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五章 新し世界の始まり
五章 プロローグ 3
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「リーダー、帰って来てたのかよ」
クリストフは、扉を開けると同時に声を上げた。
ここは冒険者パーティー『望郷』が、アマダン伯領で定宿にしている宿屋の一室。
部屋の中にいたのは、リーダーであるディートリヒ。彼は窓際に置かれた椅子に座って、頬杖を突いて外を眺めていた。
ディートリヒにしては珍しい、物憂げな表情だ。
「……」
ディートリヒは無言で頬杖を突いたまま、視線だけクリストフに向ける。
「リーダーが宿にいるのって、久しぶりな気がするな。またあっちに行くのか?」
「……」
「あっち」とは、ロアの家の事だ。
ディートリヒは頻繁にロアの家に泊まっていた。最初は誘拐者や暗殺者からロアを守るために泊まり込んでいたのだが、その危険が無くなった今でも、ほとんど住んでいる様な状態になっている。
これは、ロアが世話を焼いてくれるので居心地が良かったというのもあるが、ほとんどがグリおじさんのせいだ。
何としても家から追い出そうとするグリおじさん。ディートリヒとしても、強制的に追い出されるのは面白くない。全力で反発して居ついていたら、ロアの家にいるのが普通の事になってしまった。
今ではグリおじさんの寝床で、グリおじさんの腹を枕にして寝るのが当然になってしまった。
「なんだ?歯でも痛いのか?」
頬に掌を当てたまま何の返答も返さないディートリヒに、クリストフは不審げに問い掛ける。
普通であれば「悩みでもあるのか?」と問いかけるところだろうが、ディートリヒが物思いにふけるなど想像すらしていないようだ。
……もしかすると、悩むほど頭が良くないと思っているのかもしれない。
「ちげーよ」
ディートリヒは、不機嫌に短く答えて返した。
「まあ、いいや。そんなことより、オレたちが里帰りしてる間に色々あったみたいだ」
クリストフはディートリヒの態度など気にせずに、近くにあった椅子を引き寄せると腰かけながら言う。
クリストフは簡単に里帰りと言っているが、そんな単純な物ではない。その行程で色々あった旅だった。
元々望郷は、商人であるコラルドの護衛として、ロアたちと一緒に彼らの出身国であるネレウス王国へ向かった。
コラルドの仕事が終わったらすぐにペルデュ王国へ戻って来る予定だったが、ネレウスが隣国のアダド帝国に攻められたり、ロアが関わったことで雇い主であったコラルドに大仕事が舞い込んだり、ロアが誘拐されたりと、最終的に移動時間を含めれば二か月弱という長い旅になってしまった。
その間に、このアマダン伯領でも様々な出来事が起こっていた。
「コルネリアも呼んで……って、今はロアの所に行ってる時間か。そっちは、ベルンハルトと一緒に後で話すか。オレたちがこの街を離れてる間に、オレの情報網が潰されて、情報が集めにくくなった話はしたよな?」
クリストフの問い掛けに、ディートリヒは軽く頷いて返す。
「一応説明しておくと、オレたちが街に戻ってきたら、情報屋がいなくなってたり、街の噂話を教えてくれてた連中が急に口が堅くなったりしてた。おかげで街にいなかった間の情報を集めるのに、今まで時間がかかったわけだ」
ディートリヒの曖昧な態度に、理解しているのか不安を感じたのだろう。クリストフはこれまでの流れを軽く補足して説明を始める。
「その原因が分かった。主神教会だった」
「はあ?」
予想外の言葉に、ディートリヒが思わず立ち上がる。
当然ながら頬に当てていた手も離れ、彼の顔が丸見えになった。
「あ!」
ディートリヒの顔を目にして、クリストフが声を上げる。
ディートリヒの頬に有るのは、赤い手形だ。しかも、余程強い力で叩かれたのだろう、指先の部分など青痣になっている。
「……何だよその手形……」
「……」
クリストフが指摘すると、手形に負けないくらいディートリヒの顔全体が赤く染まった。
「良いだろ!何でも!!」
「……リーダー。最近変な噂が流れてるぞ。女を急に抱き上げたり、甘い言葉で迫って殴られてたって。この街だけじゃなく、隣街でも」
「そ、そんなことしてない!」
慌てて否定するが、図星なのは態度を見ればわかる。クリストフは呆れたてため息を漏らした。
「リーダー。オレたちは良いんだよ、リーダーがバカなのは諦めてるから。ただ、ロアにまで迷惑をかけるようなことはするなよ。まあ、ロアは他人の評判なんかは気にし無さそうだけどな。だからって、それに甘えていいって話じゃないだろ」
「うるせーな。分かってるよ!」
痛い所を突かれたのか、ディートリヒは顔を歪めて再び椅子に座り直して手形を隠すように掌を頬に当てた。
何のことは無い、先ほどまでの頬杖も、掌で覆って手形を隠していただけだ。無口だったのも、下手に口を動かすと、掌の位置がずれるからだろう。
「どうせ、ディーさんの真似をして女を惚れさせようとしたんだろ?リーダーとディーさんは違うんだから、無理だって」
「……お前、最近変だよな?」
「ディーさん」とは昔の、悪さをしていた少年時代のディートリヒの愛称だ。
今までクリストフは、昔を彷彿とさせる行動をしたディートリヒを「ディーさん」と呼んでいたが、最近はまるで別人の様な扱いをするようになった。
原因は、分かっている。前回の旅で、ディートリヒと性悪グリフォンの人格が入れ替わった所為だ。
クリストフが昔に囚われなくなったのは良いことだが、ディートリヒは何となく釈然としないものを感じている。
「リーダーほどじゃない」
自覚が有るのか無いのか、クリストフは笑って返す。
「まあ、いいや。それで、教会が何だって?」
これ以上、手形の話を続けられる前に、ディートリヒは無理やりに話題を戻した。
「ああ、どこから話すか……。えっと、ロアが『暁の光』だった連中の生き残りに、超位の治癒魔法薬を贈ったのは知ってるよな?」
「胸糞悪いが、知ってる。ほっとけば良いのに、ロアはお人好しだよな」
『暁の光』とは、ロアが昔所属していた勇者パーティーの名だ。
ロアはそこで扱き使われて、最終的に追い出された。
その後、暁の光は壊滅した。生き残りは二人だけ。
パーティー壊滅にはグリおじさんが深く関わっているようだが、ロアの怒りを恐れて本人……本獣は詳細を語ろうとはしない。
だが、通常の魔法薬で治せない大けがを負いながらも、二人が生き残ったのは間違いない。
その後、ロアは超位の治癒魔法薬を作りだし、品質を安定させてから、生き残った二人に贈ったのだった。
彼らが大ケガを負って半年くらい経った頃の出来事だ。
ディートリヒはそれが納得がいかない。作った物をどうするかはロアの自由だと思う反面、なんであんな酷い連中に贈るのだろうと考えてしまう。
ロアの優しさなのか、薄々察している性悪グリフォンの悪行への贖罪なのか。それとも、ひどい目に合わされても、勇者パーティーに未練が残り続けているのか。
最後の一つで無ければ良いなと、ディートリヒは思う。
「受け取ってしばらくしてから、女神官の……ええと、ポーナが主神教会の人間に連れて行かれたらしい」
「ケガは?ロアの魔法薬で治ったのか?」
「いや、魔力中毒で、ケガの治療は出来てないはずだ。荷馬車でベッドごと運ばれたそうだから、治ってないだろうな」
暁の光の女神官ポーナは、パーティーが壊滅した時に大量の魔法薬を浴びて魔力中毒になっていた。
魔力中毒は、魔力酔いの症状がさらに悪化したものだ。魔法薬やあらゆる治癒魔法を受け付けなくなる。治まるまでの期間も長く、予測もつかない。
「じゃあ、なんで?どこかで治療させるためか?」
「そう考えるのが妥当だけどな。でも、魔力中毒は自然に治るまで放置するしかないし、魔力中毒が抜けたらロアが贈った魔法薬でケガを治せるんだから、わざわざ別のところに連れて行く意味は無いよな?移動させた目的は、全く分からないんだよ。とにかく、分かってるのは、その時に同行していた教会の人間に、オレの情報網が潰されたってことだけだ」
そう話が繋がるのかと、ディートリヒは納得した。
「監視させてたのか?」
「そういうこと。一応ロアに関わることだしな、経過くらいは知っておくべきだと思って一人付けてた。そいつが気付かれて、背後の情報網も探られて、オレがいない間の出来事だから対処も出来ずに潰された。噂話を教えてくれてた連中も、教会に口止めされたらしい。口が堅くなって当然だな」
主神教は世界的な宗教だ。たとえ自分自身が信仰していなくても、生活に与える影響は大きい。口止め程度なら、素直に従うのが普通だ。
「監視者を鬱陶しく思って潰しただけか、それとも……」
「潰さないといけない秘密があるかだな。わざわざ関係してる連中を潰して回ったのなら、後者の可能性が高そうだ」
単純に監視者がいたから排除したという可能性も、ありえない話ではない。自分たちだって、監視されていたら気持ちが悪く感じて追い払うだろう。
特に教会は秘密主義な部分も多いのだから、当然の対応とも言える。
しかし、監視者だけではなく、関係者まで潰すのはやり過ぎだ。後ろ暗いものがあると言っているようなものだ。
「ポーナは聖女候補だったから、聖女関係の秘密かな?ロクな事じゃなさそうだ。知りたくもないな」
「クリストフ、お前のことはバレてないんだな?」
監視者の関係を調べられたのなら、依頼者のクリストフの事まで辿り着いてもおかしくない。
「そんな初歩的なヘマはしない」
だが、クリストフは自信満々に言ってのけた。
しっかりと対策は取っているようだ。
「怖いのはオレより、ポーナが持ってた超位の治癒魔法薬に興味を持たれて、ロアの事を調べられることだよ。そっちはコラルドさんが対策してくれてるし、大丈夫なはずだけど……」
「そうだと良いんだけどな。何だかんだとやらかして、ロアの名前は知られてそうだしな」
ロアは主神教会にバレるとマズい真似を色々している。
どれか一つでも気付かれるたら終わりだろう。悪用していないとはいえ、どんな言い掛かりをつけられるか分からない。
教会関係は一般的な理屈で動いていないので、厄介だ。予想が出来ない。
ロアの周囲に教会の影が見えた時点で、注意しておいてし過ぎるということは無いだろう。
「とにかくだ。リーダー。オレの方で警戒しておくし、コラルドさんにも話を通しておくから、ロアに……いや、害獣に知られるなよ」
「もちろんだ。面倒なことになりそうだからな」
危惧するべきは、ロアよりグリおじさんだ。
ロアに手を出してくる可能性があるなんて知ったら、性悪グリフォンが大人しくしているはずがない。
<手を出される前に、先に潰せば良いであろう?>と、嬉々とした空耳まで聞こえてきそうだ。
先手必勝とばかりに、罪もない教会関係者を雷魔法で丸焦げにしたり、教会の建物が風魔法で更地にしたり……。
八つ当たりで魔法建築の重要施設を崩す害獣だ。ありえない話ではない。
思わず、二人は頭を抱えて、絶対に知られないようにしようと誓った。
クリストフは、扉を開けると同時に声を上げた。
ここは冒険者パーティー『望郷』が、アマダン伯領で定宿にしている宿屋の一室。
部屋の中にいたのは、リーダーであるディートリヒ。彼は窓際に置かれた椅子に座って、頬杖を突いて外を眺めていた。
ディートリヒにしては珍しい、物憂げな表情だ。
「……」
ディートリヒは無言で頬杖を突いたまま、視線だけクリストフに向ける。
「リーダーが宿にいるのって、久しぶりな気がするな。またあっちに行くのか?」
「……」
「あっち」とは、ロアの家の事だ。
ディートリヒは頻繁にロアの家に泊まっていた。最初は誘拐者や暗殺者からロアを守るために泊まり込んでいたのだが、その危険が無くなった今でも、ほとんど住んでいる様な状態になっている。
これは、ロアが世話を焼いてくれるので居心地が良かったというのもあるが、ほとんどがグリおじさんのせいだ。
何としても家から追い出そうとするグリおじさん。ディートリヒとしても、強制的に追い出されるのは面白くない。全力で反発して居ついていたら、ロアの家にいるのが普通の事になってしまった。
今ではグリおじさんの寝床で、グリおじさんの腹を枕にして寝るのが当然になってしまった。
「なんだ?歯でも痛いのか?」
頬に掌を当てたまま何の返答も返さないディートリヒに、クリストフは不審げに問い掛ける。
普通であれば「悩みでもあるのか?」と問いかけるところだろうが、ディートリヒが物思いにふけるなど想像すらしていないようだ。
……もしかすると、悩むほど頭が良くないと思っているのかもしれない。
「ちげーよ」
ディートリヒは、不機嫌に短く答えて返した。
「まあ、いいや。そんなことより、オレたちが里帰りしてる間に色々あったみたいだ」
クリストフはディートリヒの態度など気にせずに、近くにあった椅子を引き寄せると腰かけながら言う。
クリストフは簡単に里帰りと言っているが、そんな単純な物ではない。その行程で色々あった旅だった。
元々望郷は、商人であるコラルドの護衛として、ロアたちと一緒に彼らの出身国であるネレウス王国へ向かった。
コラルドの仕事が終わったらすぐにペルデュ王国へ戻って来る予定だったが、ネレウスが隣国のアダド帝国に攻められたり、ロアが関わったことで雇い主であったコラルドに大仕事が舞い込んだり、ロアが誘拐されたりと、最終的に移動時間を含めれば二か月弱という長い旅になってしまった。
その間に、このアマダン伯領でも様々な出来事が起こっていた。
「コルネリアも呼んで……って、今はロアの所に行ってる時間か。そっちは、ベルンハルトと一緒に後で話すか。オレたちがこの街を離れてる間に、オレの情報網が潰されて、情報が集めにくくなった話はしたよな?」
クリストフの問い掛けに、ディートリヒは軽く頷いて返す。
「一応説明しておくと、オレたちが街に戻ってきたら、情報屋がいなくなってたり、街の噂話を教えてくれてた連中が急に口が堅くなったりしてた。おかげで街にいなかった間の情報を集めるのに、今まで時間がかかったわけだ」
ディートリヒの曖昧な態度に、理解しているのか不安を感じたのだろう。クリストフはこれまでの流れを軽く補足して説明を始める。
「その原因が分かった。主神教会だった」
「はあ?」
予想外の言葉に、ディートリヒが思わず立ち上がる。
当然ながら頬に当てていた手も離れ、彼の顔が丸見えになった。
「あ!」
ディートリヒの顔を目にして、クリストフが声を上げる。
ディートリヒの頬に有るのは、赤い手形だ。しかも、余程強い力で叩かれたのだろう、指先の部分など青痣になっている。
「……何だよその手形……」
「……」
クリストフが指摘すると、手形に負けないくらいディートリヒの顔全体が赤く染まった。
「良いだろ!何でも!!」
「……リーダー。最近変な噂が流れてるぞ。女を急に抱き上げたり、甘い言葉で迫って殴られてたって。この街だけじゃなく、隣街でも」
「そ、そんなことしてない!」
慌てて否定するが、図星なのは態度を見ればわかる。クリストフは呆れたてため息を漏らした。
「リーダー。オレたちは良いんだよ、リーダーがバカなのは諦めてるから。ただ、ロアにまで迷惑をかけるようなことはするなよ。まあ、ロアは他人の評判なんかは気にし無さそうだけどな。だからって、それに甘えていいって話じゃないだろ」
「うるせーな。分かってるよ!」
痛い所を突かれたのか、ディートリヒは顔を歪めて再び椅子に座り直して手形を隠すように掌を頬に当てた。
何のことは無い、先ほどまでの頬杖も、掌で覆って手形を隠していただけだ。無口だったのも、下手に口を動かすと、掌の位置がずれるからだろう。
「どうせ、ディーさんの真似をして女を惚れさせようとしたんだろ?リーダーとディーさんは違うんだから、無理だって」
「……お前、最近変だよな?」
「ディーさん」とは昔の、悪さをしていた少年時代のディートリヒの愛称だ。
今までクリストフは、昔を彷彿とさせる行動をしたディートリヒを「ディーさん」と呼んでいたが、最近はまるで別人の様な扱いをするようになった。
原因は、分かっている。前回の旅で、ディートリヒと性悪グリフォンの人格が入れ替わった所為だ。
クリストフが昔に囚われなくなったのは良いことだが、ディートリヒは何となく釈然としないものを感じている。
「リーダーほどじゃない」
自覚が有るのか無いのか、クリストフは笑って返す。
「まあ、いいや。それで、教会が何だって?」
これ以上、手形の話を続けられる前に、ディートリヒは無理やりに話題を戻した。
「ああ、どこから話すか……。えっと、ロアが『暁の光』だった連中の生き残りに、超位の治癒魔法薬を贈ったのは知ってるよな?」
「胸糞悪いが、知ってる。ほっとけば良いのに、ロアはお人好しだよな」
『暁の光』とは、ロアが昔所属していた勇者パーティーの名だ。
ロアはそこで扱き使われて、最終的に追い出された。
その後、暁の光は壊滅した。生き残りは二人だけ。
パーティー壊滅にはグリおじさんが深く関わっているようだが、ロアの怒りを恐れて本人……本獣は詳細を語ろうとはしない。
だが、通常の魔法薬で治せない大けがを負いながらも、二人が生き残ったのは間違いない。
その後、ロアは超位の治癒魔法薬を作りだし、品質を安定させてから、生き残った二人に贈ったのだった。
彼らが大ケガを負って半年くらい経った頃の出来事だ。
ディートリヒはそれが納得がいかない。作った物をどうするかはロアの自由だと思う反面、なんであんな酷い連中に贈るのだろうと考えてしまう。
ロアの優しさなのか、薄々察している性悪グリフォンの悪行への贖罪なのか。それとも、ひどい目に合わされても、勇者パーティーに未練が残り続けているのか。
最後の一つで無ければ良いなと、ディートリヒは思う。
「受け取ってしばらくしてから、女神官の……ええと、ポーナが主神教会の人間に連れて行かれたらしい」
「ケガは?ロアの魔法薬で治ったのか?」
「いや、魔力中毒で、ケガの治療は出来てないはずだ。荷馬車でベッドごと運ばれたそうだから、治ってないだろうな」
暁の光の女神官ポーナは、パーティーが壊滅した時に大量の魔法薬を浴びて魔力中毒になっていた。
魔力中毒は、魔力酔いの症状がさらに悪化したものだ。魔法薬やあらゆる治癒魔法を受け付けなくなる。治まるまでの期間も長く、予測もつかない。
「じゃあ、なんで?どこかで治療させるためか?」
「そう考えるのが妥当だけどな。でも、魔力中毒は自然に治るまで放置するしかないし、魔力中毒が抜けたらロアが贈った魔法薬でケガを治せるんだから、わざわざ別のところに連れて行く意味は無いよな?移動させた目的は、全く分からないんだよ。とにかく、分かってるのは、その時に同行していた教会の人間に、オレの情報網が潰されたってことだけだ」
そう話が繋がるのかと、ディートリヒは納得した。
「監視させてたのか?」
「そういうこと。一応ロアに関わることだしな、経過くらいは知っておくべきだと思って一人付けてた。そいつが気付かれて、背後の情報網も探られて、オレがいない間の出来事だから対処も出来ずに潰された。噂話を教えてくれてた連中も、教会に口止めされたらしい。口が堅くなって当然だな」
主神教は世界的な宗教だ。たとえ自分自身が信仰していなくても、生活に与える影響は大きい。口止め程度なら、素直に従うのが普通だ。
「監視者を鬱陶しく思って潰しただけか、それとも……」
「潰さないといけない秘密があるかだな。わざわざ関係してる連中を潰して回ったのなら、後者の可能性が高そうだ」
単純に監視者がいたから排除したという可能性も、ありえない話ではない。自分たちだって、監視されていたら気持ちが悪く感じて追い払うだろう。
特に教会は秘密主義な部分も多いのだから、当然の対応とも言える。
しかし、監視者だけではなく、関係者まで潰すのはやり過ぎだ。後ろ暗いものがあると言っているようなものだ。
「ポーナは聖女候補だったから、聖女関係の秘密かな?ロクな事じゃなさそうだ。知りたくもないな」
「クリストフ、お前のことはバレてないんだな?」
監視者の関係を調べられたのなら、依頼者のクリストフの事まで辿り着いてもおかしくない。
「そんな初歩的なヘマはしない」
だが、クリストフは自信満々に言ってのけた。
しっかりと対策は取っているようだ。
「怖いのはオレより、ポーナが持ってた超位の治癒魔法薬に興味を持たれて、ロアの事を調べられることだよ。そっちはコラルドさんが対策してくれてるし、大丈夫なはずだけど……」
「そうだと良いんだけどな。何だかんだとやらかして、ロアの名前は知られてそうだしな」
ロアは主神教会にバレるとマズい真似を色々している。
どれか一つでも気付かれるたら終わりだろう。悪用していないとはいえ、どんな言い掛かりをつけられるか分からない。
教会関係は一般的な理屈で動いていないので、厄介だ。予想が出来ない。
ロアの周囲に教会の影が見えた時点で、注意しておいてし過ぎるということは無いだろう。
「とにかくだ。リーダー。オレの方で警戒しておくし、コラルドさんにも話を通しておくから、ロアに……いや、害獣に知られるなよ」
「もちろんだ。面倒なことになりそうだからな」
危惧するべきは、ロアよりグリおじさんだ。
ロアに手を出してくる可能性があるなんて知ったら、性悪グリフォンが大人しくしているはずがない。
<手を出される前に、先に潰せば良いであろう?>と、嬉々とした空耳まで聞こえてきそうだ。
先手必勝とばかりに、罪もない教会関係者を雷魔法で丸焦げにしたり、教会の建物が風魔法で更地にしたり……。
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