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後半、残酷な描写があります。
苦手な方は読み飛ばしてください。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結局ザイフォンは一言も声を発さず、パンと水をテーブルに置いて、口枷を外すし、手を自由にすると部屋から出て行った。
⋯⋯彼が犯人なの?
いいえ、1人で公爵令嬢を攫うなど出来るはずがない。間違いなく協力者がいる。
ここに連れてこられてから何日が経ったのだろう。
多分食事は1日2回。
壁の隙間から陽が漏れる時間に1回、陽が入ってこなくなってから1回、ザイフォンが食事を持ってくる。
食事2回を1日とすると、もう16日は経っていることになる。
パンと水だけだけど、栄養を考えてか毎回パンには野菜や肉が挟まれている。
最初は毒でも仕込まれているんじゃないかと拒絶していた。
それでも空腹と喉の渇きに耐えられず口にしてからは、考えを変えて食べるようにしている。
逃げ出すチャンスを逃さないために⋯⋯気力と体力を維持するために。
そしてトイレも使用している。
そりゃあ食べて飲めば生理現象は起こるもの。割り切るのは思いのほか早かった。
何度か彼に話し掛けたけれど、一度も返事をもらったことは無い。
いつまでここに閉じ込めているつもりなんだろう。
私を殺そうと思えば食事と水を与えないだけで自然に餓死するだろう。
顔を晒したザイフォンなんて私が救い出された時、どうなるか考えなくても分かっているだろうに⋯⋯
私の精神が弱るのを待っているのか、それとも協力者または主犯の人物を待っているのか⋯⋯
でも残念。
必ず家族が見つけ出してくれると信じているもの、今の状況があと何日続いても耐えられる。と自分に何度も言い聞かせていた。
なのに、私の心が折れるまでそう時間は掛からなかった。
暴力的で滑稽な首謀者が現れたからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この環境にも慣れてきた。不満があるとすれば与えられる水は毎回コップ一杯だけ。
そうなると体を拭くことも出来ず、部屋が臭いのか自分が臭いのか⋯⋯たぶん、間違いなく後者だ。
することが無いからか家族の事ばかり考えている。お父様とお兄様は肉体的にも精神的にも強い人だと知っているから、今も冷静に動いていると思う。
でもお母様は?普段はとても優しいけれど、ひとたび怒ればお父様のしりを叩き、顎で使う強かさもある。
それでも、それは平和な日常があってこそだ。今は私の生死すら不明で、不安は大きくなっているはずだ。せめて無事だと伝えたい。
それと温かいお風呂と、柔らかいベッドの事ばかり考える。救助されたら一番に湯船に浸かりたい。
もう攫われてから今日で一月になると思う。
まだ大丈夫だ。まだ頑張れる。
それでも早く見つけ出してほしいと願ってしまう。
夏季休暇もこんな所で半分が終わってしまった。
テレーゼとルイーゼのお試し期間は私が居なくなったことで、無くなっているだろうな。
毎日一緒に過ごせることを楽しみにしていたのに。
コリーナ嬢とだって、お茶会もお泊まり会もする予定だったのにな。
彼女たちもきっと心配してくれているだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
隙間から陽が漏れなくなって夜がきたことを理解した。
コツコツと音が聞こえてくるとザイフォンがパンと水を運んでくる。いつものことだ。
それが今日はコツコツと歩く音の他に、別の足音も聞こえてきた。
直感でもう1つの足音は首謀者だと感じた。
思わず身体に力が入ってしまう。
ザイフォンの後ろから現れた人物は⋯⋯ 私と歳もそう変わらない見覚えのない女性だった。
どこにでも居そうな普通の女性で、でも誰かに似ているような気がした。
「ふふふっ⋯薄汚れているけれど元気そうじゃない」
聞いたことのある声の気がする。会って会話をしたことがある人なのか?それとも声が誰かと似ているのかもしれない。
そんな事よりも気になるのはあの目だ。
完全に私を見下している。
今の何も出来ない⋯⋯抵抗すら出来ない私を嘲笑っている。
「⋯⋯あなたは誰なの?一体何がしたいの?」
「ふふふっわたくしに媚びて膝まづきなさい」
「絶対にいや!」
「ハッ生意気ね。分からせてやるわ」
そう言って彼女は私の髪をつかみ頬を叩いた。そのまま引きづり倒され今度はお腹を蹴られる。何度も、何度も⋯⋯
ドカッ、ガッ⋯⋯
「アハハ、ああ楽しい!楽しいわ!」
「おい、その辺で止めとけ。それ以上やるとすぐに死んじまうだろ」
ここに攫われてから初めてザイフォンの声を聞いた。
「ハッ、そうね。簡単に死なせちゃうと発散ができなくなるもの。楽しみは長く続けないとね」
は、発散?長く?
お腹の痛みに蹲り丸まるしかない私の上からそんな言葉が聞こえる。
「フンッまた来るわ」
部屋に残された私は初めての痛みに震えて泣くことしか出来なかった。
お父様、お兄様、早く見つけて。
私はここに居る。カイ⋯⋯助けて。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでくださりありがとうございます。
お気に入り登録とエールに励まされ、感謝感激です。
次話も残酷な描写になります。
苦手な方は読み飛ばしてください。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結局ザイフォンは一言も声を発さず、パンと水をテーブルに置いて、口枷を外すし、手を自由にすると部屋から出て行った。
⋯⋯彼が犯人なの?
いいえ、1人で公爵令嬢を攫うなど出来るはずがない。間違いなく協力者がいる。
ここに連れてこられてから何日が経ったのだろう。
多分食事は1日2回。
壁の隙間から陽が漏れる時間に1回、陽が入ってこなくなってから1回、ザイフォンが食事を持ってくる。
食事2回を1日とすると、もう16日は経っていることになる。
パンと水だけだけど、栄養を考えてか毎回パンには野菜や肉が挟まれている。
最初は毒でも仕込まれているんじゃないかと拒絶していた。
それでも空腹と喉の渇きに耐えられず口にしてからは、考えを変えて食べるようにしている。
逃げ出すチャンスを逃さないために⋯⋯気力と体力を維持するために。
そしてトイレも使用している。
そりゃあ食べて飲めば生理現象は起こるもの。割り切るのは思いのほか早かった。
何度か彼に話し掛けたけれど、一度も返事をもらったことは無い。
いつまでここに閉じ込めているつもりなんだろう。
私を殺そうと思えば食事と水を与えないだけで自然に餓死するだろう。
顔を晒したザイフォンなんて私が救い出された時、どうなるか考えなくても分かっているだろうに⋯⋯
私の精神が弱るのを待っているのか、それとも協力者または主犯の人物を待っているのか⋯⋯
でも残念。
必ず家族が見つけ出してくれると信じているもの、今の状況があと何日続いても耐えられる。と自分に何度も言い聞かせていた。
なのに、私の心が折れるまでそう時間は掛からなかった。
暴力的で滑稽な首謀者が現れたからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この環境にも慣れてきた。不満があるとすれば与えられる水は毎回コップ一杯だけ。
そうなると体を拭くことも出来ず、部屋が臭いのか自分が臭いのか⋯⋯たぶん、間違いなく後者だ。
することが無いからか家族の事ばかり考えている。お父様とお兄様は肉体的にも精神的にも強い人だと知っているから、今も冷静に動いていると思う。
でもお母様は?普段はとても優しいけれど、ひとたび怒ればお父様のしりを叩き、顎で使う強かさもある。
それでも、それは平和な日常があってこそだ。今は私の生死すら不明で、不安は大きくなっているはずだ。せめて無事だと伝えたい。
それと温かいお風呂と、柔らかいベッドの事ばかり考える。救助されたら一番に湯船に浸かりたい。
もう攫われてから今日で一月になると思う。
まだ大丈夫だ。まだ頑張れる。
それでも早く見つけ出してほしいと願ってしまう。
夏季休暇もこんな所で半分が終わってしまった。
テレーゼとルイーゼのお試し期間は私が居なくなったことで、無くなっているだろうな。
毎日一緒に過ごせることを楽しみにしていたのに。
コリーナ嬢とだって、お茶会もお泊まり会もする予定だったのにな。
彼女たちもきっと心配してくれているだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
隙間から陽が漏れなくなって夜がきたことを理解した。
コツコツと音が聞こえてくるとザイフォンがパンと水を運んでくる。いつものことだ。
それが今日はコツコツと歩く音の他に、別の足音も聞こえてきた。
直感でもう1つの足音は首謀者だと感じた。
思わず身体に力が入ってしまう。
ザイフォンの後ろから現れた人物は⋯⋯ 私と歳もそう変わらない見覚えのない女性だった。
どこにでも居そうな普通の女性で、でも誰かに似ているような気がした。
「ふふふっ⋯薄汚れているけれど元気そうじゃない」
聞いたことのある声の気がする。会って会話をしたことがある人なのか?それとも声が誰かと似ているのかもしれない。
そんな事よりも気になるのはあの目だ。
完全に私を見下している。
今の何も出来ない⋯⋯抵抗すら出来ない私を嘲笑っている。
「⋯⋯あなたは誰なの?一体何がしたいの?」
「ふふふっわたくしに媚びて膝まづきなさい」
「絶対にいや!」
「ハッ生意気ね。分からせてやるわ」
そう言って彼女は私の髪をつかみ頬を叩いた。そのまま引きづり倒され今度はお腹を蹴られる。何度も、何度も⋯⋯
ドカッ、ガッ⋯⋯
「アハハ、ああ楽しい!楽しいわ!」
「おい、その辺で止めとけ。それ以上やるとすぐに死んじまうだろ」
ここに攫われてから初めてザイフォンの声を聞いた。
「ハッ、そうね。簡単に死なせちゃうと発散ができなくなるもの。楽しみは長く続けないとね」
は、発散?長く?
お腹の痛みに蹲り丸まるしかない私の上からそんな言葉が聞こえる。
「フンッまた来るわ」
部屋に残された私は初めての痛みに震えて泣くことしか出来なかった。
お父様、お兄様、早く見つけて。
私はここに居る。カイ⋯⋯助けて。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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