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第一章

<ダンジョンに行くのは久しぶりだな>

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 ナイは好奇心から初心者パーティーとその引率者を追いかけていた。

 途中で彼らが乗合馬車に乗ったので、街路樹経由でその幌の上に飛び乗って着いていくことにした。
 空は快晴。
 気持ちのいい馬車の旅だ。

 この馬車の行先はダンジョンだ。
 ダンジョンは世界各地にあり、大きな街の近くにあることが多い。

 いや、ダンジョンの近くに街があると言った方が正しいだろう。

 ダンジョンの中には魔獣がおり、冒険者はその魔獣を狩る。
 そしてその狩った魔獣の素材を冒険者ギルドが買い取り、街の様々な業者に卸すのである。

 その経済効果はすさまじく、より近くで早く仕入れるためにダンジョンの近くに街ができていったのだ。
 ナイが暮らしている王都も例外ではなく、近くに三つのダンジョンを抱えることで発展していった場所だった。

 ダンジョン内の魔獣は基本的に外に出てくることはない。
 しかし、まったく危険がないわけでなく、数十年に一度ほどの頻度で外へとあふれ出すことがある。
 その危険と得られる利益を天秤にかけて、最終的に今のような形に落ち着いているのだった。
 ダンジョンは人間にとって禍であると同時に幸でもあるのだ。

 <ダンジョンに行くのは久しぶりだな>

 ナイも賢者ブリアックに連れられて何度となくダンジョンに入っていた。
 ナイに攻撃手段はないが、ダンジョンの魔獣は不思議なことに人間だけを敵として認定しており、猫のナイは攻撃されない。
 ブリアックが魔獣と戦うときは、安全な場所で見学していれば襲われることもなく済ませられたのだった。

 <我一人で入ってみるのも一興か。魔獣にも襲われぬし、罠も反応しないからな。上手くいけば最深部まで入っていけるであろう>

 魔獣と同じく、ダンジョン内の罠も人間以外には反応しない。
 ただ、だからと言って危険が全くないわけではない。ダンジョンの一部は生存が難しい過酷な環境になっているし、人間を狙った魔獣の攻撃が反れて当たる危険もある。

 <ダンジョンマスターの顔を見てくるか。ダンジョンコアも見れればいいのだが>

 ダンジョンの最深部にはダンジョンマスターと呼ばれる最強の魔獣がおり、ダンジョンの全てを管理しているダンジョンコアという不思議な物体を守っている。
 ダンジョンに入る人間の最終的な目的は、そのダンジョンコアだ。

 ダンジョンコアは溜め込んだ魔力量に応じて、人の願いを叶えるのである。
 つまり、ダンジョンマスターを倒せば大きなご褒美があるということだが、何故そんな現象が起こるのか、その理由は不明だ。
 一説にはダンジョンを維持するためには人間が入ってくることが必要で、人間を引き寄せるエサとして願いをかなえているのではないかと言われていた。

 植物が受粉のために蜜を出して虫をおびき寄せるようなものだろう。

 <楽しみだ>

 ナイの興味はすでに初心者冒険者パーティーからダンジョンそのものに移りつつあった。
 
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