ヒロインですが、胃薬を処方されています。

悠十

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 それが起こったのは、舞踏会の中盤の頃だった。

「もう、我慢ならない! お前との婚約は破棄させてもらう!」

そう叫んだのは、とある攻略対象の男だった。彼は自分の婚約者を憎々し気に睨み付ける。

「僕も、君とはもうやっていけない。君との関係は今日限りだ」
「私もだ。お前の顔も見たくない」

 叫んだ男以外にも、二人の男が自分の婚約者に向けて憎々し気な視線を向けていた。彼等もまた婚約を破棄する旨を己の婚約者だった少女達にい告げる。

「結構。こちらも貴方にはウンザリしていたところです」
「まあ、嬉しい。これ以上貴方と関わらずに済むなんて、夢のようだわ」
「顔も見たくないとは、こちらのセリフよ。二度とその顔を見せないで」

 ピシャリとそう言って、少女達はさっさとその場を離れた。
 残されたのは、攻略対象の男達と、それに庇われるようにして立つパトリシア・コルトレーン公爵令嬢だった。
 
「いったい何があったのかしら?」
「さあ? 見てなかったからな……」

 気まずい空気の中、顔色の悪いパトリシアがとうとう倒れた。
 男達は驚き、慌てる。
騒然とする会場で、王太子が人波を縫ってパトリシアの元へ駆けつける。そして彼女を抱き上げ、婚約者が倒れたため中座することを謝罪し、会場を後にした。
騒めきはなかなか収まらなかった。そんななか、生徒会長がパトリシアの容態と、伝言を伝えた。
彼女はあの後すぐに目を覚まし、軽い貧血と診断された。用心のためそのまま帰寮となるが、自分の分まで楽しんでほしい、との事だ。
 ひとまず安堵し、生徒達は動き出す。
 そんななか、親しい友人を見つけ、パトリシアが倒れる前に何があったのかを聞いた。

「それがね、あの方達、婚約者の令嬢達にダンスを断られたの」

 パトリシアの周りに侍っていた男達は、どうもパトリシアの勧めで婚約者の少女達にダンスを申し込んだ――否、踊ってやると居丈高に言ったのだという。
 それを少女達は冷ややかに断り、喧嘩が勃発。
 パトリシアが慌てて間を取り持とうとしたが、そもそも婚約者との間がこうなってしまったのはパトリシアにも原因がある。そのパトリシアに間に入られ、少女達の不満が爆発した。

「別に暴力が振るったとか、怒鳴りつけたとかじゃないのよ? 冷静に、パトリシア様の気を持たせるような態度もいかがなものでしょうか、程度のことを言っただけなの」
「そうなの……。そういえば、その時、王太子殿下はどうしてたの?」
「王太子殿下は生徒会の役員に呼ばれて、パトリシア様の傍を離れたの。一時、宰相候補のあの方にお預けになられたんだけど、あっという間にパトリシア様を彼等がとり囲んで、ダンスを申し込んだのよ」

 そして、彼等に婚約者とダンスをするよう勧めた、という訳らしい。
 教えてくれた友人に礼を言い、その場を離れる。

「これからどうなるのかしら……」
「さあな……。ただ、もうハッピーエンドはあり得ないだろう」

 憂鬱な気分になりながら、キャロルとザックはパトリシア達が出て行った会場の扉を見つめた。
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