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チートだよな……

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 「どうして警備装置が止まっているんだ?あれほど執拗に人間を外に排除してきていたのに!」

 中に転移した途端に、エンジニア風の男が騒ぎ出す。
 
 「秘密です」
 「その端末でハッキングして止めたのか?外見は普通の機器に見えるが……」

 男はシイナを見つめる。実際はアイテムボックスのスキルを使って物理で停止させたのだが、さすがにそういうチートは思いつかないのだろう。
 建物の内部に見た目に分かる変化もなく、攻撃して止めたようには見えないのだから仕方がない。

 『内部構造をスキャンするのはやめてください』

 シイナは見つめられて、どこか恥ずかしそうに言った。

 「どちらに進めばいいですか?」
 「あ、ああ……。こっちだ」

 男は迷いなく足を進める。
 時々警備ロボットのようなものを目にしたが、視界に入った時点でハルトはアイテムボックスに収納したので問題は無かった。

 「なるほど、転送で邪魔になるものを外部に排除しているのだな?」

 男はその様子を見ながら、微妙に正解ぽいが少し違う答えを出したようだった。
 たしかにアイテムボックスへの収納は、異空間への転送と言えないこともない。

 「……しかし、貴方の情報偽装は完璧のようだ。私にはどう分析しても何の改造もされていない人間にしか見えない。私のセンサーが壊れているのかと思えるほどだ……」
 「そうですか」

 情報偽装がどういった技術なのかハルトは知らないが、都合よく勘違いしてくれたのだと解釈した。
 たぶん彼は、ハルトがこの惑星の技術レベルよりはるかに高度な技術で改造された人間だと思っているのだろう。そして、センサーに偽の情報を与えて、普通の人間にしか見えないように偽装していると思っているのだ。

 本当に、科学的には普通の人間なんだけどな……と、ハルトは少し申し訳ないような気分になった。
 そうこうしている間に、やけに重厚な金属の扉の前にハルトたちは到達した。

 「ここがメインコンピューターに直接アクセスできる端末のある部屋だ。ただ、閉鎖されていて……」
 「入ります」

 男が言い切る前に、ハルトは転移した。
 扉ぐらいなら、中の状況が分からなくても直接転移で生きる。

 「そんなあっさりと……。扉に転送は妨害されているはず……」

 男が驚きの声を上げるが、ハルトはもうそれに付き合う気もない。
 大きな部屋の中に、いくつか並ぶ前時代的……というのはこの世界の話だけで、ハルトには馴染み深い形の実体のあるディスプレイとキーボードや様々なスイッチが並んでいる。
 壁面に並んでいる箱はピカピカとLEDそっくりの光を乱雑に放ち、何かの情報を処理している最中なのを感じさせた。

 「……驚いている場合ではなかったな。早速、この建物の閉鎖を解いて作業員が入れるようにしないと」
 「オレがやりますよ」
 「は?いや、これは古代言語で……専門家でないと……」
 「大丈夫です」

 半ば無理やり、ハルトは一番大きなディスプレイのある席に座った。
 ディスプレイにはこの惑星の言語をすでに習得しているハルトにも奇妙に見える文字が流れるように表示されては、消えていく。
 これが古代のコンピューター言語なのだろう。

 ハルトがしばらく見つめていると、ある瞬間からそれの文字が理解できるようになった。

 やっぱり……コンピューター言語も言語だ。
 ハルトの翻訳スキルで余裕で対応可能だった。

 たった数パーセントでハルトの肉体をこの世界で一番強い人類に改造するほどのリソースを、74.2%も注ぎ込んだだけはあった。

 古代のコンピューター言語を読み取るだけではなく、正しいプログラムとして修正する手段まで頭に入ってくる。
 それは、ハルトにとって平仮名で書かれた文章に混ざったカタカナを修正していくくらいの難易度だった。

 「チートだよな……」

 あまりに容易くて、ハルトは思わず呟いた。
 まさに、あの女神はハルトにチート能力を与えてくれたのだった。

 少し感慨に耽ってから、ハルトは作業を始めた。
 まずはバグの修正だ。
 建物の閉鎖を解くのは後回しだ。外の人間たちが入って来て、作業を邪魔されても困る。

 「貴方は……何者だ?」

 ハルトが作業を進めるのを見つめながら、背後でエンジニア風の男が驚きに目を見開いていた。

 こうして、この惑星を襲った大事件は終息したのだった。


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