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第二章
「……オレ、早まったかなぁ……」
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「当然だろ、そういう約束だ」
ナイはあっさりと言い放つ。
「でも、国宝級なんだろ……?」
アルベルトは冒険者ギルドでのやり取りを気にしていた。
アルベルトとしては、そこまで力のある魔剣だと思っていなかったのだ。
高々、ソロで中級冒険者として活動できる程度の品物だと思っていた。
しかし、冒険者ギルドで受けた評価は少なくとも国宝級。
正当に評価すれば秘宝級にも匹敵するだろうということだった。
国宝級の魔剣と言えば、一個師団……数千の軍人を殲滅できるほどの力を有していると言われている。
一介の冒険者が持つような物ではない。
騎士団長など、多くの軍人を引き連れて魔獣の軍団や他国の軍と戦うような人間が持つに相応しい。
「我は伝説級になるように作ったつもりなのだがな」
「はぁ?」
昨日、精霊の庵の研究室の中でナイが書いていたのはこの魔剣を作るための魔方陣だった。
当然ながら冒険者ギルドで語ったダンジョンコアから授けられたという話は嘘で、ナイが作ったものだ。
アルベルトには説明されてもよくわからなかったが、魔道具などの機能を失わせず、他の物と融合させる魔方陣を使ったらしい。
術式も賢者が組んだものの発展型で、複数の魔道具の機能を組み合わせるのも可能だと言っていた。
「雷を自由に操る魔道具のヴァジュラ……雷神の杵を素材に使ったのだぞ?その時点で秘宝級だ。それに我が手を加えたのだから伝説級の魔剣になるのは当然だ!」
ナイは着替えの手を止めて立ち尽くしているアルベルトに身体を寄せる。
金色の目は、まっすぐにアルベルトの顔へと向けられていたが、目を逸らされているため目が合うことはなかった。
ナイがゆっくりと身体を摺り寄せると、アルベルトの耳が赤く染まった。
「まあ、お主が訓練してその剣の機能を引き出せなければ国宝級止まりだがな。まあ、それでも我と二人で楽しく冒険するには十分だろう」
「……こいつは猫だ、こいつは猫だ、こいつは猫だ…………」
ナイの言葉を聞いているのか、アルベルトは小声で呪文のように呟いている。
そして、頬を自分で軽くたたくと、ナイに目を向けた。
「そんなすごいもん貰っても、オレはお前に何も返せないぞ?」
「我が楽しくすごせる居場所を作ってくれればそれでいい。使った素材も全て元飼い主の遺産で、そのまま表に出せば騒動が起こりかねないものばかりだからな。死蔵するしかないものばかりだ。価値はあってないようなものだ」
ナイが魔剣を作るのに使ったのは、全て精霊の庵にあった賢者ブリアックの遺産だった。
ブリアックは生前からそこにある魔道具や研究資料の数々は戦乱の元になるため、表に出さずに死蔵すると言っていたのだ。
もう故人になったとはいえ、その飼い猫だったナイがブリアックの意思に反したことをすることはない。
ただ、その遺言を曲解し、形を変えてしまって、遺産の在処を知っていることがバレなければいいだろうとばかりに平気でそれを超えるものを作り出してしまうのは、猫らしい気分屋の性格が為せるところなのだろうが。
「では我は庵に行くぞ!先に寝ておくがいい。明日からはその魔剣を使いこなすための訓練を始めるからな!」
そう言うと、ナイは首輪の金色の宝石に触れる。
すると、目の前にふわりと風が集まり扉が現れた。
シルキーのデントン嬢が使う転移魔法、妖精の抜け道の扉だ。
「そうそう、アルベルトにも扉の鍵を与えぬといかんな。我と同じ首輪でいいか?」
「……別のもので頼む」
アルベルトは少し考えて答えた。
アルベルトの首にナイとお揃いの首輪。それは大型犬と猫のコンビのように見えるだろう。
それを想像してしまったのだった。
さすがにそれは避けたい。
「では、ペンダントか腕輪はどうだ?」
「そうだな、腕輪で頼む」
アルベルトはペンダントと聞いて、自分の胸元に触れた。
そこにはスプリガンとの戦いで使うつもりだった爆裂魔法を封じた魔法石がある。
アルベルトは長年お守りにしてきたそれを外す気はない。
「わかった。ではな」
軽く首肯して、ナイは扉の向こうに消えたのだった。
「……オレ、早まったかなぁ……」
残されたアルベルトは、ため息交じりに呟いたのだった。
ナイはあっさりと言い放つ。
「でも、国宝級なんだろ……?」
アルベルトは冒険者ギルドでのやり取りを気にしていた。
アルベルトとしては、そこまで力のある魔剣だと思っていなかったのだ。
高々、ソロで中級冒険者として活動できる程度の品物だと思っていた。
しかし、冒険者ギルドで受けた評価は少なくとも国宝級。
正当に評価すれば秘宝級にも匹敵するだろうということだった。
国宝級の魔剣と言えば、一個師団……数千の軍人を殲滅できるほどの力を有していると言われている。
一介の冒険者が持つような物ではない。
騎士団長など、多くの軍人を引き連れて魔獣の軍団や他国の軍と戦うような人間が持つに相応しい。
「我は伝説級になるように作ったつもりなのだがな」
「はぁ?」
昨日、精霊の庵の研究室の中でナイが書いていたのはこの魔剣を作るための魔方陣だった。
当然ながら冒険者ギルドで語ったダンジョンコアから授けられたという話は嘘で、ナイが作ったものだ。
アルベルトには説明されてもよくわからなかったが、魔道具などの機能を失わせず、他の物と融合させる魔方陣を使ったらしい。
術式も賢者が組んだものの発展型で、複数の魔道具の機能を組み合わせるのも可能だと言っていた。
「雷を自由に操る魔道具のヴァジュラ……雷神の杵を素材に使ったのだぞ?その時点で秘宝級だ。それに我が手を加えたのだから伝説級の魔剣になるのは当然だ!」
ナイは着替えの手を止めて立ち尽くしているアルベルトに身体を寄せる。
金色の目は、まっすぐにアルベルトの顔へと向けられていたが、目を逸らされているため目が合うことはなかった。
ナイがゆっくりと身体を摺り寄せると、アルベルトの耳が赤く染まった。
「まあ、お主が訓練してその剣の機能を引き出せなければ国宝級止まりだがな。まあ、それでも我と二人で楽しく冒険するには十分だろう」
「……こいつは猫だ、こいつは猫だ、こいつは猫だ…………」
ナイの言葉を聞いているのか、アルベルトは小声で呪文のように呟いている。
そして、頬を自分で軽くたたくと、ナイに目を向けた。
「そんなすごいもん貰っても、オレはお前に何も返せないぞ?」
「我が楽しくすごせる居場所を作ってくれればそれでいい。使った素材も全て元飼い主の遺産で、そのまま表に出せば騒動が起こりかねないものばかりだからな。死蔵するしかないものばかりだ。価値はあってないようなものだ」
ナイが魔剣を作るのに使ったのは、全て精霊の庵にあった賢者ブリアックの遺産だった。
ブリアックは生前からそこにある魔道具や研究資料の数々は戦乱の元になるため、表に出さずに死蔵すると言っていたのだ。
もう故人になったとはいえ、その飼い猫だったナイがブリアックの意思に反したことをすることはない。
ただ、その遺言を曲解し、形を変えてしまって、遺産の在処を知っていることがバレなければいいだろうとばかりに平気でそれを超えるものを作り出してしまうのは、猫らしい気分屋の性格が為せるところなのだろうが。
「では我は庵に行くぞ!先に寝ておくがいい。明日からはその魔剣を使いこなすための訓練を始めるからな!」
そう言うと、ナイは首輪の金色の宝石に触れる。
すると、目の前にふわりと風が集まり扉が現れた。
シルキーのデントン嬢が使う転移魔法、妖精の抜け道の扉だ。
「そうそう、アルベルトにも扉の鍵を与えぬといかんな。我と同じ首輪でいいか?」
「……別のもので頼む」
アルベルトは少し考えて答えた。
アルベルトの首にナイとお揃いの首輪。それは大型犬と猫のコンビのように見えるだろう。
それを想像してしまったのだった。
さすがにそれは避けたい。
「では、ペンダントか腕輪はどうだ?」
「そうだな、腕輪で頼む」
アルベルトはペンダントと聞いて、自分の胸元に触れた。
そこにはスプリガンとの戦いで使うつもりだった爆裂魔法を封じた魔法石がある。
アルベルトは長年お守りにしてきたそれを外す気はない。
「わかった。ではな」
軽く首肯して、ナイは扉の向こうに消えたのだった。
「……オレ、早まったかなぁ……」
残されたアルベルトは、ため息交じりに呟いたのだった。
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