野良錬金術師ネモの異世界学園騒動録

悠十

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序章

はじまり(中)

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 ネモは懐から取り出した小袋とメモを渡す。
「はい、これレシピとスパイス!」
「お、おう、ありがとう……?」
 意気揚々と渡されたそれに、ランタナ王国の第三王子、ヘンリー・ランタナが戸惑いを顕わにする。
 あっさりと王子に渡されたそれに、レシピを渡せとつっかかってきた伯爵家のボンボンは小さく舌打ちした。
 流石に、王子に渡ったそれを寄越せとは言えない。
 ボンボンはヘンリーに慇懃な挨拶をし、ネモには忌々しげな視線を突き刺して去って行った。
 邪魔者が去り、ネモは改めてヘンリーを見る。
 彼こそが、ネモの目的だった。
 ネモはヘンリーの戸惑いを気にもせず、笑顔で話しかけた。
「ヘンリー殿下、ですよね? ちょっとお話を聞いていただきたいのですが」
「えっ、いや、すまないが――」
 断りの言葉が出てくる前に、ネモは急いで言葉を重ねた。
「『日本』、『東京』、『富士山』、『アメリカ』、『イギリス』、『中国』、『インド』――」
「ちょっ、まっ、待った!」
 ヘンリーは目を見開き、慌ててネモの肩を掴む。
「まさか、君も……?」
 ネモはニヤリと笑み、言った。
「改めて、初めまして。元日本人の転生者、ネモフィラ・ペンタスと申します」
 ヘンリーはポカン、と口を開き、呟いた。
「俺の他にも、日本からの転生者が居たのか……」
 こうして、前世の同郷人たる二人は出会ったのであった。

   ***

 二人は取りあえずカレーライスを持ち、ベンチに腰掛けた。
「あー……、何だか変な感じだが、一応自己紹介をしておく。この国――ランタナ王国の第三王子をしている、ヘンリー・ランタナだ」
 ヘンリーは赤毛の短髪で、その容姿は気の良い兄ちゃん風だ。冒険者ギルドに行ったら、あっという間に溶け込んで埋もれてしまうだろう。
 乙女が夢見る王子様像から遠い場所に居るヘンリーは、これまた王子様らしくなく唸り、頭をかいた。
「まさかなぁ……、元日本人に会うとは思わなかった」
 自己紹介で王子様です、なんて言うの、妙に気恥かしいんだが、とぼやく彼に、ネモは笑う。
「まあ、貴族が居ない、身分なんてあんま関係ない国だったからね。王子様に転生だなんて、まんまラノベの王道展開よね」
「言うなよ……」
 ヘンリーはがっくりと肩を落とすも、気を取り直して咳払いする。
「それで、俺に何の用だ? この世界に無いカレーを態々作って、こんな騒ぎを起こして……。俺に会いに来たんだろう?」
 そう言って、ヘンリーは目を細め、鋭くネモを見た。
 しかし、対するネモはその視線に臆することなく笑みを浮かべ、肩を竦めた。
「貴方の噂を聞いて、もしかして、と思ったのよ。だって、あんまりにも派手に『テンプレ転生者』やってるんだもの。クーラーを作って、洗濯機を作って、終いには漫画を広めて『漫画祭』を開催。まあ、これで興味を持つな、っていうのは無理よね」
 それに、ヘンリーが苦い顔をした。
 実の所、この世界では『転生者』は珍しいが、大きな町に行けば、ニ、三人は居ると言われている存在だ。
 つまり珍しくはあるが、特別騒ぐような存在ではないのだ。
 しかし、ランタナ王国の第三王子が転生者らしい、という話は有名だった。
 前世の便利な道具をこの世界でも使えるようにと知恵を絞り、人材を集め、再現したのだ。
 あまりに便利で魅力的なそれらは爆発的に売れ、妾妃の子であり、後ろ盾の弱い、権力的に何のうま味も無い王子を、途轍もなく魅力的な存在にした。
 王子でありながら、権力を持たないヘンリーを品性のない連中は馬鹿にしたが、ヘンリーが莫大な金を手に入れ、経済を回し始めた途端、掌を返してすり寄って来た。
 そうしたことから軽く人間不信の気があるヘンリーは、ネモを警戒した。
 しかし、ネモはその警戒をどこ吹く風とばかりに流す。
「それでまあ、元故郷のアレコレをこの世界で再現している貴方なら、私の話に乗ってくれるんじゃないかと思ったのよ」
「話……?」
 戸惑いながらも聞く姿勢になったヘンリーに、ネモはそれを説明すべく口を開こうとして――、失敗した。
「失礼、ここにカレーライスという神の飲み物があると聞いたんだか?」
 話をしようとして口を開いたその時、肩をつつかれたからだ。
「いや、カレーは飲み物じゃなくて、食べも……の……」
 これから大事な話をするのに、いったい誰だ、と思いながら振り返り、そこに在ったモノに言葉が失速する。
 振り返った先には、圧倒的な『美』が在った。
 睫毛は長く、切れ長の涼やかな目は左右対称。
 鼻筋は美しく通り、頬から顎にかけてのラインは芸術家が理想のラインだと溜息をつくだろう。
 絹糸の如き長く美しい黒髪を持つその人は、まさに神の最高傑作ともいえる絶世の美貌を持っていた。
 思わず唖然とするネモとヘンリーに、再度その美の化身は尋ねる。
「話し中に突然すまない。けれど、前世の大好物だったんだ。どうか食べさせてもらえないだろうか?」
「は?」
 今、この目の前の青年は、何と言った?
 ネモとヘンリーは我に返り、東の大陸の民族衣装を着た彼を、改めて見る。
「貴方、まさか、日本人……?」
「ああ」
 美の化身は頷き、自己紹介した。
「私はカンラ帝国第十八皇子、チアン・カンラ。元日本人だ。よろしく、同郷者殿」
 まさかの転生者一人追加に、ネモとヘンリーは目を剥いたのだった。


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