転生?憑依? 中身おっさんの俺は異世界で無双しない。ただし予想の斜め上は行く!

くすのき

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12歳編〜まだまだ続くよ漬物は〜

選択3番目


 気泡が泡立つ鍋に触れた皮膚を通して、痛みが走る。

「あつっ、」
「にゃっ!?」
「あぁ、ごめんね。ちょっとまだ熱かったみたい」

 じくじくと痛む指先を耳朶みみたぶにあて、もう片方の手でポチの頭を撫でる。

「にゃ、にゃ!」
「ん、ここ気持ちいいの?」

 可愛らしい仕草に疲れが和らぐのを感じながら、冷やした鍋の中身を瓶に移し入れていく。

「よし、でき――――――――た?」

 しっかりとふたを閉め、何気なく上部の文章を視界に入れた途端、全身が硬直する。


【ラシェルのポーションVer3】

 回復量は極めてすくない
 少量の聖なる力を含んでいる
 回復薬として期待してはいけない

 味を選択してください
 →沢庵
  柴漬け
  ぶぶ漬け NEW!


「――――――――は?」

 完成した水薬を二度見する。
 三角フラスコに近い形状内で揺れる鮮緑――黒みがなく、純色に近い緑――。
 どこからどう見ても回復薬だ。
 回復薬なのだが、その真上に燦然と輝く『ぶぶ漬け』の文字。
 幻覚でも見間違いでもない。
 それを再認識した俺は膝から崩れ落ちた。
 どうしてこうなった。
 いやほんとどうしてこうなった。
 思い当たる節が何処にもない。
 一しきり自問自答を繰り返し、一先ずぶぶ漬けを舐めてみる。

 濃すぎず薄すぎず、お上品な仕上がり。
 これまた祖母の味そのままだ。
 たぶん飲む漬物シリーズ、いや再現シリーズの中で一等旨い。
 旨いからこそ余計に腹が立つ。
 常日頃もう少し飲みやすければと願ってはいた。願ってはいたが、こんな変化球は正直求めてなかった。

「ラシェ~、終わった…………か……。どうした!?」

 入室したフェルディナントが俺を視界に入れるなり、血相を変えて駆け寄る。そして正面に膝をつき、俺の肩を掴んで激しく揺する。

「目眩か? 立ち眩みか?」
「え、あ、大丈夫。大丈夫です。ただ」
「ただ、どうした!」
「その……回復薬に新しい味が出来て」
「新しい、味?」

 フェルディナントの顔が『俺の心配を返せ』と『これは祝うべきなのか』で衝突し――結果、唇をめくり返して凄い物となる。
 なんか申し訳ない。
 
「あ~、つまりなんだ。膝をつくくれー悪いモンなのか?」
「えっと今までの中では、たぶん成功?」
「? 一口もらうな」

 怖いもの見たさか。
 フェルディナントは俺の手から強奪したぶぶ漬けを一口飲み――しわしわピカ◯ュウと化した。いや、色味的にはル◯アか。
 
「マズっ!」

 ルギ◯もといフェルディナントが吼えた。
 俺には飲める範囲だが、この世界の彼等にはぶぶ漬けも受け入れ難いようだ。
 苦笑いの俺に彼がどうにかフォローしようと必死に言葉を紡ぐが、根が正直すぎる所為か、紡げば紡ぐだけ裏目に出る。
 俺は悦に入ったカピバラのように笑う。
 
「だからその――………………悪ぃ」
「大丈夫です」
「いや俺が大丈夫じゃねーし。ハァ……フラウなら、こんな時、すっと気の利いた台詞言うんだろーけどよ」

 バツが悪そうに頭を掻くフェルディナントは少しだけ悔しそうだ。

「ふふっ」
「あ、笑うなよ」
「すみません。フェル様が可愛くて」
「はぁ!? 俺は可愛くなんてねーし。つーか、かっ、可愛いのはラシェだろ!」

「……………………………はい!?」

 何を言ってるのだ、この御方は。
 肉体を間借りしている俺の言えた義理ではないが、ラシェルの美醜びしゅうは良くも悪くも平凡。可愛いの部類には掠ってもいない。

「あの、失礼ですが、目大丈夫ですか?」
「はあっ!?~~~……もういい!」
「はぁ……。あ、そういえばフラウ様の姿がないようですが?」

 話題を双子の弟に切り替える。
 帰りの道中、少しだけ気まずくなってしまった彼が今は居ない。
 その指摘に外方そっぽを向いていたフェルディナントが面白くなさそうに呟く。

「そんなにフラウが気になんのかよ」
「いえ、いつも一緒なので珍しいなと」
「そんなに一緒でもねーよ」

 よく分からないのがお冠なので、これ以上は刺激しないでおこう。

「じゃ、じゃあ俺、道具片付けますね」
「……手伝う」
「本当ですか。助かります」
「! おう、任せ…………あっ」

 取ろうとして器具が手から滑り、床に砕け落ちる。俺は慌てて回収しようとした彼を強盗犯並の大声で制し、ポチと共に安全地帯への退避を促す。
 割れ物の片付けは焦らないのがポイント。
 箒とちり取りで拾い集め、専用の塵箱に投入したら、濡らした雑巾で床を拭いたのち、空拭きして完了だ。

「よし! あとは破損報告書を書いて提出すれば大丈夫です」
「……ラシェはスゲーな」

 ポチ拘束中のフェルディナントが切なげに言う。

「俺だけダセー…………」
「? 別にダサくないですよ」

 硝子割ってダサい認定されたら、全人類皆ダサいやん。

「人には得手不得手があるんですから仕方ありませんよ。あとフェル様がダサいって言うなら、俺はもっとダサいですよ」

 鳩が豆鉄砲を食らったように目を見張ったフェルディナントは破顔した。

「なんだよ、それ」
「?」
「ククッ…………ハーッ。笑った笑った」
「よく分かりませんが、元気が出たようで何よりです」
「おう。――つーか、アイツの姿見えねーけど何処行ったんだ?」
「アイツ? ――! あぁ、グレゴリーでしたら、どうしても外せない用事があるらしく、今は席を外してます」
「はぁ!? アイツ、護衛だろ」
「フェル様。いくら護衛でも四六時中要る訳でもありませんし、強要はしては駄目ですよ」
「けどよ」

 フェルディナントが唇を尖らせる。

「本人も直ぐに戻ると言っていましたから大丈夫です」
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