最初からここに私の居場所はなかった

kana

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オーギュスト王国編

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「僕とリリーシア嬢の婚約話が上がっているのを知っているかな?」

は?

「し、知りません!聞いていません!嫌です!」

突然ありえないことを言い出したギリアン殿下に、考えるよりも先に叫んでいた。
聞き耳を立てていたのか、周りが騒がしくなった。
考え込んでいた私はここが食堂だったことをすっかり忘れていた。
これ以上騒ぎになって王族に対して不敬だなんだと言われる前に逃げ出すことにした。

「し、失礼します」

逃げるように席を立ち出口に向かった。
一瞬だけ目の端に映ったギリアン殿下の顔が、悲しげに見えたのは気の所為だ⋯⋯
たとえそうだとしても彼のことなんか知らない。
⋯⋯忘れられないのだ。
前回の彼を⋯⋯今の彼がべティーと懇意にしていなくとも、彼を信頼することは無理なのだ。
彼こそが私を処刑する指示を出した本人なのだから⋯⋯


恨んでいないわけが無い。
大勢の生徒たちからいわれなき罪で罵声を浴びて、誰一人として私の味方も信じてくれる人も居ないそんな場所で、私は

諦めていたよ?
足掻いても無駄だってわかっていたから諦めていたよ?
でもね、本当は死にたくなんかなかった。
理不尽な理由なんかで死にたくなかった。

あの場がどれだけ怖かったか⋯⋯

そんな相手と婚約?
巫山戯るな!誰がそんなことを言い出したんだ!
無我夢中で廊下を走って馬車に乗り込んだ。
怒りで手も足も震える。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




そのまま邸に帰ってきてしまった私は、勢いに任せてお父様の執務室に向かった。
ギリアン殿下との婚約話も、前回との違いもグダグダ一人で考えるよりも一つ一つ疑問を解いていこうと思ったから。

勢いでここまで来てしまったけれど、いざ扉を叩くとなると躊躇してしまった。
今からお父様に聞こうとしていることは、誰にも聞かれたくない。
そうなると二人きりでの話になる。
実を言うと、実家に帰ってきてから二人きりになったことがないのだ。

それでも聞かなくてはならない。

震える手で扉をノックすると、側近の方が一瞬驚いた顔をして、何も聞かずに「公爵様に確認してまいります」と中に入っていった。

そう待たされることなく側近の方に案内された。お父様はチラリと私を見て「この書類を終わらせるからそこに座って少し待ってくれ」と言ってソファを指した。
側近の方はお茶を淹れるとそっと部屋から退室していった。

優しいお茶の香りが荒ぶっていた心が癒されていくようだ。
お父様を待つ間に心を落ち着けて聞きたいことをまとめることにした。

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