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不安と考察 SIDE:秋麿
SIDE:秋麿
「じゃあ僕、先に休むね」
「うん。おやすみ……あ~――」
寝ぼけ眼の雪ちゃんが見えなくなるまで見送り、扉の閉まるのを待った俺はその場に力なく蹲った。
覆った顔は後悔と羞恥に染まり、脳内には先程の失態がまざまざと甦る。
あの男をぼかした結果、超絶蜘蛛嫌いだと誤認された。
いや確かに幼少期はそうだったが、今はそれほどではない。だがしかし否定したところで強がりか、最悪あの部屋荒らしが露見する可能性があり、口を噤んだ。
『秋くんは僕に絶対嘘ついたりしないから』
彼の言葉が胸を突き刺し、罪悪感で押し潰されそうだ。
「俺どうしたら……――そうだ!」
携帯を取り出してSMSを開く。
相手は数ヶ月前、合コンで出会ったあの女性達だ。
あの後、彼女達には雪ちゃんとの仲を取り持つアドバイザーとして今も秘かに繋がりを持っていた。
俺が夜遅くにすみませんが相談いいですか、とお伺いをたてると、彼女達から一斉に了承の絵文字がつく。
「えっと……雪ちゃんの部屋で糞野郎の手紙を見つけてしまいました。これ俺はどう行動すべきですか、と」
打ち込んで一拍、立て続けの通知がくる。
『え、糞野郎ってアイツだよね?』
『ちょっと待って。雪ちゃんの部屋でって勝手に漁ったの!?』
『ごめん。最初から説明して』
『うん、話はそれからだよね』
それを最後に通知がピタリと止む。
なんだか取り調べを受けているみたいだと若干の居心地の悪さを覚えつつ、経緯を複数回に分けて書き込む。
・手紙は、雪ちゃんを呼びに行った際に床に落ちたものを拾いました。
・雪ちゃんは落ちた事に気付いてなくて、俺が元の場所に仕舞う時に見てしまいました。
・手紙は全て差出人のない花柄の便箋で内容は男の字で謝罪と近況報告。
・消印は昨日の物からかなり前のも有り。全部丁寧にファイリングされてて、奴からと思しき開封してないプレゼントもありました。
・雪ちゃんは俺が漁った事を知りません。
震える指で送信を押す。
その一分後、彼女達から『ないわ~』とお叱りの文章が届く。
その通りなので反論は出来ず、俺はbotのようにハイの二文字だけを打っては送信する。
『秋麿くんは絶対折を見て雪ちゃんに謝るんだよ!』
『ハイ』
『その時は下手な言い訳もしない事!』
『ハイ』
『それでどう動くべきかって訊きたいんだよね? 秋麿くん自身は正直どうしたいの?』
その一言に体が強張った。
少し悩んで、気持ち的には手紙とプレゼントを処分したいと打つ。
途端、止めろの連続投下が来る。
『気持ちは分かるけど、クリスマスに告白するんだよね? やったら百%断られるよ』
「そうなんだよね……」
俺だって頭では分かっている。
でも不安なのだ。
手紙を受け取ったあの時の顔。
雪ちゃんは優しいから。
またあの蜘蛛のような狡猾な男に騙されて傷つくんじゃないのか。
不安で不安で堪らない。
『というか雪ちゃん、いい加減引き摺りすぎでしょ。もう四ヶ月だよ』
『幾らなんでも長すぎ』
『そうなんだけどさ~。うーん、でもなぁ』
『なになに?』
『いや、アタシの勘違いだったらごめんなんだけど、雪ちゃん引き摺ってるっていうより何か別の目的があるんじゃない?』
俺抜きで彼女達がトークに花を咲か、いや考察を始める。
『皆はさ、酷い事されて、でもまだ好きな相手から連日謝罪とプレゼント貰ったらどうする?』
『一応目は通してプレゼントも開けるかな。それで捨てるか売るか、とっておくか決める。許すかは別として』
『私も』
『あ、なーる』
何がなるほどなのか。疑問符を浮かべる俺に一人が雪ちゃん自身は返信した形跡はあるのか尋ねてくる。
「多分ないと思うよ。文面から文通してる感じは何処にもなかった」
『じゃあ考えられるのは、仕返しか確認じゃないかな』
『あー、有り得るかも』
「ごめん。俺にも分かるように説明してもらってもいい?」
全く意味が分からない俺は首を捻るばかりだ。
『えっとね、前提として雪ちゃんは多分屑男を全く信じてない。だから手紙は読むけど、これも全部パフォーマンスで相手はコンタクトを取ってくるのを待っている、絆されるように仕向けてるんだと解釈してる。だから彼が諦めるのを待ってるんじゃないかな』
『あとコレはアタシの想像だけど、手紙が途切れるかした時に雪ちゃん反撃するのかも』
『全部の手紙とプレゼント、送りつけて“作戦失敗おめでとう”って? えっぐ! だとしたら雪ちゃん相当策士だし怨み凄いんだけど』
「……え。じゃあ、雪ちゃんは別に絆されてるわけじゃない?」
あの嬉しそうな顔も反撃の為?
彼女達の予想に先程まで感じていた罪悪感と焦燥が嘘のように晴れていく。
『まあ自信はないんだけど』
『いやいや絶対それでしょ。じゃなかったらプレゼントそのままは流石に説明つかなくない?』
『秋麿くん、告白したらついでに訊いてみたら?』
「いやまだ成功するかも分からないし、当たって砕けろじゃないから」
お気楽なそれに俺は肩を落とした。
「じゃあ僕、先に休むね」
「うん。おやすみ……あ~――」
寝ぼけ眼の雪ちゃんが見えなくなるまで見送り、扉の閉まるのを待った俺はその場に力なく蹲った。
覆った顔は後悔と羞恥に染まり、脳内には先程の失態がまざまざと甦る。
あの男をぼかした結果、超絶蜘蛛嫌いだと誤認された。
いや確かに幼少期はそうだったが、今はそれほどではない。だがしかし否定したところで強がりか、最悪あの部屋荒らしが露見する可能性があり、口を噤んだ。
『秋くんは僕に絶対嘘ついたりしないから』
彼の言葉が胸を突き刺し、罪悪感で押し潰されそうだ。
「俺どうしたら……――そうだ!」
携帯を取り出してSMSを開く。
相手は数ヶ月前、合コンで出会ったあの女性達だ。
あの後、彼女達には雪ちゃんとの仲を取り持つアドバイザーとして今も秘かに繋がりを持っていた。
俺が夜遅くにすみませんが相談いいですか、とお伺いをたてると、彼女達から一斉に了承の絵文字がつく。
「えっと……雪ちゃんの部屋で糞野郎の手紙を見つけてしまいました。これ俺はどう行動すべきですか、と」
打ち込んで一拍、立て続けの通知がくる。
『え、糞野郎ってアイツだよね?』
『ちょっと待って。雪ちゃんの部屋でって勝手に漁ったの!?』
『ごめん。最初から説明して』
『うん、話はそれからだよね』
それを最後に通知がピタリと止む。
なんだか取り調べを受けているみたいだと若干の居心地の悪さを覚えつつ、経緯を複数回に分けて書き込む。
・手紙は、雪ちゃんを呼びに行った際に床に落ちたものを拾いました。
・雪ちゃんは落ちた事に気付いてなくて、俺が元の場所に仕舞う時に見てしまいました。
・手紙は全て差出人のない花柄の便箋で内容は男の字で謝罪と近況報告。
・消印は昨日の物からかなり前のも有り。全部丁寧にファイリングされてて、奴からと思しき開封してないプレゼントもありました。
・雪ちゃんは俺が漁った事を知りません。
震える指で送信を押す。
その一分後、彼女達から『ないわ~』とお叱りの文章が届く。
その通りなので反論は出来ず、俺はbotのようにハイの二文字だけを打っては送信する。
『秋麿くんは絶対折を見て雪ちゃんに謝るんだよ!』
『ハイ』
『その時は下手な言い訳もしない事!』
『ハイ』
『それでどう動くべきかって訊きたいんだよね? 秋麿くん自身は正直どうしたいの?』
その一言に体が強張った。
少し悩んで、気持ち的には手紙とプレゼントを処分したいと打つ。
途端、止めろの連続投下が来る。
『気持ちは分かるけど、クリスマスに告白するんだよね? やったら百%断られるよ』
「そうなんだよね……」
俺だって頭では分かっている。
でも不安なのだ。
手紙を受け取ったあの時の顔。
雪ちゃんは優しいから。
またあの蜘蛛のような狡猾な男に騙されて傷つくんじゃないのか。
不安で不安で堪らない。
『というか雪ちゃん、いい加減引き摺りすぎでしょ。もう四ヶ月だよ』
『幾らなんでも長すぎ』
『そうなんだけどさ~。うーん、でもなぁ』
『なになに?』
『いや、アタシの勘違いだったらごめんなんだけど、雪ちゃん引き摺ってるっていうより何か別の目的があるんじゃない?』
俺抜きで彼女達がトークに花を咲か、いや考察を始める。
『皆はさ、酷い事されて、でもまだ好きな相手から連日謝罪とプレゼント貰ったらどうする?』
『一応目は通してプレゼントも開けるかな。それで捨てるか売るか、とっておくか決める。許すかは別として』
『私も』
『あ、なーる』
何がなるほどなのか。疑問符を浮かべる俺に一人が雪ちゃん自身は返信した形跡はあるのか尋ねてくる。
「多分ないと思うよ。文面から文通してる感じは何処にもなかった」
『じゃあ考えられるのは、仕返しか確認じゃないかな』
『あー、有り得るかも』
「ごめん。俺にも分かるように説明してもらってもいい?」
全く意味が分からない俺は首を捻るばかりだ。
『えっとね、前提として雪ちゃんは多分屑男を全く信じてない。だから手紙は読むけど、これも全部パフォーマンスで相手はコンタクトを取ってくるのを待っている、絆されるように仕向けてるんだと解釈してる。だから彼が諦めるのを待ってるんじゃないかな』
『あとコレはアタシの想像だけど、手紙が途切れるかした時に雪ちゃん反撃するのかも』
『全部の手紙とプレゼント、送りつけて“作戦失敗おめでとう”って? えっぐ! だとしたら雪ちゃん相当策士だし怨み凄いんだけど』
「……え。じゃあ、雪ちゃんは別に絆されてるわけじゃない?」
あの嬉しそうな顔も反撃の為?
彼女達の予想に先程まで感じていた罪悪感と焦燥が嘘のように晴れていく。
『まあ自信はないんだけど』
『いやいや絶対それでしょ。じゃなかったらプレゼントそのままは流石に説明つかなくない?』
『秋麿くん、告白したらついでに訊いてみたら?』
「いやまだ成功するかも分からないし、当たって砕けろじゃないから」
お気楽なそれに俺は肩を落とした。
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