君と僕の関係は罰ゲーム

くすのき

文字の大きさ
7 / 15

(7)


 あれから久貫君と僕の関係は大きく変化した――なんて事はなく、今日も僕は道中気まずい一人耐久戦を開催している。

「聞いてる、ナツ?」
「あ、はい。聞いてます」

 ぎこちない笑みを浮かべ、他愛のない世間話に相づちを打つ。

「ナツ、もしかして具合悪い?」
「いっ、いえ。全然元気です」

 単純に気まずいのと、周囲からの視線の矢(主に久貫君にだが)が痛いだけ。

「ならいいけど。あんまり無理はしないで、辛い時はすぐに言うんだよ」
「はい。お気遣いありがとうございます」

 いま貴方の傍にいる事の方が辛いです――とは流石に言えない。

「あの、僕に構わず登校してくださって大丈夫ですよ。これでも満員電車には慣れていますし、久貫君にその……罰ゲームみたいな事させられないので」
「っ、」
「そっ、それにお友達と登校した方が絶対楽しいと思いますよ」
「ん~。でもアイツら全員方向違うんだよね。それにさ、俺はナツと一緒に登校したいんだよ――駄目?」

 勘違いしそうになる台詞に胸が弾む。
 けれどそれと同じくらい胸が痛かった。
 わざと口にした罰ゲームという言葉に、彼は否定しなかった。

「だめ、ではないですけど……」
「じゃあ講義被る日は一緒に行こうな」
「えっと……はい」

 
 学内では互いのグループに別れる。
 一度だけ一緒に座ろうと誘われた事もあるけれど、あんな陽キャ集団に混ざって講義を受けるなど処刑以外の何ものでもない。
 いつもの面子に囲まれ、僕は一息つく。
 ようやく息がしやすくなった。
 友人との何気ない会話に花を咲かせ、笑い合うと、時折視線のようなものを感じた。
 なんとなく前列、久貫君の辺りのような気がしたけど、誰一人顔を傾けている姿はないので、きっと気の所為だろう。
 首を傾げた僕に祥ちゃんが声をかける。

「なっちゃん?」
「あ、ううん。なんでもない」
「そうか。あ、なっちゃん。サークルどないする。やっぱ無し?」
「それは……」
「そんなに活発って訳やあらへんし、週一の集まりは絶対参加やのうてええねんで」

 正直かなり魅力的だ。だがもし久貫君も加入するとなると、どうしても二の足を踏んでしまう。

「祥ちゃん、僕の他に入る予定の人って」
「おらんよ」
「――それならお邪魔させてもらおうかな」
「ほんまか! やっっったー」
「葉月、ナンパ成功おめでとう~」
「ナンパって」

 友人達の軽い拍手に思わず笑みが溢れる。
 するとまた視線を感じ、即座に振り向くとなぜか久貫君と目が合った。
 ぎこちなく笑顔を作って軽く会釈すると、あちらもぎこちなく笑う。
 もしやさっきのも彼だろうか。

「十都、どうし――久貫じゃん」
「なになに?」
「いや、なんか久貫がこっち見てた。もう顔背けてっけど」
「もしかして煩かったとか」
「流石にそれはねーだろ」
「なっちゃん、もしかして凌ちゃんと喧嘩したん?」
「う、ううん。してないよ」

 強いて言うなら僕が一方的に気まずくて、なるべく避けようとしてるだけ。

「凌ちゃんって。葉月、いつの間に仲良くなってんだ。十都も」
「昨日凌ちゃんも写真サークルを覗きに来てくれてん。そんでなっちゃんは凌ちゃんと小学生ん時の同級生なんやて」

 祥ちゃんからの暴露に友人達が顔を見合わせる。

「マジ?」
「でも最初知らないって言ってたよな」
「あんまり親しいってわけじゃないし、子供の時の記憶だから。僕もつい先日知ったばかりでさ」
「なーる」

 僕の説明に友人達は納得したようだ。
 すぐさま次の話題に移り、久貫君を思考から追い出している。
 その切り替えの早さが少し羨ましい。
 羨望の眼差しを送っていると、室内の喧騒がぴたりと止んだ。
 先生が登壇していたのだ。
 僕達も口を閉じ、先生の話に耳を傾ける。

「――であるからして――これは」

 彼のよく通る声を聞きながらノートにペンを走らせる事暫し、ふと何気なく動かした目が久貫君を捕らえた。
 隣の女性と内緒話をしている。
 彼女が楽しそうに笑い、それに久貫君も優しく微笑んでいる。
 仲睦まじい、お似合いの姿だ。
 なのに胸がつきんと痛む。
 それでいい筈なのに、心の中は嫌な感情が渦を巻いて停滞している。

「(僕が女の子だったら気兼ねなく彼の隣に……ううん、並べる訳ないや)」

 彼女の姿に女性となった自分を幻視して、小さく首を振る。
 全くもって釣り合わない。
 自嘲気味に笑って目を伏せる。
 離れたいのに、勝手に傷つくとか本当なんなのだろう。

「なっちゃんなっちゃん」
「! どうしたの、祥ちゃん」
「あーん」

 祥ちゃんの指から放たれた黒飴が舌の上に転がる。その独特な甘さに目を瞬く。

「旨いやろ」
「ん、おいひい」
「そら良かった」
「……ありがと、祥ちゃん」
「気にせんとき。それよかコレ、教えてーな」
「どれ?――あぁ、これだね」

 手にしたペンで祥ちゃんのノートに答えを書き込んでいく。

「なるほど。おおきに、なっちゃん」
「どういたしまして」

 にかりと笑う祥ちゃんの笑顔が眩しい。
 明らかに何かあるのに触れずに慰めてくれるなんて、祥ちゃんもいい男だ。彼に選ばれた女性もきっと、久貫君達同様幸せになることだろう。
 僕は幾分か楽になった心を低下させないよう、久貫君達の事を努めて意識から追い出し、ひたすら授業に集中した。
感想 0

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」 誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け ⚠️攻めの元カノが出て来ます。 ⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。 ⚠️細かいことが気になる人には向いてません。 合わないと感じた方は自衛をお願いします。 受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。 攻め:進藤郁也 受け:天野翔 ※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。 ※タグは定期的に整理します。 ※批判・中傷コメントはご遠慮ください。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

夢の中の告白

万里
BL
バレー部のムードメーカーで、クラスのどこにいても笑い声の中心にいる駆(かける)。好奇心と高いコミュニケーション能力を持つ彼は、誰とでもすぐに打ち解けるが、唯一、澪(れい)にだけは、いつも「暑苦しい」「触んな」と冷たくあしらわれていた。 そんな二人の関係が、ある日の部活帰りに一変する。 あまりの疲れに電車で寝落ちした駆の耳元で、澪が消え入りそうな声で零した「告白」。 「……好きだよ、駆」 それは、夢か現(うつつ)か判然としないほど甘く切ない響きだった。

「イケメン滅びろ」って呪ったら

竜也りく
BL
うわー……。 廊下の向こうから我が校きってのイケメン佐々木が、女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくるのを発見し、オレは心の中で盛大にため息をついた。大名行列かよ。 「チッ、イケメン滅びろ」 つい口からそんな言葉が転がり出た瞬間。 「うわっ!?」 腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。 -------- 腹黒系イケメン攻×ちょっとだけお人好しなフツメン受 ※毎回2000文字程度 ※『小説家になろう』でも掲載しています

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。