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閑話

クリストフ・レポート 7(書籍四巻後半ダイジェスト)

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  これはクリストフの回顧録である。

 ※これはクリストフから見た物語のダイジェストになります。クリストフ視点のため、メインストーリーでない部分が中心であったり、物語中に無いシーンが含まれていたりします。また、クリストフがその時点で知りえない情報は含まれていません。
 ※文中の『バカ』『バカリーダー』『リーダー』は全てディートリヒのことです。また『陰険グリフォン』「残虐グリフォン』などは全てグリおじさんのことです。



●月●日

 城塞迷宮シタデルダンジョン調査団の者たちはかなり疲弊しているようだったが、ロアたちは相変わらず元気だった。
 バカリーダーが調査団のまとめ役のような騎士と少し揉めたが、挨拶のようなもんだ。
 冒険者同士なら問題にすらならない軽い言い合いだ。

 その後は予定通り、ロアと一緒に行動することになった。
 ただ、調査団の団長である噂の伯爵令嬢は姿を現さない。馬車や天幕に引きこもり、瑠璃唐草ネモフィラ騎士団に周りを守られて過ごしているらしい。
 団長がまったく顔を出さないというのは士気にも関わると思うんだが、そういうことを考える気はまったくないのだろう。

 夕食の準備をしながら少しロアとグリおじさんと話す時間があったが、ロアもグリおじさんもこの城塞迷宮シタデルダンジョンという凶悪な場所にまったく恐怖を感じていないらしい。
 グリおじさんは当然だが、ロアもこのアンデッドだらけの場では強者だ。
 アンデッドにとって、湯水のように治癒魔法薬を作り出すことができる錬金術師は天敵と言ってもいいだろう。
 治癒魔法を使える魔法使いも同じだが、そちらは魔力に制限があるため、むしろ錬金術師こそこの場では最強と言ってもいいだろう。
 ロア自身もそれを理解してアンデッドは得意な魔獣だと言っているので、気が緩んでいるに違いない。

 従魔たちがいる以上は滅多なことはないだろうが、巻き込まれている側としては気が気じゃないのでせめて気を引き締めて欲しいもんだ。

 その話の流れから、城塞迷宮シタデルダンジョンの中心部まで行くと言っているグリおじさんの意見をなんとか変えさせることができた。

 調査団の目的はあくまで城塞迷宮シタデルダンジョンにグリフォンがいるかどうか。
 遠目でもグリフォンの存在さえ確認できれば問題ない。わざわざその巣のところまで行く必要はない。
 それに、他国の奇妙な動きがあるらしい。
 今は目立つべきではないだろう。
 
 ただでさえ、錬金術師で強力な従魔を従えているロアは目立つ。
 派手な行動をすると、非合法な手段を使ってもロアを手に入れようとする者が出てくるかもしれない。ロアを危険に晒すわけにいかない。

 そのことを言い聞かせると、好戦的な性悪グリフォンもなんとか中心部分まで行くのは諦めてくれた。

 ……それにしても、グリおじさんには完全にオレたちの本当の素性がバレてるな。
 ロアはオレたちの会話を聞かない振りしてくれてたが、薄々は察しているだろう。

 その内にちゃんと話さないといけない。


●月●日

 昨日の深夜、二匹のグリフォンに襲撃された。
 双子の魔狼のおかげでなんとか死人が出ずに済んだが、兵士が一人さらわれた。

 そして…………ロアとオレたちが助けに行くことになった。

 どうしてこうなった?
 なんであの性悪グリフォンを説得して半日も経たない内に方針が変わってるんだ?
 せっかく行かないことを納得させられたのに……。
 儚い夢だった。

 ロアとバカリーダーとグリおじさん。
 頑固者三人組が決めてしまった以上、絶対に行くことになるだろう。

 あきらめよう……。


 オレたちは城塞迷宮シタデルダンジョンの中心部分、グリフォンの巣になっている塔のような建物に向かった。
 しばらくは、問題なく進むことができた。

 ただ、こんな危険が溢れている場所で平穏無事で済むはずがない。

 「グリおじさん、ひょっとして何かいる?」

 そう言って、最初に気付いたのはロアだった。
 わざわざ言葉に出して注意を促さないといけないような、何かとんでもないものがいるらしい。
 オレはずっと索敵魔法を使って警戒していたのに、まったく気が付かなかった。

 そのことを言うと、陰険グリフォンは実に楽しそうに解説してくれた。
 ここにいる何かは、実体を持つ寸前で魔力の塊のようなものなので、オレの使う索敵魔法では探知不可能らしい。

 知るかよ!先に言え!
 魔力だと魔法使いの方が感知しやすい。特にロアのような錬金術師は普段から細かな魔力操作をしているため、そういうことに敏感だ。
 ロアが真っ先に気付いたのも、当然だった。

 しばらくして、そこに現れたのは巨大な動く骸骨スケルトンだった。
 ギガントスケルトン。
 全長十八メートルの、小山のような大きさの巨人のスケルトンだ。

 ギガントスケルトンは恨みの魂の寄せ集めだそうだ。多くの動く骸骨スケルトンが時とともに人としての本能すら失なって、溶け合って生まれたものらしい。
 恨みが深ければ深くなるほど大きくなっていくと、性悪グリフォンが嬉々として教えてくれた。

 ……それで、こんな巨体になるまで恨みをつのらせた原因は……例によって性悪グリフォンこと、グリおじさんだった。
 分かってたよ。だぶん、そうだろうと思ってた!だいたいコイツのせいだよ!!
 恨み買いすぎだろ、この性悪は!!

 

 結局、ギガントグリフォンはロアが作った妙な液体の活躍ですぐに倒すことができた。
 しかし、巨体だけあって後始末にやたら時間がかかり、結局オレたちはその場で野営をすることになった。

 野営をしているときに、性悪グリフォンがオレたちの戦いぶりに納得がいかなかったと言い出した。
 そして少しでも戦力を増強するために、オレたちは魔力増大の秘術で眠らされることになった。

 オレたちが魔力増大の秘術を受けるのは二回目。
 使える魔力が増えるのはありがたいが、全部の苦痛が気絶する一瞬に濃縮されてるから本当に痛いしつらいし気持ち悪い。
 本当は逃げ出したかったが、仕方がなしにオレたちは受けることにした。

 そうして、オレたち望郷のメンバー全員が魔力増大の秘術の痛みで気絶して、そのまま眠ることとなった。
 ロアと従魔たちだけにするのは不安だったが、グリおじさんがいれば問題ないだろう。

 秘術を受けた後、目を覚ますとすでに夜明けだった。
 やけにロアがスッキリとした顔をしている。
 なにか付き物が落ちたような、晴れやかな顔だった。

 「……何事もなかったみたいだな」
 「何もなかったですよ!」

 リーダーが寝ている間のことを尋ねると、ロアは即答した。

 嘘くさい。何かあったのが丸わかりだ。
 しかし、ロアの表情から悪いことではなかったらしい。
 オレたちはあえて詮索しなかった。
 どうせ詮索しても、頑固者のロアが簡単に答えることはないだろう。時間の無駄だ。

 朝だからだろうか、どこか空気が澄んでいるような気がする。
 アンデッドが徘徊する淀んだ空気が、どこかに消えていた。




 
 
 




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