君とのキスは、涙味。

くすのき

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夏・秋・雪



 厚手のセーターに装備を変え、届いた封筒の封を切る。
 中身はいつもの謝罪文と、あの日から追加された近況報告だ。今日はどんな事があった、学業に本腰を入れる、生まれて初めてアルバイトをした、という極めてどうでもいいもの。
 今回も同じ。ざっと目を通した後は直ぐに専用ファイル行きだ。
 そして定位置に戻す最中、小さな小箱が指に触れる。綺麗に梱包され、まだ一度も開いていない夏史からの誕生日プレゼントだ。一度送り返したものの、また郵送されて手元に帰還した、またの名を引き出しの肥やし。
 雪弥は一つ首を振り、心の中で自分に言い聞かせる。
 これは捨てられないのではなく、自分が正しかったと証明する為のモノ。嬉しいなんて彼の見当違いだ、と。
 何よりプレゼントの返却以外、自らコンタクトを取った試しがないのだ。
 呼吸を整え、役目を終えた封筒、否、切手を見やる。
 消印に隠れたそれは、天人菊てんじんぎく
 ある時から気付いたそれにも夏史からのメッセージが秘められていた。
 直近のものを並べて、紫陽花、無花果いちじく、シクラメン、テコフィレア、ルリヤナギ、ダリア、イソギク、鈴蘭、桔梗……。最初は花言葉かと調べて喧嘩売ってんのかこの野郎と拳を握ったが、頭文字を繋げて『あいしてる
だいすき』そして次の『きづいて』。
 よくまあやるものだと感心すると同時に、案外ロマンチストだったんだなと今では呆れている。

「(本性を知る前の馬鹿な僕だったら、きっと飛び上がって喜んでいたんだろうなぁ……)」

 虚しさに耽っていると、急に部屋の扉が開いて風呂上がりの秋麿が顔を出す。

「雪ちゃん、次、風呂どぞー」
「っ、うっ、うん。今行く。っていうか秋くん、ノック」
「あ、忘れてた」

 慌ててファイルと封筒を引き出しに隠した雪弥は平静を装おうと、秋麿の行為をやんわりとがめるが、挙動不審なのはどうしても否めない。

「もー、次は気を付けてね。あ、それと家の中とはいえ冬なんだから薄着は駄目だよ。風邪引いちゃう」

 秋麿を押し退けて廊下に出る。

「大丈夫。俺、昔から風邪引いても寝ればすぐ治るから」
「いや僕に移されたら困るの。頑丈な秋くんと違って僕は1.5倍風邪菌が強くなって寝込むんだよ」
「じゃあその時は責任をとってつきっきりで看病するね」
「しゅーうーくーんー」
「ごめん。冗談冗談」

 上着取ってくると自室のドアを開ける秋麿を見送り、雪弥は風呂に入るべく一階への階段を降りる。
 この時の彼は知らない。
 夏史の手紙を落としていたことを。
 それを秋麿に見られていたことを。
 引き出しに鍵をし忘れたことを。
 そして彼にすべての中身を見られてしまうことも。差出人が誰であるかも知られてしまうのも――。
 この時の彼はまだ知らない。

「……なんだよ、これ」

 愕然がくぜんとした秋麿の声が部屋に溶けた。









「あ~……風呂上がりのフルーツ牛乳は染みるぅ」

 もこもこのパジャマに身を包んだ雪弥は、はふぅと息をついた。

「あ、秋くん。秋くんも飲、わっ」

 気配なく現れた秋麿に一杯すすめようとした矢先、黙して近付いた秋麿が雪弥を抱きしめる。

「……雪ちゃん」
「え、え。どっ、どしたの秋くん」

 突然の事に一時停止するも、何かあったのだと悟った雪弥は秋麿の背を軽く撫でる。

「大丈夫。大丈夫だよ。もしかしてまたゴキ、Gなアイツでも出た?」
「……それよりヤな蜘蛛みたいな奴」
「よし、秋くんは此処にいて。僕が今すぐブチ殺してくるから」

 蜘蛛は益虫だが、秋くんを怖がらせるなら戦争も辞さない。
 実は何を隠そう、秋麿は大の蜘蛛嫌いなのである。子供の頃に噛まれてトラウマになったのだそうだ。
 一向に緩まない拘束に、量か大きさか予想していたところへ秋麿が否定の声を上げる。

「本物の蜘蛛じゃなくて、」
「? っぽい奴って事?」

 秋麿はこくりと頷く。

「雪ちゃんがまた食べられる」
「秋くん。僕、蜘蛛にも蜘蛛っぽいのにも生まれてこの方食べられた記憶はないよ」

 秋麿は答えない。
 よほど、ごちゃったトラウマフラッシュバックなのだろう。

「……雪ちゃん」
「んー?」
「アイツに近付かないで」
「大丈夫。僕から進んで近寄ったりしないし、傍にいたらちゃんと息の根は止めておくから」
「……雪ちゃんが物騒」
「? 普通じゃないの?」

 首を傾げる雪弥に、トラウマ解除された秋麿は拘束を解いて笑った。








※豆知識・花言葉Ⅱ※

紫陽花(白):一途な愛情
無花果:実りのある恋
シクラメン(赤):愛情、絆
テコフィレア:不明
ルリヤナギ:胸の痛み、恋の痛み
ダリア:気まぐれ、裏切り
イソギク:感謝
鈴蘭(白):再び幸せが訪れる
桔梗:永遠の愛

さて、雪弥が一番キレたのはどれでしょう?
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