君と僕の関係は罰ゲーム

くすのき

文字の大きさ
11 / 15

(11)


 冷たい声が鼓膜を揺らす。
 声の持ち主は久貫君だ。
 十人が十人振り返るような顔面を冷たく落とし、纏う空気は怒りに満ちているのがわかる。
 彼の視線が僕達を交互に見比べる。その姿はどちらが悪いのか見極めているようなものだった。時間にしてわずか5秒。
 久貫君は扉を開け放ったまま小走りで、木村君のもとへ向かい、乱暴に彼の胸ぐらをつかんだ。
 そして見たこともない憤怒の表情で彼に詰め寄り、その体を揺らす。
 突然の出来事に、木村君が狼狽える。
 次いで説得と自分の無実を訴えた。僕にも援護を促すような眼差しを送り、室内には重苦しい静寂が舞い降りた。
 その中において、最初に動いたのは久貫君だ。
 彼は僕へと振り返り、本当と言いたげに見つめてくる。その顔には先ほどの憤怒は微塵もなく、僕を心配するものしかない。
 そしてそれは僕が同意を示した事で、安堵の表情に変わった。でもそれもまた直ぐに変化する。じゃあなんで二人でいるの、という疑問の顔だ。
 唇の先が震える。何か言わなければいけないのに、うまく言葉が出てこない。
 そんな僕を見かねてなのか、木村君が自分が呼んだのだと白状した。
 久貫君の鋭い視線を浴びながら、木村君は臆した様子もなく、経緯を語る。

「凌が元気ねーから、ソイツに理由聞いてたんだよ。お前らここ最近妙にぎくしゃくしてただろ」
「それはっ……」

 拘束が緩んだのを確認した木村君は一歩後退し、しわになった上着を直す。

「理由はさっき十都に聞いた。それでだ」

 彼は僕と久貫君を交互に見やり、偉そうに腕を組む。

「いいか、お前らは一度きちんと話し合え。俺から言えるのはそれだけだわ」
「え」

 絶望した僕に彼が向き直る。

「そんで十都。覚えてないとはいえ、ガキの頃、お前を貶して悪かった」

 そう言うとゆっくりと僕に頭を下げる。
 僕はそれを呆けた表情で眺め、遅れてその謝罪を理解する。

「え、え」
「別に今すぐ許してくれとは言わねぇ。あと無理やり連れてきて悪かった。じゃ俺、行くな」

 それだけ告げると、木村君は足早にその場を去った。
 あっと言う間に取り残される僕達。
 不気味なほどの静謐さが室内に充満し、腕時計の針の音がいやに大きく聞こえた。
 完全に逃げるタイミングを失った。
 僕がこの室内を出るには、久貫君の横を通り過ぎなくてはならない。どうすべきか悩み、時間だけが流れていく中、久貫君が口火を切る。

「ナツ」
「っ、」
「……木村の奴がなんか先走ったみたいでごめんね。後でちゃんと注意しておくから」
「い、いえ。僕なら大丈夫ですので。それじゃ」
「待って、ナツ」

 走り抜けようとした僕の手を、久貫君が掴む。大きくて硬い男の人の手。

「あの、手」
「俺はいつまで待てばいい?」

 その問いに、ぎくりと身が強ばる。
 正直このまま自然消滅、いやフェードアウトもいいなって思っていたのに。

「それは……」
「お願いだから釈明の機会をください」
「だからそれは」

 する必要なんかない。そう言おうとして顔を上げた瞬間、僕は言葉を失う。
 泣きそうな顔で僕を見つめる久貫君。
 胸の内に罪悪感のナイフがざくざくと突き刺さる。

「俺はナツと仲直りがしたい」
「……僕は」

 唇を開いたその時だった。
 ポケットに入れていた携帯が音楽を奏でる。驚き、慌てて取り出したその画面には先輩の名前が表示されている。

「あの、ちょっとすみません」

 断りを入れて電話に出る。

「はい、もしもし」
『ナツ。今大丈夫か?』
「せ、先輩~」

 殊の外情けない声を発した僕に、機械越しの先輩がくすくすと笑う。

『なんだよ、その声。どうせまだ解決してないって事だろ』
「……はい」
『一段落ついたから、今日そっち行くわ。飯用意して待ってろ』
「はい! 待ってます!」
『おう。デザートはこっちで用意すっから。じゃあな』

 それだけ言うと電話はぷつりと切れた。
 再び舞い戻る静寂。

「お、お待たせしました。あの、僕これから用が出来たので今日のところは」
「あの人が来るの?」
「っ、久貫、くん?」

 先程まで泣きそうだった彼が、なぜか今は知らない男の人のように怖い。
 今のがそんなに気に障ったのだろうか。
 小刻みに肩を震わせていると、ハッとした彼が表情を解く。

「怖がらせてごめんね」
「い、いえ」
「あのさ、ナツ。さっきの電話の相手、今日ナツの家に来るの?」
「そう、ですけど……」

 それがいったいどうしたのだろうと恐る恐る見上げると、努めて笑顔を作った彼が僕に言う。

「その人に俺ちょっと訊きたい事があってさ、もしなんだけど今日来たら教えてもらえないかな?」
「先輩に、ですか?」
「そう」
「それなら僕から訊いて」
「自分で直接訊きたいんだ」

 頑として譲らない彼に、僕は仕方なく頷く。

「ありがとう、ナツ」
「あ、いえ。あの、それじゃあ僕はこれで」
感想 0

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

「イケメン滅びろ」って呪ったら

竜也りく
BL
うわー……。 廊下の向こうから我が校きってのイケメン佐々木が、女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくるのを発見し、オレは心の中で盛大にため息をついた。大名行列かよ。 「チッ、イケメン滅びろ」 つい口からそんな言葉が転がり出た瞬間。 「うわっ!?」 腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。 -------- 腹黒系イケメン攻×ちょっとだけお人好しなフツメン受 ※毎回2000文字程度 ※『小説家になろう』でも掲載しています

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」 誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け ⚠️攻めの元カノが出て来ます。 ⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。 ⚠️細かいことが気になる人には向いてません。 合わないと感じた方は自衛をお願いします。 受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。 攻め:進藤郁也 受け:天野翔 ※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。 ※タグは定期的に整理します。 ※批判・中傷コメントはご遠慮ください。

「大好きです」と言ったらそのまま食べられそうです

あまさき
BL
『「これからも応援してます」と言おうと思ったら誘拐された』のその後のお話 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ リクエストにお答えしましてその後のお話🔞を書きました。 ⚠︎ ・行為に必要な色んな過程すっ飛ばしてます ・♡有り