転生?憑依? 中身おっさんの俺は異世界で無双しない。ただし予想の斜め上は行く!

くすのき

文字の大きさ
112 / 137
最終章〜漬物は世界を救う!〜


 動揺するミカエラ。
 その肩に手を置いた祖母は俺、いやフラウディオへ振り返り、天を指差した。

「フラウデオ君、この上を真っ直ぐだ」
「分かりました」

 指し示した直後、そこへ向けて氷の蔓が伸びた。氷版ジャックと豆の木を彷彿とする成長速度で増伸すると、薔薇の棘に似た鋭いものが四方八方へと手を広げる。
 そして破砕音が響く。

「ん。これで覗き見さ、されねべ」

 その言葉から察するに、上空に撮影機器があったのだろう。

「あの、フラウ様。今のは」
「ここに来る道中に嫌な魔法の気配がするって話してたでしょう。だから戦闘中、お祖母様と手分けして捜索していたんだ」「恐らく今壊しだもんで映像さ共有しちょったんじゃろな」
「魔力の臭いから十中八九、あの半吸血鬼の魔法使いでしょう」
「全く気付かなかったぞ……。ツバメ殿はともかく、魔力の臭いなんてよく覚えていたな。――しかし悪趣味な事だ」

 皇族特有の美貌を歪め、吐き捨てる。
 半吸血鬼――彼等はどうしてそんなにも人間を敵視するのだろう。半分は人の血が混じった存在だというのに。

「ぐ、う」
「! ステイル、大丈夫!?」
「も……もう、しわけありません」
「そんなのいいから!」

 まだ細部に残る傷へ回復薬を振りかけ、念の為造血剤も渡しておく。

「それでは次の方、フィールドへどうぞ。もしお出にならないようであれば棄権とさせて頂きます」
「テメッ!」
「さぁ、どうなさいますか」

 クローン陛下の問いに、フェルディナントの瞳に瞋恚の炎が宿る。

「野郎、ぶっ殺してやる!」
「待て、次は私が――」
「子供は下がんだ。儂が出る」




 * * *




 X補佐、イェスマは眉毛を寄せる。
 同時に鈍い音を立てて握りしめた魔杖に細かな罅が入る。
 自動修復機能を搭載して尚、それが追いつかないほどの損傷が刻まれている。
 一拍後、イェスマは肩の力を抜き、その顔に謝罪の色をのせた。

「申し訳ありません。術が破られました」

 仰ぎ見た先は後方の玉座。
 イェスマが全てを投げ売ってでも護り、付き従う半吸血鬼の頭領X、いやディライゼ・デューク・アイオン・アリスア。
 この世でたった二人の第一世代半吸血鬼。
 長年苦楽を共にした兄兼夫だ。

 ディライゼは頬杖をつき、冷めた目で弟を一瞥し、足を組み替える。
 そこにはイェスマを非難するものはない。
 だがしかし彼をよく識るイェスマはそれが失望であると理解していた。
 虫にも劣る下等生物風情がよくも。
 歯噛みしたイェスマは、直ぐに次の映像転送魔法を起動するが、それも数分も経たない内に途切れる。
 それどころか新たに起動する度に破壊にかかるまでの時間が狭まり、最後の方に至っては生成直後にまで迫っていた。

 それでもめげずにどうにか設置出来たのは以前の場所より遥か上空。
 これではもはや何の意味もない。
 イェスマの全身が小刻みに震える。
 赤黒い瞳が強い殺意に燃やしたその時、ディライゼの豪快な笑い声が木霊する。
 それは心から愉快だとばかりに明るく、嫌悪も怒気もない、非常に……イェスマにとっては不穏なものであった。

「血袋の視界をジャックしろ」
「え――! 畏まりました!」

 古代に伝わる呪文を唱え、血袋の一体と主の視界をリンクする。

「――ほぅ」

 正面――実際には映像――を見据えたまま、ディライゼは興味深そうに呟く。
 魔法維持のため自身に付与できないイェスマには彼が何を目撃しているのかは分からない。

「アレを捕らえて遊ぶのも一興だな」

 不敵な笑みを浮かべるディライゼ。
 それにイェスマの心に嫌なものが走った。
 自分の足元が音を立てて崩れていくような、もしくは奈落の底に突き落とされるような強い恐怖だ。

 こういう時のイェスマの勘は驚くほど的中する。本来なら直ぐにでも意見すべきところだが、一度のみならず既に数度失態を犯したイェスマにはそれが出来なかった。
 
「命さえ取らねばロキも文句は言えまい。そうだろう、イェスマ」
「……我が君の仰る通りかと」

 何を指しての言葉かは知らない。
 だがあの胡散臭い協力者の名が出たのを鑑みるに、あの一行の誰かであるとイェスマは想像する。そして捕縛に必要な魔法ないし魔法具を脳内の引き出しから漁り、瞬時に作戦を組み立てた。
 必要なら兄の許可を取って血袋共を動員しても構わないだろう。何故なら今、イェスマにとって最優先事項は、これ以上の失態を犯さず、命令を遂行する。
 これに尽きた。

「恐れながら私はどの虫を捕らえれば宜しいでしょうか。お許し頂けるのであれば、このイェスマ、全身全霊をかけ、必ずやご期待に添えてみせましょう」
「そうか、お前は見えぬのだったな。背の引く精霊眼の男だ。――いや、私が直接出向くのも一興だな」
「お、お待ちをっ!――、いえ。出過ぎた発言でした。平にご容赦ください」
「今は機嫌が良い。お前の失言、醜態全て水に流そう――だがな、イェスマ。同じミスだけは繰り返してくれるな」

 笑みを浮かべたディライゼに怒りはない。これはあくまで忠告だ。

「ハッ!!」
「ふむ………………下僕共。貴様らは寝所を整えておけ」

 広角が裂けるほどに笑んだディライゼは血袋へ命じる。

「お、お待ちを。寝所とはまさか我らの……お願いです、兄様。それだけはどうか、どうか今一度お考え直しを。我らの神聖な場所に斯様な下等生物を招き入れるなどあっては」

 それだけは止めてほしいと訴えるイェスマにディライゼは一蹴する。

「だからこそだ。それとも何だ。貴様は半吸血鬼の頭領たる私に些末な寝所に行けと申すのか」
「そっ、それは……――いえ、申し訳ありません」
「では行くぞ」
「っ、畏まりました」

 恭しく一礼するイェスマ。けれど伏せたその顔には苦渋が張り付いていた。
 当然だ。戯れとはいえ、夫が雌を抱こうとしているなど許せる妻など存在しない。
 だがそんな憤りを知らないディライゼは赤い舌で下唇を舐め、未だ映像に映る光景に目を輝かせている。

「視界の共有を解き、転移魔法を行使します。ご承知の事とは存じておりますが、展開中及び転移後は、暫し魔力の使用はお控え頂きますよう願います」
「早くしろ」

 注意事項を述べるイェスマに対して、立ち上がったディライゼは煩わしげに眉を寄せ、腕を組む。

「……発動します」

 二人の足元に目映い魔法陣が浮き上がった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?