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停電!?
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ハルトが仕事を始めて二週間ほどが経過した。
ハルトは完全に職場に馴染んでいた。
ハルトは何でも屋のような状態になっているため、色々な担当の職場に出向いている。
そこそこ顔が広まって、声を掛けてくる者も多い。
最初こそ、ハルトはとても人間に見えないような外見の色々な惑星出身の人や改造を加えている者たちに驚いていたが、すぐに見慣れてしまった。
今となっては肌の色が蛍光ピンクだったり、腕が機械の物も含めて十二本あってもそういう人なんだと思う程度だ。
あまりにそういった人が多すぎて麻痺してしまった。
むしろ、ハルトの方が翻訳インプラント無しであらゆる惑星の言語を理解できる人間として、珍しがられていた。
よく「お前の故郷の銀河はお前みたいなやつばかりなのか?」と聞かれる。
最初こそハルトは真面目に嘘の言い訳を考えて質問に答えていたが、最近では「他の宇宙から来たやつがスーパーパワーを持ってるのはお約束だろ?」とジョークで答えるようになっていた。
この世界でも、別世界から来た人間が環境の違いから超能力を得る物語は定番だった。
映画のような娯楽用の映像メディアにもそういったジャンルがちゃんとあり、それなりの人気を誇っているらしい。
どんな世界でも、創作物の好みはそれほど差はないのだろう。
この世界だと科学の力で物語の主人公のような飛び抜けた力を得ることは可能なのだが、やはり経済力がハードルとなっている。一般人ができる改造程度では一般人の枠を抜けられないのだ。
そして金のある連中は比較的ノーマルな肉体でいることがステータスらしい。
金持ちは他人に色々やらせるので、自分自身の肉体を改造する必要性はないからだ。
その代わり、金持ちの周りにはゴリゴリに改造されたチートな改造人間たちが、複雑な契約で縛られて配置されてるのがお約束だった。
この世界ではチートを持っている人間ほど、自由がないものらしい。
夢がないなと、その話を聞いた時にハルトは思った。
そんなことを考えるような平穏な日常が続いたある日……。
その日もハルトは変わらない日常を過ごしていた。
仕事がひと段落し、休憩がてらお茶っぽい飲み物を飲んでいた時だった。
いきなり、照明が消える。
「なんだ?停電?」
明り取りの窓はあるが、薄暗くなった室内でハルトは天井の照明を見上げる。
この世界の照明は天井埋め込み式というか、天井のパネル全体が発光素材でできていて通電すると発光するようになっている。
室内に人間がいるのを感知するか音声で指示を出すかして点灯と消灯をするようになっているので、スイッチもない。
「停電!?」
「マジで!!?」
同じ職場の人間が悲鳴に近い声を上げた。目を向けると、立ち上がって慌てて外に出ようとしているが、自動ドアが開かないためパニックになっていた。
自動ドアなど簡単に手で押し開けられそうな屈強な改造人間が、戸惑ってドアの前で立ち往生しているのはもはやギャグだ。
『送電設備が故障したのでしょうか?非常事態ですね』
「ま、そのうち点くだろ」
『そうでしょうか?無線送電だけでなく有線でも多数のバイパスがありまので、送電設備が全て止まりでもしない限り、このような事態にはなりません。すぐに復旧できるとは思えません』
「え?そうなの?」
たかが停電で周囲が焦りすぎだと思ったが、シイナの言葉を聞いて考え直す。
地球であれば停電程度だとそれほど焦ることではないが、高度に発達したこの世界では違うのだろう。何重にも予備の設備や回線があって、よほどの異常事態でもない限り送電が停止しないようになっていたはずだ。
周囲の反応からして、天変地異があったくらいの衝撃に違いない。
この世界では発電設備の種類が異様に多く、その気になればビル単体でも発電して維持が可能だということをハルトは思い出した。それに非常用蓄電池もあるはずだ。
簡単に停電するはずがなかった。
ちなみにシイナも建物からのマイクロ波送電と、ジャイロ型発電機という周囲の低周波や微振動から発電する装置を併用して活動するための電力にしている。バッテリーも大容量の物を備えていた。
今は停電するくらいだからマイクロ波送電の方は切れて、内部バッテリーとジャイロ型発電機のみで稼働しているのだろう。
これはシイナが元々送電が不安定になりがちな宇宙船の備品であったためで、惑星上の機器で発電機まで備えている物は珍しい。バッテリーを供えている物すら、稀だ。
その証拠に、ハルトの周りにある機器は、照明が消えると同時に電源が落ちていた。
送電環境に絶対的な自信があったための弊害だろう。
「やべーよ、オレ、送電が切れると四時間くらいで動けなくなるぞ。ケチって発電機まで積んでない」
「いつ復旧するか分からないぞ。今の内に非常用節電モードにして、眠っておいた方が良いんじゃないか?」
「そうだな、バッテリーだけじゃ生命維持もいつまでもつか分からないしな」
ちらほら、かなり危険そうな声が聞こえる。
肉体の大部分を機械に置き換えている者などは、送電が切れると命にかかわるのだ。
停電は、多くの人命にかかわる本気で洒落にならない大事件なのだった。
「シイナさん、何か情報はないの?」
『無線では無理ですね。通信回線から有線で直接拾えばなんとかなるかもしれません。少しお待ちください』
ハルトの問いかけにそう答えると、シイナは壁際の小さな箱のようなものに近付いてそこに端子のようなものを差し込んだ。
『……無理ですね。連絡系統が完全に麻痺していて、何の情報も得られません。この場所も私もアクセス権限は低いですからね、もっと高い権限を持った人の部屋にでも行けば情報が得られるかもしれません』
「……そうかぁ。じゃ、行ってみるか……」
幸い、ハルトが仕事をしているここは、役所だ。
役職が高い人のところに行けば、公的な情報も集まってきているはずだった。
とりあえずハルトは、自動ドアをこじ開けて上司のところに行ってみようと考えたのだった。
ハルトは完全に職場に馴染んでいた。
ハルトは何でも屋のような状態になっているため、色々な担当の職場に出向いている。
そこそこ顔が広まって、声を掛けてくる者も多い。
最初こそ、ハルトはとても人間に見えないような外見の色々な惑星出身の人や改造を加えている者たちに驚いていたが、すぐに見慣れてしまった。
今となっては肌の色が蛍光ピンクだったり、腕が機械の物も含めて十二本あってもそういう人なんだと思う程度だ。
あまりにそういった人が多すぎて麻痺してしまった。
むしろ、ハルトの方が翻訳インプラント無しであらゆる惑星の言語を理解できる人間として、珍しがられていた。
よく「お前の故郷の銀河はお前みたいなやつばかりなのか?」と聞かれる。
最初こそハルトは真面目に嘘の言い訳を考えて質問に答えていたが、最近では「他の宇宙から来たやつがスーパーパワーを持ってるのはお約束だろ?」とジョークで答えるようになっていた。
この世界でも、別世界から来た人間が環境の違いから超能力を得る物語は定番だった。
映画のような娯楽用の映像メディアにもそういったジャンルがちゃんとあり、それなりの人気を誇っているらしい。
どんな世界でも、創作物の好みはそれほど差はないのだろう。
この世界だと科学の力で物語の主人公のような飛び抜けた力を得ることは可能なのだが、やはり経済力がハードルとなっている。一般人ができる改造程度では一般人の枠を抜けられないのだ。
そして金のある連中は比較的ノーマルな肉体でいることがステータスらしい。
金持ちは他人に色々やらせるので、自分自身の肉体を改造する必要性はないからだ。
その代わり、金持ちの周りにはゴリゴリに改造されたチートな改造人間たちが、複雑な契約で縛られて配置されてるのがお約束だった。
この世界ではチートを持っている人間ほど、自由がないものらしい。
夢がないなと、その話を聞いた時にハルトは思った。
そんなことを考えるような平穏な日常が続いたある日……。
その日もハルトは変わらない日常を過ごしていた。
仕事がひと段落し、休憩がてらお茶っぽい飲み物を飲んでいた時だった。
いきなり、照明が消える。
「なんだ?停電?」
明り取りの窓はあるが、薄暗くなった室内でハルトは天井の照明を見上げる。
この世界の照明は天井埋め込み式というか、天井のパネル全体が発光素材でできていて通電すると発光するようになっている。
室内に人間がいるのを感知するか音声で指示を出すかして点灯と消灯をするようになっているので、スイッチもない。
「停電!?」
「マジで!!?」
同じ職場の人間が悲鳴に近い声を上げた。目を向けると、立ち上がって慌てて外に出ようとしているが、自動ドアが開かないためパニックになっていた。
自動ドアなど簡単に手で押し開けられそうな屈強な改造人間が、戸惑ってドアの前で立ち往生しているのはもはやギャグだ。
『送電設備が故障したのでしょうか?非常事態ですね』
「ま、そのうち点くだろ」
『そうでしょうか?無線送電だけでなく有線でも多数のバイパスがありまので、送電設備が全て止まりでもしない限り、このような事態にはなりません。すぐに復旧できるとは思えません』
「え?そうなの?」
たかが停電で周囲が焦りすぎだと思ったが、シイナの言葉を聞いて考え直す。
地球であれば停電程度だとそれほど焦ることではないが、高度に発達したこの世界では違うのだろう。何重にも予備の設備や回線があって、よほどの異常事態でもない限り送電が停止しないようになっていたはずだ。
周囲の反応からして、天変地異があったくらいの衝撃に違いない。
この世界では発電設備の種類が異様に多く、その気になればビル単体でも発電して維持が可能だということをハルトは思い出した。それに非常用蓄電池もあるはずだ。
簡単に停電するはずがなかった。
ちなみにシイナも建物からのマイクロ波送電と、ジャイロ型発電機という周囲の低周波や微振動から発電する装置を併用して活動するための電力にしている。バッテリーも大容量の物を備えていた。
今は停電するくらいだからマイクロ波送電の方は切れて、内部バッテリーとジャイロ型発電機のみで稼働しているのだろう。
これはシイナが元々送電が不安定になりがちな宇宙船の備品であったためで、惑星上の機器で発電機まで備えている物は珍しい。バッテリーを供えている物すら、稀だ。
その証拠に、ハルトの周りにある機器は、照明が消えると同時に電源が落ちていた。
送電環境に絶対的な自信があったための弊害だろう。
「やべーよ、オレ、送電が切れると四時間くらいで動けなくなるぞ。ケチって発電機まで積んでない」
「いつ復旧するか分からないぞ。今の内に非常用節電モードにして、眠っておいた方が良いんじゃないか?」
「そうだな、バッテリーだけじゃ生命維持もいつまでもつか分からないしな」
ちらほら、かなり危険そうな声が聞こえる。
肉体の大部分を機械に置き換えている者などは、送電が切れると命にかかわるのだ。
停電は、多くの人命にかかわる本気で洒落にならない大事件なのだった。
「シイナさん、何か情報はないの?」
『無線では無理ですね。通信回線から有線で直接拾えばなんとかなるかもしれません。少しお待ちください』
ハルトの問いかけにそう答えると、シイナは壁際の小さな箱のようなものに近付いてそこに端子のようなものを差し込んだ。
『……無理ですね。連絡系統が完全に麻痺していて、何の情報も得られません。この場所も私もアクセス権限は低いですからね、もっと高い権限を持った人の部屋にでも行けば情報が得られるかもしれません』
「……そうかぁ。じゃ、行ってみるか……」
幸い、ハルトが仕事をしているここは、役所だ。
役職が高い人のところに行けば、公的な情報も集まってきているはずだった。
とりあえずハルトは、自動ドアをこじ開けて上司のところに行ってみようと考えたのだった。
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