二度目の人生は、地雷BLゲーの当て馬らしい。

くすのき

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木の根には注意しましょう!

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 大森林に到着したのは正午近くだ。
 遠巻きに見た時も大きいと思っていたが、近くで見るとまた迫力が違った。
 俺達は鬱蒼と茂る草木を掻き分け、獣道を進む。会話はない。足を動かす度、踏みしめた雑草の青い臭いが森の香りに混ざって、やや不快指数を上げている。
 入林前、肌を照りつけていた日差しは今や、聳え立つ樹木に阻害され、辺りは僅かな光を通すだけ。不気味なほどの静謐さと緊張感が相まって胃の腑の辺りがきりりと痛む。
 そんな時だった。
 依頼人のリモが、あ!と声を上げる。

「うわぁ、山菜がこんなに沢山。あ、こっちにも! ……あの、すみません。少しだけ収穫してもいいですか」

 隊列真ん中で動きを止めたリモに、遅れて静止した前衛達が振り返る。

「じゃあここで一旦小休止。俺達は警戒で、ユニは」
「食用なら俺も採取してく。リモさん、その山菜の特徴と日持ち日数教えて貰えます?」
「塩漬けなら長期保存は可能です。常温なら二、三日が限度ですね。味は若干苦味があって子供には敬遠されがちなんですが、大人には割と好評です。栄養価が高いので保存食としても優秀ですよ」
「採り方の注意点はあります?」
「はい。クリアの芽はここに棘が生えてるのでそこだけ気を付けて、こう手首を捻るようにして取ってください」
「……こう?」
「はい、オーケーです!」
「しかしこれ独特だね」
「そうですか?」

 クリアの芽は、タラの芽いやタラノキの若芽に似ており、匂いは椎茸に近いというなんとも脳がバグりそうな食材だった。
 果たして味はタラの芽に近いのか。少々の興味と不安に襲われつつ、収穫したそれを空き瓶の中に納める。

「これ、オススメの調理法ってあります?」
「そうですね……塩漬け以外なら湯がくか他の野菜と炒めたり。あっ、潰してペーストにするのも良いですよ」

 揚げ物の選択肢はないのか、と考えて直ぐ、村の経済状況とホームタウンでの油の値段を鑑み、俺も速やかに除外した。

「そういえば妹さんの薬はどんなものなんですか?」
「青紫の花弁が八枚ついたミーミ草です。依頼の薬花の近くに群生してる事が多いので毎回一緒に摘んでます」
「無駄話ししてねえでさっさとしろや」
「オズ。――それにしても此処は静かだね。いつもこんなですか?」
「? いえ、表層の魔物は臆病なのであまり向かってくることは少ないですけど、言われてみれば確かに今日は居ないですね」

 耳にした直後、リモを除く全員が抜刀した。

「え、皆さん、どうしたんですか!?」
「……リモさん。此処に至るまで虫は見ましたか?」
「え、見てないですけど……あ」

 合点がいったように母音を滑らせた彼は次の瞬間、真っ青に染まった。
 魔物はおろか生育動物が一匹もいない。
 いや、居るのに居ないのだ。
 ここから導き出される答えは一つ。彼等は『何か』を恐れて身を隠している。
 ではその何かとは何か。
 ――十中八九、碌なものではないと、全員が察していた。

「チッ。あの妙なラッシュはここの魔物か」
「その可能性は高ぇだろうな」
「どうすル、リーダー」
「一旦戻ろう」
「クソがっ!」

 毒づくオズだが、異を唱える気はないようだ。流石の彼も警護対象を連れて未知に挑むほど馬鹿ではないらしい。
 依頼人のリモも否やもない。
 俺は忌避剤を取り出し、リモに振りかけるよう指示を出す。気休めかもしれないが、無いよりはマシ精神だ。
 ツンとする刺激臭に少しだけ目が痛い。

「ゲホッ。ふ、振りかけました」
「では何時でも走れるよう準備しておいてください。合図があれば絶対に振り返らずに」
「はっ、はい!」
「じゃあ皆、戻ろう」
「うわっ!」

 Uターンして数秒、リモが顔面から盛大にこけた。

「大丈夫ですか?」
「はっ、はい。すみません。何かに躓いたみたいで」
「ぼけっとしてねえでさっさと立て」
「ひっ、すみません。直ぐ起きます!」
「一々つっかかんな。リモさん、足捻ってはないですか?」
「はい……あれ?」
「あ、木の根が巻き付いて、っ!?」

 言葉よりも早く、俺は木の根を掴んでリモから引き剥がした。そして投げ捨てようとした途端、木の根はまるで意思を持っているかのように俺の手に絡みつく。

「痛って。何だよこれ」
「待ってロ。今斬ってやル」
「ありが、え?」
「チッ」

 根を切ろうとグノーが得物を振り翳したその時、信じられないほど強い力が俺を引っ張った。ほぼ同じタイミングでオズが鋼糸を俺の杖に固定し、俺達は漫画のような勢いで彼等と反対方向へ引き摺り込まれていく。

「うわぁああ!」
「ユニっ!!」
「テメエらは先に森出てろ! おい、お荷物野郎、死にたくなけりゃその杖ぜってー離すんじゃねえぞ! 出ないと殺すぞ!」
「無茶、いう、なぁ!」

 根は一向に速度を緩める気配はない。
 ジェットコースターの坂に匹敵する速度で拘束される事暫し、根っこは盛り上がった土の洞窟へ俺達を招きいれた。
 勢いそのままに根から解放された俺とオズは仲良く地面を滑る。

「い、ててて」
「クッソがっ!」

 がん、と固い音をたてて、床を殴りつけるオズ。

「此処ど」

 こ、と言いかけて目を見開く。
 視界正面にて広がるのは、洞窟ではなく遺跡だ。四方全ての面に象形文字に近い絵が隙間なく描き込まれ、道の奥は化け物が顎を開くかのような深淵が続いている。
 だが驚きはこれで終わりではない。
 後方から巨大な岩が動くような重々しい地鳴りじみた音が鳴り、それは軈て、がこんと嵌まるような音を奏でて止まる。
 次いで訪れる漆黒の闇。

「閉じ込められたな」
「はぁああああ!?」
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