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二度目のクリスマス。
月日の流れは早いもので、あれから雪弥は大学二年となった。学業は相変わらずそれなりに忙しく、また進級のタイミングで開始した一人暮らしにより、今日までそこそこ充実した毎日を過ごしていた。
12月24日。
本日最後の授業を終え、廊下を出た雪弥は周囲の喧騒に足を止めた。辺りは男女問わずやれデートだ、やれ告白だと色めき立つ。
流石クリスマスイブだ。
常日頃明るいリア充軍団がさらに浮き足立ち、何処も彼処も甘ったるい空気を発している。ふとその中の一組、先日グループ課題を共にした同期と年下らしい女性のカップルが目にとまる。まだ交際して間もないのか、かつての雪弥と夏史のようで初々しい。
微笑ましく眺めているとその近くで談笑する同期の一団、その内の一人と目が合い、その人物が雪弥に向けて軽く手を上げた。そして親しげに雪弥を渾名で呼ぶ。
「ユッキー。オレ等、これから遊びに行くけど一緒にどうよ」
「誘ってくれてありがと。でもごめん。今日は先約があるんだ。また声かけてくれると嬉しい」
「カッー! ユッキーもかよ!」
悔しがる彼らに苦笑いを返した刹那、衣嚢に納めていた雪弥の携帯が微かに揺れる。
取り出して見れば、どうでもいいDMの下に最も好きな名前が一つ。
直ぐさま開いたトークルームには今日の帰宅時間と手料理のおねだり、そしていつもの愛を叫ぶ針鼠のスタンプが表示されていた。
それを見た雪弥の表情が綻ぶ。
「もしかして噂をすればって奴ぅ~」
「そんなとこ。じゃあ僕もう行くね」
軽く手を振り、一歩踏み出した雪弥の左耳がきらりと光る。真ん中に紫の石を嵌めた黒薔薇の形の小さなピアス。
「あぁ~……やっぱダメか」
最初に雪弥に声をかけた陽の者が項垂れる。その顔は友人に断られて気落ちしたものではなく、秋麿が向けていたものに近い。
「誰だよ。相手が三年なら別れやすいなんて嘘言ったの」
「どんまい」
「ナイスファイト、阿達」
恨みがましげに言う友を男達は口々に慰める。
「まあでもあんな顔見せられたらな」
「だな」
「つかよ、今日のユッキー、ピアス違ってたくね?」
「そうか。同じじゃね?」
「違う。普段はハリネズミのやつで、今日のは黒薔薇と紫の石。服も今日はいつものプチプラじゃない」
「お前そんなとこまで見てたのかよ。キモっ!」
告る前に玉砕した男の発言に友人たちが唇を引き攣かせる中、内一人が何かに気づく。
「だとしたらあのピアス、彼氏からのプレゼントじゃね。独占欲ヤバすぎ」
「何がどうヤベェの?」
「いやな、黒薔薇の花言葉って怖いのもあっけど永遠の愛、貴方は私の物って意味もあんだよ」
ほらっとスマホの検索記事を開いて見せる。
「……追い打ちやめてくんね?」
空が闇色に染まった午後七時。
大して好みでないお笑い番組の音が流れる中、食卓に食事を並べる。
香ばしい醤油の匂い漂うチキン、クリスマスリースサラダ、茸たっぷり玉子とブロッコリーのグラタンが今晩のメニューだ。
雪弥は夏史のエプロンを脱いで両腰に手を添える。成人男性二人分にしてはやや少なめに思える量だが、〆いやデザートに夏史の買ってくるケーキを計算に入れれば、たぶんちょうど良い量になるだろう。
あとは夏史を待つだけだ。
携帯のトークルームには三十分前にあと少しで到着すると書かれている。インターン先の須天グループ子会社から此処までは確か片道40分なので経験上、寄り道したとしても到着するまであと10分ないし15分ほど。
交際して初めて二人で迎えるクリスマスイブ。同時に雪弥が夏史を見定める期間最終日でもある。既にもう答えは出ているけれど愚直に守らせ、尻に敷いた結果、夏史はやり遂げた。
腹の奥がキュンと疼く。
23時をまわった瞬間に襲うつもりだが、一年ブランクの自分に上手く受け入れられるか、気持ち良くさせてあげられるか不安な反面、早くナカに納めたくて暴いて欲しくて堪らない。
禁欲期間が長すぎて夏史の顔を、体を、声を思い浮かべるたび、軽い発情が止まらなくなってしまう。
「ただいま」
自然と後ろに伸びた手で自らを慰めていた時、玄関から夏史の声が聞こえてくる。
「…………おっ、おかえりっ!」
「どうしたんだ、そんなに慌てて。もしかして食器洗ってたりしたか。危ないから出迎えは無理してしなくていいんだぞ」
「……別に無理はしてない」
「そっか。嫌な気持ちにさせて悪い。雪が転ばなくて良かった。出迎えてくれてサンキュな。実はすげー嬉しい」
素直な感謝を聞いて小さな怒りを解いた雪弥は夏史に抱き着いた。
シトラスでない珈琲の苦い香り。
でもこの香りも悪くない。猫が自分の匂いを擦りつけるみたいにちょっとだけ頭を押し付けていると、夏史が喉の奥を震わせて、片手に持った白い箱を雪弥の目の位置に移動する。
「お土産。前に雪が旨そうって言ってたラ・メールのブッシュ・ド・ノエルだぞ」
ブッシュ・ド・ノエルとはクリスマスの定番とも囁かれる丸太を象ったケーキだ。直訳するとクリスマスの丸太らしく幾つか意味というか諸説あるらしいがその辺は割愛する。ともかく三週間前のお家デートでクリスマスケーキ特集として放送され、何気なく呟いたそれが目の前にある。
特別強請ったり、もの凄く欲しいアピールをしたつもりはなかったけれど、まさかしっかり覚えられているとは思わなかった。
「雪?」
「夏くん最高! 愛してるっ!」
雪弥は満面の笑みを浮かべ、更に抱き着いた。その喜び方はサンタさんから最高のクリスマスプレゼントを貰ってご満悦の子どものようだ。用意したサンタこと夏史も雪弥の喜びように笑みを深めている。
「俺も愛してるよ」
「ふふっ、夏くん。擽ったい」
「悪い。つうかスゲーいい匂い。腹減ってきた」
「うん、少し前に出来上がったばっかりだよ。夏くんご希望の茸グラタン僕スペシャルも作ってあるよ」
そう告げると夏史の表情が輝き、雪弥の方は柔らかく微笑み、さっきと完全に逆転した。
「じゃあ手洗いうがい、ううん。お風呂入っておいでよ。お湯はもう張ってあるからさ」
僕はもう頂いたからと少し恥ずかしそうにする雪弥だが、夏史はそれに気づく余裕はない。それどころか雪弥にケーキを預け、一目散に浴室へと駆けていってしまう。そんなにお腹が空いていたのだろうか。
ケーキを冷蔵庫に片し、床に脱ぎ捨てられた冬物コートと鞄を拾い集めながら所定の場所にしまい込む。
そうして20分ほど経過すると、急いで入浴を終えた夏史が出てきた。
「上がった。飯食べようぜ!」
「夏くん、髪の毛まだ少し濡れてる。料理は温めればいいし逃げないからちゃんと乾かしてきて」
「いやこれくらい大丈夫」
「な・つ・く・ん?」
「………………はい」
雪弥の笑顔の圧に負けた夏史がスゴスゴと洗面所にUターンする。しっかり尻に、いや手綱を握っているようだ。
ドライヤーの音を聞きながらチキンとグラタンを温め、乾杯用のお酒を用意する。
「夏くんは辛口のスパークリングワインで、僕のは……今日は酔わないように軽めのレモンサワーにしよっと。ふふっ。夜には性的に襲われて、朝起きたら隠したクリスマスプレゼント。夏くんどんな反応してくれるかな?」
「雪ー、乾かした!」
「だから早いってば!」
※次回はR18最終回です※
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