ヒロインですが、胃薬を処方されています。

悠十

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「今日はいらしてくださって、ありがとう」
「いえ、お招きいただき、光栄です」

 現在、キャロルは学園にある、使用するにあたって予約が必要になるサロンに居た。
 キャロルを招いたのは、金の緩やかな巻き毛が美しい、ゴージャスな美少女。王太子殿下の婚約者である、パトリシア・コルトレーン公爵令嬢であった。
 パトリシアは美しく微笑む。

「ごめんなさいね、突然。どうしても貴女とお話がしたかったの」
「いえ、大丈夫です。どうぞ、お気になさらないでください」

 公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者であるパトリシアを前に、キャロルは緊張していた。何かやらかせば、きっと良くない事が起きるだろう。

「それでね、実は先日、殿下から貴女のことを教えていただいたの。それで、その……、貴女も転生者なんですってね?」

 潜められた声に、キャロルは静かに頷いた。

「はい。それで、貴女も、という事は、やはりパトリシア様もですか?」
「ええ。実は、そうなの」

 パトリシアが嬉しそうに頷いた。
彼女は、恐らく仲間が居たことと、これで破滅フラグが折れるのではないかと期待しているのだろう。キラキラした目で、キャロルを見ていた。

「あの、それで、私なんですけど、攻略対象になっている皆様を攻略するつもりは無くて、目指しているのはノーマルとか、トゥルーエンドなんです」
「まあ! 本当?」

 ますます嬉しそうな顔をするパトリシアに、キャロルは笑顔が引きつらないように気を付けながら頷く。

「はい。あの、実は攻略対象じゃない方を、ちょっと良いな、って思ってて……」
「まあ! まあまあまあ!」

 『ヒロイン』の恋バナに、パトリシアは目を輝かせた。一応、どこの誰かを聞けば、全く知らない人物だったので、更に安心する。

「だから、パトリシア様が心配なさってるようなことにはならないので、ご安心ください」
「ええ! ありがとう! それから、今まで御免なさいね。私がじっと見ていたせいで、変に注目を集めてしまったと聞いたわ」
「いえ、大丈夫です。お気になさらないでください」

 パトリシアの謝罪に、少しばかり苦い物を感じながらも、キャロルは微笑みを浮かべてそれを受け取った。
 そして、ふと、同じ転生者の誼で、あのことを言ってみようかと思った。だって、きっと、もうこんな機会は訪れないと思ったから。

「あの、実はちょっと気になっていることがあって……」
「あら、何かしら?」

 キャロルは真剣な顔を作って、言う。

「パトリシア様の周りにいらっしゃる、攻略対象の男性達のことです」

 キャロルは、はっきりと言ってしまうことにした。
 攻略対象の男達は、パトリシアに恋愛的な意味で好意を抱いている様にしか見えない、と。

「ああ、そのことね。よく言われるのよ。けど、本当にただのお友達なのよ。それに、彼等には素敵な婚約者が居るのよ? 私にそういった好意を抱いているなんて、あり得ないわ」

 はっきりと告げられた言葉に、鈍感も過ぎると残酷だな、と思う。しかし、このままではきっと良くない事が起きるだろう。だから、同じ転生者仲間として、最初で最後の忠告をする。

「真実はそうでも、周りにそう見えるのが問題かと思います。そう見えるという事は、彼等の婚約者様方にもそう見えている可能性が高いという事です。もしかすると、傷ついておられるかもしれません」
「えっ……」

 思ってもみないことを言われたとばかりに、パトリシアは目を見開いた。

「女性の信頼できるお友達と相談して、少し距離を取ることをお勧めします」
「……ええ、ありがとう。考えてみるわ」

 パトリシアはそう答え、この日の小さなお茶会は幕を下ろした。
 その後、彼女が誰にどう相談したかは分からない。けれど、彼女の周りにはやっぱり誰かしら侍っていた。
 あの日、攻略対象の男達の婚約者は、傷ついているかも、と言った。実際は、傷つく時期はとうに過ぎ去り、今はただひたすら怒り、男達を蔑んでいる。しかし、何もしないよりはいい筈だった。
 いつかのザックの指摘が脳裏をよぎる。

「『悪役令嬢』から無事に脱却できると良いけど……」

 良くないことが起きる、そんな予感がした。
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