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最終章〜漬物は世界を救う!〜
Ⅲ
動揺するミカエラ。
その肩に手を置いた祖母は俺、いやフラウディオへ振り返り、天を指差した。
「フラウデオ君、この上を真っ直ぐだ」
「分かりました」
指し示した直後、そこへ向けて氷の蔓が伸びた。氷版ジャックと豆の木を彷彿とする成長速度で増伸すると、薔薇の棘に似た鋭いものが四方八方へと手を広げる。
そして破砕音が響く。
「ん。これで覗き見さ、されねべ」
その言葉から察するに、上空に撮影機器があったのだろう。
「あの、フラウ様。今のは」
「ここに来る道中に嫌な魔法の気配がするって話してたでしょう。だから戦闘中、お祖母様と手分けして捜索していたんだ」「恐らく今壊しだもんで映像さ共有しちょったんじゃろな」
「魔力の臭いから十中八九、あの半吸血鬼の魔法使いでしょう」
「全く気付かなかったぞ……。ツバメ殿はともかく、魔力の臭いなんてよく覚えていたな。――しかし悪趣味な事だ」
皇族特有の美貌を歪め、吐き捨てる。
半吸血鬼――彼等はどうしてそんなにも人間を敵視するのだろう。半分は人の血が混じった存在だというのに。
「ぐ、う」
「! ステイル、大丈夫!?」
「も……もう、しわけありません」
「そんなのいいから!」
まだ細部に残る傷へ回復薬を振りかけ、念の為造血剤も渡しておく。
「それでは次の方、フィールドへどうぞ。もしお出にならないようであれば棄権とさせて頂きます」
「テメッ!」
「さぁ、どうなさいますか」
クローン陛下の問いに、フェルディナントの瞳に瞋恚の炎が宿る。
「野郎、ぶっ殺してやる!」
「待て、次は私が――」
「子供は下がんだ。儂が出る」
* * *
X補佐、イェスマは眉毛を寄せる。
同時に鈍い音を立てて握りしめた魔杖に細かな罅が入る。
自動修復機能を搭載して尚、それが追いつかないほどの損傷が刻まれている。
一拍後、イェスマは肩の力を抜き、その顔に謝罪の色をのせた。
「申し訳ありません。術が破られました」
仰ぎ見た先は後方の玉座。
イェスマが全てを投げ売ってでも護り、付き従う半吸血鬼の頭領X、いやディライゼ・デューク・アイオン・アリスア。
この世でたった二人の第一世代半吸血鬼。
長年苦楽を共にした兄兼夫だ。
ディライゼは頬杖をつき、冷めた目で弟を一瞥し、足を組み替える。
そこにはイェスマを非難するものはない。
だがしかし彼をよく識るイェスマはそれが失望であると理解していた。
虫にも劣る下等生物風情がよくも。
歯噛みしたイェスマは、直ぐに次の映像転送魔法を起動するが、それも数分も経たない内に途切れる。
それどころか新たに起動する度に破壊にかかるまでの時間が狭まり、最後の方に至っては生成直後にまで迫っていた。
それでもめげずにどうにか設置出来たのは以前の場所より遥か上空。
これではもはや何の意味もない。
イェスマの全身が小刻みに震える。
赤黒い瞳が強い殺意に燃やしたその時、ディライゼの豪快な笑い声が木霊する。
それは心から愉快だとばかりに明るく、嫌悪も怒気もない、非常に……イェスマにとっては不穏なものであった。
「血袋の視界をジャックしろ」
「え――! 畏まりました!」
古代に伝わる呪文を唱え、血袋の一体と主の視界をリンクする。
「――ほぅ」
正面――実際には映像――を見据えたまま、ディライゼは興味深そうに呟く。
魔法維持のため自身に付与できないイェスマには彼が何を目撃しているのかは分からない。
「アレを捕らえて遊ぶのも一興だな」
不敵な笑みを浮かべるディライゼ。
それにイェスマの心に嫌なものが走った。
自分の足元が音を立てて崩れていくような、もしくは奈落の底に突き落とされるような強い恐怖だ。
こういう時のイェスマの勘は驚くほど的中する。本来なら直ぐにでも意見すべきところだが、一度のみならず既に数度失態を犯したイェスマにはそれが出来なかった。
「命さえ取らねばロキも文句は言えまい。そうだろう、イェスマ」
「……我が君の仰る通りかと」
何を指しての言葉かは知らない。
だがあの胡散臭い協力者の名が出たのを鑑みるに、あの一行の誰かであるとイェスマは想像する。そして捕縛に必要な魔法ないし魔法具を脳内の引き出しから漁り、瞬時に作戦を組み立てた。
必要なら兄の許可を取って血袋共を動員しても構わないだろう。何故なら今、イェスマにとって最優先事項は、これ以上の失態を犯さず、命令を遂行する。
これに尽きた。
「恐れながら私はどの虫を捕らえれば宜しいでしょうか。お許し頂けるのであれば、このイェスマ、全身全霊をかけ、必ずやご期待に添えてみせましょう」
「そうか、お前は見えぬのだったな。背の引く精霊眼の男だ。――いや、私が直接出向くのも一興だな」
「お、お待ちをっ!――、いえ。出過ぎた発言でした。平にご容赦ください」
「今は機嫌が良い。お前の失言、醜態全て水に流そう――だがな、イェスマ。同じミスだけは繰り返してくれるな」
笑みを浮かべたディライゼに怒りはない。これはあくまで忠告だ。
「ハッ!!」
「ふむ………………下僕共。貴様らは寝所を整えておけ」
広角が裂けるほどに笑んだディライゼは血袋へ命じる。
「お、お待ちを。寝所とはまさか我らの……お願いです、兄様。それだけはどうか、どうか今一度お考え直しを。我らの神聖な場所に斯様な下等生物を招き入れるなどあっては」
それだけは止めてほしいと訴えるイェスマにディライゼは一蹴する。
「だからこそだ。それとも何だ。貴様は半吸血鬼の頭領たる私に些末な寝所に行けと申すのか」
「そっ、それは……――いえ、申し訳ありません」
「では行くぞ」
「っ、畏まりました」
恭しく一礼するイェスマ。けれど伏せたその顔には苦渋が張り付いていた。
当然だ。戯れとはいえ、夫が雌を抱こうとしているなど許せる妻など存在しない。
だがそんな憤りを知らないディライゼは赤い舌で下唇を舐め、未だ映像に映る光景に目を輝かせている。
「視界の共有を解き、転移魔法を行使します。ご承知の事とは存じておりますが、展開中及び転移後は、暫し魔力の使用はお控え頂きますよう願います」
「早くしろ」
注意事項を述べるイェスマに対して、立ち上がったディライゼは煩わしげに眉を寄せ、腕を組む。
「……発動します」
二人の足元に目映い魔法陣が浮き上がった。
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