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第三章

「それからな、我々は得体のしれないものではないぞ?」

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 「実のところ、王族などというものに興味がないのだがな」

 壊れた窓から差し込む光を背に仁王立ちし、不遜な態度で言い放つ。
 白いローブを着たその影は、ナイだった。

 <どっかで見た光景だな……>

 と、後ろに立つアルベルトは思っていた。
 
 「貴様!何者だ!」

 素早く近衛騎士たちが国王との間に立ち、ナイとアルベルトに剣を向ける。
 
 「あー、そういうやり取りは面倒だから省いてくれないか。また『猫である!』と叫ばねばならん」
 「!?」

 騎士たちは困惑するが、アルベルトだけはナイも初めて出会った時のことを思い出していたのかと、嬉しく思った。
 
 「我らは先ほど言ったように救助の押し売りに来ただけだ。必要なければすぐに帰る。そして、王家が滅びるのを見てからこの国の住人を守ろう」
 「助けてくれ!」

 ナイの言葉に間髪入れずに叫んだのは国王だ。
 今の王城はナイの作った魔剣の呪いによって嘘をつくことができない。
 本心からの叫びだ。

 「陛下!このような得体のしれない者の言葉を信じてはいけません!」

 剣を下ろさず、騎士の一人が言う。

 「この者が襲撃の首謀者かもしれません!」

 言い放つ男はひときわ豪華な服装をしているところからして、近衛騎士団長などの要職についている者だろう。
 屈強な騎士たちに剣を向け威嚇されているというのに、ナイに怯えた様子は一切ない。
 それはアルベルトも同じで、腰に剣を下げているにもかかわらず、剣を抜こうともしていなかった。

 ナイはその騎士を一瞥すると、嬉しそうに目を細めた。

 「……ふむ。なるほど。騎士がそのような発言をしているということは、王は何も語っておらぬのだな」
 「は?」
 「命を賭して護ろうとしているのに、真実を告げられないとは悲しいな。なあ、国王?」
 「!?」

 国王はスッと目を伏せる。
 国王のその態度に戸惑ったのは、護衛をしていた近衛騎士たちだった。

 「ダンジョンコアの魔剣によって嘘が付けない呪いがかかっているらしいな?なにか隠したいことがあれば、黙して語らぬのが一番だ。騎士たちよ、王はここが何に襲われているか、どうしてこのような状態になっていいるか少しでも、憶測でも語ったか?」
 「……」
 「王は知っているのだよ。そして、貴様ら騎士ではそれに敵わないこともな」
 
 気まずい空気が流れる。
 その中で一人楽しんでいるのはナイだ。
 後ろに立つアルベルトすら、「どうするんだよ、この空気」と言いたげな目をナイに向けていた。

 沈黙が続く。
 普通の状況であれば国王は否定の言葉を叫んでいたところだろう。しかしここでは嘘をつくことはできない。
 この沈黙が、すべてを国王が把握している証拠だった。

 「それからな、我々は得体のしれないものではないぞ?」

 ナイは後ろを振り向き、アルベルトの腕に手を回す。
 
 「こやつと我は先日、謁見させてもらったばかりだからな。まあ、貴様らは魔剣のオマケくらいにしか思っておらなかっただろうがな。どうせ顔も覚えていないのであろう?」
 「……魔剣の主か!貴様らのせいで!!」

 やっとナイとアルベルトが誰なのか思い至ったのだろう。その瞬間に、国王は激昂して叫んでいた。
 今起こっていることの発端は間違いなくあの魔剣なのだ。
 嘘が付けない呪いの効果で、素直に思っていることが口に出てしまったのだろう。

 「我らのせい?我は忠告してやったはずだぞ?ダンジョンコアから与えられた物は、呪いを放ち元の持ち主の下に戻ろうとする性質があるとな。それを無視したのは誰だった?」
 「……」
 「また、だんまりか。自らの罪すら認められない人間は助ける価値はないな。帰るか」
 「助けてくれ!」
 「責めたり助けを求めたり落ち着きのない王だな」

 呆れたように言い放ち、ナイはアルベルトの腹に背を預ける。
 アルベルトは当たり前といった風に、ナイを抱き上げて見せた。

 アルベルトの装備は黒一色。
 ナイの髪と同じ色だ。
 それがナイの肌の白さを際立たせる。

 「当然ながら対価は求めるぞ?自らの……王の命を安く買い叩こうとはすまいな?」

 騎士たちが悔しさに置く場を噛み締める音だけが、響いた。
 
 
 


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