花は桜、愛でるべし〜女学生がじれじれな初恋と敵討ちを全うするまで〜

倉桐ぱきぽ

文字の大きさ
3 / 6
1華族十三家

上官は幼なじみ

しおりを挟む
 大きな木の陰まで来て、宗右真が振り返った。
 無駄に整った顔立ちは、ちょっとした微笑みも極上の笑顔に見せてしまうが、その逆もあるわけで。ジロリとにらみつけられて、左久夜は思わずたじろいだ。

「お前、何、勝手なことをしている。作戦中の命令無視は許されない」
「あ、あたしは、務めを果たしただけ……臨機応変にって言ったのは、ソウちゃんでしょ!」
「作戦中は、少佐と呼べ」

 いつもは気をつけてる。ついつい、呼んでしまっただけと、左久夜は口を尖らせた。
 宗右真とは、子供の頃からつき合いがあり、兄みたいなものだ。時々は、口うるさい父親のようでもある。

「臨機応変にと言う、橘しょ・う・さっの指示に従ったまでです」

 左久夜は、ツンッと言い返した。

「すぐに追いついただろうが」
「あたしがやる方が、早かったです。討伐対象を逃しては、元も子もないと思いますが」

 左久夜の言葉に、宗右真があからさまに舌打ちする。

「あー、クソっ」

 がらりと口調を変え、悪態をついた。
 かと思えば、宗右真の腕が、いきなりこちらへ伸びてきて。肩を小突かれた左久夜は、ふらついてしまう。それほど強い力ではなかったのに、足に力が入らない。

「あ」

 後ろへよろめいた体を、宗右真に支えられる。

「ほらみろ。フラフラじゃねぇか。立ってるのもやっとだろ。強がってんじゃねぇよ。鬼姫を継いで、まだ三ヶ月なんだから、無茶はするな」
「無茶なんかしてない! です!」

 左久夜は、支えてくれた腕を払いのけ、反射的に言い返した。

「嘘つけ。お前は、昔っからそうだ。派手に転んで、血ぃ流してんのに、『痛いか?』って聞くと、必死の形相で『痛くない』って答えんだよ」
「それは、子供の時の話ですけど!」

 左久夜がむきになって言うと、宗右真は大袈裟に「はっ」と笑う。

初陣ウイジンで、ビビって、ずっこけてたのは、どこのどいつだ」
「あれは足場が悪くて、すべっただけ! です! 今日は、ちょっと寝不足気味で……とにかく、あたしは、十三家当主の務めを、果たさなくちゃいけないんです!」

 叫んだ左久夜に返ってきたのは、大きなため息だった。
 宗右真がこれみよがしに、軍服のポケットから眼鏡を出して、もったいぶったようにゆっくりとかける。

「左久夜」
「な、何?」

 宗右真は作戦中なら名字で、普段ならサクと呼ぶ。それが、いつになく真面目な声で名前を呼んだので、身構えた。

「お前が務めだって言うなら、俺には俺の務めがある。いいか。鬼姫は、お前を助けてくれる親切なお友達じゃねぇ。下手すりゃ、お前が食われるんだ」

 そこで、宗右真は言葉を切った。
 チリンと涼やかな音が響く。その一拍あとには、太刀の切っ先が左久夜の鼻先に突きつけられていた。柄頭ツカガシラに結ばれた、小さな鈴がチリンと涼しげに揺れている。

「俺に、お前を斬らせるな」
「……」

 左久夜は、刀越しに宗右真を見上げた。

 華族十三・・家に、十二・・神将。

 十二神将を持たない家、それが橘だ。十三家の筆頭でもある橘は、監視者であり、始末者であった。

 十二神将の力は、強大だ。
 それゆえ、使役者であるはずの当主が、十二神将に飲み込まれることも起こりうる。そうして、体を乗っ取られたり、力を暴走させたりした時には、橘がその当主ごと斬る役目を担っていた。そのために、橘家が受け継いでいるのが、宗右真の持つ太刀だ。

 とは、華族を断つ者、つまり

 幼なじみだろうが、容赦はしない。宗右真はそう言っている。そもそも、斬りたくないとは言わなかった。

(でも、土蜘蛛は……父様のカタキは、あたしがとらないと……)

 左久夜は声には出さず、拳を握りしめる。
 その時、「少佐」と声がかかって、宗右真が視線を外した。

「帰投準備、整いました」

 女性士官が告げる。

「分かった。ご苦労。すぐに行く」

 宗右真はにっこりと笑って、愛想よく答えてから、左久夜の腕をつかむ。

「ちょっと、離してよ」
「話は、まだ終わってねぇ」

 宗右真が、にらみつける。
 先ほどの女性士官との、態度の差は何なのか。左久夜は無性に腹が立った。

「離してよ。どスケベ!」
「は?」
色魔シキマ! すけこまし!」

 左久夜はバシバシと、宗右真の手をたたく。

「うるせぇ。このクソガキ」
「子供じゃないもん!」
「未成年ってのは、未だに成年じゃねぇって書くんだよ、馬鹿」
「先にバカって言った方が、バカなんですぅー」

 バカッ。左久夜が大きく腕を払った瞬間。明かりを消したように、ふっと、目の前が暗くなった。

「……あ、れ?」

 体が傾いて、頭からトンと、何かにぶつかる。

「サク⁉ おい、サ……」

 宗右真の声が聞こえなくなり、そこで左久夜の意識も途切れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...