1 / 54
最初からクライマックス〜納豆を添えて〜
しおりを挟む少年達を前に魔物は腕を振り被った。
何千何万と命を刈り取ってきただろう鋭い爪が妖しく光る。
少年達は一斉に目を瞑る。その眉間に刻まれた深い皺は痛みと死を覚悟してのもの。だがそれは決して彼ら全員が納得してではない。ただどうしようもなかっただけ。もし仮に彼らに抗う力があったなら何としても結末を変えようとしただろう。
だがしかし悲しいかな。彼らにその力は無い。よって盤面は覆らない。
万事休す。
爪が振り下ろされる。
その中で一人の少年は自身の信仰する神へ幾度目かの助命を願う。恐らく一生の内で初めて真剣に祈っただろう。なんでもするから助けてください、と。
その時だった。
目蓋越しに眩い光が瞬いた。
好奇心に駆られどうにか視界に捉えたのは丸い形をした小振りな何か。
これは何だと瞬きした刹那、強烈な頭痛が少年を襲う。
次いで彼の脳内に早回し動画にも似た“俺”こと田中樹の記憶が雪崩れ込む。
それは仕事帰りの道中立ち寄ったスーパーで購入した納豆片手に退店しようとした矢先、ダイナミック入店した車に追突されたもの。どうやらその時、俺は命を落としたらしい。そして前世の記憶を取り戻して即行、命の危機に瀕しているという訳だ。
――なんだこの出落ち超展開。いや、それよりも今は目の前の脅威を退けなくては。
何か武器はないものかと思考を切り替えると、眼前にてやや光量を落とした光の中に小振りの何かの輪郭が見える。
「嘘やん……」
それは俺が生前購入した納豆だった。
三組1セット。
おかめの絵柄が特徴的な丸型フォルム。それが光り輝き、宙に浮いていた。
脳が理解を拒むと同時に、これをどうしろという気持ちになる。
まさか最期の晩餐――いや確かに転生前は食べたかったけども。
硬直途中、予期せぬ目潰しから回復した熊に似た魔物が吠える。
「っ、えぇい、ままよ!」
俺は光り輝く納豆を鷲掴み、魔物口めがけ投擲した。
我ながら綺麗にジャストミート。
三秒の空白――それを経て魔物の表情が変化する。まるで饅頭ロシアンルーレットで激辛を引き当てたもしくは某動画の絶叫するビーバー(マーモット)だ。
そうして一頻り首から上を掻き毟っていた魔物はやがてその場に崩れ落ちた。
そのままピクリとも動かない。
――死んだ。
そう、死んだ。
俄には信じ難い幕引きだが間違いない。
場の空気が水を打ったように静まり返り、風の音が嫌に大きく響く。俺の「えぇ……」という声も草木のざわめきで掻き消された。
発酵食品の勝利? 付属の辛子? それとも誤嚥による窒息? 考察開始直後、その思考が妨げられる。
「ネロ! ネロ! しっかりするんだ!」
切羽詰まった声に振り返る。
そこには一等華やかな美少年。物語の王子様を彷彿とする金髪碧眼の美形がいた。それだけではない。
彼の腕の中に意識は失っているも可愛らしい少年もいた。こちらは金髪の彼に比べやや幼い。年は十二、三歳くらいだろう。
「王子、ご無事ですか!?」
突如、茂みから野太い声と共に金属のけたたましい音が上がる。
驚き振り返れば全身鎧に身を包んだ騎士達の姿。いずれもその胸元に黄金の獅子の紋章が刻まれている。
黄金の獅子はこの国、ユースティリア王国の象徴。つまり彼等は味方だ。
助かった。安堵と共に肩の力を抜いたその時、彼方に進軍していた筈の頭痛が前触れなく帰還した。しかも更に痛みの幅をきかせて。
そのあまりの激痛に膝をつけば、それが合図であったかのように瞼の裏に、あるイラストが浮かび上がる。
異世界で恋して――通称イセコイ。
特異な属性を持つ主人公が編入した学園で事後チュー(場所選択制)の相手と恋をする王道BLゲーム。十数年前のリメイクながら俺の心に深く刺さった作品だ。
「(よりによってその悪役令息かよ!)」
奥歯を強く噛む。
悪役令息ナギ・エンジュ。
5人の攻略対象の内、誰を選択してもお邪魔虫となるキャラクターで、当初はファンから蛇蝎の如く嫌われていたキャラクターだ。
「……み――君、大丈夫か!? しっかりしろ」
俺に言っているだろう騎士の声が酷く遠い。その間も痛みは留まることも知らず耐えきれなくなった俺は遂に意識を手放した。
129
あなたにおすすめの小説
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い
おもちDX
BL
オメガ系貴族のシェリールは、貧乏貴族でアルファのルイと結婚した。
家のため、いい噂のないシェリールに婿入りしたルイはいつも不機嫌そうだ。
でもシェリールは、長年の推しであるルイにどれだけ冷たくされようと、同じ屋根の下にいるだけで幸せいっぱい!
二人の関係は発情期を機に変わっていく。シェリールの仕事ぶりや意外な一面を目にするたび、ルイの態度は軟化していくが、オメガを狙った盗賊団の活動が二人の住む領に迫ってきて……?
真面目で無愛想な騎士アルファ✕推しが夫になって幸せすぎる敏腕領主オメガ
独自設定の異世界オメガバースです。ハッピーエンド。
基本明るい受け視点。中~長編になります。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまいネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙にはAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
校正も自力です(笑)
魔法使い、双子の悪魔を飼う
よんど
BL
「僕、魔法使いでよかった」
リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。
人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。
本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり...
独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。
(※) 過激描写のある話に付けています。
*** 攻め視点
※不定期更新です。
※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。
※何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる