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秋 2

秋の陸 自家製ラー油と蓮根入り鶏餃子

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 秋というのは罪な季節である。
 食べ物が美味しい。
 しかも、獣人系は同じ量を食べていても、身体が勝手に冬に向けて脂肪を蓄えようとするので質が悪い。

 「うーーーん、辛いもの食べて汗かいたら脂肪が燃えるかな?ラー油作ろう……」

 自分の腹を触りながら、明後日の方向に今日の予定を決めるビクターだ。

 もちろん、逃避である。
 食事を控えたり運動するのが一番だと、本人も理解している。辛い物を食べて汗をかいても食べた物以上にカロリーが消費されるわけがない。

 ただ、前の世界で運動も食べ物を制限するのも死ぬほど……本当に命がかかるほどの状況までやったので今更自ら進んでやりたくないビクターだった。

 という訳で、ラー油作りだ。
 昔はビクターもラー油は市販品を買っていた。
 しかし、一度作り方を調べてみると拍子抜けするほど簡単だったので、それ以降は自作することにしたのだった。

 もちろん、安定した品質のものを作るのは難しいのだろう。しかし、自分が食べる分には十分なものが出来上がる。そうなると、作らない理由がない。

 まず、小型のフライパンに油を入れる。
 香りを移すため、あまり特徴的な風味のない油が良いらしいので、ビクターは菜種油(キャノーラ油)を使う。胡麻の風味が欲しい人は、好きな比率で胡麻油を加えると胡麻ラー油になる。

 次にネギ。
 白ネギの青い部分を好きなだけ。
 ニンニク、好きなだけ。
 生姜、好きなだけ。
 気分で粒の山椒、好きなだけ。
 気分で八角、好きなだけ。
 気分で粒胡椒とか花椒とか色々な香辛料を入れても楽しい。
 粒状のものは中の空気が膨張して爆発することがあるので、粗挽きにしておいた方が無難だ。
 爆発怖い。

 とにかく、好きな香辛料を好きなだけ。絶対入れないといけないのは、鷹の爪だけだ。
 唐辛子は軸の部分を切り落として、あとは適当に手で千切って種ごと入れる。
 辛くしたい場合はたっぷりと入れる。
 ただ、最後の仕上げにまた粉唐辛子を使うので、それも計算に入れて入れる量を決めておく。
 
 好きなものを好きなだけ入れたら、火をつけて油を温めていく。
 ジュワジュワ言い始めたら、弱火にしてじっくり中身を焦がさないように加熱していく。

 「くうううううう、強烈だな。身体が熱くなってくる」

 フライパンから立ち上る蒸気で、身体が熱くなって汗が浮かんでくる。蒸気に含まれる鷹の爪や香辛料の成分のせいだろう。
 換気扇を回していても部屋全体に匂いが立ち込める。
 
 中身が焦げないようにじっくり熱しながら、仕上げの準備。
 油に対して三分の一くらいの粉唐辛子を耐熱性の容器……ビクターが使ってるのは金属製のボールだが……に入れて、団子になる程度の少量の水で練っておく。
 水で練っておかないと熱せられた油を入れたときに粉が舞ったりするので注意。
 色々な対策のため、容器は大きめを選んでおいた方がいい。
 それと、容器に高熱の油を注ぎ入れるため、容器の下には濡らした布巾などを敷いておいた方が安心だ。

 当然ながら、粉唐辛子も量が多いほど辛いラー油ができるので、両の調整は自由だ。

 十分ぐらい経って、香辛料から泡が立たなくなって、カリカリしてきたら加熱は終了。

 注意しながら、水で練った粉唐辛子の容器に加熱した油を中の香辛料ごと注ぎ入れる。
 ジュワーと音がして、粉唐辛子が一気に泡立った。

 「この瞬間が楽しいよな!」

 泡は粉唐辛子を練るのに使った水が全部水蒸気になれば収まる。
 ただ、この瞬間に油が飛び散ったり油を含んだ蒸気がたっぷり出るので、大事なものを周囲に置かない方が良いだろう。
 特に洋服にはしっかり匂いが染みつくので、ラー油作りの時は大事な服は着ない方がいい。
 そんな人は滅多にいないだろうけど。

 そのまま冷やして、ザルなどで香辛料を濾せば自家製ラー油の出来上がりだ。適当な瓶に入れて保存する。

 「ラー油を作ったら、夕食はやっぱり餃子かなぁ。鶏ミンチであっさり鶏肉餃子だな」

 そうと決まれば、買い物だ。
 ビクターはラー油を冷やしてる間に、いそいそと買い物に出かけた。



 
 「よし、作るか!」

 買い物から帰ってきて、さっそく餃子作りを始めた。
 使うのは宣言通りの鶏ミンチ。
 ビクターにはまだ餃子の皮を作る技術がないので、皮は市販品だ。

 まず白菜をみじん切りに。
 キャベツでもいいが、ビクターは白菜の方が好きだ。
 少し塩を振って馴染ませてから、布巾で包んでしっかりと絞る。

 絞った白菜と、鶏ミンチ、みじん切りのネギ、卵の黄身、塩コショウ、ショウガのすりおろし、にんにくのすりおろし、味噌を少々……。
 パン粉を少し入れると水分を吸って、ミンチが柔らかくなるので入れる。ネギはニラでもいいし、餃子の中身はかなり自由度が高い。

 鶏肉餃子にしても、鶏ミンチも胸肉とモモ肉では味が違ってくる。
 実に、好みが分かれるところだが、ビクターはちょっとした自分の腹の脂肪への配慮というか、無駄な抵抗で胸肉のミンチにした。

 「あ、蓮根入れよう」

 あっさりした鶏肉にサクサクした触感が楽しいので、ビクターは蓮根を入れるのが好きだ。
 先ほどわざわざ胸肉を選んだのに、蓮根が炭水化物が豊富というのはすっかり忘れている。

 蓮根を細かくみじん切りにして、入れる。
 そして、合わせた具をしっかりと練りこんだ。

 練りこんだ後、具がだれていると包みにくいので少し冷蔵庫で冷やす。
 そして、楽しい餃子包みだ。

 「ふ~ん ふふふ~ん♪」

 ビクターは餃子を包んでいく。
 こういう黙々とやる作業はけっこう好きだったりする。
 ただ、それは食べ物を作るとき限定だ。
 単純作業は美味しい完成品がある場合にのみ、楽しい作業に代わる。

 「餃子って、完全食品だよな。小麦粉で作った主食と肉と野菜が一口で食えるー!」

 意味不明の発言をしつつ、包み終わると、次は焼きだ。

 熱したフライパンに並べ、お湯を少し入れて蓋をして蒸し焼きにする。
 ビクターは初めて焼いたときにフライパンに水を入れて、皮がちょっとふやけた餃子になってガッカリしたことがある。
 水よりお湯の方がすぐに蒸気になるので良いらしい。

 火が通り、焼き色がついたら出来上がりだ。


 「よし食う!速攻で食う!」

 冷めては美味しくない。
 作りたての手作りラー油と、醤油を少々、味変用の辛子を小鉢の隅に添えると、餃子と共に食卓に並べた。

 最初はせっかくなので、ラー油をちょんと付けるだけ。
 そのまま口に放り込む。

 熱々の鶏の肉汁、野菜のうま味、シャクシャクとした蓮根の食感、ピリッとしたラー油の辛み。

 「ふううう……。うん、美味い!」

 幸せそうにニンニク臭い息を吐きだしたビクターだった。
 

  


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