悪役令息? いいえ。俺は納豆召喚できる経年劣化スマホバッテリーのような者です。

くすのき

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 弾かれたように全員が発生源を注視した。
 俺も一秒遅れで続き、校舎を観察する。
 場所は三階の教室だ。全ての硝子窓がご丁寧に破壊され、地上に散らばっている。
 それ以外、人の肉片や血液といった物は今のところ見られない。
 一見すると爆発あるいは衝撃波を浴びたような状況だが、中からはそれ以上の音が続く様子はなかった。
 騎士達の間に緊張が走る。
 俺は生唾を飲みこみ、拳を軽く握る。
 掌はしっとりと汗ばみ、気づけば胸の鼓動も早くなっていた。前世で急病人や火事を目撃した際とは段違いの心境である。当事者でもないのに足元が崩れていくような不安定な恐怖が身の内を蝕んでいく。

「隊長!」

 別方向から駆けつけてきた騎士が上官の元で足を止める。大仰な兜の所為で表情は窺いしれないも声色から切迫したものはひしひしと感じられた。良いニュースではないのは絶対的に明らかだ。
 ごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。
 それは誰が発したものか。俺のようであり、間近のラディウスのようであり、他の騎士達のようにも思えた。

「申し上げます。現在、学園内部は何らかの妨害装置により魔法の使用が不可能な状況となっております!」

 信じ難い報告が刃となって全員の精神を切りつけた。しかも敵方は自由に魔法を使用できるという地獄のおまけつきで。
 一瞬にして空気が凍りつき、誰もが言葉を奪われたように絶句した。それはまるで悪い夢だとばかりに脳味噌が理解を拒んでいるかのよう。

「――他に報告はあるか」

 口火を切ったのは上官の男だった。
 盗み見た表情は落ち着き払っており、何事もなかったような態度だ。そしてそれに釣られるように騎士達の空気が変わった。
 いや変わったのは空気だけではない。顔面に浮かぶのは凛々しく雄々しい、武人の顔。
 状況は決して宜しくない、寧ろ最悪とすら称していい中、彼らは侵入ルートなどを淡々と整理、構築していく。その様は前世のドラマで拝見した災害救助隊や特殊部隊に通ずるものがあった。
 最も話す内容は、専門外の俺では一割ほどしか理解できないが、聞く限り人命救助を第一に考えているようだ。
 それに少しほっとする。
 幾らナハトが強いと分かっていても魔法不使用かつ人質、学生達や教諭と連携して百人を相手取るのはなかなか骨が折れる。早く彼らと合流出来るならそれに越したことはない。
 ややあって潜入いや突撃方針が決まる。魔法具使用は可能らしくそれ等を駆使した三方向からの突入だ。

「他に意見のある者はいるか?」

 異を唱える声は上がらない。皆、上官の次の命令を待つ。
 それを一瞥した隊長は一つ頷き、騎士達を割り振っていく。

「以降の連絡、指示は通信機を通して伝える。散っ!」

 蜘蛛の子を散らすように移動した騎士達を見届けた隊長が踵を返す。そして彼はラディウスへと深く頭を垂れた。

「ラディウス様」
「何も言わなくていいよ。マジメット卿の武勇は聞き及んでいるからね。学友達を宜しく頼む。必要なら私の護衛に割いている者達もそちらに回して構わない」

 その言葉にマジメットと呼ばれた男の表情が目に見えて変わる。
 心酔、高揚、感服。そして使命感という灯火が燃え上がっていた。しかしそれも星の瞬くような僅かな時間で隠され、姿勢を正す。

「それから……お前達は魔法封印の魔法具ないしからくりを探せ。可能であれば破壊して構わない」

 ラディウスの目が何もない空中に向けられ、命令する。
 それは普段陰ながらラディウスを護衛する者達に向けての物だった。裏付けるように視線の先から御意と了承の声が上がる。

「では私はあちらに行こう」

 為政者の顔を緩め、羽根のように雰囲気を砕いたラディウスが椅子へと歩いていく。
 急拵えな所為かそれとも普段からなのか、見目の悪い椅子だ。俺はラディウスが座る前に慌てて――但し表には出さない――自らのハンカチを座面に敷いた。
 そうして彼が着席すると同時に俺はいつもの定位置に佇み、戦況をじっと見守る。
 マジメット卿は通信機片手に学園内の地図と睨めっこしており、各部隊の進捗を受け取ってはそれぞれに指示を飛ばしていく。
 それに伴い、学園校舎からは鬨の声やら悲鳴やら爆発するような音が流れてきた。
 全身が、ふるりと震える。
 ナハトとソラは本当に無事だろうか。心臓が早鐘を打ち、意識が遠退いていくような感覚に襲われる。

「(しっかりしろ、俺!)」

 内部では俺なんかより年端もいかない子供達が恐怖に晒されている。それを思えば安全な場所にいる大人が気絶するなど許されない。俺は必死に意識を縫い留め、唇をきつく噛む。
 天幕の外と通信機を通しての音に耳を澄ませる事暫し、三箇所の内一つを担当していた小隊長から制圧の報せが届く。
 天幕内が湧いた。
 それに続くように2箇所目からも制圧完了の声が上がり、目に見えて内部の空気が緩んだその時――

「「「!!」」」

 地を揺るがす程の轟音が鳴り響いた。通信機から悲鳴と崩落の音も流れてくる。

「何があった。応答しろっ!」
「爆撃か!?」
「新手か!」
「全員、落ち着け!!!!」

 動揺と混乱が生じる中、マジメット卿の怒鳴り声が通る。一方、大声で怒鳴りつけられた部下達は一斉に我を取り戻し、マジメット卿の指示に従い、情報収集の任についた。

「申し上げますっ! 校舎中央にて爆弾が使用され、一部建物が崩壊。怪我人が多数いるとの事です!!」

 自分の浅い呼吸が嫌に煩く感じられるのに比例して治まった筈の心臓の音が異常に大きく聞こえてくる。振り払った最悪が脳裏に浮かんで消えてくれない。

「ギ……ギ……ナギ」
「え、あ、申し訳ありません。殿下」
「大丈夫かい? 顔が真っ青だよ」

 無意識に触れた頬はラディウスの指摘通り、氷のように冷えていた。

「あっ、いえ、問題ありません」
「……………………大丈夫だよ」

 そう慰めの言葉をかける彼の表情は、穏やかでありながら何処か悔しそうな色を含んでいた。――そうだ。彼処には彼の友人であるネロとヴァンもいるのだ。
 俺はラディウスの気遣いに先程まで身の内を支配していた恐怖が払拭され、大人としての矜持を思い出した。

「はい! 直ぐに憲兵達に文を飛ばし、救援に当たらせます。それと治療師の手配もして参ります!」
「うん、頼むよ」

 主の許しを得て、その場を離れる。
 その時であった。

「人質が居たぞぉ!!」

 遠くの方で騎士の叫び声が聞こえた。
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