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あれ以降メダリク伯爵令嬢がカイに迫っているのを何度となく見かけたけれど、私との接触は一度もなかった。
メダリク嬢を見ているとヒロインだったはずのエルザを思い出した。
メダリク嬢にカイと親しくしている私に嫉妬して陥れられることを想像してしまった。
メダリク嬢とエルザの口調が少し似ているだけで、勝手に私が警戒してしまった。
⋯⋯いや、ハサミが落ちてきた時はそれを疑っても仕方ないよね。
でもその後は拍子抜けするほど私には接触はなかった。
彼女は妖艶な美貌で周りの男子生徒たちを虜にしてはいるけれど、実際にはそんな男たちの誘いに乗ることなく、カイしか見えていないようだ。
そうそう、エルザが捕えられてから随分経つのにまだ判決は出ていない。
男爵家から除籍されて平民になったエルザの処罰が、いまだに決まっていないのもおかしな話ではある。
それと『公務』を理由に学園を休んでいることにされていたリュート殿下は、エルザ事件の時にはすでに隣国に留学していたと公表された。
実際そうだし、王家としてもリュート殿下とエルザの関係を公にはしたくなかったのもあるだろう。
まあ、遅いような気もしなくはないけれど、事件に関わりがないことだけは伝えたかったのだろうね。
エルザの状況をリュート殿下が知っているかどうかは知らないけれど⋯⋯知らないんだろうな。知っていたら今ごろ何かしらの行動を起こしていたはずだ。
まあ、あと数ヶ月で留学を終えて帰ってくる。その時、彼はどうするのだろう。
どうするも、犯罪者となったエルザを妻に迎えられないのは確かだね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
⋯⋯ここはどこ?
なんで手は後ろで縛られているの?足には鎖?が付いている?少し動かせばジャラジャラと音がするし、重さも感じる。
声を出そうとして口枷をされていることに気付いた。
真っ暗で何も見えない。
一つ一つ順を追って思い出す。
今日もお父様、お母様、お兄様と朝食を摂り普通に学園に登校した。
講堂で行われた終業式にも出た。
明日からの夏季休暇中はテレーゼとルイーゼが我が家で侍女見習いの為、泊まり込みで来るのが楽しみだと言って別れた。
それから馬車に乗って邸に⋯⋯帰っていない。
馬車が襲われた記憶はない⋯⋯
気付いたらここに居た⋯⋯いえ、起きたらここに居た。
眠らされていた?
どうやって?
朝食以外で何かを口にした記憶はない。
いくら寝付きのいい私でも馬車から降ろされて、手足を縛られるまで起きないなんて有り得ない。
馬車の馭者は?護衛も1人だけど付いていたし彼らは無事なの?
でも実際に手足を縛られている状況は拐われたのは間違いなさそう。
それが身代金目当てならまだいい。無事に帰れる可能性があるから。
殺されるなら意識のない間に殺されていたはず。
それに痛みは感じない。乱暴に扱われていない証拠だ。今のところはだけれど⋯⋯
怖いのは我が家に、もしくは私に恨みがあって痛めつけるのが目的か、それとも女の私を傷物にすることが目的か⋯⋯どちらにしても無事では帰れない。
想像してしまえばガタガタと身体が震えだした。
震えるな⋯⋯震えるな⋯⋯震えるな⋯⋯
ダメだ⋯⋯震えが止まらない。
それでも何度も自分に言い聞かせる。
あれからどのくらい時間が経ったのだろう。
体感では結構な時間が経っているはずだ。
こんな時でもお腹は空くんだな。そう思うとおかしくて少しだけ落ち着いた。
身体の震えはもう止まった。
冷静になって目を凝らすと隙間から僅かだけれど陽が漏れている。攫われてから夜が明けた?それでも灯りのないこの部屋は暗い。
目が暗闇に慣れたのか部屋の中の様子が見えるようになってきた。
ベッドがある。
ベッドがありながら床に転がされているのね。
小さなテーブルと椅子が1つ。
⋯⋯トイレらしき物もある。
一応仕切りもあるようだけれど、アレを使う気にはなれない。⋯⋯ギリギリまで我慢する。
大丈夫⋯⋯
『今日は寄り道をせずにまっすぐ帰ってきますね。昼食は一緒に摂りましょう』お兄様にそう言って家を出たもの。
今ごろ帰宅しない私を心配して公爵家総出で捜索しているはずだ。
直ぐに見つけてくれる。
大丈夫⋯⋯
必ず助けが来る。
大丈夫⋯⋯大丈夫⋯⋯
それまでの辛抱よ。
ガタッガタガタバタン。
コツコツコツコツ⋯⋯誰か来た。
音が近付いてくる。
足音からここまでは少し距離があるようだ。
思っていたよりもココは広い建物なのかもしれない。
足音はすぐそばで止まった。もう、犯人がそこまで来ている。
心臓が痛いくらい早鐘を打っている。
怖い。自然と涙が浮かんでくる。
それでも!公爵令嬢の矜持にかけて怯えたところなんて見せない!絶対に泣いたりなんかしない!と自分に言い聞かせる。
ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえる。
ギギギーとゆっくりと扉が開く。そこから入ってきたのは⋯⋯
⋯⋯ザイフォン?
ザイフォン・デカリア伯爵子息。
攻略対象者の1人。いつもエルザの傍にいた男。
なんで?
ザイフォンと言葉を交わした記憶なんて挨拶程度しかない。
それなのにナゼ貴方がここに?
転がされている私からは彼が巨人のように大きく見えた。
そこから見下ろす彼の瞳はとても冷たく、蔑んだもので⋯⋯
恐怖よりも頭の中は疑問しか浮かばなかった⋯⋯
メダリク嬢を見ているとヒロインだったはずのエルザを思い出した。
メダリク嬢にカイと親しくしている私に嫉妬して陥れられることを想像してしまった。
メダリク嬢とエルザの口調が少し似ているだけで、勝手に私が警戒してしまった。
⋯⋯いや、ハサミが落ちてきた時はそれを疑っても仕方ないよね。
でもその後は拍子抜けするほど私には接触はなかった。
彼女は妖艶な美貌で周りの男子生徒たちを虜にしてはいるけれど、実際にはそんな男たちの誘いに乗ることなく、カイしか見えていないようだ。
そうそう、エルザが捕えられてから随分経つのにまだ判決は出ていない。
男爵家から除籍されて平民になったエルザの処罰が、いまだに決まっていないのもおかしな話ではある。
それと『公務』を理由に学園を休んでいることにされていたリュート殿下は、エルザ事件の時にはすでに隣国に留学していたと公表された。
実際そうだし、王家としてもリュート殿下とエルザの関係を公にはしたくなかったのもあるだろう。
まあ、遅いような気もしなくはないけれど、事件に関わりがないことだけは伝えたかったのだろうね。
エルザの状況をリュート殿下が知っているかどうかは知らないけれど⋯⋯知らないんだろうな。知っていたら今ごろ何かしらの行動を起こしていたはずだ。
まあ、あと数ヶ月で留学を終えて帰ってくる。その時、彼はどうするのだろう。
どうするも、犯罪者となったエルザを妻に迎えられないのは確かだね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
⋯⋯ここはどこ?
なんで手は後ろで縛られているの?足には鎖?が付いている?少し動かせばジャラジャラと音がするし、重さも感じる。
声を出そうとして口枷をされていることに気付いた。
真っ暗で何も見えない。
一つ一つ順を追って思い出す。
今日もお父様、お母様、お兄様と朝食を摂り普通に学園に登校した。
講堂で行われた終業式にも出た。
明日からの夏季休暇中はテレーゼとルイーゼが我が家で侍女見習いの為、泊まり込みで来るのが楽しみだと言って別れた。
それから馬車に乗って邸に⋯⋯帰っていない。
馬車が襲われた記憶はない⋯⋯
気付いたらここに居た⋯⋯いえ、起きたらここに居た。
眠らされていた?
どうやって?
朝食以外で何かを口にした記憶はない。
いくら寝付きのいい私でも馬車から降ろされて、手足を縛られるまで起きないなんて有り得ない。
馬車の馭者は?護衛も1人だけど付いていたし彼らは無事なの?
でも実際に手足を縛られている状況は拐われたのは間違いなさそう。
それが身代金目当てならまだいい。無事に帰れる可能性があるから。
殺されるなら意識のない間に殺されていたはず。
それに痛みは感じない。乱暴に扱われていない証拠だ。今のところはだけれど⋯⋯
怖いのは我が家に、もしくは私に恨みがあって痛めつけるのが目的か、それとも女の私を傷物にすることが目的か⋯⋯どちらにしても無事では帰れない。
想像してしまえばガタガタと身体が震えだした。
震えるな⋯⋯震えるな⋯⋯震えるな⋯⋯
ダメだ⋯⋯震えが止まらない。
それでも何度も自分に言い聞かせる。
あれからどのくらい時間が経ったのだろう。
体感では結構な時間が経っているはずだ。
こんな時でもお腹は空くんだな。そう思うとおかしくて少しだけ落ち着いた。
身体の震えはもう止まった。
冷静になって目を凝らすと隙間から僅かだけれど陽が漏れている。攫われてから夜が明けた?それでも灯りのないこの部屋は暗い。
目が暗闇に慣れたのか部屋の中の様子が見えるようになってきた。
ベッドがある。
ベッドがありながら床に転がされているのね。
小さなテーブルと椅子が1つ。
⋯⋯トイレらしき物もある。
一応仕切りもあるようだけれど、アレを使う気にはなれない。⋯⋯ギリギリまで我慢する。
大丈夫⋯⋯
『今日は寄り道をせずにまっすぐ帰ってきますね。昼食は一緒に摂りましょう』お兄様にそう言って家を出たもの。
今ごろ帰宅しない私を心配して公爵家総出で捜索しているはずだ。
直ぐに見つけてくれる。
大丈夫⋯⋯
必ず助けが来る。
大丈夫⋯⋯大丈夫⋯⋯
それまでの辛抱よ。
ガタッガタガタバタン。
コツコツコツコツ⋯⋯誰か来た。
音が近付いてくる。
足音からここまでは少し距離があるようだ。
思っていたよりもココは広い建物なのかもしれない。
足音はすぐそばで止まった。もう、犯人がそこまで来ている。
心臓が痛いくらい早鐘を打っている。
怖い。自然と涙が浮かんでくる。
それでも!公爵令嬢の矜持にかけて怯えたところなんて見せない!絶対に泣いたりなんかしない!と自分に言い聞かせる。
ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえる。
ギギギーとゆっくりと扉が開く。そこから入ってきたのは⋯⋯
⋯⋯ザイフォン?
ザイフォン・デカリア伯爵子息。
攻略対象者の1人。いつもエルザの傍にいた男。
なんで?
ザイフォンと言葉を交わした記憶なんて挨拶程度しかない。
それなのにナゼ貴方がここに?
転がされている私からは彼が巨人のように大きく見えた。
そこから見下ろす彼の瞳はとても冷たく、蔑んだもので⋯⋯
恐怖よりも頭の中は疑問しか浮かばなかった⋯⋯
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