9 / 12
8
「今日はいらしてくださって、ありがとう」
「いえ、お招きいただき、光栄です」
現在、キャロルは学園にある、使用するにあたって予約が必要になるサロンに居た。
キャロルを招いたのは、金の緩やかな巻き毛が美しい、ゴージャスな美少女。王太子殿下の婚約者である、パトリシア・コルトレーン公爵令嬢であった。
パトリシアは美しく微笑む。
「ごめんなさいね、突然。どうしても貴女とお話がしたかったの」
「いえ、大丈夫です。どうぞ、お気になさらないでください」
公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者であるパトリシアを前に、キャロルは緊張していた。何かやらかせば、きっと良くない事が起きるだろう。
「それでね、実は先日、殿下から貴女のことを教えていただいたの。それで、その……、貴女も転生者なんですってね?」
潜められた声に、キャロルは静かに頷いた。
「はい。それで、貴女も、という事は、やはりパトリシア様もですか?」
「ええ。実は、そうなの」
パトリシアが嬉しそうに頷いた。
彼女は、恐らく仲間が居たことと、これで破滅フラグが折れるのではないかと期待しているのだろう。キラキラした目で、キャロルを見ていた。
「あの、それで、私なんですけど、攻略対象になっている皆様を攻略するつもりは無くて、目指しているのはノーマルとか、トゥルーエンドなんです」
「まあ! 本当?」
ますます嬉しそうな顔をするパトリシアに、キャロルは笑顔が引きつらないように気を付けながら頷く。
「はい。あの、実は攻略対象じゃない方を、ちょっと良いな、って思ってて……」
「まあ! まあまあまあ!」
『ヒロイン』の恋バナに、パトリシアは目を輝かせた。一応、どこの誰かを聞けば、全く知らない人物だったので、更に安心する。
「だから、パトリシア様が心配なさってるようなことにはならないので、ご安心ください」
「ええ! ありがとう! それから、今まで御免なさいね。私がじっと見ていたせいで、変に注目を集めてしまったと聞いたわ」
「いえ、大丈夫です。お気になさらないでください」
パトリシアの謝罪に、少しばかり苦い物を感じながらも、キャロルは微笑みを浮かべてそれを受け取った。
そして、ふと、同じ転生者の誼で、あのことを言ってみようかと思った。だって、きっと、もうこんな機会は訪れないと思ったから。
「あの、実はちょっと気になっていることがあって……」
「あら、何かしら?」
キャロルは真剣な顔を作って、言う。
「パトリシア様の周りにいらっしゃる、攻略対象の男性達のことです」
キャロルは、はっきりと言ってしまうことにした。
攻略対象の男達は、パトリシアに恋愛的な意味で好意を抱いている様にしか見えない、と。
「ああ、そのことね。よく言われるのよ。けど、本当にただのお友達なのよ。それに、彼等には素敵な婚約者が居るのよ? 私にそういった好意を抱いているなんて、あり得ないわ」
はっきりと告げられた言葉に、鈍感も過ぎると残酷だな、と思う。しかし、このままではきっと良くない事が起きるだろう。だから、同じ転生者仲間として、最初で最後の忠告をする。
「真実はそうでも、周りにそう見えるのが問題かと思います。そう見えるという事は、彼等の婚約者様方にもそう見えている可能性が高いという事です。もしかすると、傷ついておられるかもしれません」
「えっ……」
思ってもみないことを言われたとばかりに、パトリシアは目を見開いた。
「女性の信頼できるお友達と相談して、少し距離を取ることをお勧めします」
「……ええ、ありがとう。考えてみるわ」
パトリシアはそう答え、この日の小さなお茶会は幕を下ろした。
その後、彼女が誰にどう相談したかは分からない。けれど、彼女の周りにはやっぱり誰かしら侍っていた。
あの日、攻略対象の男達の婚約者は、傷ついているかも、と言った。実際は、傷つく時期はとうに過ぎ去り、今はただひたすら怒り、男達を蔑んでいる。しかし、何もしないよりはいい筈だった。
いつかのザックの指摘が脳裏をよぎる。
「『悪役令嬢』から無事に脱却できると良いけど……」
良くないことが起きる、そんな予感がした。
「いえ、お招きいただき、光栄です」
現在、キャロルは学園にある、使用するにあたって予約が必要になるサロンに居た。
キャロルを招いたのは、金の緩やかな巻き毛が美しい、ゴージャスな美少女。王太子殿下の婚約者である、パトリシア・コルトレーン公爵令嬢であった。
パトリシアは美しく微笑む。
「ごめんなさいね、突然。どうしても貴女とお話がしたかったの」
「いえ、大丈夫です。どうぞ、お気になさらないでください」
公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者であるパトリシアを前に、キャロルは緊張していた。何かやらかせば、きっと良くない事が起きるだろう。
「それでね、実は先日、殿下から貴女のことを教えていただいたの。それで、その……、貴女も転生者なんですってね?」
潜められた声に、キャロルは静かに頷いた。
「はい。それで、貴女も、という事は、やはりパトリシア様もですか?」
「ええ。実は、そうなの」
パトリシアが嬉しそうに頷いた。
彼女は、恐らく仲間が居たことと、これで破滅フラグが折れるのではないかと期待しているのだろう。キラキラした目で、キャロルを見ていた。
「あの、それで、私なんですけど、攻略対象になっている皆様を攻略するつもりは無くて、目指しているのはノーマルとか、トゥルーエンドなんです」
「まあ! 本当?」
ますます嬉しそうな顔をするパトリシアに、キャロルは笑顔が引きつらないように気を付けながら頷く。
「はい。あの、実は攻略対象じゃない方を、ちょっと良いな、って思ってて……」
「まあ! まあまあまあ!」
『ヒロイン』の恋バナに、パトリシアは目を輝かせた。一応、どこの誰かを聞けば、全く知らない人物だったので、更に安心する。
「だから、パトリシア様が心配なさってるようなことにはならないので、ご安心ください」
「ええ! ありがとう! それから、今まで御免なさいね。私がじっと見ていたせいで、変に注目を集めてしまったと聞いたわ」
「いえ、大丈夫です。お気になさらないでください」
パトリシアの謝罪に、少しばかり苦い物を感じながらも、キャロルは微笑みを浮かべてそれを受け取った。
そして、ふと、同じ転生者の誼で、あのことを言ってみようかと思った。だって、きっと、もうこんな機会は訪れないと思ったから。
「あの、実はちょっと気になっていることがあって……」
「あら、何かしら?」
キャロルは真剣な顔を作って、言う。
「パトリシア様の周りにいらっしゃる、攻略対象の男性達のことです」
キャロルは、はっきりと言ってしまうことにした。
攻略対象の男達は、パトリシアに恋愛的な意味で好意を抱いている様にしか見えない、と。
「ああ、そのことね。よく言われるのよ。けど、本当にただのお友達なのよ。それに、彼等には素敵な婚約者が居るのよ? 私にそういった好意を抱いているなんて、あり得ないわ」
はっきりと告げられた言葉に、鈍感も過ぎると残酷だな、と思う。しかし、このままではきっと良くない事が起きるだろう。だから、同じ転生者仲間として、最初で最後の忠告をする。
「真実はそうでも、周りにそう見えるのが問題かと思います。そう見えるという事は、彼等の婚約者様方にもそう見えている可能性が高いという事です。もしかすると、傷ついておられるかもしれません」
「えっ……」
思ってもみないことを言われたとばかりに、パトリシアは目を見開いた。
「女性の信頼できるお友達と相談して、少し距離を取ることをお勧めします」
「……ええ、ありがとう。考えてみるわ」
パトリシアはそう答え、この日の小さなお茶会は幕を下ろした。
その後、彼女が誰にどう相談したかは分からない。けれど、彼女の周りにはやっぱり誰かしら侍っていた。
あの日、攻略対象の男達の婚約者は、傷ついているかも、と言った。実際は、傷つく時期はとうに過ぎ去り、今はただひたすら怒り、男達を蔑んでいる。しかし、何もしないよりはいい筈だった。
いつかのザックの指摘が脳裏をよぎる。
「『悪役令嬢』から無事に脱却できると良いけど……」
良くないことが起きる、そんな予感がした。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~
汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。
――というのは表向きの話。
婚約破棄大成功! 追放万歳!!
辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19)
第四王子の元許嫁で転生者。
悪女のうわさを流されて、王都から去る
×
アル(24)
街でリリィを助けてくれたなぞの剣士
三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
「さすが稀代の悪女様だな」
「手玉に取ってもらおうか」
「お手並み拝見だな」
「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」
**********
※他サイトからの転載。
※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。
私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます
下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。
悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。
悪役令嬢は諦めも早かった。
ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。
ご都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
婚約破棄を言い渡された側なのに、俺たち...やり直せないか...だと?やり直せません。残念でした〜
神々廻
恋愛
私は才色兼備と謳われ、完璧な令嬢....そう言われていた。
しかし、初恋の婚約者からは婚約破棄を言い渡される
そして、数年後に貴族の通う学園で"元"婚約者と再会したら.....
「俺たち....やり直せないか?」
お前から振った癖になに言ってんの?やり直せる訳無いだろ
お気に入り、感想お願いします!
悪役令嬢は断罪の舞台で笑う
由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。
しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。
聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。
だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。
追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。
冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。
そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。
暴かれる真実。崩壊する虚構。
“悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?