しんだ日から一週間後、ミアの元にとある魔女が訪ねて来た。
「ああ、いらっしゃい。話は聞いてるわ。入ってちょうだい」
「ありがとうございます……」
ボブカットの栗色の髪に、緑の瞳を持つ彼女は、ブレスト皇国に居を構える魔女だった。名をエレナ・ハーウェンという彼女は、魔女協会から忠告を受け、引っ越すべきかどうか悩んでいるのだという。
「すみません、ブレスト皇国の王宮内の様子を見せて欲しいだなんてわがままを言ってしまって……」
「いいのよ。引っ越しって大変だもの。土地にも思い入れがあるし、魔女の家は地脈を調べなきゃいけないから面倒だものね」
魔女の住まいは、何処でも良いという訳ではないのだ。薬づくりや、魔法を使う関係上、地脈というエネルギーが流れる真上に建てるのが理想的とされ、どの魔女もそれを忠実に守って来た。
「実は先代の皇帝の依頼を受けたことがあったんです。とても丁寧な対応をされて、感心してたんですけど……。まさか、その皇帝の息子が、とか思ってしまって……」
「あー……、なるほど。先代は立派な人だったのね……」
それもあって迷っているらしい。
ミアは納得し、エレナを客間へ案内する。
お茶とマドレーヌを出し、遠見の水晶を魔法で呼び寄せる。
「それじゃあ、取りあえず皇帝の執務室でも覗いてみる?」
「あ、はい。お願いします」
お茶を飲んで一息ついたところで、ミアは遠見の水晶に皇帝の執務室を映し出した。
「ふん、まだあの女は死なないか。しぶといな……」
皇帝のその呟きを、薄っすらと微笑みを浮かべていながら、感情が読み取れぬ初老の執事が聞いていた。
「ロスコー王国の外交官が見舞いをしたいと言うのを誤魔化すのも骨が折れる。とっとと死ねばいいものを……」
婚約者時代から長く付き合いがあり、ヴィヴィアン皇妃は痂疲など欠片もなく、良き妻、良きパートナーだった。彼女との間に娘まで設けておきながら、情の欠片も感じられぬ非道さだった。
しかし、それを非難する者は居ない。この部屋には、部屋付きの侍女、護衛に至るまで、皇帝の命令だけを聞き、疑問を挟まず忠実に遂行するように育てられた特殊な人間しかいなかったのだ。
「毒を強い物へ変えますか?」
「いや、それでは不自然な死に方になる。現状維持しかあるまい。まったく、面倒な女だ」
そう言って、皇帝は執務へ戻った。
それも見て、執事も一礼して下がる。
そんな光景を映す遠見の水晶から魔女達は顔を上げた。
エレナは真顔で一言言う。
「早急に引っ越そうと思います」
「そうした方が良いと思うわ」
ミアは死んだ魚の様な目をしながら、用意していたワインをドン、とテーブルに出した。
「飲む?」
「いただきます」
翌日、二人は二日酔いに苦しんだ。しかし、学習したミアによって用意されていた二日酔いの薬を飲んだため、エレナはぐったりした顔をしながらも、その日のうちに帰っていった。
箒で飛んでいく姿を見送りながら、ノアがポツリと呟く。
「二日酔いになるほど飲まない方が、前もって二日酔いの薬を用意するより賢い選択だと思うわぁ」
ミアは賢い使い魔からそっと視線を逸らした。
「ああ、いらっしゃい。話は聞いてるわ。入ってちょうだい」
「ありがとうございます……」
ボブカットの栗色の髪に、緑の瞳を持つ彼女は、ブレスト皇国に居を構える魔女だった。名をエレナ・ハーウェンという彼女は、魔女協会から忠告を受け、引っ越すべきかどうか悩んでいるのだという。
「すみません、ブレスト皇国の王宮内の様子を見せて欲しいだなんてわがままを言ってしまって……」
「いいのよ。引っ越しって大変だもの。土地にも思い入れがあるし、魔女の家は地脈を調べなきゃいけないから面倒だものね」
魔女の住まいは、何処でも良いという訳ではないのだ。薬づくりや、魔法を使う関係上、地脈というエネルギーが流れる真上に建てるのが理想的とされ、どの魔女もそれを忠実に守って来た。
「実は先代の皇帝の依頼を受けたことがあったんです。とても丁寧な対応をされて、感心してたんですけど……。まさか、その皇帝の息子が、とか思ってしまって……」
「あー……、なるほど。先代は立派な人だったのね……」
それもあって迷っているらしい。
ミアは納得し、エレナを客間へ案内する。
お茶とマドレーヌを出し、遠見の水晶を魔法で呼び寄せる。
「それじゃあ、取りあえず皇帝の執務室でも覗いてみる?」
「あ、はい。お願いします」
お茶を飲んで一息ついたところで、ミアは遠見の水晶に皇帝の執務室を映し出した。
「ふん、まだあの女は死なないか。しぶといな……」
皇帝のその呟きを、薄っすらと微笑みを浮かべていながら、感情が読み取れぬ初老の執事が聞いていた。
「ロスコー王国の外交官が見舞いをしたいと言うのを誤魔化すのも骨が折れる。とっとと死ねばいいものを……」
婚約者時代から長く付き合いがあり、ヴィヴィアン皇妃は痂疲など欠片もなく、良き妻、良きパートナーだった。彼女との間に娘まで設けておきながら、情の欠片も感じられぬ非道さだった。
しかし、それを非難する者は居ない。この部屋には、部屋付きの侍女、護衛に至るまで、皇帝の命令だけを聞き、疑問を挟まず忠実に遂行するように育てられた特殊な人間しかいなかったのだ。
「毒を強い物へ変えますか?」
「いや、それでは不自然な死に方になる。現状維持しかあるまい。まったく、面倒な女だ」
そう言って、皇帝は執務へ戻った。
それも見て、執事も一礼して下がる。
そんな光景を映す遠見の水晶から魔女達は顔を上げた。
エレナは真顔で一言言う。
「早急に引っ越そうと思います」
「そうした方が良いと思うわ」
ミアは死んだ魚の様な目をしながら、用意していたワインをドン、とテーブルに出した。
「飲む?」
「いただきます」
翌日、二人は二日酔いに苦しんだ。しかし、学習したミアによって用意されていた二日酔いの薬を飲んだため、エレナはぐったりした顔をしながらも、その日のうちに帰っていった。
箒で飛んでいく姿を見送りながら、ノアがポツリと呟く。
「二日酔いになるほど飲まない方が、前もって二日酔いの薬を用意するより賢い選択だと思うわぁ」
ミアは賢い使い魔からそっと視線を逸らした。
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