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オーギュスト王国編
72 ~クロイツ殿下視点~
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~クロイツ殿下視点~
俺は一度見聞きしたことはすべて記憶している。
⋯⋯どんな事でもだ。
◇◇◇◇◇
12歳になった俺は閨教育というものを受けることになった。
薄暗い部屋に現れたのは、優男と胸を強調した妖艶な未亡人だった。
事前情報ではこの未亡人は年の離れた男爵をその身体で篭絡し、1年も経たず夫を亡くしたらしい。
まあ、勉強だ。最初の相手は誰でもいい。もともと多少の興味はあったからだ。
最初の挨拶で二人は今日が初対面だというのが分かった。
まずは二人が交じ合うところからだった。初めて見た男女の営み。それは予想外に気持ち悪いものだった。
初対面の、それも好きでもない相手と口づけをし、音を立てて舌を絡めている⋯⋯唇を離した二人の口はテカテカと光っていた。それは唾液だろ?⋯⋯汚い。
二人の行為はどんどんエスカレートし、男が女の股の間を舐め始めた。
そこは尿をするところだろ?
それなところを舐めるなんて俺には無理だ。
男と女の閨でどんなことが行われるのか教本では知っていた。
だが、実際に見ると気持ちが悪くなった。
『ここは優しく』 『ここは念入りに』 『ここを摘めば悦ぶ』 などとアドバイスを言うが、嫌悪感しかなかった。
ひと通り行為が終わると、口元も体も男の唾液でベトベトした女が、火照った体の裸のまま俺に手を伸ばしてきた。腹を空かせた獣のようなギラギラした目で『ふふふっ、次は王子様がわたくしを悦ばせてくださる?』
『汚い手で触るな!』と言いながら手を払いのけていた。
何を勘違いしたのか女は『あら、照れていますの?では、わたくしが気持ちよくさせてあげますわ』と言い、座っている俺に跨ろうとした。触れられるのも嫌で条件反射で蹴っていた。
⋯⋯当然、その日の閨教育は終了した。
蹴ってしまった女には閨教育の報酬と慰謝料を多めに払ったらしい。
この日以来、女が気持ち悪い。
俺の婚約者を決めるために開かれるお茶会では、我先にとアピールするために女たちに囲まれる。
何度も参加させられるうちに嫌悪感を作り笑顔で隠すのも慣れてきた。
だが、その中から選ぶ前にどうしても考えてしまう。コイツの唾液を飲めるか?コイツのアソコを舐められるか?⋯⋯無理だった。
王太子としてこのままではダメだと、血を残さなくてはならないと頭では分かってはいたが、結局婚約者を決めることが出来ず、25歳になった。
そんなある日、『助けて』と呼ばれた。
と、同時に魔術が発動した。
そして遠い記憶で交わしたアナスタシア様との会話が蘇った。
金髪の赤子を抱いたアナスタシア様との約束。
オーギュスト王国に嫁ぐまで、色んな意味でお世話になったアナスタシア様。
そんな彼女の出産を祝いに王家を代表してミラドール公爵家を訪問した。
眠ったまま口元をふにゃふにゃ動かす赤子。
名前はリリーシア。
『ねえ、クロイツ殿下。お願いがあるの。この子、リリーが本当に助けを求めた時、手を差し伸べてあげて欲しいの』
その時にアナスタシア様から何かを施された。が、痛みも違和感もなかったから気にしなかった。
ただ、何で国も違うのに俺に頼むのか分からなかった。
公爵令嬢のリリーシアが困ることなどないだろうと、その時は適当に『分かった』と返事をした。
『約束ね』
この適当な返事を、リリーシアのことを気にも掛けていなかったことを後悔したのは⋯⋯
引き寄せられた先は、絶望と諦めと悔しさとが混ざった瞳に涙を浮かべた少女に刃が迫っている瞬間だった。
すぐにあの赤子だと、リリーシアだと思い出すよりも先に手が伸びていた『リリー!』⋯⋯ ゴトリと落ちたリリーシアの瞳から涙が溢れた⋯⋯間に合わなかった。
そっとリリーシアの首を拾い上げる俺の耳には、歓声が聞こえてきた。
見渡せばその場には大勢の学生らしい年齢の子供たちと数人の大人。
その全員が首を落とされたリリーシアを見下し嘲笑っていた。
なぜ、リリーシアの死が喜ばれているんだ?
オーギュスト王家とマシェリア王家の血を継ぐ公爵家の令嬢だぞ!
怒りで体が震える。頭が沸騰しそうだ。
だが今は冷静になれ⋯⋯と自分に言い聞かせる。
こんな状況もコイツらも異常だ。
一度父上に相談だ。とリリーシアの別れた首と体を丁寧に抱いて飛ぼうとしたその時、甘えた声で俺に話しかけてくる者がいた。俺が一番嫌悪するタイプの女だった。
『貴方はだあれ?あたしはべティーよ』
誘うような媚びを売る女。
コイツからは微弱な魔力を感じたが、それを無視して飛んだ。
俺は一度見聞きしたことはすべて記憶している。
⋯⋯どんな事でもだ。
◇◇◇◇◇
12歳になった俺は閨教育というものを受けることになった。
薄暗い部屋に現れたのは、優男と胸を強調した妖艶な未亡人だった。
事前情報ではこの未亡人は年の離れた男爵をその身体で篭絡し、1年も経たず夫を亡くしたらしい。
まあ、勉強だ。最初の相手は誰でもいい。もともと多少の興味はあったからだ。
最初の挨拶で二人は今日が初対面だというのが分かった。
まずは二人が交じ合うところからだった。初めて見た男女の営み。それは予想外に気持ち悪いものだった。
初対面の、それも好きでもない相手と口づけをし、音を立てて舌を絡めている⋯⋯唇を離した二人の口はテカテカと光っていた。それは唾液だろ?⋯⋯汚い。
二人の行為はどんどんエスカレートし、男が女の股の間を舐め始めた。
そこは尿をするところだろ?
それなところを舐めるなんて俺には無理だ。
男と女の閨でどんなことが行われるのか教本では知っていた。
だが、実際に見ると気持ちが悪くなった。
『ここは優しく』 『ここは念入りに』 『ここを摘めば悦ぶ』 などとアドバイスを言うが、嫌悪感しかなかった。
ひと通り行為が終わると、口元も体も男の唾液でベトベトした女が、火照った体の裸のまま俺に手を伸ばしてきた。腹を空かせた獣のようなギラギラした目で『ふふふっ、次は王子様がわたくしを悦ばせてくださる?』
『汚い手で触るな!』と言いながら手を払いのけていた。
何を勘違いしたのか女は『あら、照れていますの?では、わたくしが気持ちよくさせてあげますわ』と言い、座っている俺に跨ろうとした。触れられるのも嫌で条件反射で蹴っていた。
⋯⋯当然、その日の閨教育は終了した。
蹴ってしまった女には閨教育の報酬と慰謝料を多めに払ったらしい。
この日以来、女が気持ち悪い。
俺の婚約者を決めるために開かれるお茶会では、我先にとアピールするために女たちに囲まれる。
何度も参加させられるうちに嫌悪感を作り笑顔で隠すのも慣れてきた。
だが、その中から選ぶ前にどうしても考えてしまう。コイツの唾液を飲めるか?コイツのアソコを舐められるか?⋯⋯無理だった。
王太子としてこのままではダメだと、血を残さなくてはならないと頭では分かってはいたが、結局婚約者を決めることが出来ず、25歳になった。
そんなある日、『助けて』と呼ばれた。
と、同時に魔術が発動した。
そして遠い記憶で交わしたアナスタシア様との会話が蘇った。
金髪の赤子を抱いたアナスタシア様との約束。
オーギュスト王国に嫁ぐまで、色んな意味でお世話になったアナスタシア様。
そんな彼女の出産を祝いに王家を代表してミラドール公爵家を訪問した。
眠ったまま口元をふにゃふにゃ動かす赤子。
名前はリリーシア。
『ねえ、クロイツ殿下。お願いがあるの。この子、リリーが本当に助けを求めた時、手を差し伸べてあげて欲しいの』
その時にアナスタシア様から何かを施された。が、痛みも違和感もなかったから気にしなかった。
ただ、何で国も違うのに俺に頼むのか分からなかった。
公爵令嬢のリリーシアが困ることなどないだろうと、その時は適当に『分かった』と返事をした。
『約束ね』
この適当な返事を、リリーシアのことを気にも掛けていなかったことを後悔したのは⋯⋯
引き寄せられた先は、絶望と諦めと悔しさとが混ざった瞳に涙を浮かべた少女に刃が迫っている瞬間だった。
すぐにあの赤子だと、リリーシアだと思い出すよりも先に手が伸びていた『リリー!』⋯⋯ ゴトリと落ちたリリーシアの瞳から涙が溢れた⋯⋯間に合わなかった。
そっとリリーシアの首を拾い上げる俺の耳には、歓声が聞こえてきた。
見渡せばその場には大勢の学生らしい年齢の子供たちと数人の大人。
その全員が首を落とされたリリーシアを見下し嘲笑っていた。
なぜ、リリーシアの死が喜ばれているんだ?
オーギュスト王家とマシェリア王家の血を継ぐ公爵家の令嬢だぞ!
怒りで体が震える。頭が沸騰しそうだ。
だが今は冷静になれ⋯⋯と自分に言い聞かせる。
こんな状況もコイツらも異常だ。
一度父上に相談だ。とリリーシアの別れた首と体を丁寧に抱いて飛ぼうとしたその時、甘えた声で俺に話しかけてくる者がいた。俺が一番嫌悪するタイプの女だった。
『貴方はだあれ?あたしはべティーよ』
誘うような媚びを売る女。
コイツからは微弱な魔力を感じたが、それを無視して飛んだ。
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