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デデーン!
しおりを挟む目と目が合う瞬間、ヤバいと悟った。
廊下は瞬く間に極寒の地と化した。
ラディウスの背後には青白い氷山と白亜の大地の幻が生え、体の周りからは発火の前段階に見られる低温の青白い炎、冷炎が小さく揺らぐ。俺達と同じく夜着姿のまま静かに腕を組むそのご尊顔は輝かしいまでに笑顔だ。
風邪のような悪寒に全身が震える。
そうだね、キレてるね!
脳内でパチモンの夢の国のネズミが笑った所で、無言で足を止めたナハトの存在を思い出し、俺はパチモンのネズミにダイスロールさせる。
「おはようございます殿下大変申し訳ありませんが膀胱がいま決壊寸前なので失礼します行きますよユーベルヤード様!!」
選ばれたのは俺の尊厳を生贄に捧げるでした。
この予期せぬ変化球に意表を突かれ、硬直した隙にトイレに走る。
待たれる可能性はほぼ確実であったが、あの場でFIGHTされるより一旦クールタイムを挟んだ方が安全――のような気がした。
そして出すもん出して非常にすっきりとした俺は、部屋(俺の方)の前で待機するラディウスとソラを視認した。
ラディウスはまだ分かるが何故ソラもと首を傾げるが即座にその考えを改める。恐らくは俺への心配とあの詫びの品でラディウスへの想いが芽生え始めたのかもしれない。中々良い傾向だ。
憂鬱気味だった気持ちが少しだけ上向きになった。
帰還した俺達に気付いたラディウスが扉から背を離す。機嫌は依然良くもないがそれほど悪くはなさそうだった。
追及される前に立ち話もなんだからと全員室内に招き入れる。その頃にはナハトの目は覚めており、ちょっと不思議がっていた。その盤面を作成したのは貴方様なんやで。俺は苦く笑い、ソラに椅子、ラディウスとナハトにはベッドを勧めておいた。相席は嫌なのか同じタイミングで即行拒否されたけども。
「コホン。まず始めにソラに説明しておきましょう。俺は体質の問題で毎夜こちらのユーベルヤード様に添い寝してもらい、魔力譲渡して頂いているんです」
口にした途端、間髪入れずソラが言う。
「もしかしてそれ重い病気なんですか!?」
「いえ、それほど重いものではありません。それよりもこの話は決して他言しないように。さもないと」
「絶対言いません!!」
「あ、うん……」
ふんすふんすと鼻息荒いソラに若干引きつつ、生唾を飲み込んでラディウスへと視点を移す。経験上、言葉を尽くそうとすると逆に疑念の芽を植えつけてしまうのでこの場での正解は飾らず恥を恐れず真実をそのまま提示する一択だ。
「それで俺とユーベルヤード様が廊下に共に出た理由ですが、俺がお花摘みを自己申告しましたところ、寝惚けたユーベルヤード様が親切心で先導してくださったというのが事の真相でございます」
「そうなのか?」
俺の右隣に佇んでいたナハトが驚いている。どうやら寝惚けている間の記憶は有してはいないようだった。
「恐らくですが俺の事をご家族の何方かと混同されていらっしゃったのかもしれません」
流石に有り得ないだろうとナハトを仰ぐラディウスだが、当の本人が一番衝撃を受けていた為にその矛を納める他なかった。ただかなり複雑そうにはしていたが。
「ご納得して頂けましたでしょうか――有難う存じます。では疑問が解消されたという事で。ソラ、貴方は自分の部屋に戻りなさい」
「え、でも――はい」
叱られてトボトボとハウスへ向かう犬のようにソラは歩き出す。それにまた茶々丸を幻視してしまい謎の心苦しさに襲われ、仕方なく扉の外まで見送ってやろうと足を踏み出すと、意外にもラディウスから送迎を命じられる。
ナハトには退室命令を出していないので二人っきりで話し合うつもりなのだろう。物凄く心配だが主人の命令は絶対。
後ろ髪を引かれつつ廊下に出ると、少しだけ嬉しそうなソラが頭を下げた。
俺じゃなくてラディウスに尻尾振れ。
喉元まで出かかったそれを唾液とともに飲み下し、先導する。
「そういえば殿下にはもうお礼申し上げましたか?」
俺は顔を合わさずそのまま続ける。
「まだのようでしたら早急にやりなさい。殿下に限りませんが貴族というのは殊更体面やメンツを重視する生き物です」
「あ、はい。一応直ぐにお礼は言ったんですけど」
「けど?」
煮えきらない答えに足を止めて振り返ると、彼はラディウスから自分ではなく俺に感謝するように告げられたのだと明かす。
なんでこっちに打ち返すねん。
「……念の為訊きますが、それは他の者がいる時でしたか?」
「そうです」
「でしたらそれは建前です。あの方は立場上、平民に過度に肩入れしていると思われる訳には参りません」
「そうなんですか?」
「ええ。ですので少しでも殿下に有難い、ご厚意に報いたいと思うなら、その珍しい魔法属性を磨いて国に貢献出来るようになりなさい」
「はっ、はい!」
よし! 軌道修正完了!
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