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13歳編〜もっともっーと漬物〜
⑪
「あー……たった数日なのになんか凄く懐かしい気がする~」
スーパー銭湯入浴後、マッサージチェア使用中のおっさんじみた声を上げながら、級友は机に突っ伏した。
レイフィスト学園文官科2期Aクラス。
教室内は級友と同じ行動を取ったり、雑談に興じる者でそこそこ騒がしい。
中でも飛び交う話題は二つ。
猟奇殺人の犯獣逮捕と、持病薬とサプリメント併用により事故死した講師の冥福を祈るものである。
上層部により操作された“真実”。
それに喜び、そして悼む彼等だが、水源汚染について言及する者は誰一人居ない。
情報統制されているのもそうだが、ぶぶ漬けについても話題に上がらないのは単純にまだ俺達まで回ってこない為だ。念の為、教職員と三期生から中心に配布しているとのこと。
やがて授業道具を持参した担任が教卓に立つ。水を打ったかのように静まり返ったそこで、彼が出席簿を開いた。
次々と生徒の名が読み上げられ、三分もかからない内に彼がホムンクルスいやエェエの名を告げた。
「あい!」
エェエ、通称エーちゃんは元気よく片手を上に上げる。途端、微笑ましい笑いと視線の矢がエーちゃんに集中する。
エーちゃんからすれば皆の真似をしたのに笑われ、見られる理由が分からないのだろう。俺を見上げて『どういうこと?』と首を傾げた。
「えっとね、今のはエーちゃんを可愛いって思ってたの。ほら、あっちでお兄さん達が笑顔で手を振ってくれてるよね。あれもね、エーちゃんに対して仲良くなりたいとか敵意はないよ~って」
俺の説明にエーちゃんは正しく理解したのか、それとも彼らの真似をしてか、軽く手を振り返す。
「やだぁ。可愛い~」
「エーちゃん、エーちゃん。こっちにも手振って~」
全ての催促に応えて手を振るエーちゃんを目にしながら、ふと思う。
このまま教育を重ね、大半の人間は大事にすべき隣人であると認識させるべきではないか、と。
彼はほぼほぼ聖獣コノハナサクヤビである前に、大量殺戮兵器オ・セーロでもある。
もし仮に成功すれば人類にとって非常に喜ばしい。ただ問題は子育て経験のない、ぶぶ漬け大量作成ノルマ付きの俺にその役が務まるか否かだが。
子供が被害者にも加害者にもならないよう気を配りながら、道を踏み外さないよう導いて育てる。
今更ながら子育てと仕事を両立する世のお父さんお母さんを強く尊敬すると同時に彼等はこんな不安な気持ちと日々戦っていたのかと驚く。
「まんまぁ?」
「なんでもない……ううん。良く出来たね、エーちゃん。偉いよ」
「そうしてるとラシェが親みたいだよね」
逆隣の級友ケインが茶化した風に言う。
「からわないでよ。これでも結構苦慮してるんだから」
「えー。僕ぜったい本当の親が迎えにきたら修羅場になる予感しかしないなぁ」
エェエの事は、クラス含め学園には『海向かいの国から商いに訪れた商人の子』として通している。
経緯としては出港の日、両親が目を離した隙に学園都市行き荷馬車に紛れ込み、それに気付かず船室に戻っていると錯覚した結果、一人置いて行かれた、という感じだ。
それで俺とミカエラをパパママと呼ぶのは俺達が彼の両親の面影があるのだと、でっち上げた。
「そんな事にはならないよ」
尚も言い募るケインを軽くあしらい、担任が一限の教科書を手にした。
それを皮切りに生徒達も授業道具を広げ、行儀よく前を見る。
「じゃあエーちゃん。エーちゃんは、これからこのノートで絵描きしりとりしようか。ルールは……そうだね。例えば俺が林檎を書いたら、エーちゃんは最後の文字であるゴまたはコから思いつく食べ物や生き物、植物なんかを書いて続けていくの。それで最後に“ん”がついたり、同じ物は書いたら負け。ここまで分かる?」
「う!」
「良い子。因みに参加賞とは別に、俺に二回勝ったらプレゼントがあるから頑張ってね。最初はエーちゃんからでいいよ」
彼の目が心なしか輝き、鉛筆を握る手に力が入る。
最初の絵は頭蓋骨のようだ。
無駄に上手い。
そしてチョイスが大分おかしい。
「……うん。じゃあガイコツのツで爪」
「う!」(目玉を描く)
「まつ毛」
「う!」(ムチプリの尻)
「蔓林檎」
「う!」(こめかみ)
「ミドリムシ」
「う!」(心臓)
「ごめん。俺の負けでいいから一回、人体から離れよう? ね!」
授業内容が一切耳に入らない。
結局、エーちゃんの戦績は一勝二敗。
若干悔しそうだったが不貞寝かそれとも疲れが勝ったのか、その後は授業が終わるまで俺の膝で良い子に寝てくれた。
「――今日はここまで。各自しっかり復習しておくように」
「え~!!!」
「えーじゃない。臨時休校あけにテストが無かっただけ有り難いと思いなさい」
「先生ありがと愛してるー! 頭ちょっとハゲてて好みじゃないけど」
「よし分かった。明日連続テストな」
「「「ギャー!!!!」」」
担任と他生徒達の漫才を横目に、俺は口角を上げる。普段の日常。
なんてこと無いこの瞬間が凄く眩しい。
「どうしたの、ラシェ?」
「ケイン。ん、なんか日常が帰ってきたなぁって沁み沁みしてた」
「色々あったからねぇ……。まぁこれからもっと騒がしくなるんだけど」
そう言うとケインの表情が怪しく歪む。
「ケイン?」
「あの様子だと連続テスト決定だし、文化祭の準備もあるしね~」
「マジかぁー」
「僕はもうテストは諦めてるけど」
「じゃあオレも諦めよー」
「いやそこは少しくらい頑張ろうよ」
気の所為だったのだろうか。
身動ぎしたエーちゃんを撫でながら、俺は首を傾げた。
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