【 完結 】どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana

文字の大きさ
24 / 36

24

しおりを挟む
あれ以降メダリク伯爵令嬢がカイに迫っているのを何度となく見かけたけれど、私との接触は一度もなかった。

メダリク嬢を見ているとヒロインだったはずのエルザを思い出した。
メダリク嬢にカイと親しくしている私に嫉妬して陥れられることを想像してしまった。
メダリク嬢とエルザの口調が少し似ているだけで、勝手に私が警戒してしまった。
⋯⋯いや、ハサミが落ちてきた時はそれを疑っても仕方ないよね。
でもその後は拍子抜けするほど私には接触はなかった。
彼女は妖艶な美貌で周りの男子生徒たちを虜にしてはいるけれど、実際にはそんな男たちの誘いに乗ることなく、カイしか見えていないようだ。

そうそう、エルザが捕えられてから随分経つのにまだ判決は出ていない。
男爵家から除籍されて平民になったエルザの処罰が、いまだに決まっていないのもおかしな話ではある。

それと『公務』を理由に学園を休んでいることにされていたリュート殿下は、エルザ事件の時にはすでに隣国に留学していたと公表された。
実際そうだし、王家としてもリュート殿下とエルザの関係を公にはしたくなかったのもあるだろう。
まあ、遅いような気もしなくはないけれど、事件に関わりがないことだけは伝えたかったのだろうね。

エルザの状況をリュート殿下が知っているかどうかは知らないけれど⋯⋯知らないんだろうな。知っていたら今ごろ何かしらの行動を起こしていたはずだ。
まあ、あと数ヶ月で留学を終えて帰ってくる。その時、彼はどうするのだろう。
どうするも、犯罪者となったエルザを妻に迎えられないのは確かだね。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


⋯⋯ここはどこ?

なんで手は後ろで縛られているの?足には鎖?が付いている?少し動かせばジャラジャラと音がするし、重さも感じる。
声を出そうとして口枷をされていることに気付いた。
真っ暗で何も見えない。

一つ一つ順を追って思い出す。

今日もお父様、お母様、お兄様と朝食を摂り普通に学園に登校した。

講堂で行われた終業式にも出た。

明日からの夏季休暇中はテレーゼとルイーゼが我が家で侍女見習いの為、泊まり込みで来るのが楽しみだと言って別れた。

それから馬車に乗って邸に⋯⋯帰っていない。

馬車が襲われた記憶はない⋯⋯

気付いたらここに居た⋯⋯いえ、起きたらここに居た。

眠らされていた?
どうやって?
朝食以外で何かを口にした記憶はない。
いくら寝付きのいい私でも馬車から降ろされて、手足を縛られるまで起きないなんて有り得ない。
馬車の馭者は?護衛も1人だけど付いていたし彼らは無事なの?

でも実際に手足を縛られている状況は拐われたのは間違いなさそう。
それが身代金目当てならまだいい。無事に帰れる可能性があるから。
殺されるなら意識のない間に殺されていたはず。
それに痛みは感じない。乱暴に扱われていない証拠だ。今のところはだけれど⋯⋯

怖いのは我が家に、もしくは私に恨みがあって痛めつけるのが目的か、それとも女の私を傷物にすることが目的か⋯⋯どちらにしても無事では帰れない。
想像してしまえばガタガタと身体が震えだした。
震えるな⋯⋯震えるな⋯⋯震えるな⋯⋯
ダメだ⋯⋯震えが止まらない。
それでも何度も自分に言い聞かせる。




あれからどのくらい時間が経ったのだろう。
体感では結構な時間が経っているはずだ。

こんな時でもお腹は空くんだな。そう思うとおかしくて少しだけ落ち着いた。

身体の震えはもう止まった。
冷静になって目を凝らすと隙間から僅かだけれど陽が漏れている。攫われてから夜が明けた?それでも灯りのないこの部屋は暗い。
目が暗闇に慣れたのか部屋の中の様子が見えるようになってきた。
ベッドがある。
ベッドがありながら床に転がされているのね。
小さなテーブルと椅子が1つ。
⋯⋯トイレらしき物もある。
一応仕切りもあるようだけれど、アレを使う気にはなれない。⋯⋯ギリギリまで我慢する。 





大丈夫⋯⋯

『今日は寄り道をせずにまっすぐ帰ってきますね。昼食は一緒に摂りましょう』お兄様にそう言って家を出たもの。
今ごろ帰宅しない私を心配して公爵家総出で捜索しているはずだ。
直ぐに見つけてくれる。

大丈夫⋯⋯

必ず助けが来る。

大丈夫⋯⋯大丈夫⋯⋯

それまでの辛抱よ。

ガタッガタガタバタン。
コツコツコツコツ⋯⋯誰か来た。
音が近付いてくる。
足音からここまでは少し距離があるようだ。
思っていたよりもココは広い建物なのかもしれない。

足音はすぐそばで止まった。もう、犯人がそこまで来ている。
心臓が痛いくらい早鐘を打っている。
怖い。自然と涙が浮かんでくる。
それでも!公爵令嬢の矜持にかけて怯えたところなんて見せない!絶対に泣いたりなんかしない!と自分に言い聞かせる。

ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえる。

ギギギーとゆっくりと扉が開く。そこから入ってきたのは⋯⋯

⋯⋯ザイフォン?
ザイフォン・デカリア伯爵子息。
攻略対象者の1人。いつもエルザの傍にいた男。

なんで?
ザイフォンと言葉を交わした記憶なんて挨拶程度しかない。

それなのにナゼ貴方がここに?

転がされている私からは彼が巨人のように大きく見えた。
そこから見下ろす彼の瞳はとても冷たく、蔑んだもので⋯⋯

恐怖よりも頭の中は疑問しか浮かばなかった⋯⋯





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

恋人が聖女のものになりました

キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」 聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。 それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。 聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。 多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。 ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……? 慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。 従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。 菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿します。

病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。 セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。 婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから

越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。 新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。 一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで

ミカン♬
恋愛
2025.10.11ホットランキング1位になりました。夢のようでとても嬉しいです! 読んでくださって、本当にありがとうございました😊 前世の記憶を持つオーレリアは可愛いものが大好き。 婚約者(内定)のメルキオは子供の頃結婚を約束した相手。彼は可愛い男の子でオーレリアの初恋の人だった。 一方メルキオの初恋の相手はオーレリアの従姉妹であるティオラ。ずっとオーレリアを悩ませる種だったのだが1年前に侯爵家の令息と婚約を果たし、オーレリアは安心していたのだが…… ティオラは婚約を解消されて、再びオーレリア達の仲に割り込んできた。 ★補足:ティオラは王都の学園に通うため、祖父が預かっている孫。養子ではありません。 ★補足:全ての嫡出子が爵位を受け継ぎ、次男でも爵位を名乗れる、緩い世界です。 2万字程度。なろう様にも投稿しています。 オーレリア・マイケント 伯爵令嬢(ヒロイン) レイン・ダーナン 男爵令嬢(親友) ティオラ (ヒロインの従姉妹) メルキオ・サーカズ 伯爵令息(ヒロインの恋人) マーキス・ガルシオ 侯爵令息(ティオラの元婚約者) ジークス・ガルシオ 侯爵令息(マーキスの兄)

処理中です...