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6章
しおりを挟む巻物を手に、再び宰相エドワード・レクサルの館に足を運んだ私は、その重々しい扉を押し開け、静かな決意を胸に奥へと進んだ。
エドワードは既に私の訪問を予期していたようで、広間の中央に立って私を待ち構えていた。
「リリアーナ嬢、貴女の答えを聞かせていただきましょうか」
「まず、王家を凌駕する力については問題ないわ。我が一族の秘伝。闇の魔法をお見せしましょう」
「リリアーナ様、準備は整っております」
カイルが用意した聖なる水晶に、闇の魔力を注いだ。
ーーーパリン
次の瞬間、水晶が粉々に砕け散った。
「これは、我が一族のみに伝わる秘伝。王家が表向きに引き継ぐ光の魔法と、相対する力です。王城の守護結界はこれで破れるでしょう」
「……ほう、王太子の元婚約者があっさりその立場を捨てたものだと、疑念を抱いておりましたが……なるほど、実に興味深いですね」
「本来、我が一族で隠し通さなければいかない力を、特別に貴方にお見せしましたーーーそれから………」
それから、私は何も言わずに巻物を差し出した。
エドワードは慎重にそれを手に取り、冷静な瞳で内容を読み始めた。
彼の表情は微動だにせず、静かな沈黙が場を包んでいた。
やがて、彼はゆっくりと顔を上げ、その灰色の瞳を私に向けた。
「これは………確かに決定的な証拠ですね。」
「王家が魔族と契約を結んでいた血の刻印が記された文書とは。これで事実が明らかになりました」
「それで……貴女はこれをどのように使うつもりですか?」
私は彼の問いに真っ直ぐ答えた。
「この事実を公にすることで、王家の正当性を覆し、新しい体制を築きます。そのためには、貴方の力が必要です」
エドワードは一瞬だけ思案するように視線を遠くに向けたが、すぐに私を見つめ直した。
「リリアーナ嬢、貴女はこの国を変えようとしている。それは非常に危険な賭けです。ーーしかし、私は貴女に賭けることに決めた」
彼の言葉には冷徹さが感じられたが、それでも私にとっては待ち望んでいた同意だった。
「しかし、王家がこれを黙って見過ごすとは思えない。貴女を追っているヴァルターや、他の追っ手が既に動いているはずです」
その名を聞いた瞬間、私は一瞬だけ胸の鼓動が早くなった。ヴァルターは王家の忠実なしもべであり、強力な剣士である。
先日襲撃を受けた通り、彼が何としても私たちを止めようとしていることは明らかだった。
「それでも、私はこの道を進むしかないのです。エドワード様、私に力を貸していただけますか?」
エドワードはしばらくの間、無言で私を見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「良いでしょう。貴女に必要な舞台は、全て整えましょう。もちろん、私の望む体制を築くことが条件となりますが」
私はその言葉を聞いて、胸の中で小さく安堵した。
ついに、宰相家を味方につけたのだ。これで、王家を覆すための大きな力を手に入れた。
---
その夜、私たちはエドワードから提供された安全な隠れ家で次の計画を練っていた。
「これでようやく、王家との戦いに本格的に挑むことができますね……」
カイルが希望に溢れた表情で、そう言ったが、一方で私はまだ完全に安心できる状況ではなかった。
「ヴァルターはおそらく、王家の秘密を守るために全力で私たちを追い詰めてくるはず。彼の動きを止めなければ、この計画は失敗する可能性が高いわ」
私はヴァルターの存在を無視できなかった。
彼はただの護衛ではなく、レオナード王太子の右腕として、数々の戦場で勝利を収めてきた猛将だ。
彼との直接対決は避けられない。
「次の動きとして、ヴァルターを止める策を講じる必要があるわ」
カイルはその言葉に黙って頷き、私に全面的に同意してくれた。
---
数日後、王都の中心部で大きな動きがあった。
王家はついに私を「反逆者」として公に告発し、堂々と追っ手を放ったのだ。
その追っ手の中には、ヴァルターの姿があった。
「リリアーナ・ベルトワール、ここで終わりだ」
遂に隠れ家を突き止めたヴァルターの手によって、周囲を包囲されてしまった。
彼の声は冷徹で、周囲にいる護衛兵たちが一斉に剣を構えた。
私はカイルと共に立ち向かう覚悟を決めた。
「ヴァルター、私はこの国を変えるために戦っている。あなたの忠誠心がどこに向いているかは知らないけれど、あなたの信じる正義が本当に正しいのか、もう一度考えてみるべきよ」
私の言葉に、ヴァルターは一瞬だけ表情を緩めたかに見えたが、すぐに再び鋭い目を私に向けた。
「王家こそが正義だ。それが私の信念だ」
剣が抜かれる音が響き、戦いの火蓋が切って落とされた――。
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