悪役令息? いいえ。俺は納豆召喚できる経年劣化スマホバッテリーのような者です。

くすのき

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最初からクライマックス〜納豆を添えて〜

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 少年達を前に魔物は腕を振り被った。
 何千何万と命を刈り取ってきただろう鋭い爪が妖しく光る。

 少年達は一斉に目をつむる。その眉間に刻まれた深いしわは痛みと死を覚悟してのもの。だがそれは決して彼ら全員が納得してではない。ただどうしようもなかっただけ。もし仮に彼らに抗う力があったなら何としても結末を変えようとしただろう。

 だがしかし悲しいかな。彼らにその力は無い。よって盤面は覆らない。

 万事休す。
 爪が振り下ろされる。

 その中で一人の少年は自身の信仰する神へ幾度目かの助命を願う。恐らく一生の内で初めて真剣に祈っただろう。なんでもするから助けてください、と。

 その時だった。
 目蓋越しに眩い光が瞬いた。
 好奇心に駆られどうにか視界に捉えたのは丸い形をした小振りな何か。
 これは何だと瞬きした刹那、強烈な頭痛が少年を襲う。

 次いで彼の脳内に早回し動画にも似た“俺”こと田中樹の記憶が雪崩れ込む。
 それは仕事帰りの道中立ち寄ったスーパーで購入した納豆片手に退店しようとした矢先、ダイナミック入店した車に追突されたもの。どうやらその時、俺は命を落としたらしい。そして前世の記憶を取り戻して即行、命の危機に瀕しているという訳だ。

 ――なんだこの出落ち超展開。いや、それよりも今は目の前の脅威を退けなくては。
 何か武器はないものかと思考を切り替えると、眼前にてやや光量を落とした光の中に小振りの何かの輪郭が見える。

「嘘やん……」

 それは俺が生前購入した納豆だった。
 三組1セット。
 おかめの絵柄が特徴的な丸型フォルム。それが光り輝き、宙に浮いていた。
 脳が理解を拒むと同時に、これをどうしろという気持ちになる。

 まさか最期の晩餐――いや確かに転生前は食べたかったけども。
 硬直途中、予期せぬ目潰しから回復した熊に似た魔物が吠える。

「っ、えぇい、ままよ!」

 俺は光り輝く納豆を鷲掴み、魔物口めがけ投擲した。
 我ながら綺麗にジャストミート。

 三秒の空白――それを経て魔物の表情が変化する。まるで饅頭ロシアンルーレットで激辛を引き当てたもしくは某動画の絶叫するビーバー(マーモット)だ。
 そうして一頻り首から上を掻き毟っていた魔物はやがてその場に崩れ落ちた。
 そのままピクリとも動かない。

 ――死んだ。
 そう、死んだ。
 俄には信じ難い幕引きだが間違いない。
 場の空気が水を打ったように静まり返り、風の音が嫌に大きく響く。俺の「えぇ……」という声も草木のざわめきで掻き消された。

 発酵食品の勝利? 付属の辛子? それとも誤嚥による窒息? 考察開始直後、その思考が妨げられる。

「ネロ! ネロ! しっかりするんだ!」

 切羽詰まった声に振り返る。
 そこには一等華やかな美少年。物語の王子様を彷彿とする金髪碧眼の美形がいた。それだけではない。
 彼の腕の中に意識は失っているも可愛らしい少年もいた。こちらは金髪の彼に比べやや幼い。年は十二、三歳くらいだろう。

「王子、ご無事ですか!?」

 突如、茂みから野太い声と共に金属のけたたましい音が上がる。
 驚き振り返れば全身鎧に身を包んだ騎士達の姿。いずれもその胸元に黄金の獅子の紋章が刻まれている。

 黄金の獅子はこの国、ユースティリア王国の象徴。つまり彼等は味方だ。
 助かった。安堵と共に肩の力を抜いたその時、彼方に進軍していた筈の頭痛が前触れなく帰還した。しかも更に痛みの幅をきかせて。
 そのあまりの激痛に膝をつけば、それが合図であったかのように瞼の裏に、あるイラストが浮かび上がる。

 異世界で恋して――通称イセコイ。
 特異な属性を持つ主人公が編入した学園で事後チュー(場所選択制)の相手と恋をする王道BLゲーム。十数年前のリメイクながら俺の心に深く刺さった作品だ。

「(よりによってその悪役令息かよ!)」

 奥歯を強く噛む。
 悪役令息ナギ・エンジュ。
 5人の攻略対象の内、誰を選択してもお邪魔虫となるキャラクターで、当初はファンから蛇蝎だかつの如く嫌われていたキャラクターだ。

「……み――君、大丈夫か!? しっかりしろ」

 俺に言っているだろう騎士の声が酷く遠い。その間も痛みは留まることも知らず耐えきれなくなった俺は遂に意識を手放した。
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