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第一章
「余裕かましてるから痛い目見るんだよ!!」
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アルベルトは剣を握り、スプリガンに向かい合った。
巨体のスプリガンだが、その間合いにはまだ僅かに余裕がある。
<オレのことを舐めてかかってるな>
スプリガンはゆっくり歩いてくるだけで、攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。
明確に敵対しようとしているのがアルベルトだけなので、余裕を見せているのだろう。
その隙が好機になるように祈りながら、アルベルトは足を速めていく。
「うおおおおぅ!」
自分を奮い立たせるために、アルベルトは叫んだ。
恐怖を身体の中から全て吐き出すように。大きく。
走って一気に間合いを詰めた。
スプリガンはその時になって初めて、巨大なハンマーを振り上げ始める。
魔法を使ってくる気配はない。打撃武器でいたぶり殺すつもりなのだろう。
「近距離なら、俺の間合いだ!!」
スプリガンの間合いギリギリで、アルベルトは剣で打ち合う……と見せかけて身体を傾けてスプリガンの股の間に滑り込んだ。
「まともに相手できっかよ!」
セオリー無視の行動に、スプリガンは目測を誤り、ハンマーは轟音を立てて空を切った。
アルベルトは滑り込む時の勢いを全て剣先に乗せて、スプリガンの足首を切りつけた。
ぎゃうううう!
スプリガンの耳障りな悲鳴が響いた。
「もう一発!」
股の間をすり抜けたアルベルトは、そのまま剣を返すと背後からスプリガンの膝裏に剣を突き立てた。
さらに、スプリガンの悲鳴が強まる。
ついにはスプリガンは痛みに片膝を折り、身を屈ませたのだった。
「余裕かましてるから痛い目見るんだよ!!」
スプリガンは妖精とはいえ、実体を持った魔獣だ。
傷を与えれば他の動物と変わらない反応をし、血も流れる。
しかし、その血は濃緑。
地面は緑の血飛沫で汚れた。
アルベルトは突き立てた剣を抜こうとしたが、肉にしっかりと刺さっており、簡単には抜けそうになかった。
そうこうしているうちに、スプリガンが痛みから復帰し、背後にいるアルベルトを睨みつけた。
その目は怒りに燃えていた。
アルベルトが直感的に危険を感じて剣を手放して飛びのくと、今までいた空間を巨大なハンマーが通り過ぎる。
「あたるかよ!」
スプリガンは怒りと痛みで狙いが甘くなっている。アルベルトであれば避けられる。
<いけるか!?剣を失ったのは痛いが……>
剣を失ったが、スプリガンの動きを鈍らせることができたことでわずかな希望が生まれた。
<あとは魔法を使おうとしてくれれば……>
どんな魔法使いでも、魔獣であっても、魔法を使おうとすれば隙が生まれる。
発動までの時間は能力によってバラツキがあるが、それを無くすことはできない。
その瞬間が狙い目だ。
そう考えた瞬間に、ハンマーに着いている魔石が輝き始める。そして、中空に魔法陣が展開される。
魔法の使えないアルベルトにはそれが何の魔法の魔法陣かはわからないが、そんなことは今はどうでもいい。
「いくぜ」
ふっと、小さく息を吐いて迷いを捨て、動いた。
狙うのはスプリガンの首元。
スプリガンが膝を折って体を屈めているからこそアルベルトでも届く高さだ。
アルベルトは胸元に吊るした革袋を握りしめ、一気に駆け寄った。
「よし」
魔法発動のわずかな隙を狙って、スプリガンの首元に腕を回す。
両手で抱きかかえ、外されないように力を込めた。
「一緒に、逝こうぜ」
握りしめた革袋の中身の宝石は魔法石。
それも、強力な爆裂魔法を封じ込めたものだった。
魔法石は魔法を封じ込めることができるが、それを正しく発動させるには魔法に精通した技量が必要だ。
魔力も少なく、魔法操作もできず、術式も操れないアルベルトにできることは、直接触って火種となるわずかな魔力を注ぎ、魔法を無理やり発動させることだけだった。
アルベルトが狙っていたのは、自爆による相打ちだった。
アルベルトの手の中で、魔法石が輝き始める。
<自爆なんて、みっともない終わり方を見せちまうな>
スプリガンに今の状況から抜け出せる手段はないだろう。
そう確信して、アルベルトは周囲に目を向ける。
そこには、アルベルトが引率してきた初心者冒険者たちの姿があった。
呆然と、アルベルトを見ている。
<さよならだ>
輝きがさらに強まる。
目を焼くような光の中で、アルベルトは笑みを浮かべた。
巨体のスプリガンだが、その間合いにはまだ僅かに余裕がある。
<オレのことを舐めてかかってるな>
スプリガンはゆっくり歩いてくるだけで、攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。
明確に敵対しようとしているのがアルベルトだけなので、余裕を見せているのだろう。
その隙が好機になるように祈りながら、アルベルトは足を速めていく。
「うおおおおぅ!」
自分を奮い立たせるために、アルベルトは叫んだ。
恐怖を身体の中から全て吐き出すように。大きく。
走って一気に間合いを詰めた。
スプリガンはその時になって初めて、巨大なハンマーを振り上げ始める。
魔法を使ってくる気配はない。打撃武器でいたぶり殺すつもりなのだろう。
「近距離なら、俺の間合いだ!!」
スプリガンの間合いギリギリで、アルベルトは剣で打ち合う……と見せかけて身体を傾けてスプリガンの股の間に滑り込んだ。
「まともに相手できっかよ!」
セオリー無視の行動に、スプリガンは目測を誤り、ハンマーは轟音を立てて空を切った。
アルベルトは滑り込む時の勢いを全て剣先に乗せて、スプリガンの足首を切りつけた。
ぎゃうううう!
スプリガンの耳障りな悲鳴が響いた。
「もう一発!」
股の間をすり抜けたアルベルトは、そのまま剣を返すと背後からスプリガンの膝裏に剣を突き立てた。
さらに、スプリガンの悲鳴が強まる。
ついにはスプリガンは痛みに片膝を折り、身を屈ませたのだった。
「余裕かましてるから痛い目見るんだよ!!」
スプリガンは妖精とはいえ、実体を持った魔獣だ。
傷を与えれば他の動物と変わらない反応をし、血も流れる。
しかし、その血は濃緑。
地面は緑の血飛沫で汚れた。
アルベルトは突き立てた剣を抜こうとしたが、肉にしっかりと刺さっており、簡単には抜けそうになかった。
そうこうしているうちに、スプリガンが痛みから復帰し、背後にいるアルベルトを睨みつけた。
その目は怒りに燃えていた。
アルベルトが直感的に危険を感じて剣を手放して飛びのくと、今までいた空間を巨大なハンマーが通り過ぎる。
「あたるかよ!」
スプリガンは怒りと痛みで狙いが甘くなっている。アルベルトであれば避けられる。
<いけるか!?剣を失ったのは痛いが……>
剣を失ったが、スプリガンの動きを鈍らせることができたことでわずかな希望が生まれた。
<あとは魔法を使おうとしてくれれば……>
どんな魔法使いでも、魔獣であっても、魔法を使おうとすれば隙が生まれる。
発動までの時間は能力によってバラツキがあるが、それを無くすことはできない。
その瞬間が狙い目だ。
そう考えた瞬間に、ハンマーに着いている魔石が輝き始める。そして、中空に魔法陣が展開される。
魔法の使えないアルベルトにはそれが何の魔法の魔法陣かはわからないが、そんなことは今はどうでもいい。
「いくぜ」
ふっと、小さく息を吐いて迷いを捨て、動いた。
狙うのはスプリガンの首元。
スプリガンが膝を折って体を屈めているからこそアルベルトでも届く高さだ。
アルベルトは胸元に吊るした革袋を握りしめ、一気に駆け寄った。
「よし」
魔法発動のわずかな隙を狙って、スプリガンの首元に腕を回す。
両手で抱きかかえ、外されないように力を込めた。
「一緒に、逝こうぜ」
握りしめた革袋の中身の宝石は魔法石。
それも、強力な爆裂魔法を封じ込めたものだった。
魔法石は魔法を封じ込めることができるが、それを正しく発動させるには魔法に精通した技量が必要だ。
魔力も少なく、魔法操作もできず、術式も操れないアルベルトにできることは、直接触って火種となるわずかな魔力を注ぎ、魔法を無理やり発動させることだけだった。
アルベルトが狙っていたのは、自爆による相打ちだった。
アルベルトの手の中で、魔法石が輝き始める。
<自爆なんて、みっともない終わり方を見せちまうな>
スプリガンに今の状況から抜け出せる手段はないだろう。
そう確信して、アルベルトは周囲に目を向ける。
そこには、アルベルトが引率してきた初心者冒険者たちの姿があった。
呆然と、アルベルトを見ている。
<さよならだ>
輝きがさらに強まる。
目を焼くような光の中で、アルベルトは笑みを浮かべた。
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