【 完結 】どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana

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グサッ

私の視界の端に何かが入ったと思った瞬間、聞き慣れないそんな音がした。音のした足もとに視線を落とすとそこには鋭利なハサミが地面に突き刺さっていた。
それを視認してからゾッとした。
少しズレていればが私に突き刺さっていた?
それに左右にはテレーゼとルイーゼも居る。この子たちに刺さっていたかもしれない。
この2人は咄嗟に私を庇うように立ち位置を変えた。

「キャーごめんなさ~い」

見上げたその先には2階の窓からレベッカ・メダリク伯爵令嬢が、慌てた様子で顔を覗かせていた。
いやいや、『ごめんなさ~い』で許され無いでしょ!
あんなのが頭に突き刺されば一発即死だよ。これはシャレにならない。腰が抜ける一歩手前だよ。
しかも何でハサミを持っているんだよ!

この学園では裁縫の授業もあるけれど、令嬢はハサミなんて使わない。せいぜい糸切りばさみ程度だ。

バタバタと走ってくる音と、ごめんなさ~いと繰り返しながら甲高い声が近付いてくる。
何事かと生徒たちも集まってきた。

もう隣ではテレーゼとルイーゼの双子が戦闘態勢に入っている。

「イ、イスト様ぁ~ごめんなさ~い」

「「はぁ?」」

声にはギリギリ出さなかったけれど私も『はぁ?』だよ。
こんな状況でも彼女は語尾を伸ばすんだ。
だからか反省しているようには見えない。
それに『ごめんなさい』じゃないだろ!
彼女は伯爵令嬢だ。それなり以上の教育は受けてきたはずだけど⋯⋯
しかも、私が公爵令嬢だと知っているようだ。
見た目は妖艶な美女なのに話すと足りない子のようで頭大丈夫?と問いたくなる。まるで幼女の言葉を聞いているようだ。

「わ、わざとではないんですぅ~手が滑って~」

うわっ!一瞬にしてテレーゼとルイーゼの双子の額に青筋が!

「それが、目上の者に謝る態度ですか?」

「メイジェーン様は公爵家のご令嬢ですよ?」

いや、この際家格は関係ない。なんなら謝り方もどうでもいい。
『手が滑る』ってどういうこと?

「なぜハサミを持っていたのですか?授業では使いませんわよね?それにあの場所は廊下でしたわよ。まさか凶器にもなり得るハサミを廊下で振り回したりしていませんわよね?」

「わたしぃ~おっちょこちょいでぇ~えへへっ」

⋯⋯黙っていたら色っぽいし、綺麗だし、賢そうなのに⋯⋯ この子本当に大丈夫か?
今は心配している場合じゃないわね。

「答えになってないわ。私が聞いたことに答えてくださる?」

「ハサミはぁわたしの机にぃ入っていたんですぅ。誰かがぁ間違えてぇ入れたのだと思ったのでぇ、持ち主をぉ探してぇいたんですぅ。それでぇハサミを持ってぇ歩いていたらァ飛んでいっちゃったんですぅ~」

「その話し方を止めなさい!不愉快です。私を馬鹿にしているのですか?」

本当にイラつく。
あのエルザの話し方にもイラッとさせられたけれど、アレは演技だった。
まさかこの子も演技なの?
もしかして馬鹿な振りをしているだけ?
それに机の中にハサミが入っていたなんて、怪我をさせようとした誰かが居た?でも虐めにあっている雰囲気はなさそうだし⋯⋯もしかしたら、私のようにこの子にイライラする者がやったとか?有り得るわね。

「そんなつもりはないですぅ」

だから!やめろって!
う~~この子と話すのもう嫌だ!

「メイ何があった?」

「カイ」

「モナー様ぁ~」

彼女はカイの登場に顔を綻ばせ嬉しそうに駆け寄ってきた。しかもカイに勢いよく抱きつこうとして避けられて転んだ⋯⋯

起きあがる気配のない彼女をそのままに、今あったことを事細かに話して聞かせた。
最初のハサミが落ちてきたところで、どこか怪我をしていないかと心配してくれ後、メダリク嬢に向かって「次は殺す」と誰が聞いても震え上がるような顔と声で怒りを顕にしていた。

カイに避けられたことがショックなのか、メダリク嬢は転んだまま起きあがる様子もなく、私たちは彼女を置いてその場を去ることにした。
もうこれ以上彼女の声を聞きたくないものね。





あの子凄いわ。鋼のメンタルだわ。
あれから何日も経つけれど、あの次の日には何事も無かったかのようにカイに話しかけている。もちろん語尾を伸ばす話し方でね!
あの子の声でランチが不味くなる気がする。
クラスの違うコリーナ嬢と会えるこの時間を楽しみにしているのに⋯⋯
もちろんこの間のことはコリーナ嬢にも話している。

「絞めますか?」

「殺っちゃいますか?」

え?聞き間違いかな?何か前世の記憶にある携帯やパソコンで文字変換したら出てくる恐ろしい言葉をテレーゼとルイーゼが発した気がしたのだけれど⋯⋯気の所為だよね?



「メイ、何難しい顔をしているんだ?」

いつの間にメダリク嬢を振り切ったのか、カイが頭をぽんぽんと撫でながら聞いてきた。
普段は無愛想で無表情のクセに、私にだけは優しい眼差しを向けてくれる。
その特別感が嬉しいと思ってしまう私は、きっと、もう、すでに彼に惹かれてしまっているんだ。



カイの後ろで俯いているメダリク嬢がどんな表情をしているのかは見えなかったけれど、真っ赤な唇が弧を描いているのだけは見えてしまった⋯⋯と同時に背筋に冷たいものが流れたような気がした⋯⋯
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