転生?憑依? 中身おっさんの俺は異世界で無双しない。ただし予想の斜め上は行く!

くすのき

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12歳編〜まだまだ続くよ漬物は〜

きゅう

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 一方、殴打されたホムンクルスは悲鳴一つ上げる事なく、奥の計器へと激突する。

 ――爆音、いや破砕音。
 巨大硝子が砕けたような音が轟き、最奥広範囲に渡って金属の破片が飛散した。

 最も被害の大きい現場な配線を剥き出しにし、線香花火のような火花を弾き出す。
 一見、被害者であるホムンクルスの肉体に損傷箇所は見当たらず無傷のように思えるが、決してフラウディオの拳は軽いモノではなかった。
 それを合成型ホムンクルスの緩衝材となった形で巻き込まれたⅥの部下らしき男が、地面に転がる形で証明する。

 対して合成型ホムンクルスは意図せず自身を救った男に感謝も祈りも懺悔も向けず、何事もなかったように立ち上がる。
 それに動じる事なく、ホムンクルスが人でないと看破したフラウディオは自らの拳、振るった方を見た。

 僅かな火傷の痕。
 俺の眼にはあの刹那の詳細を全て目撃することは叶わなかったけれど恐らくは敵方の魔法或いは劇物の類を発射されたのだろう。

 こんにちは、非日常。
 さようなら、日常。

 一瞬気が遠くなるが、今は駄目だと自らを叱咤する。もしこのまま意識消失したら最後、自分の安全以上に一時間弱後には子供達の死体と対面することになるぞ、と。

 未だ混乱の坩堝にいるミカエラを宥めつつ、彼等は味方だと言って戦況を見守る。


「き、貴様ら、いったい何者だ。教皇の手の者か!?」
「教皇? 何言ってんだお前」

 妄言を繰り返す老人と長時間応対したようにフェルディナントの片眉が僅かに持ち上がる。

「違う、のか。いや今はそんな事はどうでもいい。その姿は何だ! なぜ貴様らは我が最高傑作と似通った姿をしているのだ!?」
「似てる? 俺等が? 馬鹿も休み休み言えってーの。そっちが俺達の真似してんだよ」
「真似……私が? ふ、ふざけるなぁあああああ!!!!」

 激昂したゴードンは懐から取り出した珠を掲げた。黒蝶真珠を想起する赤みを帯びた深く鈍い緑の輝きを宿した怪しい珠だ。
 選別も研磨もしていない原石をそのまま巨大化した、もしくは、ぶぶあられをまぶし揚げた肉まんのようなそれが、脈動したように音を鳴らす。

 一拍後、緩衝材として死した筈の男が起き上がる。だがしかしそれは到底人の動きではない。どちらかと言えばホムンクルスのものに近く、ゆらゆらと味方であるホムンクルスの傍に寄っていった。
 なぜそっちに行くのか。フェル、フラウ両名が不思議そうに眺める。

「何がしたいんだ、お前?」
「我が最高傑作よ! 贄を喰らい、その力を見せよ!」

 贄とは作成したばかりの動死体の事だろう。生贄とされたかつてのゴードン部下に抵抗の意志はない。
 そこへ顎関節を外した……否、口裂け女と化した彼女が命令に従い、食事を開始する。その姿は巨大蛇が獲物を丸呑みせんとするものに近い。

 悍ましい骨の砕ける音が反響する。
 喉奥に酸い物が溜まり、手で覆う。
 衣服ごと動死体を飲み込んだホムンクルスの腹は人一人収めたとは思えないほど膨らみは小さかった。

 ホムンクルスの視線がフェルディナント達へ動き、双子達は彼女の次行動に備えて油断なくその出方を窺う。
 だが三分弱、一向に行動を開始しないそれに両名は首を捻る。

「ふ、ふははははは。よし、よし。準備は整った! これでお前達は終わりだ! 後悔するがいい!」

 ゴードンの掲げた怪しい珠が不穏な揺らぎを見せ、漆黒に染まる。
 次いでそれが心臓の鼓動のように脈打ち始める。
 ――嫌な予感がした。

 俺と同じ結論に達したらしい二人も再度腰を落としたとき、ホムンクルスから光が伸びた。それは口から放たれた太い光線。
 彼等の顔面を狙ったその攻撃を、身構えていた事もあり、二人は余裕で躱した。

 レーザーの軌道は奥、いや入口側まで届き、かつて光の粒子と化して霧散した。ふと気付けば光線を掠めたらしい鉄格子の一部が溶けていた。
 まるで熱したチョコレートのように。
 金属でこの始末なのだから生身では一溜まりもないだろう。

 それを理解してか知らずか、フェルディナントが一つ舌を打つ。

「……外したか。次はよく狙え」
「フラウ、あれ何だよ!」
「恐らく吸収したエネルギーを撃ち出したものだよ。普通の人間なら一発昇天かな」
「その通りだ。本来ならこの力はまずそこの聖騎士の固有盾と競う予定だったがな。まぁ、それはお前達を殺した後で追々試せばいい。さぁ、最高傑作よ! 其奴等を骨を残さず殺せ!」

 ゴードンの命を受けて開口したホムンクルスが二射目を準備する。溜めと宣言から察するに、今度のものは先の物とは比べ物にならないほどの大きさだ。躱すのは恐らく不可能――逃げろとミカエラが叫ぶ。

 だがその絶体絶命においてフェルディナントは笑った。そして両足に力を入れ、力強く大地を蹴った。
 上ではなく、ホムンクルスの方へ。

「愚かな……」

 ゴードンの嘲りとともに放たれた超高温のそれがフェルディナントに衝突した。
 溶かし尽くさんとする光線が嫌な臭いを上げて彼の髪を何本も焼き、耳を塞ぎたくなるような音が洞窟内を反響する。
 そしてその流れ弾を受けて俺達のいた鉄格子も綺麗さっぱり――消失した。

「あ、あ、あぁ……」

 死という単語と最悪の光景が何度も脳内を反芻する。目の端に浮かんだ涙はやがて頬を伝い落ちる。
 そんな中、当のフェルディナントは笑っていた。そしておもむろに光線を鷲掴みにすると、その軌道を上に向けた。
 掘削するかの如く方向転換させられた光線が天井を抜け、空に打ち上がる。

「………………え」

 急激に引っ込んだ涙の代わりに、俺を含めた唖然の声が重なる。
 光線を持ち上げた。
 その圧倒的意味不明な現状に追いつかないまま徐々レーザーは衰え、その姿を消す。

「あ、あ、あり得ん。あり得んあり得んあり得ん! 何をした。貴様いったい何をした!?」
「あ゛? 見てなかったのかよ。俺が光線持ち上げたところをよ」

 ゴードンの問いにフェルディナントは何でもないことのように言う。
 彼に味方したいわけではないが、俺もちょっと意味が分からない。

 鉄を溶かす融点――固体が液体に変化しはじめる温度――はうろ覚えだが1300度は軽く超えていた筈だ。
 幾ら人狼化したとはいえ生身の人間が到底受け止めきれるものではない。だからこそ学問の徒でもあるゴードンにも受け入れ難い光景なのだろう。

 対してそんな驚天動地の行いを容易くやってのけたフェルディナントは後方のフラウディオに文句を放つ。


「ちゃんと防壁張れよ。火傷しちまったじゃねーか」

 そう言って胸元の毛を指差す。
 よくよくそこを見れば小さな、極めて小さな火傷痕があった。

「障壁張り終える前に飛び出した兄さんが悪いよ」
「しょ、障壁だと!?」
「ん?……まあ最初ので大体構造は把握出来たからね。ああ、でもこれが奥の手もしくは切り札だったなら正直拍子抜けかな」
「き、貴様……!」

 ゴードンは歯が砕けんばかりに噛み締める。そして一度動きを止め、高笑いを繰り出した。

「ならば貴様らに真の切り札を見せてやろう!」

 直後、ゴードンの珠が粉々に砕け散り、そこから解放された黒色の気体がホムンクルスを包み、彼女の体を変質させていく。
 ばき、ごき、ぐちゃ、という気味の悪い音とともに骨が突き出し、まるで怪物の変体シーンを見ているかのようだった。

 最終的にクトゥ◯フの神話生物みたいな出で立ちになる彼女。



「うわ、気持ち悪ぃ……」
「きっ、気持ち悪いだと!? この神々しさが分からんというのか」

 心底分かりたくもない。

「お前、美的センス大丈夫か?」
「ぐ、ぬぬぬぬぬ! やれ!」

 憤怒で顔を斑に染めたゴードンがホムンクルスに指令を下す。
 すると腰から下を触手玉と入れ替えた彼女がその腕(触手の方)をグニャグニャと揺らし、無造作に振るった。それに合わせ、ゴードンの体に衝撃が走る。

 触手がゴードンを貫いていたのだ。

 なぜいきなり命令に背いたのか。まるで一時の夢のような、現実感のない光景に、その場にいた誰もが呆気に取られ、精神的衝撃に襲われる。だが次に待ち構えていた光景に否が応でも意識を向けさせられる。

 貫いた触手ごとホムンクルスが捕食を始めたからだ。
 暴走状態だと誰もが察した。
 そして俺の眼にはアレが映る。


 ◆合成型ホムンクルスVer2◆

 Ⅴ爺の研究を引き継いだⅥが作成
 真なる創世神の一柱を模した
 上半身は獣人女、下半身は触手
 僅かに先代聖獣マ・ガミィの意識がある

 現在:《堕天・闇》《飢餓》
 大好物:神聖


 消滅に必要な柴漬け
 157本



 操舵主を平らげたホムンクルスは余韻を楽しんでか、はたまた悶絶してか、顔を伏せたまま停止する。

 嫌な静謐さに息を飲む音がやけに大きく聞こえたとき、それが合図だったように、触手の腕が全方位に伸びた。

 ――刺される。

 来たるべき激痛に備えてきつく目を瞑る。が、一向にそれは訪れず俺は固く閉ざしていた瞼を開く。

 だが痛みは来なかった。
 恐る恐る瞼を開き、見開く。

 眼前にあるのは輝く盾。ミカエラが初めてフェルディナントの攻撃を防いだあの盾だった。

 次いで苦しげなミカエラの声が耳に届く。慌てて振り向けば、更に驚くべき光景が俺を待っていた。
 そこには――俺に右手を突き出したまま、脇腹を触手に刺されたミカエラがいた。
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