悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ

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放課後はケーキと噂と悪口で

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 私たちは、学校からほど近いカフェに入る。
 休息日ともなれば、生徒でごった返すこともあるけど、今日はすんなりとテーブルにつくことができた。
 しばらくして、注文したケーキとお茶のセットが運ばれてくる。

「やっぱり、そっちも、おいしそう」

 私のチョコレートケーキを見て、エリーが言う。彼女は最後の最後まで悩んで、フルーツタルトを選んでいた。

「一口、食べる?」

 尋ねると、エリーは、「え?」と驚いた様子で、目を瞬く。
 もしかして、こっちの世界じゃ、ケーキのシェアとか、はしたないことだったっけ? そういえば、ティナとはシェアしたことはなかったけど。
 考えている間に、

「じゃ、遠慮なく」
 
 エリーのフォークが突き刺さっていた。その言葉通り、少しの遠慮もない。一口どころか一欠片、えぐり取っていく。
 まだ一口も食べてないのに、三分の一が消えてしまった。

 嘘でしょ。

 呆気にとられていたら、「はい、これ!」と、フルーツタルトが、返ってきた。持っていかれた以上の大きさがある。続けてエリーは、気前よくティナにもおすそ分けをした。

 ……はい、ごめんなさい。大人げがありませんでした。

 心の中で、エリーに謝って、私も残ったケーキを半分に切り分け、ティナのチーズケーキと交換する。
 三つのケーキは、どれも美味しくて心が癒やされた。

「二人とも、今日は本当にありがとう」

 ケーキを食べ終えたあとで、私は改めて頭を下げた。

「お礼を言われることでは、ありませんわ。きちんと調べもせずに、初めからロベリアを犯人だと決めつけていましたもの」
「ホント、今、思い出しても腹が立つ。結局、うやむやになったけど、あれって、スカーレットが自分でやったってことでしょ?」

 多分と、私はうなずく。

「でも、スカーレットがやったという証拠もないから」
「だよね……でも、最後はいい気味だった! ロベリアに裁判って言われて、オロオロしちゃって。ホント、いい気味よ。私、あの子には散々な目に遭って、腹を立てっぱなしだったから」

 エリーが笑ったあとで、「実は」と、ティナも切り出した。

「わたくしも、スカーレットさんには、少し腹が立っておりました」
「そうなの?」

 何だか意外だった。
 ゲームでは常にロベリアの右側にいて、悪役令嬢の一味だったけど。ここでは、彼女が誰かの悪口を言ってるのは、聞いたことがない。

「スカーレットさんは、転入してきて、すぐに、ルカ様と仲良くなって……とても、うらやましく思っていたのです。わたくしなんて、この二年で挨拶を交わすくらいしか、ルカ様とおしゃべりしたことありませんのに!」
「そうだったの?」

 ティナがルカを? 
 ずっと一緒にいたのに、初めて知った。同時に、悪役令嬢の側についていたのは、ただの幼なじみというだけでなく、そんな裏設定があったのからかと、納得もする。

「わたくしだって、スカーレットさんとルカ様が、両思いになられて、二人がお付き合いを始めるのなら、それは仕方のないことだと、諦めておりました。わたくしは、ルカ様を眺めるばかりで、声をかけることもできなかったのですから……それなのに、」

 彼女は、ぎゅっと拳を握りしめ、大きなため息をこぼす。こんなティナも、私は初めて見た。

「それなのに、スカーレットさんは、ジョシュア様とも仲良くしだして。あれほど、ルカ様にベタベタとしていたのに」
「分かる」

 エリーが、しんみりと言う。

「好きな人がさ、自分以外の女子とすごく仲良くしてるのはイヤだけど、その女が別の男子とも仲良くしてるのも、それはそれで腹が立つんだよね。『私の好きな人は、本命がダメだった時の保険なの⁉』って」
「えぇ、本当に!」

 エリーとティナは、手と手を握り、うなずきあった。
 私は二人の話を聞きながら、やっぱり、スカーレットは転生者かもしれないと、思っていた。しかも『マジですか』を知っている可能性が高い。
 スカーレットは今、ダグラスとルカ、ジョシュアの三人を攻略中・・・なのだろう。共通ルートでの複数同時攻略は、『マジですか』のあるあるだし。

「それにしても」

 ふと、エリーがつぶやいた。

「学校中のイケメン集めて、スカーレットはハーレムでも作る気?」

 エリーのその言葉に、横の席に座っていた女子が、「えっ?」と、こちらを見た。

「ちょっと待って。ねぇ、今の話、スカーレットがハーレムって、何?」

 話に割り込んできたのは、見覚えのある、隣のクラスの子だった。
 ちなみに、希少な聖属性の持ち主ということで、途中編入してきた特別待遇のスカーレットは、全校生徒が知る有名人でもある。

「スカーレットって、イケメンばっかり狙って、次々と仲良くなってるみたいだから」

 エリーが説明した。

「何それ?」
「どういうこと?」

 彼女の方も三人のグループで来ていて、ガタガタとテーブルをこちらへ寄せてきた。

「スカーレットって、最近、うちのクラスのオーランドとも仲がいいんだけど⁉」
「私は、この間の休息日、ちょうど、このカフェで、マーティン先輩とお茶してるの、見た!」
「でも、あたし、あの子が付き合ってるのは、一年のアンセルって子だって聞いたよ? しかも、三年のダグラス先輩と二股かけてて、それって、二人が鉢合わないよう、学年が別々なんだってウワサ!」

 次々、飛び出す彼女たちの話に、私たちも驚いた。

「結局、何股なの?」
「今のところ、六股ですわね」

 一体、誰がスカーレットの本命なのかと、話が盛り上がる。
 みんなで追加のケーキを頼んで、ますます会話も弾む。そのうちに、話は段々、スカーレットの悪口へと変わっていった。六股疑惑も浮上して、みんな、思うところがあるらしい。これまた、大いに盛り上がったところで、お開きとなった。

 自宅通学の子たちと別れ、寮に戻った私は、確信していた。

 オーランドに、マーティン、アンセル。そして、ダグラス、ジョシュア、ルカ。
 六人全員、『マジですか』の攻略対象。そこだけを狙って近づいている。学校には他にも大富豪のイケメン御曹司や、イケメン留学生だっているのに。
 これはもう、間違いない。
 スカーレットも転生者。そして、そこそこ『マジですか』をやったことがあるはず。

 そう思えば、髪飾りの件も納得できた。
 私に悪役をやらせるため、ゲームと同じようなイベントを起こそうとしたのだろう。

 それにしても……。

 ここは確かに『マジですか』の世界だけど、この世界はゲームじゃない。
 食べた分だけきっちり太るし、ニキビもできる。攻略キャラだって、ゲームスチルみたいにいつだってキラキラしてるわけじゃない。隠しキャラのバーノンは、水曜以外もうろうろしてるし、攻略対象に思いを寄せる女の子もいる。
 それなのに、ゲームの攻略と同じように行動していたら。

『スカーレットって、なんか、ムカつく!』

 思い出したのは、三人組の一人がつぶやいた言葉だった。
 学校の人気者とばかり仲良くなれば、そう思われるのも当然。これには、あの場にいた全員がうなずいたのだった。


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