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第三章

「ああ、いたぶり、なぶり、遊んでやろう!」

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 長距離の落下はアルベルトの防具とナイのローブに付与された浮遊フロートの魔法が減速してくれる。
 アルベルトとナイは魔法で開けた縦穴を降りて行った。

 当然ながら途中の階も視界に入るが、人の姿はない。
 だが、荒れた内装や家具、絨毯に広がる赤い染みで何が起こったのか予測することはできた。
 生きている人間がいる可能性は低そうだ。

 落下しながらもパックは襲ってくる。
 空中では剣では不利なため、それはナイが魔法で応戦した。

 そして地下。

 「あちらだな」

 降り立つと同時に、ナイが指し示す。

 「距離は?」
 「なに、三部屋も壁をぶち抜けばすぐだ」
 「任せろ!」

 アルベルトはナイを下ろして剣の一本を鞘に収めると、残した一本を両手で構える。

 「……魔力操作」

 魔剣が淡い輝きを放ち始める。

 「目標設定。範囲設定。威力設定」
 「いいかげん、その呟く癖をやめろ。隙が大きいぞ」

 ナイの言葉はアルベルトの耳には届いていない。
 集中して、一点を見つめていた。

 「トリシューラ、破壊神の槍」

 キュインと、周囲の空気が悲鳴のような音を立てる。
 それと同時にアルベルトの魔剣の周囲に空気の渦が生まれた。
 アルベルトが魔剣で突きを放つと、空気の渦はすべてを巻き込み進む槍となった。

 『ぐるぐる……きえちゃう』
 『ぐるぐるするおもちゃ?』

 周囲にいたパックたちもその渦に吸い込まれ、消滅していく。
 壁に当たっても止まることなく、壁を砕き数人が通れそうな大穴を開けた。

 魔剣『悪戯神トリックスター』は雷撃魔法を封じられた剣だったが、分体であるこの魔剣は旋風魔法が封じられていた。
 広範囲攻撃の雷撃魔法に比べて魔力操作が難しく、アルベルトが扱えるようになったのは数日前だ。
 ほとんど、ぶっつけ本番だった。

 ただ、魔力操作に失敗しても威力が大きくなりすぎるだけなので、狙った先に強敵がいると分かっている今は問題ない。

 ……と、考えてしまうアルベルトはかなりナイに毒されてきているようだ。

 「お、一応当たったようだぞ。防御されたがな」
 
 周囲のパックたちが一掃されたことで、やることが無くなった陽気な声を上げてアルベルトに飛びついた。
 アルベルトも身をかがめ、自分の頬にナイの頬を摺り寄せた。

 「決着を付けようか!」
 「ああ、いたぶり、なぶり、遊んでやろう!」

 ナイの金色の瞳が爛々と輝いた。
 
 
 
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