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5. 魔術師、わからせられる(前) ★
しおりを挟む肚が熱い。
本来ないはずの器官が形成されているのだから、不快感を消すことは難しい。催淫剤を入れたのはそういう理由もあって、狙い通りにぼんやりとする頭で、それでも熱さだけは感じるのが不思議だった。
ぐるりぐるり、体が作り変えられていくのがわかる。ジャフィーが描いた設計図のとおりに、ひとつの無駄もなく魔術が動く。このまま何も考えられなくなるのが嫌で、ジャフィーは思考を保とうと必死で足掻いた。
ここは後宮の一室、春の宮だ。最も王の私室に近く、最も広い。後宮の主の──正妃のための、特別な宮と言っていい。使われていなかった、使われる予定もなかったはずの部屋が、なぜか埃のひとつもなく保たれている──どころかぴんと糊のきいて清潔な香りのするシーツさえ貼られているのが、不思議というより異様だった。
「ルグレア、ここ、なんで……」
使う予定があったのだろうか。ジャフィーが知らなかっただけで?
「ん? ……ああ、女官どもが、仕事させろって煩くてな」
掃除だけはさせといて良かったと嘯きながら、ルグレアがばさりと上着を脱いで落とした。
長い付き合いだ。着替えどころか裸だって普通に見たことがあるのに、シャツの首元を寛げる動きに妙に落ち着かないような心地になるのは、薬に仕込んだ催淫剤のせいなのだろうか。だだっ広い寝台の上に投げ落とされたまま、どうしていいかもわからず呆然としていたジャフィーは、ふと肌に感じた気配に辺りを見渡した。
ぞわぞわする。
薬によるもの──では、ない。ジャフィーの魔力とは違う、嫌な気配がこの場所にある。
「ルグレア、……い、嫌だ、なんか」
「あァ? 今更」
「ちがう、ここ、なんか、……知らない術が……」
後宮は当然男子禁制で、王宮内でもここだけは、足を踏み入れたことがなかった。だから知らなかった。王宮内に、こんな、古い魔術がかかっている場所があるなんて。ジャフィーの訴えに、ルグレアが「ああ」と、なんでもないことのように応じる。
「そりゃあ、ここは、後宮だからな。それらしい仕掛けのひとつやふたつはあるもんだろ」
「そ、そうなの……?」
「ここじゃなくたって、あるだろ。娼館やらにも」
そうなのだろうか。行ったことがないからわからない、が、なんとなく言いたいことはわかった。
こんなに気持ちが悪いということは、脱出防止か認識阻害か、とにかく、人の行動を制限するための魔術が掛けられているということだろう。なるほど確かに、後宮や娼館には必須なのかもしれない……と、考えを深める間もなく、「あ、」と思わず声が出た。
ルグレアが、ジャフィーの服をまくりあげ、今まさに魔術がうごめいている薄い肚へと、大きな掌を当てている。
「……なんか作ってるな」
「作ってるんだよ。……そうだ、ねえルグレア、なん、……っ!」
やっとのことで出た真意を問いただそうとする言葉は、やはりと言うべきか、あっさり阻まれた。
「ん、っ、……!?」
唇を、塞がれている。
物理的にだ。大きな口がジャフィーの息を吸い取って、厚い舌が口の中に入ってくる。ざらり、と、舌と舌が触れ合う感じがして、腰から背中に何かが走る。
あらゆる感覚が体の中で混ざり合いすぎて、快不快の判定さえままならない。
「ん、ん……ッ……!」
苦しくて、ルグレアの腕をきつく掴んだ。繋ぎ止めるものが欲しかったから。
肚の熱と背中の痺れとが一体化して、腰のあたりに滞留している。じゅくじゅくとした、粘性の熱だ。は、と、やっと解放された唇から息が溢れて、うっすらと開いた目の向こうで、ルグレアが愉快そうに笑っているのが見えた。
「……なるほど」
唇から、目が離せない。
「お前のうるさい口を塞ぐには、こうするのが一番だったんだな」
「なっ、……ッ、……はァ!? あんたが、もっとって、ッ、……!!」
いつも楽しそうに話を聞いていたくせに、今更『うるさい』なんてどの口で。ぼんやりしかけていた頭が一気に覚醒し、文句を言おうと開いた唇は、けれどもその言葉のとおりに、ひどく簡単に塞がれた。
「んっ、……」
口の中をかき混ぜられ、誘い出された舌をじゅっと吸われる。
「ん、……は、ぁ、……ッ……」
わからない。何もわからないのに──流石に、もう、これが『快楽』であることだけはわかる。何も考えられない──考えたくなくて、ジャフィーは目を閉じ、ルグレアに与えられる感覚に身を任せた。
口づけと同時に肚を撫でられると、普段ほとんど意識することのない場所が、たしかに熱を持って兆していくのがわかった。
はじめての感覚を処理するのに必死のジャフィーに対し、ルグレアはといえば、ひどく手慣れているようだった。掌が肚からさらに下へと下りて、ジャフィーの下穿きの紐を外して緩める。そのまま下着の中に侵入してこようとするから、ジャフィーは流石にはっと目を開いた。
「だ、だめ、!」
「あ? なんでだよ」
押しのけられたルグレアが、不満そうな声を出しながら、抵抗を一切意に介さずに、ジャフィーの性器を軽く握る。
「ひ、ッ、!?」
擦られる。
「催淫剤入ってるつってたよな。一回抜いたらちょっとは楽になるだろ」
「え、いや、」
楽になる、って、なったら意味がないのでは。思っている間にも、ルグレアの手が、すこし乱暴にジャフィーを追い上げていく。性行為の経験どころか、自慰ですら最低限なジャフィーには、十分すぎる刺激だった。
上り詰める。速すぎる、と、ジャフィーは慌てて首を振る。
「っ、……あ、だめ、出る、ッ」
「なんも駄目じゃねえけど」
出せよ、とルグレアが笑って手の動きを強めるから、ジャフィーはあっさりと吐精した。先端から吹き出したものが、ルグレアの長い指に纏わりつくのが見える。
ルグレアが、手についたものをぺろりと舐める。──舐める?
「……!? やっ、ちょ、何やってんのあんた!?」
「何って……あ、これは味変わるとかないんだな」
「こっちが出す精子は生殖に関係ないしね!? いや違くて、っ、あ、待って、どこ触って……!!」
濡れた指が、ジャフィーの尻の狭間に触れる。本来なら濡れるはずのない場所は、ジャフィーが設計した魔術の通りに潤って、ルグレアの太く長い指をあっさりと飲み込んだ。
「……っ、!」
「おー、すげえなコレ。……っても、狭いは狭いか」
濡らすだけって言ってたもんな、と言いながら、ルグレアがゆるゆると指を動かす。体の内側に触れられている不快感にジャフィーの身体が強張ると、ルグレアは「ん」とジャフィーを見下ろして尋ねた。
「痛いか?」
「……痛……くはない、……」
ただ、普段意識しない場所になにかある、という心地悪さが拭えないだけだ。ふうん、とルグレアは鼻を鳴らして、それから徐ろに、ジャフィーの力のない性器に唇を寄せた。
ざらり、と、長い舌がジャフィーの性器を舐めあげる。
「へ、……ゃ、あ、ッ!?」
催淫剤の効果がまだ残っているからだろうか、そこは、少しの刺激ですぐに立ち上がった。気持ちいい、と思うと同時に、中に埋められたルグレアの指が動いて、けれども今度はそちらを意識する余裕がなかった。
「あ、ッ、やだ、やだ、また、っ」
裏筋を舐められると背中がぞくぞく震えて、すぐにまた溢れてしまいそうになる。薄く目を開くと、ルグレアの楽しそうな顔が足の間に見えた。
ルグレアが、ジャフィーの性器を舐めている。そんなの。
「だめ、っ、……あ、あッ」
「だめ?」
「そんなん、っ、しちゃ、だめだろ、だってあんた、」
王様なんだぞ。
誰かに奉仕するような、そんな立場じゃ絶対にない。というかジャフィーがさせたくない。手を伸ばしてルグレアの頭を掴んでも、薬のせいか力の入らない腕では、何の妨害にもならなかった。
「だめ、とか、可愛いこと言うなよ」
「は!?」
なんも駄目じゃねえって言ってるだろ、と、ルグレアが笑う。
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