43 / 72
オーギュスト王国編
43
しおりを挟む
「僕とリリーシア嬢の婚約話が上がっているのを知っているかな?」
は?
「し、知りません!聞いていません!嫌です!」
突然ありえないことを言い出したギリアン殿下に、考えるよりも先に叫んでいた。
聞き耳を立てていたのか、周りが騒がしくなった。
考え込んでいた私はここが食堂だったことをすっかり忘れていた。
これ以上騒ぎになって王族に対して不敬だなんだと言われる前に逃げ出すことにした。
「し、失礼します」
逃げるように席を立ち出口に向かった。
一瞬だけ目の端に映ったギリアン殿下の顔が、悲しげに見えたのは気の所為だ⋯⋯
たとえそうだとしても彼のことなんか知らない。
⋯⋯忘れられないのだ。
前回の彼を⋯⋯今の彼がべティーと懇意にしていなくとも、彼を信頼することは無理なのだ。
彼こそが私を処刑する指示を出した本人なのだから⋯⋯
恨んでいないわけが無い。
大勢の生徒たちからいわれなき罪で罵声を浴びて、誰一人として私の味方も信じてくれる人も居ないそんな場所で、私は殺された。
諦めていたよ?
足掻いても無駄だってわかっていたから諦めていたよ?
でもね、本当は死にたくなんかなかった。
理不尽な理由なんかで死にたくなかった。
あの場がどれだけ怖かったか⋯⋯
そんな相手と婚約?
巫山戯るな!誰がそんなことを言い出したんだ!
無我夢中で廊下を走って馬車に乗り込んだ。
怒りで手も足も震える。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのまま邸に帰ってきてしまった私は、勢いに任せてお父様の執務室に向かった。
ギリアン殿下との婚約話も、前回との違いもグダグダ一人で考えるよりも一つ一つ疑問を解いていこうと思ったから。
勢いでここまで来てしまったけれど、いざ扉を叩くとなると躊躇してしまった。
今からお父様に聞こうとしていることは、誰にも聞かれたくない。
そうなると二人きりでの話になる。
実を言うと、実家に帰ってきてから二人きりになったことがないのだ。
それでも聞かなくてはならない。
震える手で扉をノックすると、側近の方が一瞬驚いた顔をして、何も聞かずに「公爵様に確認してまいります」と中に入っていった。
そう待たされることなく側近の方に案内された。お父様はチラリと私を見て「この書類を終わらせるからそこに座って少し待ってくれ」と言ってソファを指した。
側近の方はお茶を淹れるとそっと部屋から退室していった。
優しいお茶の香りが荒ぶっていた心が癒されていくようだ。
お父様を待つ間に心を落ち着けて聞きたいことをまとめることにした。
は?
「し、知りません!聞いていません!嫌です!」
突然ありえないことを言い出したギリアン殿下に、考えるよりも先に叫んでいた。
聞き耳を立てていたのか、周りが騒がしくなった。
考え込んでいた私はここが食堂だったことをすっかり忘れていた。
これ以上騒ぎになって王族に対して不敬だなんだと言われる前に逃げ出すことにした。
「し、失礼します」
逃げるように席を立ち出口に向かった。
一瞬だけ目の端に映ったギリアン殿下の顔が、悲しげに見えたのは気の所為だ⋯⋯
たとえそうだとしても彼のことなんか知らない。
⋯⋯忘れられないのだ。
前回の彼を⋯⋯今の彼がべティーと懇意にしていなくとも、彼を信頼することは無理なのだ。
彼こそが私を処刑する指示を出した本人なのだから⋯⋯
恨んでいないわけが無い。
大勢の生徒たちからいわれなき罪で罵声を浴びて、誰一人として私の味方も信じてくれる人も居ないそんな場所で、私は殺された。
諦めていたよ?
足掻いても無駄だってわかっていたから諦めていたよ?
でもね、本当は死にたくなんかなかった。
理不尽な理由なんかで死にたくなかった。
あの場がどれだけ怖かったか⋯⋯
そんな相手と婚約?
巫山戯るな!誰がそんなことを言い出したんだ!
無我夢中で廊下を走って馬車に乗り込んだ。
怒りで手も足も震える。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのまま邸に帰ってきてしまった私は、勢いに任せてお父様の執務室に向かった。
ギリアン殿下との婚約話も、前回との違いもグダグダ一人で考えるよりも一つ一つ疑問を解いていこうと思ったから。
勢いでここまで来てしまったけれど、いざ扉を叩くとなると躊躇してしまった。
今からお父様に聞こうとしていることは、誰にも聞かれたくない。
そうなると二人きりでの話になる。
実を言うと、実家に帰ってきてから二人きりになったことがないのだ。
それでも聞かなくてはならない。
震える手で扉をノックすると、側近の方が一瞬驚いた顔をして、何も聞かずに「公爵様に確認してまいります」と中に入っていった。
そう待たされることなく側近の方に案内された。お父様はチラリと私を見て「この書類を終わらせるからそこに座って少し待ってくれ」と言ってソファを指した。
側近の方はお茶を淹れるとそっと部屋から退室していった。
優しいお茶の香りが荒ぶっていた心が癒されていくようだ。
お父様を待つ間に心を落ち着けて聞きたいことをまとめることにした。
1,952
あなたにおすすめの小説
捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。
豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました
あねもね
恋愛
妹は私と違って美貌の持ち主で、親の愛情をふんだんに受けて育った結果、傲慢になりました。
自分には手に入らないものは何もないくせに、私のものを欲しがり、果てには私の婚約者まで奪いました。
その時分かりました。婚約破棄されるのだと……。
私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです
風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。
婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。
そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!?
え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!?
※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。
※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ
霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」
ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。
でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━
これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。
※なろう様で投稿済みの作品です。
※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる