後悔していると言われても……ねえ? 今さらですよ?

kana

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1巻

1-3

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 目の前のジョシュア殿下とリアム兄様が横にズレると、薄い水色の腰まである真っ直ぐな長い髪を一つに纏め、切れ長でアイスブルーの瞳の冷たい印象のスッゴイ美形がいた。
 その彼が視線を下に向けると私と目が合った。それだけでドキッと胸が高鳴った。
 彼は驚いた顔をしたあと、突然私の前でひざまずいて手を握ってきた。 

「アレクシス・ハイアーと申します。この十年間ヴィクトリア嬢のことを思わない日は一日もありませんでした。ドルチアーノ殿下の婚約者候補を辞退したと聞いて、居ても立っても居られず留学先から帰ってきてしまいました」
「は、はい」

 な、な、な、何が始まったの?

「生涯貴方を守り、命ある限り貴方だけを愛すると誓います。どうか俺と、いえ私と結婚して下さい」

 プ・プ・プ・プロポーズですと!!
 こ、こんなの前世でも経験したことないよ!
 ど、ど、ど、どうしたらいいの?
 こ、ここはあれよね?
 あのセリフを私も使う時が来たのね!

「……お、お友達からなら……」
「「ヴィー!!」」

 お兄様たちの焦る声が!
 あれ? 私なにか間違えた?
 でも、しっかりと私の手を握っている冷たい印象の彼が、真っ赤になって一生懸命思いを伝えてくれたんだよ?


 それも十年間も私を思ってくれていたって言ったんだよ?
 それだけで彼の好感度が私の中で上がるのは当然でしょう?
 でも……私……彼のことアレクシスって名前しか知らないんだよね。
 それから兄様二人に抱えられるようにしてその場を後にした。
 振り向くと「あ、明日挨拶に伺います」と、まだ赤い顔のアレクシス様がそう言うので、兄様たちにバレないようにこっそりと小さく手を振った。
 冷たい印象の彼の照れた顔も可愛いと思ってしまったんだよね。
 その横でドルチアーノ殿下が固まっている姿なんて目にも入らなかった。
 帰りの馬車の中で兄様たちが何やら騒いでいたけれど、あまり頭には入ってこなかった。
 お父様とお母様も急いで帰ってきて、兄様たちに説明を求めていた。
 私たちが会場を去ったあと、ホールは大騒ぎになったらしい。
 そして分かったことは彼の名前。
 ハイアー侯爵家の嫡男アレクシス・ハイアー。十八歳。私よりも一歳年上。
 二年前からトライガス王国に留学していたこと。
 ハイアー様の明日の訪問が気に入らないお父様と兄様たちは、何かしら理由をつけて私と彼が会うことを阻止しようと相談するも、お母様の『あの方よりも何倍もマシでしょう? 十年間一度も会わずとも一途にヴィーを思っていた彼は、わたくしに言わせれば優良物件です! ヴィーの幸せも考えてあげなさい!』という言葉で、撃沈……
 それでも納得のいかないルイス兄様は同席すると言い張り、二人の邪魔をするなとお母様の鉄拳を受けていた……(ルイス兄様、明日も仕事があるでしょう)
 お母様強し……
 その夜はドキドキして眠れる気がしなかった。
 だって初めての告白だよ?
 あんなにカッコイイ人からだよ?
 キャーーー嬉し恥ずかしでベッドの上でゴロゴロしちゃう。
 ハァハァハァ……冷静になろう。
 第一印象は確かに良かった! だけど、彼の性格を知るのも大事よね。
 ……真っ直ぐ見つめられて目を逸らすことも出来なかった……
 もうOKでいいんじゃない?
 いやいや、早すぎる決断は失敗のもとよ!
 でも、あんなに真剣な目で熱烈な告白されて断れる人いる?
 あの最低男と比べたら、間違いなくハイアー様の方がいいよね? 彼なら……いいかも?
 待て待て待て! 落ち着け! 深呼吸だ。
 こんな状態で明日ちゃんと話せるのかしら?


 しっかり眠れた……私って自分が思っているよりも図太いのね。
 朝食の席でもお父様とルイス兄様がグダグダ言ってる……

「大丈夫ですよ。僕が同席しますから、父上と兄上は安心して仕事に行って下さい」
「「リアム頼んだぞ!」」

 もう! そこまで心配しなくてもいいのに。
 お父様とルイス兄様が王宮に出勤後、ハイアー様から先触れが届いた。
 昼過ぎに挨拶に伺うって!

「お母様、こんな時はどんな服を着ればいいのでしょうか?」
「いつも通りでいいわよ」

 それってワンピースよね? じゃあ化粧もいらないよね?
 気合い入れ過ぎるよりも、いつもの私を見てもらった方がいいよね?
 春らしくライトグリーンのワンピースに、髪はハーフアップで同じ色のリボンを結んでもらった。
 鏡で確認しても、うん、いつもの私だ。
 昼食を食べ終わりひと息ついたところに、ハイアー様の到着を知らされた。
 ドキドキしながらハイアー様が通された応接室に向かうと、既にリアム兄様も中で待っていた。
 昨日は腰まであった髪が短くなっている!
 長髪も似合っていたけれど、私個人としては短髪の方が好きだからこっちの方がいいかな。
 私が部屋に入ると焦ったようにハイアー様が立ち上がろうとして、ガッと何かをぶつけたような音がした。
 慌ててすねでもぶつけたのかな? 見た目冷たそうに見えてもやっぱり可愛いところがあるよね?
 そんなハイアー様のおかげで緊張がとけたようだ。

「お待たせ致しました。ご機嫌ようハイアー様」
「い、いえ待たされていません……ヴィクトリア嬢は今日も妖精のように可愛いですね」

 は? ようせいとは? 陽性? まさか妖精?
 ほんのりと頬を染めて真剣な顔でそんな言葉を言ったハイアー様の目は、真っ直ぐに私を見つめてくる。彼のそんな眼差しに胸がドキドキする。

「落ち着けアレクシス。ヴィーは僕の隣に座ってね」
「はい、リアム兄様」
「す、すみません」
「ところで何でアレクシスがヴィーをヴィクトリア嬢って呼ぶの?」
「俺、いえ私は出会った時から心の中でずっとそう呼んでいましたから……ダメですか? ヴィクトリア嬢」
「ふふふっいいえ、大丈夫ですよ」

 つい笑ってしまう。冷たい雰囲気の彼が叱られた小犬のような顔をして聞いてくるんだもの。

「ありがとうございます! ヴィクトリア嬢。お、私のことはアレクシスとお呼び下さい」
「はい、アレクシス様」

 なんか良いな、アレクシス様。

「二人とも僕の存在を忘れないでね」
「……まだ居たんですねリアム殿」
「随分親しそうですが、リアム兄様とアレクシス様はお知り合いだったのですか?」
「……昔から知っているよ」
「はい、ヴィクトリア嬢に会いたくてルイス殿とリアム殿に会う度に会わせて欲しいとお願いしていました」

 え? そんなこと知らないわ! リアム兄様を見ると目を逸らされた。

「仕方ないよね? ヴィーは第三王子の婚約者候補に上がっていたんだから、他の男を近づけるワケにはいかなかったんだよ」

 それもそうなんだけど、一言教えて欲しかったな。

「十年待ちましたが、候補を辞退されたことでこうしてヴィクトリア嬢に会えることが出来て嬉しいです」

 見た目のイメージよりも素直で可愛いよね!

「……ヴィーの前だと君、普段と全然態度が違うね」
「何を言っているんですか? 当たり前ではありませんか。ヴィクトリア嬢は私の唯一無二の方ですよ?」

 当然のようにアレクシス様は言っているけれど、そんな直球で言われると恥ずかしくて自然と顔が火照ってくる。
 はぁとリアム兄様は大きな溜め息を吐いて席を立った。

「二人で話したいこともあるだろ? ゆっくり庭園でも散歩しておいで」

 そう言って部屋から出て行った。

「アレクシス様、我が家の庭園を案内しますわ」

 私は普段から兄様たちのエスコートに慣れているけれど、アレクシス様がぎこちなく差し出した手は、女性のエスコートに慣れていなさそうなところも好感が持てた。



  アレクシス視点


 トライガス王国に留学させられていた俺の元に、母上から手紙が届いた。
 手紙には俺の妖精が第三王子の婚約者候補の辞退を申し込み、それが承認されたと書かれていた。
 すぐにでも帰国しようとしたが、手紙の最後に卒業資格を得るまでは帰国は許さないと書かれていた。そこからは寝る間も惜しんで勉学に励み、残り一年半ある在学期間を一年短縮し見事卒業資格を得た。
 これで国に帰れる。
 次こそは出遅れたりしない。必ず妖精を振り向かせてみせる。俺が八歳の時に王宮で開かれたお茶会で見つけた妖精が、あの生意気な王子からやっと解放された……
 あの日母上に無理やり参加させられ、近づいてくる令嬢を無視し続け不機嫌なままテーブルに座っていると会場内が騒がしくなった。
 皆の視線の先には兄弟だろう二人に手を繋がれニコニコしている可愛らしい少女がいた。
 背中には羽が見えたから本物の妖精だと思った(あとから母上にあれはリボンだと教えられた)
 あんまりにも幸せそうな笑顔に心が奪われ、目が離せなくなっていた。
 妖精は家族と一緒に王族に挨拶に行き、小鳥のような可愛い声で挨拶したにもかかわらず、第三王子は『ふん! お前公爵令嬢のくせにデブでブスだな。嫁のもらい手もないだろうな!』と酷い言葉を投げかけていた。
 妖精になんて酷いことを!
 俺が席を立とうとすると母上に『今は我慢しなさい』と止められた。
 そのあと何事も無かったように俺の隣のテーブルに着き、兄弟たちが差し出すお菓子をパクパクと幸せそうに食べる姿があまりにも可愛くて見惚れた。
 妖精が席を立ち帰ろうとしているのを見て慌てて声をかけようとしたけれど、話すことを考えていなかった俺は「あっ」と一声発しただけで呼び止めることも出来なかった。
 なのに、妖精は振り向いて俺に小さく手を振ってくれたんだ。“またね”って言われた気がしてまたすぐに会えると思っていたんだ。
 次に妖精に会えるまでに十年もかかるとはその時の俺は思いもしなかった。

『ディハルト公爵家が大切にしていると噂のヴィクトリア嬢は、本当に可愛らしい子だったわね。頑張りなさいよアレクシス』

 ヴィクトリア嬢……
 母上はくすくす笑いながら俺を揶揄からかうが、俺はヴィクトリア嬢を誰にも渡したくなくて母上に婚約の申し込みを頼んだ。
 だが、婚約の申し込みには当主のサインが必要で、領地に視察に行っている父上が帰ってくるのは二週間後だった。
 まさかその間にヴィクトリア嬢があの第三王子の婚約者候補にあがるなんて思いもしなかった。
 あんな酷いことを言っていたくせに、俺から奪うのかと悔しくて憎くて……
 父上が帰ってきても、申し込みすら出来ないことに駄々をねて泣いた……
 泣いて部屋に閉じこもった俺に『候補は七人いる。王子にあの子が選ばれなかった時に、お前があの子に選ばれるように今は学べ、鍛えろ、自分を磨け』と言われた。
 その日から俺は次にヴィクトリア嬢に会えた時に恥ずかしくない自分になりたくて、勉学にも鍛錬にも力を入れた。礼儀作法は苦手だったが少しずつ身につけていった。
 月に一回、王宮の騎士団の鍛錬場で希望する貴族の子息を練習に参加させてくれる制度があり、俺もそれに参加するようになった。
 そこでルイス殿とリアム殿を見つけ、ヴィクトリア嬢に会わせて欲しいと会う度にお願いした。
 だが、〝王子の婚約者候補だから他の男に会わす訳にはいかない〟と断られ続けた。
 単純に溺愛する妹に男を会わせたくないだけだろう! とは思ったが、それでも執拗しつこく何度もお願いした。
 それは俺が留学させられるまで毎月続いた。
 父上にトライガス王国に留学させられたのは俺に見聞を広めさせることを理由にしていたが、きっとヴィクトリア嬢を諦めさせるつもりだったのだろう。
 だがトライガス王国に留学したところで、俺の中からヴィクトリア嬢への気持ちが消えることはなかった。
 あのいけ好かない男に嫁いでしまえば不幸になるのは目に見えている!
 ヴィクトリア嬢の不幸な姿など想像もしたくない。
 妖精は幸せになってこそ、あの可愛らしい笑顔になるんだ。
 出来るなら俺がヴィクトリア嬢を笑顔にしたい……
 そして、その笑顔を一番近くで見たい……そのチャンスがやっと俺に訪れたんだ……


 留学先から戻ったその日、王宮ではトライガス王国から訪問してきている使者の歓迎パーティーがあるとかで、無理やり参加させられた。
 王族に帰国の挨拶だけして帰ろうと会場を見渡すと、タイミングのいいことに王子三兄弟とルイス殿にリアム殿まで一緒にいた。

『お久しぶりです殿下方』
『『『アレクシス!』』』
『ルイス殿とリアム殿もお久しぶりです』

 ルイス殿にすごく嫌そうな顔をされた。

『いつ帰ってきたんだ?』
『たった今ですよ』
『もう一年留学期間があったはずだろ?』
『はい、ですが彼女が婚約者候補を辞退したと聞きましたので、帰ってきました』

 チラリとドルチアーノ殿下を見るが目も合わない。どこか一点を見ているようだった。

『お前まだ諦めていなかったのか?』

 愚問だな。

『はい、何年経とうと俺が諦めることはありません』

 その時、ジョシュア殿下とリアム殿が動いた先に、あれだけ会いたかったヴィクトリア嬢が大人の姿に成長して目の前に現れたんだ。
 夢かと思った。あんなに会いたくて、会いたくて、会えなくても忘れることも出来なかったヴィクトリア嬢が、あの大きくて綺麗な目に俺を映している。
 もうここしかないと思った。
 気がつけばヴィクトリア嬢の前でひざまずいて手を握っていた。

『アレクシス・ハイアーと申します。この十年間ヴィクトリア嬢のことを思わない日は一日もありませんでした。ドルチアーノ殿下の婚約者候補を辞退したと聞いて、居ても立っても居られず留学先から帰ってきてしまいました』
『は、はい』

 ヴィクトリア嬢の笑った顔が見たい。

『生涯貴方を守り、命ある限り貴方だけを愛すると誓います。どうか俺と、いえ私と結婚して下さい』

 あの時、何も話せなかった俺の口からはスラスラと言葉が出てくる。

『……お、お友達からなら……』

 友達からでもいい!
 俺のことを知って欲しい。ヴィクトリア嬢のことをたくさん知りたい。 
 もっと話したい。
 もっと会いたい。
 もっと近づきたい。

「おいおいアレクシス、こんな場所でプロポーズか?」

 呆れたようにアンドリュー殿下に言われる。

「みんなから注目されていたよ」

 ジョシュア殿下も呆れ顔だ。でも「誰が見ていようと関係ありません。俺はずっと、ずっと何年も彼女に会いたかったんです。彼女の笑った顔が見たかったんです」
 この時になって会場がざわついてることに気づいたが、そんなことはどうでもよくて、明日になれば彼女にまた会えることの方が大事で、俺の後ろにいたドルチアーノ殿下の存在すらも忘れていた。
 明日は俺に笑顔を見せてくれるだろうか?
 帰ってから父上の執務室に呼ばれた。帰国して休む間もなくパーティーに参加させられて、結果を見ればヴィクトリア嬢に会えたからいいものの、もう休ませて欲しい。
 明日は大切な約束があるんだから。

「お前は帰ってくるなり何をやっているんだ?」
「フリーになった彼女にプロポーズしました」
「はぁ、トライガス王国でいい娘はいなかったのか?」
「いい娘? 気になる女性のことですか?」
「それしかないだろう!」
「どこにもいませんでしたよ? ヴィクトリア嬢はトライガス王国にはいませんでしたからね」
「……そんなにディハルト嬢がいいのか?」
「はい」
「……気持ちは変わらないんだな?」
「生涯変わることはありません!」
「分かった。ワシからもディハルト公爵に話してみるが期待はするなよ」
「お願いします! でも明日ディハルト家に訪問すると伝えています」
「……もういい、さっさと寝ろ」

 父上は部屋から去れというように手を振った。仕事が忙しいのか疲れているようだ。
 二年ぶりの自室は出て行った時のままで、やっと帰ってきたと実感が湧いてきた。
 目を瞑ればヴィクトリア嬢の驚いた顔、頬を染めた顔、困った顔が次々浮かんでくる。
 まだ笑顔を見せてくれていないが、明日は見せてくれるだろうか?
 やっと会えた……
 長かった……
 おやすみヴィクトリア嬢……


 目が覚めたらもう昼前だった。
 一瞬昨日のことが夢だったんじゃないかと慌てて飛び起きた。
 ソファの上に昨日のパーティーで俺の着ていた衣装が脱ぎっぱなしで掛けてあるのを見て、現実だったんだと、この後会えるのだと嬉しくて顔がニヤついてしまう。
 急いでメイドを呼んで髪を切ってもらった。
 そのまま食堂に行く。この時間なら朝昼兼用だな。
 食堂では母上がお茶を飲みながら俺を待っていた。

「おはようございます」
「おはようアレクシス。よく眠れた?」
「はい」
「髪を切ったのね」
「はい、願いが叶いましたから」

 俺が妖精……ヴィクトリア嬢に初めて会った日から母上だけが俺の味方だった。
 彼女がドルチアーノ殿下の婚約者候補に上がり、皆に諦めろと言われる中、母上だけが俺に無理して諦める必要はないと言ってくれていた。

「昨日あの後大騒ぎになったのよ」

 俺もすぐに帰ったから後のことは知らない。

「帰ってくるなりディハルト嬢にプロポーズするなんてやるじゃない!」
「もう誰にも邪魔されたくなかったんです」
「アレクシスが留学中ね、ドルチアーノ殿下がディハルト嬢を嫌っているって噂があったのよ。だからディハルト嬢が選ばれることは絶対に無いと言われていたわ」

 嫌っている? バカなのか? 嫌いならとっとと彼女を解放すればよかったんだ。

「おかげで俺にもチャンスが巡ってきましたから感謝していますよ」
「頑張りなさい」
「はい、この後ディハルト公爵家を訪問すると先触れを出しています」
「それにしても以前見た時も可愛らしいお嬢さんだったけれど、美しい令嬢に育っていたわね。狙っている男は多いはずよ! 負けるんじゃないわよ!」
「誰にも負けません!」

 この時のために誰よりも努力してきた。
 俺がヴィクトリア嬢を幸せにしたいし、笑顔を引き出したい。



  第三章 忠告と警戒


 アレクシス様と庭園を横に並んで、というより手を握られたまま歩く。
 横からの視線が痛い……

「あ、あの、髪をバッサリ切ったんですね」
「願いが叶いましたから」
「願い?」
「十年前に……ヴィクトリア嬢と会いたくても会えなくて……、次に会えるまで切らないと決めたんです。まさか十年かかるとは思いませんでしたが……」

 ポリポリと頬を掻きながら苦笑いするアレクシス様の頬が、ほんのりピンクに染まっていて照れているのが分かる。
 それよりも気になるのは昨日から何度も出てくる〝十年前〟という言葉。

「その、十年前とは?」
「あの王宮でのお茶会の時のことです」

 ああ当時の私はデブでブスだったことを思い出す。

「ニコニコと笑っていたヴィクトリア嬢を見た時、本物の妖精かと思ったんです」
「よ、妖精?」

 デブスの私を見て?

「そんな可愛らしい妖精に……あの方はあんな酷いことを言ったんです!」

 いやいや、まったく気にしていなかったよ?
 悲しむどころか、ヤツを泣かしてやる! と笑顔で決意した時だよ?
 外見は七歳でも中身は成人した元社会人だったからね、多少のことなら顔は笑って心は仕返しを企むぐらい屁でもなかったよ?

「それなのに、ヴィクトリア嬢は平気な顔をして兄上たちにお菓子を食べさせてもらって笑っていたんです。その笑顔が可愛くて惹かれたんです」
「え~と、その頃の私はデブでブスでしたよ?」
「いいえ! あの時も今もヴィクトリア嬢は妖精のように可愛いです!」

 そ、そんな真剣な顔で言われると……
 でも嘘をついているようには見えない。
 本当にそう思っていてくれたんだ……これはちょっと……いやかなり嬉しいよ。

「あ、ありがとうございます」
「!! ありがとう! 俺は……ずっと、ずっとヴィクトリア嬢の笑顔が見たかったんだ」

 私、笑顔になっていた?
 そんなことよりアレクシス様の笑顔が素敵過ぎる!


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