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オーギュスト王国編
73 ~クロイツ殿下視点~
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父上はリリーシアを抱いて突然現れた俺が何か言うよりも早く『アナスタシア!』と駆け寄ってきた。
父上が勘違いするほどリリーシアはアナスタシア様にそっくりだから仕方がない。
当然もう息をしていないことを瞬時に理解していただろう。
『何があった?』
地を這うような父上の低い声をこれまでに聞いたことはない。
俺は突然呼ばれたこと、いま見てきたことをすべて話した。
『すぐにオーギュスト王国に間者を送れ。リリーシアのすべてを調べ上げろ。家庭でのこと、学院でのこと、友人関係、婚約者との仲、すべてだ!⋯⋯クロイツ、お前にも行ってもらうが理由次第では⋯⋯分かっているな心しておけ』
そう言って魔術師と間者を先に送った。
そして手渡れたのは父上と俺と同じ瞳の色のロイヤルブルーの宝石だった。
俺の拳程もあり、宝石からは膨大な魔力を感じた。
使用方法も聞いた。
命と引き換えに使用する禁忌の魔術だ。
俺は父上⋯⋯マシェリア国王からの書簡を持って再度オーギュスト王国に飛んだ。
間者からの報告ではリリーシアが置かれていた状況を、魔術師からは魅了魔法の痕跡を報告された。
リリーシアは父親が連れて来た後妻と娘にずいぶんと酷い扱いをされていたそうだ。
婚約者だった第二王子からも疎まれ、挙句腹違いの姉に奪われ、学院では下位貴族の者にまで嘲笑われ、侮辱され、見下されていたらしい。
⋯⋯それでもリリーシアは笑顔で一人で耐えていたらしい。
そんなリリーシアを処刑した。
その理由が姉を虐めたからだと言うのだからバカバカしい。
リリーシアを処刑した日はオーギュスト国王夫妻と王太子は留守にしていたからだとか言い訳にもならない。
あの場には大人もいたのだから⋯⋯
俺は国王が帰国したその日のうちに、父上からの書簡を持参で謁見を申し込んだ。
俺の調べたリリーシアの状況。
処刑の指示を出したのが婚約者である第二王子だったこと。
学院の生徒だけでなく教師までが歓声を上げてリリーシアの死を喜んだこと。
我が国の王家の血筋の者を何の連絡もなく処刑した責任をどう取るのか。
オーギュスト国王の顔色は青を通り越して、白から土色になろうが知ったことではない。
そして選ばせた。
戦争か、一部の人間の犠牲か。
そして、あの日に居た人間とその家族全員を学院の講堂に集めた。
訳も分からず集められた者たちは落ち着かない様子に対して、あの女だけは腰をくねくねさせながら俺に話しかけてくる。
もちろん無視だ。
そしてリリーシアの父親とその隣にいるビアンカ。コイツが諸悪の根源だ。
『まずは魅了を解け』と魔術師に命じた。
解かれると同時に講堂が震えるほどの絶叫と悲鳴と泣き声。自分たちのしたことの後悔や懺悔など今更だ。
家族には我が子が何をしたかの説明と、それによってマシェリア王国はこの国を攻めようとしていること。
戦争を避けたい国王がお前たちに責任を負わせる決断をしたこと。
そこまで話すと潔く責を負おうとする者。我が子を置いて逃げ出そうとする者。その場で失神する者。
まあ、そんな事はどうでもいい。
『その命を持って償え』
禁術を発動した。
どんなに悲鳴をあげても、痛みにのた打ち回ろうとも、命尽きるまで終わらないさ。
命を吸い取られているんだ、そりゃあ痛いだろうさ。命を削り取られているんだからな。
だが、お前たちのその痛みも無駄にはならないさ。
お陰で時間を巻き戻せるからな。
だが、俺にもこの犠牲でどのくらいの時間が戻せるのかは分からない。
一日か、一ヶ月か、一年か、それ以上か。
もう、あんな絶望した目も、諦めた目も、させない。
⋯⋯今度は俺が君を⋯⋯リリーシアを必ず守るよ。
そして俺の意識は暗転した。
意識を失う前に視界に入ったのはリリーシアの名を泣き叫びならが何度も呼ぶ王弟だった⋯⋯
◇◇◇◇◇
俺が前回を思い出したのは、父上に父上の従兄弟であるガルシア公爵家当主のルベール殿がこんな事を話していた時だ。
『オーギュスト王国にいる姪から手紙が届いたんだ』
『おお!アナスタシアの娘か!元気にしているのか!』
こんなふうに二人は従兄弟だけあって、二人でいる時は気さくな関係だ。
『⋯⋯どうだろうな。手紙には『迎えに来てほしい』と拙い文字で書かれていた。まだ4歳の親に甘えたい時期の子供がだ』
『父親は王弟のレアンドルであったな⋯⋯親子関係が上手くいっていないのか?』
『分からない⋯⋯だから様子を見てこようと思っている。それに母上もリリーシアに会いたいと煩いからな』
確信した。リリーシアは前回の記憶がある。
だからこそ助けを求めて手紙を送ってきたのだろう。
『私も一緒に行きます』
ルベール殿と話している最中に、何故か父上もその場に居なかった前回のことを思い出していた。
王家に伝わる禁術を俺が発動したことも。
『ああ、必ず連れて帰ってこい』
今のリリーシアは4歳か。
会うのが楽しみだ。
まさかあんなお転婆だったとはな。
鼻は噛まれるし、ヨダレは擦り付けられるし⋯⋯でも、それに嫌悪感は一度も湧かなかったんだよな。
父上が勘違いするほどリリーシアはアナスタシア様にそっくりだから仕方がない。
当然もう息をしていないことを瞬時に理解していただろう。
『何があった?』
地を這うような父上の低い声をこれまでに聞いたことはない。
俺は突然呼ばれたこと、いま見てきたことをすべて話した。
『すぐにオーギュスト王国に間者を送れ。リリーシアのすべてを調べ上げろ。家庭でのこと、学院でのこと、友人関係、婚約者との仲、すべてだ!⋯⋯クロイツ、お前にも行ってもらうが理由次第では⋯⋯分かっているな心しておけ』
そう言って魔術師と間者を先に送った。
そして手渡れたのは父上と俺と同じ瞳の色のロイヤルブルーの宝石だった。
俺の拳程もあり、宝石からは膨大な魔力を感じた。
使用方法も聞いた。
命と引き換えに使用する禁忌の魔術だ。
俺は父上⋯⋯マシェリア国王からの書簡を持って再度オーギュスト王国に飛んだ。
間者からの報告ではリリーシアが置かれていた状況を、魔術師からは魅了魔法の痕跡を報告された。
リリーシアは父親が連れて来た後妻と娘にずいぶんと酷い扱いをされていたそうだ。
婚約者だった第二王子からも疎まれ、挙句腹違いの姉に奪われ、学院では下位貴族の者にまで嘲笑われ、侮辱され、見下されていたらしい。
⋯⋯それでもリリーシアは笑顔で一人で耐えていたらしい。
そんなリリーシアを処刑した。
その理由が姉を虐めたからだと言うのだからバカバカしい。
リリーシアを処刑した日はオーギュスト国王夫妻と王太子は留守にしていたからだとか言い訳にもならない。
あの場には大人もいたのだから⋯⋯
俺は国王が帰国したその日のうちに、父上からの書簡を持参で謁見を申し込んだ。
俺の調べたリリーシアの状況。
処刑の指示を出したのが婚約者である第二王子だったこと。
学院の生徒だけでなく教師までが歓声を上げてリリーシアの死を喜んだこと。
我が国の王家の血筋の者を何の連絡もなく処刑した責任をどう取るのか。
オーギュスト国王の顔色は青を通り越して、白から土色になろうが知ったことではない。
そして選ばせた。
戦争か、一部の人間の犠牲か。
そして、あの日に居た人間とその家族全員を学院の講堂に集めた。
訳も分からず集められた者たちは落ち着かない様子に対して、あの女だけは腰をくねくねさせながら俺に話しかけてくる。
もちろん無視だ。
そしてリリーシアの父親とその隣にいるビアンカ。コイツが諸悪の根源だ。
『まずは魅了を解け』と魔術師に命じた。
解かれると同時に講堂が震えるほどの絶叫と悲鳴と泣き声。自分たちのしたことの後悔や懺悔など今更だ。
家族には我が子が何をしたかの説明と、それによってマシェリア王国はこの国を攻めようとしていること。
戦争を避けたい国王がお前たちに責任を負わせる決断をしたこと。
そこまで話すと潔く責を負おうとする者。我が子を置いて逃げ出そうとする者。その場で失神する者。
まあ、そんな事はどうでもいい。
『その命を持って償え』
禁術を発動した。
どんなに悲鳴をあげても、痛みにのた打ち回ろうとも、命尽きるまで終わらないさ。
命を吸い取られているんだ、そりゃあ痛いだろうさ。命を削り取られているんだからな。
だが、お前たちのその痛みも無駄にはならないさ。
お陰で時間を巻き戻せるからな。
だが、俺にもこの犠牲でどのくらいの時間が戻せるのかは分からない。
一日か、一ヶ月か、一年か、それ以上か。
もう、あんな絶望した目も、諦めた目も、させない。
⋯⋯今度は俺が君を⋯⋯リリーシアを必ず守るよ。
そして俺の意識は暗転した。
意識を失う前に視界に入ったのはリリーシアの名を泣き叫びならが何度も呼ぶ王弟だった⋯⋯
◇◇◇◇◇
俺が前回を思い出したのは、父上に父上の従兄弟であるガルシア公爵家当主のルベール殿がこんな事を話していた時だ。
『オーギュスト王国にいる姪から手紙が届いたんだ』
『おお!アナスタシアの娘か!元気にしているのか!』
こんなふうに二人は従兄弟だけあって、二人でいる時は気さくな関係だ。
『⋯⋯どうだろうな。手紙には『迎えに来てほしい』と拙い文字で書かれていた。まだ4歳の親に甘えたい時期の子供がだ』
『父親は王弟のレアンドルであったな⋯⋯親子関係が上手くいっていないのか?』
『分からない⋯⋯だから様子を見てこようと思っている。それに母上もリリーシアに会いたいと煩いからな』
確信した。リリーシアは前回の記憶がある。
だからこそ助けを求めて手紙を送ってきたのだろう。
『私も一緒に行きます』
ルベール殿と話している最中に、何故か父上もその場に居なかった前回のことを思い出していた。
王家に伝わる禁術を俺が発動したことも。
『ああ、必ず連れて帰ってこい』
今のリリーシアは4歳か。
会うのが楽しみだ。
まさかあんなお転婆だったとはな。
鼻は噛まれるし、ヨダレは擦り付けられるし⋯⋯でも、それに嫌悪感は一度も湧かなかったんだよな。
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