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芽ぐむ日
第三十話 相談
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それは、ある休養日のことだった。
レナはイヴァンとイザベラと共に錬金術に使う採取作業を行おうと、二人と共に町から出る関所へ向かっていた。そして、そこで偶然、アロイスと会った。
「あれ? アロイスさん?」
「あ、レナさん……」
アロイスは嬉しそうにほんのり微笑み、レナたちの方へ駆け寄って来た。
「こんにちは、アロイスさん。これからお仕事ですか?」
「ああ、そうなんだ。薬草採取の仕事なんだが、レナさんたちは?」
アロイスがそう尋ねたところで、二人の間にイヴァンが割り込んだ。
「僕たちは錬金術の素材採取ですよ」
イヴァンは笑顔でそう答えるが、その笑みはどこか威圧感があり、黒い。
そして、そんなイヴァンに相対するように、アロイスもはっきりとした笑みを浮かべて言った。
「そうか、偶然だな。もし良ければ、一緒に採取作業をしないか?」
「はは。そんな、アロイスさんは薬草採取だけでしょう? 僕たちは薬草の他にも採取する予定なので、利も無いのにつき合わせることになります。悪いですよ」
「いや、そんな、俺やレナさんたちの仲で水臭いことを言わないでくれ。ぜひ一緒に行かせてくれ」
バックに虎と竜を背負い、何やら訳の分からない戦いが始まったため、レナはそっとイザベラの隣へ移動する。
イザベラは男たちを見て、呆れた顔をしていた。
「レナ先輩、知ってますか? ヘンリー殿下から聞いたのですけど、笑顔の起源って、実は威嚇行動なのですって」
「そ、そうなんだ……」
殿方ってどうしようもありませんわね、と呟くイザベラに、レナは引き攣った笑みを返すしか出来なかった。
採取作業は楽なものだった。
まず、アロイスの依頼も含めて薬草採取を四人で行い、次は魔物素材の採取のため、目当ての魔物の討伐を行った。
この魔物の討伐が、本当に楽だった。なにせ、アロイスとイヴァンが競うように魔物を狩るのだ。レナとイザベラは完全に蚊帳の外に置かれている。
可哀想な魔物が宙を舞うのを見ながら、あんなに言ったのに……、とレナは半眼で呆れ、イザベラと周囲を警戒しながら雑談していた。
その雑談中に、イザベラがふと零した。
「あの、レナ先輩は、私が錬金術師になるの、無理だと思いますか?」
「え?」
唐突な質問に、レナは目を瞬かせた。
イザベラは視線をイヴァンたちに固定しながら、何処か気まずげに言う。
「この前、ようやく初級ポーションの合格点を貰いましたの」
「えっ、そうなの? おめでとう!」
心からの祝福に、イザベラが淡く頬を染めて嬉しそうに礼を言う。
「それで、その……、本当に嬉しかったんですの。その時、これを、ずっと仕事に出来たらな、って思いまして……」
そしてイザベラは、もっといろんな物をつくって、いつかは自分のオリジナルレシピを完成させたい、と思ったそうだ。
「私、錬金術の才能なんて無いのは自覚してますの。けど、錬金術師は不老の秘薬を飲みますでしょう? それなら、天才の一年を、私は十年かけて進むだけです。時間は私の敵にはなりません。そうしたら、それはとても都合が良くて、素晴らしいことに感じましたの」
もちろん、その不老の秘薬を完成させる難しさも分かっているし、材料を集めるのも難しいのは理解している。しかし、イザベラには先の元婚約者たちの多額の慰謝料があり、材料は何とかなりそうなのだ。ならば、あとはただひたすら不老の秘薬を作れるよう努力するだけだ。
イザベラの言葉に、レナは驚いていた。
どうやら、彼女はいつの間にか錬金術師を目指していたらしい。最初は手に職をつけるために錬金術を学んでいたのに、彼女はレナと同じ道を歩き出していた。
イザベラの素直で真面目な性格は、教えられた知識をちゃんと吸収し、己の力にしている。このまま真っ直ぐ学べば、彼女はきっと錬金術師になれるだろう。
感慨深げに話を聞いていると、イザベラはちょっとバツの悪い顔をした。
「それに、それなら添い遂げる殿方を焦って見つける必要はありませんし」
「え、どうして?」
積極的に素敵な男性を見つけようと頑張ってきたイザベラを知るレナとしては、それは意外な言葉だった。
「だって、素敵だと思う方は、既にお相手が居るんですもの。それなら、今は殿方を探す時間を勉強に当てた方が良いと思いますの。それに不老の秘薬を飲めば、妥協せず、長い人生の中でゆっくり素敵な旦那様を探すことが出来ますもの」
イザベラは不安そうにレナに視線を向けて、尋ねた。
「……レナ先輩は、こんな不純な動機込みで錬金術師になるなんて、やっぱり許せないと思いますか?」
そんなイザベラに、レナは軽やかに笑ってみせた。
「ううん、そんなことはないよ。それも有りだと思う。何がしたいかなんて、人それぞれなんだし。ただ、長い時間を生きることになるから、それは覚悟しといた方が良いかな」
レナの明るい様子に、イザベラはほっと安心したように微笑んだ。
「そうですわね。旦那様が私の人生に付き合って、不老の秘薬を飲んでくれるか分からないですし」
そうして雑談に興じる二人の視線の先で、再び可哀想な魔物が宙を舞った。
レナはイヴァンとイザベラと共に錬金術に使う採取作業を行おうと、二人と共に町から出る関所へ向かっていた。そして、そこで偶然、アロイスと会った。
「あれ? アロイスさん?」
「あ、レナさん……」
アロイスは嬉しそうにほんのり微笑み、レナたちの方へ駆け寄って来た。
「こんにちは、アロイスさん。これからお仕事ですか?」
「ああ、そうなんだ。薬草採取の仕事なんだが、レナさんたちは?」
アロイスがそう尋ねたところで、二人の間にイヴァンが割り込んだ。
「僕たちは錬金術の素材採取ですよ」
イヴァンは笑顔でそう答えるが、その笑みはどこか威圧感があり、黒い。
そして、そんなイヴァンに相対するように、アロイスもはっきりとした笑みを浮かべて言った。
「そうか、偶然だな。もし良ければ、一緒に採取作業をしないか?」
「はは。そんな、アロイスさんは薬草採取だけでしょう? 僕たちは薬草の他にも採取する予定なので、利も無いのにつき合わせることになります。悪いですよ」
「いや、そんな、俺やレナさんたちの仲で水臭いことを言わないでくれ。ぜひ一緒に行かせてくれ」
バックに虎と竜を背負い、何やら訳の分からない戦いが始まったため、レナはそっとイザベラの隣へ移動する。
イザベラは男たちを見て、呆れた顔をしていた。
「レナ先輩、知ってますか? ヘンリー殿下から聞いたのですけど、笑顔の起源って、実は威嚇行動なのですって」
「そ、そうなんだ……」
殿方ってどうしようもありませんわね、と呟くイザベラに、レナは引き攣った笑みを返すしか出来なかった。
採取作業は楽なものだった。
まず、アロイスの依頼も含めて薬草採取を四人で行い、次は魔物素材の採取のため、目当ての魔物の討伐を行った。
この魔物の討伐が、本当に楽だった。なにせ、アロイスとイヴァンが競うように魔物を狩るのだ。レナとイザベラは完全に蚊帳の外に置かれている。
可哀想な魔物が宙を舞うのを見ながら、あんなに言ったのに……、とレナは半眼で呆れ、イザベラと周囲を警戒しながら雑談していた。
その雑談中に、イザベラがふと零した。
「あの、レナ先輩は、私が錬金術師になるの、無理だと思いますか?」
「え?」
唐突な質問に、レナは目を瞬かせた。
イザベラは視線をイヴァンたちに固定しながら、何処か気まずげに言う。
「この前、ようやく初級ポーションの合格点を貰いましたの」
「えっ、そうなの? おめでとう!」
心からの祝福に、イザベラが淡く頬を染めて嬉しそうに礼を言う。
「それで、その……、本当に嬉しかったんですの。その時、これを、ずっと仕事に出来たらな、って思いまして……」
そしてイザベラは、もっといろんな物をつくって、いつかは自分のオリジナルレシピを完成させたい、と思ったそうだ。
「私、錬金術の才能なんて無いのは自覚してますの。けど、錬金術師は不老の秘薬を飲みますでしょう? それなら、天才の一年を、私は十年かけて進むだけです。時間は私の敵にはなりません。そうしたら、それはとても都合が良くて、素晴らしいことに感じましたの」
もちろん、その不老の秘薬を完成させる難しさも分かっているし、材料を集めるのも難しいのは理解している。しかし、イザベラには先の元婚約者たちの多額の慰謝料があり、材料は何とかなりそうなのだ。ならば、あとはただひたすら不老の秘薬を作れるよう努力するだけだ。
イザベラの言葉に、レナは驚いていた。
どうやら、彼女はいつの間にか錬金術師を目指していたらしい。最初は手に職をつけるために錬金術を学んでいたのに、彼女はレナと同じ道を歩き出していた。
イザベラの素直で真面目な性格は、教えられた知識をちゃんと吸収し、己の力にしている。このまま真っ直ぐ学べば、彼女はきっと錬金術師になれるだろう。
感慨深げに話を聞いていると、イザベラはちょっとバツの悪い顔をした。
「それに、それなら添い遂げる殿方を焦って見つける必要はありませんし」
「え、どうして?」
積極的に素敵な男性を見つけようと頑張ってきたイザベラを知るレナとしては、それは意外な言葉だった。
「だって、素敵だと思う方は、既にお相手が居るんですもの。それなら、今は殿方を探す時間を勉強に当てた方が良いと思いますの。それに不老の秘薬を飲めば、妥協せず、長い人生の中でゆっくり素敵な旦那様を探すことが出来ますもの」
イザベラは不安そうにレナに視線を向けて、尋ねた。
「……レナ先輩は、こんな不純な動機込みで錬金術師になるなんて、やっぱり許せないと思いますか?」
そんなイザベラに、レナは軽やかに笑ってみせた。
「ううん、そんなことはないよ。それも有りだと思う。何がしたいかなんて、人それぞれなんだし。ただ、長い時間を生きることになるから、それは覚悟しといた方が良いかな」
レナの明るい様子に、イザベラはほっと安心したように微笑んだ。
「そうですわね。旦那様が私の人生に付き合って、不老の秘薬を飲んでくれるか分からないですし」
そうして雑談に興じる二人の視線の先で、再び可哀想な魔物が宙を舞った。
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