君と僕の関係は罰ゲーム

くすのき

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君と僕の関係は罰ゲーム?

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 突然降って湧いた地獄の空間に、僕は芋虫のように身体を縮める。足が痺れにより迎えを要請され、恐る恐る足を踏み入れた地でまさかの「あ、もう直った。そうだ。俺、凌君に渡す物があったんだ。ちょっと待ってて」からの「会社に置き忘れた。一旦帰るわ」の死刑宣告である。
 あらかじめ取り決めてあったかのような見事な流れだった。
 だが共犯と目していた久貫君も困惑を露にしていたことから、その線は速やかに消した。正直、今すぐにでも立ち去りたい。けれどいい加減決着をつけろと先輩からのお叱りにより、こうして留まっているというわけだ。
 決着も何もないのに。
 それともアレだろうか。速やかにこの邪な気持ちを伝えて、盛大に振られて人間的に成長しろという先輩からの愛の鞭。いや獅子の子落とし、だろうか。
 家族の次に信頼する先輩だが、今日はとても憎らしい。あとで絶対椎茸のフルコースをご馳走してやる。

「あの、さ。ナツ」
「ひゃっ、ひゃいっ!」

 気まずさに恥ずかしさがログインした。
 身の内から火が出るほどの熱が湧き上がり、視界がぐらぐらと揺れているようだった。まるでインフルエンザを患った時のよう。
 いったい何を告げられるのか。いやそれよりも先輩が何か告げ口してやしないか。確認するのがとても怖い。
 久貫君の膝下を眺めること暫し、彼が軽く身じろいだことで、釣られるように僕も反応した。
 室内に困ったような乾いた笑いが流れ、心臓がキュッと痛む。
 脳裏には僕を軽蔑する久貫君の顔と言葉が絶えずちらつき、自然と目尻に涙が滲み始める。
 怖い。聞きたくない。逃げ出したい。
 その思いが体全体を占める中、意を決したように久貫君が僕へと話しかけてくる。
 その内容は――。

「信じられないかもしれないけど、俺はナツが好きです」
 
 脳内放送とは真逆の宣告に僕は思わず顔を上げるが、すぐにそれを後悔した。瞳の奥に混じる親愛とは明らかに異なる色が浮かんでいたのだ。
 口の中の水分が瞬く間に蒸発し、からからに喉が乾く。
 僕はいま夢を見ているのだろうか。
 僕にとって都合の良い幻覚。
 長い時間をかけて久貫君の言葉を噛み砕いた瞬間、僕の顔は宇宙猫と化した。思考も、空気も、何もかもが凍りついているかのようだった。そして何ともなしに口から滑り出た言葉は、たった二文字。
 それは否定でもあり、時に信じられない瞬間にも用いられる言葉だ。パチパチと目を瞬き、僕はじっと久貫君だけを視界に入れた。
 対して久貫君は表情を崩さなかった。そればかりか、こちらが恥ずかしくなるほどの熱い目を送り返してくる。
 腰の奥がずんと重くなるとともに、むず痒さにも似たものが、そこから全体へ侵食していくのが分かる。だがそんなことをしている場合ではないと持ち直し、僕は小さく首を振った。
 そしてゆっくりと唇を開く。

「あの、ほんとうに」
「本当に」
 
 間髪容れず肯定が返される。やはり聞き間違いではなかったようだ。
 嬉しいやら気恥ずかしいやら表現しがたい感情が大波となって伝わり、心臓がどきどきと早鐘を打つ。でも僕の頭はすぐに罰ゲームという単語を浴びせる。また罰ゲームであったらどうしよう、と。
 習慣づいてしまった後ろ向きな思考に、僕は静かに目を伏せた。
 嘘をついているようには見えない。でも、でもどうしても久貫君を信じられない自分がいる。だって彼が僕を好きになるきっかけ、要因がどこにも無いのだ。それに罪悪感と友情が合体した気の迷いだと言われた方がまだ納得出来てしまう。
 それに何より僕は世の女性達と違って、彼の子供を産めない。出来ることといえば、寄り添いあって共に枯れることだけ。それはあまりにも茨の道すぎる。
 ここは感謝と断りを入れるべきだ。

「久貫君」
「うん」
「気持ちはありがたいんですが……!」
 
 手の甲に自分のものでない大きな手が重なり、柔らかく僕の手を包み込む。
 そしてもう片方の手が僕の頬に触れた。

「あの」
「ナツが俺を信じられない気持ちは分かるよ。俺はそれだけの事をナツにしたんだから。でも」

 そこで言葉を区切った久貫君は、僕の頬に添えた手を上へと導く。

「この気持ちは本物だから」
「そ、んなの……」
「うん」
「そんなのきっと今だけです」
「ナツ……」

 自分でも酷いことを言っていると思う。
 でも口にしたら止まらなかった。

「だって。だって、久貫君はノーマルじゃないですか。絶対に女の子がいいって僕から離れていくにきまってます」
「――どうして?」
「っ。それは――。その前に久貫君は僕とそういう関係になって、その、僕とそういう事できないだろうし。僕、赤ちゃん産めないんですよ」
「できるし、それでもいいよ」
「でもでも、やっぱり罰ゲームだったって思われるくらいなら最初から」
「はい、そこまで」

 気づけば、ぼろぼろと涙を流していた僕を久貫君が優しく抱きしめる。
 柔らかな香水の香りが鼻腔をくすぐり、彼の手がぽんぽんと僕の背を叩く。

「傷つけてごめんね」
「う、う~……」
「罰ゲームなんて嘘でも言うべきじゃなかったね」
「嘘じゃないくせにぃ」
「そうだね。馬鹿な子供が悪ぶりたくて言った馬鹿な言葉だよね」
「僕が、僕がどれだけ」

 僕は泣きながら久貫君の胸板を叩いた。
 そうしてしばしの時が流れ――

「――落ち着いた?」
「はい……」

 抱擁を解いてもらい、小さく鼻をすする。

「じゃあ話を戻すけど、俺と付き合ってください」
「――――――――やだ」
「どうして!?」

 やっぱりまだ信じられないと、八の字眉となった久貫君が肩を落とす。

「……それもあるけど」
「そっか」
「ちょっと……時間がほしい、です」

 どうしても二の足を踏んでしまう僕に、久貫君は穏やかに微笑んだ。

「分かった。あのさ、ナツ」
「はい」
「もしよければお試し期間を設けたらどうかな」
「お試し期間?」
「そう。お互いにルールを決めて、それを破ったら罰、ペナルティーって形で」

 どうかな?と彼が小首をかしげる。

「もちろんナツが嫌なら」
「それなら、いいです」
「本当!?」

 別に付き合ったわけでもないのに、久貫君は過去一、いや子供の頃に見せていた、僕の初恋の笑みを浮かべた。
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