妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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ロムルド王国編

第三話 上陸

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 アーロン達一行は、海岸沿いの岩場を歩きながら、遠目に見える砂浜を目指す。
 ナットが摘み取った雑草の葉を大事そうに布に包みながら、尋ねる。

「なあ、結構島まで距離があるみたいだけど、どうするんだ? 持ってきた船って、そこまでデカくなかっただろ?」
「大丈夫よ。私が水の精霊に頼んで、船を動かしてもらうから」
「私の風魔法もあるしね」

 アリアとナタリーの言葉に、「それなら、大丈夫だな」と、ナットは笑顔を浮かべた。
 砂浜に着いた一行は、マジックバックから、分解された船を取り出す。

「馬鹿、ザック、そのボルトはこっちだ」
「あ、どうりで合わないと思った」

 四苦八苦しながら、全員で力を合わせて船を組み立て、どうにか七人全員が乗れる小さな帆船が完成した。

「これ、沈まないかしら……?」
「一応、魔道具らしいから、それは大丈夫じゃない?」

 ナタリーとアリアの言葉通り、完成した船は、どこか頼りない姿をしていた。

「ま、大丈夫だろ! ほら、アーロンさん。号令、号令!」
「あ、ああ……」

 少し微妙な顔をしていたアーロンに、ザックが笑顔で次の指示を催促した。

「船を海に浮かべるぞ!」

 アーロンの号令に従い、全員が船に取り付き、水辺へと動かす。
 船は無事に水に浮かび、波に揺れている。

「よし、ナットから乗ってくれ。その後に、アリア、ナタリーが乗れ。ナット、手を貸してやってくれ」
「了解!」

 ナットは笑顔で了承し、身軽な動作で船に乗ると、アリアに向けて手を差し出した。

「じゃあ、捕まってくれ」
「う、うん」

 アリアはナットの手を借りて船に引き上げてもらい、ナタリーもその後に続いた。
 その後、ラリー、ザック、ゲイルと続き、最後にアーロンが乗船する。

「お、凄いな。沈まないぞ」
「島と陸地との中間地点で沈んだりして」
「おい、怖い事を言うなよ」

 男達が冗談を言い合うなか、ナタリーは帆に向けて風魔法を使う準備をし、アリアもまた杖を構えた。

「おい、そろそろ行くぞ。 ……よし、ナタリー、アリア、やってくれ」

 アーロンの声に、二人は頷いた。

「<風よ、踊れ―風の舞ウィンド・ダンス―>」
「お願い、水の精霊。力を貸して」

 ナタリーの起こした風の魔法が帆を膨らませ、アリアの杖の先に取り付けられた妖精珠が虹色に輝く。
 帆を膨らませた船がゆっくりと動き出し、水の精霊がそれを後押しする。
 問題なく船は島へと向かって進む。
 途中、小さな魔物が海から顔を出したが、船に追いつくことが出来ず、水の中へ消えた。

「そろそろ島へ着くぞ!」

 ザックの声に、一同の緊張感が高まる。
 船がゆっくりと砂浜へ近づき、ゲイルが降りて船首に括られたロープを持ち、船を曳いて行く。
 船が砂浜に乗り上げると、一人ずつ船から降りた。
 杭を打ち、それをロープで船と繋ぎ、船が流されない様に固定する。

「よし、これで大丈夫だろう。アーロン、次はどうする?」
「そうだな、装備のチェックをしてから、周辺を少し調査しよう。本格的な調査は明日からだ」

 各々、了承の返事を返し、装備を確認する。
 仲間達の表情は明るかった。



   ***



 装備の確認を終え、アーロン達は砂浜を歩き、若木が目立つ林へと出た。
 未だ若く、細い木々だからか、林というには薄く感じ、その向こうにある草原の姿が見えた。
所々に生える低木には花が咲き、ひらり、と蝶が飛ぶ。
 木の上から鳥がこちらを見下ろし、目が合えば、直ぐに飛び去ってしまった。

「綺麗な所ね……」
「ああ。そうだな……」

 ナタリーの言葉に、アーロンは頷いた。
 瑞々しい命が、当たり前の様にそこにあった。
 一行は林を抜け、草原に辿り着く。
 草原の草は大きく伸び、アーロンの腰元まであった。

「あの丘に生える木まで行ってみよう」

 アーロンの言葉に、一行は頷き、ナットとザックを先頭に丘を登る。
 そんな時だった。

「わぁ、珍しい。青い薔薇だわ」

 アリアが、それを見付けたのは。
 一行が足を止め、それを見た、その瞬間――青い薔薇が突如蔓を伸ばし、襲い掛かって来たのだ。

「なっ!?」
「散開!」
「気を付けろ! 只の薔薇じゃえ!」

 突然の事態に、呆気にとられていた一同だったが、アーロンの指示に我に返り、薔薇から離れんと飛びずさる。
 しかし、薔薇は止まることなくアーロン達を捕まえようと蔓を伸ばし続ける。
 蔓をどれだけ切り払おうとも、それは際限なく再生し、伸び続ける。埒が明かないと、アーロンはナタリーに指示を出した。

「ナタリー! 魔法を!」
「<炎よ、狂い舞え―爆炎舞エクスプロージョン・ダンス―>!」

――ド…ゴォォォォン‼
 
 炎が爆ぜ、薔薇を中心に、辺りを吹き飛ばした。
 草が吹き飛ばされ、地面が剥き出しになる。
 もうもうと煙を上げる中、薔薇がどうなったか確かめるため、目を凝らす。
 果たして、薔薇は、健在だった。
 半分ほどは吹き飛ばされてはいたが、根に近づくほど瑞々しい色をしている。

「なっ!?」

 植物系の魔物であれば、ひとたまりもない威力のある魔法だった。それを受けて、尚無事であった事実に、全員が驚く。
 それでも、どうにかしなくてはいけない。せめて、無事に撤退できるようにしなくてはならない。
 するすると何事も無かったかのように、再び蔓を伸ばし始めた薔薇に、全員の注目が集まっている、その時だった。

「アリア!」

 最初に気付いたのは、ナットだった。
 ナットがアリアを突き飛ばし、何事かと目を向けた先にあったのは、青薔薇の蔓だった。

「一体だけじゃなかったのか!」

 驚き、辺りを見回せば、草原の草の間から、するすると薔薇の蔓が這い出てくる。
 気付けば、アーロン達は囲まれていた。
 どうすれば、と背筋に冷たいものを感じながら打開策を探してみるも、薔薇の根が何処にあるか分からず、数も多すぎた。
 そして、最初の犠牲者が出た。

「きゃぁぁぁぁ!?」

 ナタリーだった。
 あっという間に足に蔓を巻きつけられ、吊り上げられたのだ。

「ナタリー‼」
「アーロ――」

 蔓は瞬時にナタリーに巻き付き、口にも巻き付くことで声を奪った。
 次に捕まったのは、ラリーだった。

「!?」

 悲鳴を上げる間もなく巻き付かれ、吊り上げられた。
 そして、ザック、ナット、と蔓に捕まり、残ったのは、アリア、ゲイル、アーロンの三名だけである。
 
「お願い、炎の精霊、力を貸して!」

 アリアは妖精珠に魔力を込めるが、精霊魔法が発動する様子は無かった。

「どうして……」

 愕然とするアリアを背後に庇いながら、アーロンは蔓を切り払う。

「アリア! 精霊は!?」
「だめ、駄目なの! 誰も力を貸してくれない!」

 焦り、絶望に涙が零れる。
 アリアは何度も精霊に助けを求めるが、精霊は誰一人としてアリアに手を貸さなかった。
 そうこうしているうちに、蔓がアリアの足を絡めとり、瞬時に巻き付き、吊り上げられた。
 アリアの持ってた杖が、カラン、音を立てて地面に落ちる。

「アリア!」

 他と変わらず口まで巻き付かれ、悲鳴も上げられずにボロボロと涙を溢す。
 残るは、アーロンとゲイルのみになってしまった。

「どうするよ、アーロン……」
「……」

 引きつった声に、アーロンは何も返せなかった。
 青薔薇の蔓は増え続け、最早壁と言っていい程の厚みを持ち、二人を取り囲んでいたのだ。
 そして、程なくして、彼等もまた、捕らえられてしまったのだった。
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