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第一章

「お前らここから乗合馬車に乗るからな。他の客に迷惑かけんなよ」

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 「よーし、お前らここから乗合馬車に乗るからな。他の客に迷惑かけんなよ」

 中堅冒険者のアルベルトは、孤児院出身者で作った初心者パーティーの引率をしていた。

 同年代の孤児院出身者でパーティーを組むことはよくあるが、それでは成人したばかりの初心者同士でパーティーを組むことになり死亡率が高くなってしまう。それを予防するために、いつしか同じ孤児院出身の先輩冒険者が半年ほど引率する慣習ができていた。

 当然ながら、アルベルトは引率している者たちと同じ孤児院出身である。
 アルベルトは面倒見がよく、孤児院にも頻繁に顔を出して寄付などをしていたため、パーティーメンバーのことは幼い頃から知っており懐かれていた。
 引率もすでに十分な時間やっており、ダンジョン上層なら問題ないくらいだ。もうすぐ独り立ちさせてもいいかと思えるぐらいになっていた。

 「「「「はーい」」」」

 初心者パーティーのメンバーたちが元気よく返事をする。
 メンバー構成は少年二人に少女二人。いずれも十五歳だ。
 二十八歳のアルベルトからすると子供にしか見えない。

 <こいつらが独り立ちしたらどうするかなぁ……>

 乗合馬車に乗り込み座席につくと、アルベルトは他の者たちに気づかれないようにそっとため息をつく。
 乗合馬車は幌馬車だ。分厚い布の幌に光を遮られ、奥の席は薄暗い。表情を読み取られたりはしないだろう。

 <オレみたいな剣士はソロで活動できないし、新しいパーティーメンバーを探さないとな>

 彼はこの引率をすることを決めた時に、パーティーメンバーからクビを宣告されていた。
 アルベルトは人が良すぎてすぐに他人の問題に首を突っ込んでしまう。そのせいで度々パーティーメンバーに迷惑をかけ続けた結果、とうとう追い出されてしまったのだ。

 直接の切っ掛けは今回の初心者パーティーの引率のために半年ほど頻繁に抜けることを伝えたことだが、それ以前から仲間たちは相当ため込んでいたらしい。
 誰一人として引き留めることも慰めの言葉をかけることすらなかった。

 <こいつらと今後も行動するのも、なんか違う気がするしな>

 和気あいあいと楽し気に話し合っている初心者パーティーをちらりと見る。
 少年少女の中にオッサンが一人混ざるのは、やはり浮くだろう。最初はよくても、負担になってくるに違いない。

 <どこか入れてくれるパーティーかクランがあればいいが……オレみたいなタイプの剣士はあふれてるから難しそうだな>

 アルベルトは典型的な前衛剣士だ。
 実力も中の上くらいで、剣士の中では少し強い程度だろう。
 パーティーでの実績が良かったのでBランク冒険者の肩書は持っているが、率先して引き入れたいと思えるほどの実力はない。

 かといって、魔法の使えない純粋な剣士であるアルベルトでは、ソロ活動は難しい。
 弱い魔獣狩りならできると思うが、そういうのは初心者冒険者パーティーの重要な稼ぎになるため、彼の性格上、それを奪ってまで冒険者を続けるのは心苦しく感じる。

 <どうすっかなー。冒険者を引退したとしてもできることが無いしな。こんなことなら生産系の技術を少しでも学んどけばよかった>

 ガタリと馬車が大きく揺れ、動き出した。 
 そのタイミングで近くの木の上から幌馬車の上へと飛び移る黒い影があったのだが、誰も気が付くことはなかった。

 普段のアルベルトであれば気づいたかもしれないが、彼は今後について考えることに没頭していた。
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